「ちょっとそっちの本取ってくれ」
「ほれ」
ポスっと音を立ててハドラーが投げ渡してきた本をキャッチする。もっと丁寧に扱えよ。
最近は、地底魔城訪問→ブルーメタル採掘→VSバルトス→VSハドラー→昼食→キラーマシン修理と並行しながらマシン兵系列についての勉強→帰宅、という正直学校に通っていた頃とあまり変わらないんじゃないかという生活を送っていた。
どうでもいいことだが、俺の通っていたのは工業系の学校であり、その時習った事がキラーマシン修理に少なからず役立っている。本当にどうでもいいことだが。
「これは……ン、人間が書いた奴か?」
受け取った本は人間の言葉で書かれていた。今まで借りた本は殆どが魔物の文字で書かれており、ハドラーに訊きながら読みすすめているのでこれは有り難い。
題は……『メイドさんロボの作り方』……なんだこりゃ。
著者は……Dr.デロト。何やってんだあの爺さん。
とりあえずスルーして他のを読み進めていく。といっても、おぼろげにしか解読できない物も多く、古代文字で書かれた物などはハドラーにも分からない部分が主だそうだ。
その分性能は高いのだろうが、とはハドラーの弁。
「しっかし、魔王ってのも案外大変なんだな」
「まぁな。魔物を束ねるに値する力、知識、カリスマ、その他諸々が必要だからな。政治なんかも出来んといかんし、勉強は欠かせん」
「てっきり力でねじ伏せてるだけかと思ったが、魔物にも色々あるんだねぇ」
「そんなのはお山の大将というヤツだろうが。その理論でいったら今頃トロル族も魔王だな」
雑談を交えながら修理と勉強を並行してやっていく。今もちょうど、音声システムを修理したところだ。
「しかし淒い技術だな、キラーマシンがみるみる直っていく」
「時間がかなりかかるけどな、パソコンを一から作るのよりちょっと難しいぐらいだ」
「ぱそこん?」
「こっちの話だ。よし、魔晶石嵌めるぞ」
カチリと動力源の魔晶石をはめ込む。魔晶石とは、魔力を溜め込む性質のある石で、これに魔力を送って起動、細かな指示をするんだそうだ。俺は呪文が使えないから、魔力があるかは分からんが。
世の中にはこういった魔法石が沢山あり、特に上質な物を使った武器は伝説とまで呼ばれる一品になるんだとか。例えば振るうだけで真空波を生み出す斧、掲げると相手の守りを弱化する剣など。いつかはそういうのを手に入れられるんだろうか――
夢想していると、ハドラーに声を掛けられた。
「カイン、お前が起動してみろ」
「はぁ?バカ言うなよ、俺に魔力なんざある訳無いだろ。まだ足や装甲が直ってないとはいえ、暴走しないとも限らんし」
眉根を寄せて否定する。が、ハドラーは頑なにお前がやれと言う。
仕方ない、物は試しだ。闘気を放出する感覚で――。
ピピッ、という電子音と共にモノアイに光が宿る。え、上手くいった?しかもあっさりと。
ぽかんとする俺を横目で見ながらハドラーは言った。
「カイン、キサマは潜在的に莫大な魔力を保有している。それもこのオレを上回らんばかりのな。放出さえできれば、この程度は容易いだろう――もっとも、お前は呪文が使えんから、宝の持ち腐れだがな」
言葉の最後で小さく吹き出しやがったのでとりあえず顔面に裏拳を叩き込んでおいた。悶絶しているが知ったこっちゃないな。
「えーと、とりあえず、今の状態を報告してくれ」
『ダメージ61%、脚部、及ビ胸部装甲破損。行動ニ支障が出マス』
「ふむ、音声に問題はなし……武器はモノアイ以外壊してないし、そこも修理した。後は脚部、それに装甲か……大分完成が見えてきたな」
ブルーメタルも大分集まった。まだ予定数には足りないが、後一週間もあれば集まるだろう。ここから去るのも近いか――
ここでの出来事を思い返しながら、本を纏めていく。感傷に浸っている間、ハドラーはまだ悶絶していた。