餓狼 MARK OF THE DRAGONS   作:悪霊さん

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第38話 友人

「……言い逃れとか誤魔化しが通じる雰囲気じゃあねぇよなぁ……」

 

「当然だ。言ったろう、そろそろ付き合いも長いと。お前が嘘を吐いたところですぐ分かる」

 

 ラーハルトは目を逸らすこと無く、真っ直ぐに見つめてくる。問い詰めるような視線は、カインに取ってどんな刃物よりも突き刺さって感じた。

 

「言って、信じるのか?」

 

 僅かに声が震えた気がした。対照的に、ラーハルトの声は呆れる程真っ直ぐだった。

 

「それが真実ならば信じる、それだけだ」

 

「……アベルは、どうだよ」

 

「真実でも嘘でも信じるニ。真実ならばそれを話してくれる程度には信頼してくれているという事、嘘ならば嘘を吐いてまで隠し通したい事と分かるニ。もし絶対に言いたくないっていうなら、ボキは特に追求もしないニ」

 

 アベルも同じく、いつもどおりの調子で答えた。昔っからブレねぇなぁ、と溜息と共に呟き、やっぱりお前は俺にはちょっとばかり眩しすぎるかもな、と声には出さずに思う。

 

「……んじゃ、話す。けど、誰にも言わないでくれよ。他に……そうだな、ルミアやロン、バラン達には自分で話す。けど、どうなっても知らないからな」

 

「構わん、話せ」

 

 ラーハルトが促すと、咳払いをしてぽつりと呟く。

 

「……俺の元々住んでたのは、まぁ……魔界や天界とも違う、言葉通りの異世界だ。そこには魔族や魔物はおろか、魔法すら存在しない。そんな所だった」

 

 目を閉じて、当時を思い返しながら言葉にしていく。意外に覚えてるもんだな、と自分でも驚きながら。

 

「あの世界は魔法とかがない代わり、科学技術や娯楽が盛んでね。ただ、物が豊かな反面精神面は貧しかったように思える。今思うと俺がそうだっただけかもしれんがな」

 

「マシン兵関連の技術もそこで学んだのか?」

 

「いや、あれはこっちに……正確には地底魔城に行ってからのほぼ独学。ハドラーに色々教えてもらったりはしたけどな。向こうには無かった優れた技術だったから程度の興味を持って始めたのが、今じゃこんなのめり込んじまって。話を戻すがその娯楽の中に、小説とか…‥まぁ、本やなんかも沢山あってな。結構色んな物語が楽しめたもんだ」

 

「ピサロ達の事も、その物語として知ったのか」

 

「……ああ。けどよ……俺はな、ラーハルト。ああいう物語に出てきてた奴らは存在しないとか、作り話だとか、そんな事は一切思っちゃいない。その辺の話は少し長くなるが……」

 

「構わん、洗いざらい話してみろ」

 

「分かった。……纏めると、俺がいた世界は魔族や魔物といった脅威がない……この世界とは常識から何から違う世界だった。勿論自然災害や獣による害なんかがない訳じゃあなかったが。その世界で俺はな……」

 

 そこで一拍溜めて、呆れたような溜息を吐き出しながらカインは笑った。

 

「隕石が直撃して死んだらしい」

 

「……隕石って、つまり……星の欠片が宇宙から降ってきて、それがぶつかったってことか二?」

 

「多分な。星の欠片なのかただの石ころかは兎も角」

 

「一度死んでこちらに渡ってきた……ということか」

 

 顎に手を当てて小さく呟くラーハルト。苦笑するカイン。

 

「しかもその隕石が降ってきたのが向こうの神様のミスだってんだから笑えるぜ。自分の失敗のせいで殺してしまったから別の世界に生まれ変わらせるって事で、俺はこっちに来たんだ」

 

 そう話すと、ラーハルトとアベルは顔を見合わせ、同時に盛大な溜息を吐いた。

 

「向こうの人間の神は馬鹿なのか二?」

 

「控え目に言っても大馬鹿だ。そいつは本当に神だったのか?」

 

「んー、まぁ別にそれ自体はいいんだよ。この世界にやって来た事で得られた出会いが沢山あるからな」

 

 そう言って微笑むカインの額に、ラーハルトは仏頂面で手刀を落とした。

 

「何すんだよ」

 

「……フン。さっさと続きを話せ」

 

「なんだよ……まぁいいか。で、どこまで話したか……そうそう、神様のミスが原因で違う所からやって来たって言ったろ?向こうの常識はこっちじゃ殆ど通用しないし、逆も然り。正しく別世界だ。でーだ……そのな、さっき言いかけたが、俺が思うに……なんていうかさ、小説やなんかの物語はただの作り話じゃなくどこかに存在する世界の話なんじゃないかって、時折そう思うんだよ。異世界や神、こっちじゃ魔法なんてものもあるくらいなんだ。そう考えたっておかしくはないだろ?」

 

 そう言ってカリカリと頭を掻くカイン。どうやら上手く言葉にしづらいようだと理解したラーハルトは助け舟を出す。

 

「つまり彼らは誰かの創作物ではない、生きた存在。確かにどこかに生きていた者達だ、そう言いたいのか?」

 

「正にそんな感じだ。だから俺は、彼奴等をキャラクターとしてではなく一個の生命として見ている……これはロビンやラムダにも言える事だけどよ。兎も角、ピサロ達やロトを知っているのは、それが理由だ」

 

「成程、理解した。突っ込みたい所こそあるが、概ね納得できるな」

 

「でもなんで話したがらなかったんだニ?ボキ達はあっさり信じたニ」

 

 アベルがそう首を傾げると、カインは苦虫を噛み潰したような顔でボソッと呟いた。

 

「……別世界から来たって話したよな。そこに住んでた頃の俺はカインって名前じゃなかった。この身体は、この世界にやって来る時神様とやらによって与えられたモノ……カイン・R・ハインラインって名前もこの容姿も、餓狼MOWっていうゲーム……あー、物語に出てくる男のものなんだ。要するにこの名前も身体も借り物、俺自身を示す物じゃない……こんな事、わざわざ聞かせたいとは思わねぇよ」

 

 カインが話すのを躊躇っていた一番の理由がそれだ。カイン・R・ハインラインというのが、自分ではない他人のモノであるなどと知れたらと思うと、怖かったのだ。ここにいる自分は何なのか、自分というものが揺らぐ気がして。それを晒す事で、友人達が自分を見る眼が変わるのが恐ろしくて、ずっと黙っていた。せめて哂ってくれと思い、ラーハルト達に目を向けると。

 

「そうか。で、それだけか?」

 

「それだけって……あ、いや。確かにこれが一番話したくなかった理由だけども。その……何か、ないのか?」

 

「何の事だ」

 

「いや、何の事って。何かこう……」

 

「お前が何を言って欲しいのかは分からんが、一つ訊いておこう」

 

 そう言ってラーハルトはもう何度目かの溜息を零して呆れたように言った。

 

「まさかとは思うが、たったそれだけの理由でオレ達がお前との付き合い方を変えるとでも思ったのか?」

 

「ぐ……だってよ、生まれ変わり云々ってだけでも突飛なことなのに……名前も身体も模造品なんだぞ?大体、俺の事をおかしいと思ったからこうして問い詰めたんじゃあないのか?」

 

 カインがそうまくし立てると、ラーハルトは眉根を寄せて訝しんだ。その反応に何か引っかかるものを感じたが、ラーハルトの返答を待つ。

 

「それこそ何の事だ。オレはただ“お前はどこから来たのか”と聞いただけだ」

 

 ぴしりとカインが固まる。追い討ちをかけるようにアベルが頷く。

 

「確かに、何者か、とかではなくどこから来たのかってしか質問してないニ。加えて言えば、どんな所から来たのか聞いただけで事情とかは一切尋ねてないニ」

 

「そろそろ付き合いも長い、二度もそう言った筈なのだがな?」

 

 思い返す。そういえばそうだ、どこから来たんだとは言われたが、その辺りの事情は一切問われていない。話の流れ上、質問する事こそあれどそれは真偽を問うものですらなく。つまり……

 

「……俺は尋ねられてもいない秘密を自分から曝け出した……って事か」

 

「……間抜けだな、相も変わらず。何故お前はそうも抜けているんだ、いざ戦闘となればあれ程の実力を見せ、日常においても多大なマシンの叡智を活用している癖に」

 

「カインは馬鹿だからニ、良くも悪くも一つの事しか見えてないんだニ」

 

「……なぁ、本当に……その、何とも思わないのか?」

 

 念を押すように震えた声で呟くカインに対し、ラーハルトは溜息を吐きながらも微笑んだ。アベルも笑顔を浮かべ、カインを見つめている。

 

「その程度で見る眼を変えるような奴なら、お前の友人にはなっていないだろう。お前はらしくもなくウジウジと悩んでいるようだが、オレからすれば酒の肴にもならん」

 

「模造品だろうとカインはカインだニ。このボキの友人はそのナントカいう物語に出てくるカインじゃなく、マシン馬鹿で魔物に好かれる変な奴のカインだニ」

 

 二人共笑みをカインに向け、そう語る。暫し呆然としたカインは、思わず呟く。

 

「お前ら……マジで言ってるのか?」

 

「くどい。そもそも、そんな事は気にするような事でもないだろう」

 

「ボキはいつだって本気だニ」

 

 そう言われたカインは閉口し、押し黙った。目を閉じて何事か呟くと、不意に堰を切ったように笑いだした。

 

「ふ……はは、ははははははは!」

 

「フッ……」

 

「フフ、ニ」

 

「あははっ、ははっ!ははははははは、はぁー……」

 

 一頻り笑った後、カインは先程の強ばった顔が嘘のように、文字通り憑き物が落ちたような笑顔で思い切り言葉を吐き出した。

 

「あー、ははは……変に抱え込んでた俺が馬鹿みてぇじゃねぇか」

 

「そうだな、お前は馬鹿だ」

 

「そこは否定してくれるとこじゃあないのか」

 

「マシン馬鹿も付け加えるニ」

 

「底抜けの馬鹿だからな、お前は」

 

「……否定したいけどできないのが悲しい所だ」

 

「だが、その馬鹿な所もお前の美点だろう?無駄に悪知恵を働かせるより余程いい」

 

「褒めるのか貶すのかどっちかにしてくれよ……」

 

「じゃあ馬鹿にしてみるニ」

 

「てめぇ!」

 

 いつもの空気、いつものやり取りが。この空気が変わる事を恐れていたカインの想像とは裏腹に、何一つ変わる事なく彼らの間に流れていた。結局のところ、カインの心配は杞憂に過ぎなかったのだ。カインが思っているより、ずっと彼らの友情は厚かった。ただそれだけの、たったそれだけの話。たったそれだけだけど、彼らにとっては何より尊い事。

 

「……はぁ、俺本当に馬鹿だな。なんだよ、あんだけビクビクしててこれか、無様だなぁ」

 

「カインは昔から格好つけようとして失敗するニ。もっと自然体のが格好よく決まるニ」

 

「そうかもな。もうなりふり構うのは辞めるか……なぁ、お前ら」

 

「なんだ?」

 

「ニ?」

 

「違う出会い方をしていたら俺達は友になれたと思うか?」

 

「かもしれん」

 

「同じく、だニ。たらればなんて知らんニ」

 

「そうだな、少なくともこのラーハルトの友人にカインという人間やアベルという魔物がいるのは確かだ。もしあの時カインに出会わなかったとしても、それは今こうしているオレではないのだからな。だが、一つ断言できる事がある」

 

 そう言ってラーハルトは槍を掲げると、笑みを浮かべて言った。

 

「お前達と出会えて良かった」

 

「ボキもだニ」

 

「……ああ、俺もそう思う……ったく、お前ら最高だよ」

 

 

 

 

 

 ――それから。ジャック達の助けもあって、無事に破邪の洞窟を脱出したカイン達はまずはある程度身を清めてからテランへと戻った。その際、傷の治りきっていない状態で帰り着いたカイン達の姿を見てルミアが卒倒しそうになり、その後大層叱られた事を記しておく。ジャックと無界は別れを惜しみつつ、何処かへと旅立っていき、数日のんびりと過ごし傷の治ったアベルもまた、故郷へと帰っていった。相変わらず若干熱くなりながら別れの挨拶を告げるアベルには、珍しくカインも水を差さなかった。またいつでも来いという声を背に受けながら、アベルは旅立っていった。カインはその背を見ながら、今度会う時はもっとデカイ勇者になってるだろうな、そう予感した。更に数日経ち、ラーハルトはバランに付いてデルムリン島やテランを行き来しており、今はデルムリン島で過ごしている筈だ。つまるところ。今現在テランのルミア宅にはカインとルミアの二人だけである。正確にはロビンや極楽鳥、そしてラムダもいるため二人きりという訳ではないが。そして今――

 

「本当にいいの?」

 

「ああ、バッサリやっちまってくれ」

 

「……うん、分かった」

 

 パサリ、と静かに金色の房が地面に落ちた。カインの腰まで届くような長髪はバッサリと切り落とされ、うなじに掛かるかどうかというくらいまでになっていた。一纏めにした髪をナイフで無造作に切り落としたルミアは残念そうな顔をしている。

 

「折角綺麗な髪してるのに、勿体無いなぁ」

 

「なんならラムダに移植でもしてみるか?」

 

 冗談めかして言ってみたが、ルミアは顎に手を当てて本気で考え込んでいるようだ。ラムダも定期的にルミアが弄り回しもとい手入れをしているが、やはり無機物でそれらしく作ったパーツでは物足りないのだろうか。パーツの換装をするにしても生体パーツとそれ以外をどう融合させるのが課題か、などと直ぐに頭に浮かぶ辺りやはりカインはアベル達の言うところの“マシン馬鹿”なのだろう。見るものがみれば親心或いは親馬鹿故とでも言っただろうか。

 

「でもなんでまた急に髪切るなんて言い出したのさ?」

 

「……まぁ、気持ちの切り替えみたいなもんだ。心機一転再出発ってな」

 

「ふーん……?」

 

「んでよ、ちょっと話したい事があるんだが」

 

「んー?愛の告白か何か?」

 

「違ぇよ。何をどうしたらそうなるんだ……それとは違うが、大事な話だよ」

 

 

◇◇◇◇◇

 

 それからまた数年。部屋に食欲を煽る匂いが漂い、カチャカチャと食器を準備する音が響く。ルミアとラムダが食器を運んでいるのを眺めながら、カインは暇そうに呟いた。

 

「コンロとか作るべきかねぇ」

 

「カインがいるからいいんじゃないかな、このままでも」

 

「そうだな、こうして俺の焔を適度に活用する事で食事を温めたり火を通したり色々できるけどそうじゃない」

 

 シチューの入った鍋の底を両手で支え、手のひらの表面から弱火でコトコト煮込んでいるカインがそう呟く。

 

「こうしてただ温めながら待つだけってのが退屈なんだよ分かるかラムダ」

 

「退屈だからって適当にラムちゃんに話振るのやめようねー」

 

 突然話題を振られたラムダは首を傾げながらてきぱきと食事の準備をこなしている。うちの子は働き者だーと笑いながらカインはひたすらにシチューを煮込む。退屈とは言いつつも、こうしてルミアが答えてくれるので言うほど退屈はしていないのだ。

 

「とりあえず食事終わったらデルムリン島行くぞ。今日はラーハルト達も向こう行ってる筈だからな、今晩は向こうで食事の予定だ」

 

「ん。留守番お願いね、ラムちゃん」

 

 コクリと頷く。程なくして準備を終え、手早く食事を終わらせたカインは外に出て指笛を吹き鳴らす。すると、指笛に応えて極楽鳥が飛んできた。最初に会った時よりも二周り程大きくなったように感じる。今でも人一人くらい余裕そうに運ぶ事ができる程度には成長しているのだ。

 

「俺はともかくルミアは飛べないからな、頼むぞ」

 

 顎を撫でてやりながらそう言うと、任せておけ、とでも言うように一鳴きする。風が短く切り揃えた髪を揺らすのを感じながらそのままルミアが準備を終えるのを待っていると、ロビンが森の中から現れた。剣とメイスの代わりに装備した籠に果物を入れて。

 

「ロビン、ラムダにも言ったが留守は任せるぞ。何かあったらこれに連絡入れろ」

 

 懐から四角い箱のような物を取り出しながらそう言うと、ロビンもコクリと頷く。籠を受け取って中身を覗き込んでいると、ちょうどルミアも準備を終えてやってきた。

 

「さて、そんじゃ行きますか」

 

「おー」

 

 そのまま空へ飛び立っていく二人と一羽を見送った後、ロビンはポツリと言葉を発する。

 

「……チェスデモスルカ」

 

 コクリ。頷いたラムダと共に、二機は家の中へと入っていった。

 

 

 

 

 そしてデルムリン島上空。カインは訝しげな顔をしていた。島の砂浜近くに、大きな船が存在していたのだ。デルムリン島は怪物島として有名である。そんな島にわざわざ訪れるというのは、あまりいい目的とは思えなかった。

 

「船が泊まってる。誰か団体さんで来てるのか?」

 

「……こないだニセ勇者とかいうのでひと悶着あったんだよね?」

 

 果物の入った籠を抱えたルミアがそう言って眉根を寄せる。先日、デルムリン島へやって来た人間達が皆にゴメと呼ばれている、ダイの親友であるゴールデンメタルスライムを連れ去った事件があった。当時は折り悪くバランもラーハルトも不在で、戦えるのがダイと島の魔物達しかおらずみすみす連れ去られてしまったらしいが、ダイが攫われた先のロモス王国の城まで乗り込んで取り返し、しっかりと犯人達を懲らしめて終息したはずだ。事件後、ダイはロモス王にも気に入られていたそうだし楽観的に見るならロモスからの使者という可能性もなくはない。考えすぎかな、と思った瞬間轟音が鳴り響いた。音に目を向けると、件の船が炎に包まれていた。船体は真っ二つになり、見るも無惨な姿だ。

 

「……あ?」

 

「爆発?」

 

「なんだあの船、爆薬でも積んでたのか?にしちゃあ様子が……あ」

 

「どうしたの?」

 

「悪い、先行く」

 

「あ、ちょっと!?」

 

 一言だけ残し、カインは急降下していった。突然の行動にルミアも極楽鳥も反応できず、置いてきぼりをくらうこととなった。暫く呆然と佇み、我に返って追いかける。その時には最早事は殆ど終わっていたが。

 

 

 

 カインが急降下するより少しだけ前。船を破壊して現れたのは三機のキラーマシンだった。これだけならカインは特に焦る理由はない。自分が手を加えた訳でないマシン兵など少し手強い魔物と大差はない。だが、そのキラーマシンの向かう先に友人がいるとなれば話は別だ。バランとラーハルトに関しては心配など不要だが、ソアラやダイ、ブラスがいるのだ。急いで合流するに越した事はなかろうと、カインは地に降り立った。他より大きい金色のキラーマシンに島の魔物達が突撃しようとした瞬間だった。突然の闖入者に思わず動きを止める両者。

 

「な、なんだ貴様ッ!?」

 

「んー……おお、いたいた。よぉラーハルト」

 

「お前か。随分とタイミングのいいご登場だな?」

 

「ちょうどやって来た所なんでね。ま、タイミングは良かったんだろ?で、バラン達は?」

 

「バラン様とソアラ様はご自宅に。ダイ様は洞窟の方に行かれている」

 

「わしを無視するなっ!ええいっ、やってしまえバロン!」

 

 金色のキラーマシンを操っているのは、どうやらバロンという男らしい。何やら喚いている老人や周りの人間達の格好を見る限り、どこかの国の所属のようだ。おまけに敵は人間、何故ラーハルトが蹴散らさないのかと思ったらそういう事かと合点がいった。

 

「国に仕える人間に手を出したら問題になるかもって懸念したワケか。どうりでコイツらが無事でいるワケだ」

 

 そう言って笑うカインの背後から、バロン操るキラーマシンがその剣を振り下ろす。人間であるカインに対しても躊躇のない動きからするに、彼らは悪党と見て間違いないだろう、そうカインは考えた。眼で捉えずともその攻撃は認識できていたが、カインに回避や防御を行うつもりはなかった。

 

「く……くぅっ!な、なんなんだコイツはっ!?」

 

「お、おおっ……!?」

 

 バロンが動揺を隠せず思わず口走り、老人は何事か言おうとしたが言葉にならない。ラーハルトは当然といった顔で眺め、ブラスは呆気にとられて感嘆の息が漏れ出る。カインの頭部目掛けて振り下ろされた剣は、彼の髪一本斬る事ができずに押し止められていた。髪の一本一本の先まで張り詰められた闘気の鎧がいとも容易く剣を食い止めたのだ。叩き斬ってやろうとバロンが更に力を込めてもビクともしない。

 

「バ、バカなぁっ!キラーマシンは勇者を抹殺する為に造られた前大戦の化物だぞ!そのキラーマシンの一撃を受けて何故平然としていられるっ!?」

 

「そりゃお前、俺がこのポンコツより強いからだろう」

 

「ぐぐぐ……ええい、何をしているバロン!もう二機のキラーマシンで奴を始末するのだ!」

 

 分かっている、とバロンが叫ぼうとした瞬間。二機いる青いキラーマシンの内一機のモノアイに、一本の剣が突き刺さった。柄尻に竜の細工が施されたその剣を投げつけたのは、当代の竜の騎士だった。

 

「真魔剛竜剣……ってことは。よ、バラン、ダイ」

 

「よく来たなカイン。それで、先程の轟音と彼らは?」

 

「敵。以上」

 

「あいつらは悪い奴らなんだ……レオナを殺そうとして、魔のサソリをけしかけてきたんだ!父さんが解毒呪文をかけてくれたから助かったけど……」

 

「彼女は家で休ませている。今、ソアラが看てくれている筈だ」

 

「ぐぅ……しくじりおって馬鹿者めが……!こうなったら手段は選ばん!コイツらを片付けて姫を始末するのだ!」

 

「分かっ……!?」

 

 バロンが剣を引こうとするが、剣はビクともしない。カインが二本の指で刃を挟み込み押しとどめているのだ。

 

「くぅっ、貴様離せっ!」

 

「おいダイ、レオナってのは友達か?だったら勿論コイツはお前がやるよな!」

 

 パキンと刃を折りつつ、問いを投げかける。

 

「……ああ!」

 

 カインの問いにダイは勢いよく答え、バロンの前に躍り出る。バロンは刃を中程から失った剣を投げ捨て、ダイと対峙する。先程バランの投げた真魔剛竜剣でモノアイを失った個体はバランに狙いを付けたようだ。剣が相手のモノアイに刺さったままだが、バランなら大丈夫だろうと残った一機に目を向けて歩み寄る。騒がしい老人テムジンには一瞬だけ、そのキラーマシンが怯えたように見えた。目の錯覚だと思いたかったが、何よりも彼自身が怯えていた。

 

「んじゃ、俺はコイツをもらおうか。来いよポンコツ、ジャンクにしてやる」

 

「ギ……」

 

 キラーマシンが弓を装備した左腕をカインに向ける。と同時、カインはキラーマシンの真下へ潜り込んだ。片手を地面に突いて勢いよく下段に回し蹴りを繰り出すと、巻き込まれた脚部が砕けた。最早言葉も出ないテムジンを尻目に、カインは素早くキラーマシンのボディを空高く放り投げた。

 

「な、なんなんじゃコイツは……」

 

 いつの間にか鼻水を垂らしていることにも気づかないテムジンは、何故こんな怪物がいるのかと自問した。が、答えは出なかった。呆然と空を見上げるテムジンの視線の先で、カインは打ち上げたキラーマシンよりも高く飛び上がっていた。

 

「――ドラァァァーッ!!」

 

 雄叫びを上げながら振り下ろしたカインの両拳が、爆発と共にキラーマシンを打ち据える。地上に落ちてきた頃には既に原型をとどめていない程砕かれたソレは、カインの宣言通りジャンクとされていた。

 

「お前は……一体何者なんじゃ……」

 

 ペタンと地面に尻餅を着く老人。問われたカインは顎に手を当てて考え込んで言った。

 

「唯の変わり者の人間だよ」




今回で破邪の洞窟編は終わり、ようやく原作の時間軸となります。
此処まで随分と時間がかかったものですが、これからもお付き合いいただければ幸いです。
活動報告に近況報告も兼ねて破邪の洞窟編の事を書いておくので、興味のある方は是非。

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