「ふっ……フハハハハ!所詮は子供よ、あっさりやられてしまったか!」
足を一本やられた時には少し驚いたものの、キラーマシン第3の武装であるレーザーが見事に奴の胸を貫いた。粋がっていたが、所詮は脆弱な人間、殺人機械に敵うはずもなかったのだ。
「残念だったな、キサマの冒険はここで終わりだ」
倒れ伏している人間に近づき、それを見下ろしながら嘲笑ってやる。
しかし、こんな細腕でどうやったんだか……
まぁいい、どのみちもう終わる命だ。最後に遺言でも聞いてやるかな……ハッハッハ!
「キラーマシンにダメージを与えた事は褒めてやる……が、キサマの力量(レベル)は所詮その程度。くだらん結果だったなぁ?」
「ぐ……」
呻き声がわずかに聞こえた。まだ生きているようだな。
「最後に遺言ぐらいは聞いてやる・・・さぁ、言ってみろ」
命乞いをするか、泣き叫ぶか……さぁ、怨嗟や苦痛に満ちた声をあげるがいい!
「最後にものを言うのは……精神力だ。ただの腕力や魔力じゃなく、精神の、魂の力だ……」
「……なに?」
死を前にして頭がおかしくなったか?くだらん戯言……と、一笑に付すには説得力がある。
最期に真理を悟った、とか?そんなバカな。
「何が言いたい」
「俺の魂は、折れてない。だから、まだ負けてない。それに気づかない限り、お前は勇者を倒しても、勝ったとは言えんだろう」
「ふっ、バカな。このオレがアバンに……人間風情に劣ると言うのかぁっ!メラミ!」
癇に障るガキだ、もういい、このオレのメラミで灰まで燃え尽きるがいい!
「ハハハハハ!このハドラー様を怒らせるからだ、愚か者め!」
凄まじい熱気にガキが包まれた。ふん、断末魔もあげずに燃え尽きたか……
つまらん余興だった。さて、キラーマシンの修理を――
「そしてもう一つ。“相手が勝ち誇ったとき、そいつは既に敗北している” ――ちょうどこんな感じにな。ヒムリッシュ……」
「なッ!?」
奴の声!??バカな、ありえん!ただの人間風情にアレが耐えられるはずが――
「アーテム!」
天からの一条の閃光が、キラーマシンのモノアイを貫いた。
『ダメージ71%、索敵不可。対処ハ困難ト判断。』
「バ――」
「遅い!これで終わりだ!」
破砕音が響いた。繰り出した拳が、キラーマシンの胸部装甲――動力源である、魔晶石の設置場所を正確に貫き――
『ダメ・・81%・動力・消失、行動、不、可』
魔晶石を引きずり出し、キラーマシンは停止……撃破された。
「どうだ、倒したぞ……」
そう言いながら、奴も倒れた。
「キラーマシンが……」
「あのガキ、マジで何者なんだ……」
……フン。
「バルトス!このガキの治療をしてやれ!」
◇◇◇◇◇
「ぐ……ここは?」
目が覚めたとき目に入ったのは……ってこの言い回し何度目だ?兎も角、洞窟の中に作られた部屋のようだ。
起き上がって辺りを見回すと、子供が描いたような絵や、玩具が置いてあった。俺の寝ている傍らには薬草が。
そして、少年がこちらの顔をじっと見つめていて――
「父さん!さっきの子、目が覚めた!」
せわしなくどこかへ駆けていった。
その辺の玩具などはあの子の物か?洞窟の……地底魔城の中で暮らす人間なんかいるのか?
「おお、よかったよかった。目が覚めたか」
子供が連れてきたのは、キラーマシンと闘う前にも見た、星型の勲章を首から提げた骸骨剣士だった。なんか淒い優しそうな奴なんだけど、本当にモンスターなのか?
「あのままくたばってもつまらなかったのでな、治療させた。どうせならキラーマシンに殺された方が良かったのだが」
「げっ、ハドラー!?」
なんでお前もいるんだよ……治療?
慌ててレーザーにやられた所を見ると、薬草を塗りこんだ包帯が巻かれていた。
この骸骨剣士はハドラーの部下だろうに、何故そんな事を?
「聞きたいことがある、といった顔だな、お前達。質問を一人一つ許可する」
え、一人一つってこの骸骨剣士と子供も?
「ではハドラー様、幾つか纏めてお尋ねしますが、何故彼はハドラー様のメラミを食らっても無傷だったのか、それとどうやってキラーマシンにあれ程のダメージを与えたのか、えーとそれから」
一つじゃないのかよ。
「多いぞバルトス、そこまでだ」
だろうな……と思いながらハドラーが嘆息するのを眺める。
と、そこで少年が口を開いた。
「この人はなんていうの?」
「ああ、名前は聞いてなかったな。どうせ負けて死ぬと思ったから」
いや、当然といえば当然だが。当然ではあるんだが!
ハドラーを半眼で睨みつけてから、とりあえず名乗った。
「カイン。カイン・R・ハインラインだ」
「偉そうな名前だな」
「うるせぇ!」
またかよ!またその反応かよクソッ!
「もういいだろ!とっととそっちの骸骨剣士の質問の回答しろ!」
「何故そんなに怒ってるんだ……まぁいい」
「考えてみれば単純な事だったのだがな。バルトス、オレが得意とする呪文はなんだ?」
「火炎(メラ)系、閃熱(ギラ)系、そして爆裂(イオ)系の呪文ですな」
呪文使えるのか……羨ましいぜ。ロンの奴には、才能ないんじゃないかとまで言われちまったからなぁ……
「では、オレに対してその系統の呪文で大打撃を与えられるか?」
「いえ、ハドラー様はその呪文を最も得意とする所、なれば並みの者のそれでダメージを食らう事は無いかと」
「成程、こういうことだな?俺は炎を使った闘いを得意とする、故に生半可な火炎ではこの身を焦がす事もできない、と」
カイン・R・ハインラインに元々はそんな特徴はないはずだが……或いはこれも特典か何かだろうか?
もしくはこの世界のルールの一つ、とかかもな。
「そして、キラーマシンを行動不能にまで追い込んだのはいかなる手段か、これも少し注視すれば分かる事だったのがな。カイン、お前が撃ちだしたあの青い玉――ヒムリッシュ・ゼーレ、とか言ったかな?アレには何を込めた」
何を込めた、と言われても特に意識してなかったんだが……強いて言えば、そうだな――
「闘気、か?」
勘で言ったが、正解だったようでハドラーは大きく頷いた。
「そう、闘気、すなわち――生命エネルギー!」
「「生命エネルギー……」」
「闘気は攻撃的生命エネルギー、集中させれば武器となる。あの玉はそれを直接撃ちだした物だ。そして一見ただのか弱い打撃に見えた攻撃にも、闘気が一点集中されていた。なれば如何にブルーメタルの装甲であるキラーマシンといえど、ただではいられん――以上が、キラーマシンを倒したからくりだ」
闘気……全然意識してなかったが、無意識にやっていたんだろうか。これはカイン・R・ハインライン自身もやっていたんだろうか――もしかしてパワーゲージって闘気の溜まり具合とか?そんなわけないか。
「はぁー……流石はハドラー様。素晴らしい洞察力ですな」
「次にカイン、キサマの質問だが……殺すのを惜しいと思っただけではない。お前は中々高い能力を持ち、観察眼にも優れる。キラーマシンの弱い部分を瞬時に見抜いた程だからな」
見たらすぐ気づけると思うんだが。
単に戦った奴らがキラーマシンを恐れてよく見てなかったんじゃないか?
「それだけで侵入者を助けるのはどうなんだ?」
「問題はない。オレが魔王、即ちトップだ。文句は言わせん。そして……カイン・R・ハインライン!キサマに一度だけ聞いてやろう――オレの部下になれ!そうすれば世界の半分を与えてやるぞ……!!」
いつもよりちょっと長くしました。
バルトス「ハドラー様は本当に頭のよいお方」