餓狼 MARK OF THE DRAGONS   作:悪霊さん

39 / 41
随分と間が空いてしまいましたが一応生きてます。


第37話 最終ラウンド

幻惑呪文(マヌーサ)はその名のとおり幻で相手を惑わす術だ。無論一定以上の力量の者なら気配なり魔力なり視覚に頼らない索敵をするなり、簡単に対応できる。しかし幻とは言っても惑うに充分なものが見え、聞こえているのだ。それが心を動かすに充分なものなら尚更看過できない。

 自分が幼く弱い頃、まだカインに出会う前。子供や大人に虐められ、痛めつけられている頃。幼く、まだ抗うだけの力すらなかった頃の苦い記憶。集団で囲んで暴力を振るい、自分を痛めつける人間達。ラーハルトが見せられている幻惑はその映像だった。勿論それが幻であることなど、ラーハルトは理解している。理解はしているが、許容はできないのだ。半分魔族である自身のみならず、人間である母親にさえも石を投げる人間達。人間の弱さは知っている。自分達と異なるものを排斥したがる、弱い人間を。今更こんなものを見せつけられずとも、ラーハルトは知っていた。

 

「何の真似だ、これは。今更オレがこんなもので動揺するとでも思ったのか?」

 

「これは事実の提示、いわば証明としてのもの。お前が人間と共に暮らす事はできないというな」

 

 幻の霧に阻まれピサロの姿は見えないが、声だけは届いた。苛立たしげに槍を握る手に力を込めて鼻白む。

 

「フン、くだらん。これは過去の話だろう、今のオレはあの頃とは違う。この幻のように無様に縮こまっている頃のオレとは違うんだ」

 

「ふむ……しかし」

 

「……力は強くなっても心は弱いままだとでも言うつもりか?」

 

「……そうではない」

 

 このまま手当たり次第に槍を振り回してもピサロだけに当てる事は難しいだろう。それどころか、最悪ロザリーを巻き込んでしまう可能性がある。流石に非戦闘員かつ敵というわけでもない女性を巻き込むのは避けたい。そもそもそんな隙を晒す真似をするのは命取りだ。例え今のところ攻撃を仕掛けてくる気配はないとしても。できるだけ気配に注意しながらこのまま幻惑が解けるのを待とう、そう考えてラーハルトはほんの少しだけ肩の力を抜いた。

 

「確かにお前は強くなったとも。お前自身はな。人間は弱いままだ。ごくたまに現れる、英雄と呼ばれるような類の人間なら或いは魔族や魔物との共生も可能かもしれない。だがそれは一部の人間だけで、普通の人間という奴は」

 

「分かりきっている事をグダグダと喧しいっ!だから何だと言うのだ、オレが求めている人間はそんな奴らではないっ!」

 

「では証明してみせろ。お前が求めている人間達と共に生きる事ができるとな」

 

「証明だと?」

 

「そうだ。単純な事だ、私を納得させるだけの証を提示してみろ。たったそれだけだ」

 

 僅かに視線を落として考え込む。この男が納得できるだけの証拠と言われても、何を出せというのか。そもそも自分は言葉だけで納得させる事ができる程弁舌には優れていない。ラーハルトにとっては、論ずるより実践してみせることが何よりも証明となる。それ以前にまず。

 

「フッ、それを言うならばお前こそオレを納得させてみるがいい。オレは人間と共に暮らせないとは思わんのでな」

 

 鼻で笑うラーハルトに、ピサロは変わらぬ調子で語りかける。

 

「お前が今見ているその過去こそ、証明とはならんか」

 

「くだらんと言った。過去の事ばかり持ち出して、貴様は先を見ようという意思がないのか?生憎とオレはお前のように過去に囚われて歩みを止めるつもりはない。あの日、カインの手を取った時から立ち止まるという選択肢はオレにはないのだ!」

 

 ラーハルトはそう叫ぶ。それを聞いてピサロはほう、と声を漏らす。

 

「だが……そうだな、敢えて言うならばこの槍こそ証明となろう。人間の友が、魔族の友に頼んで、半魔族であるオレの為に誂えてくれたものだ。例えこの槍が砕けようともその事実と、絆とやらは砕けん

 

「……それは結構、素晴らしい事だ。ならばもう一つ訊こう。人間と共に生きようという魔族がいるのか?」

 

「知らん。前例がないというならオレが先駆けとなる、それだけの事だ」

 

「……成程、これしきでは揺らがんか」

 

 そんな呟きが聞こえた途端、凍えるかのような魔力の波がラーハルトの身体を通り抜けた。反射的に身構えたものの、ダメージを負う事はなく、それどころか先程から煩わしかった幻が消え去った。ピサロに目を向けると、彼は左手をラーハルトに向かって翳していた。何らかの方法によって幻惑呪文を解除したのだろう。

 

「ようやく消えたか、悪趣味な幻が」

 

「客観的にあの光景を見れば心変わりするかと思ったのだがな。思った以上に精神が強い」

 

 フン、と鼻を鳴らして槍を構える。が、ピサロは剣を収めたまま抜こうとしない。また呪文を使おうと企んでいるのだろうかと警戒するラーハルト。それを見ながら、ピサロは暫しの間顎に手を当てて考える。

 

「お前の考えが変わらんのは分かった。揺さぶりをかければ、その底で眠っている考えに気が付いて意見を変えるかと思っていたのだが……目を背けていたというだけでちゃんと答えが出せる奴だった、か。私もまだまだだな」

 

 苦笑するピサロに怪訝な顔をするラーハルト。コイツが笑うのを初めて見たなと思いつつ口を開く。

 

「どういう事だ?オレは最初からこう言うつもりだったぞ」

 

「……うむ、確かにお前は問われればそう答えていただろうことは確かだ。問われていれば、だ」

 

 思わず眉間に皺を寄せる。さっさと要点を纏めろ、そう眼で訴えるとピサロは肩を竦めた。

 

「そう睨むな、そこまで長い話でもないのだぞ?お前は今まで、人間と暮らせるのか、心の底で疑問に思っていた。また同じ事が起きるのではないか、やはりここにいてはいけないのでは……とな。自覚できない程深い無意識の海の底で、だがな。それはつまり、その疑問に向き合っていないということだ。自分は強いからあんなことはもう起きるはずがないとタカをくくっていた、とでも言おうか」

 

 音高く剣を抜き放ち、魔王は呟く。

 

「……自覚した途端、向き合った途端に。答えがあっさり出てしまったがな……その答えがこれからも変わらん事を願おうか」

 

「フッ、魔王が一体誰に願うつもりだ?」

 

「無論、魔族の神……と、普通なら言うのだろうがな」

 

 そこで言葉を切り、ロザリーに目を向ける。

 

「ピサロという愚かな男を地獄から救いあげてくれた彼女と……そうだな、癪だが奴に助けられたのは事実か。天空の勇者に、感謝と願いを。これでどうだ?」

 

「まぁ、いいんじゃないか。役に立つかも分からん神などに祈るよりは上出来だろう」

 

「フフッ…………では、そろそろ終わろうか」

 

「ああ、終わらせよう」

 

 ピサロが腕を軽く引いて剣を構える。それを受けてラーハルトも身体を低くし、槍を構えた。いつでも必殺のハーケンディストールを放てる姿勢を維持したままピサロの紅眼を見据える。

 

「最後に、もう一つだけ教えてくれ。人間が憎くはないのか?」

 

「また揺さぶり……という訳ではなさそうだな。いいだろう、教えてやる」

 

 眼はピサロに向けたまま、ピサロの疑問に答える。真っ直ぐに、己の意思を。

 

「憎くないと言えば嘘になる。が、そんな(しがらみ)に囚われるのはもうやめだ」

 

「……」

 

「仮にオレが憎しみに囚われたまま人間を殺したとしよう。殺された人間の家族や友人はそれをどう思う?オレを憎むだろうな。その連中が別の魔族や某かを迫害して、それをやられた者も……そんなくだらん負の連鎖などさっさと断ち切ってしまわねばな」

 

 ラーハルトの言葉を聞いてもピサロは黙っていた。ラーハルトは更に続ける。

 

「愛する者を奪われる絶望を知っているのに復讐に走らないのはおかしいか?おかしいだろうな、それが普通だろう。自分が味わった悲しみを奴らにも味あわせてやりたいと思うのが当然だ」

 

 ニヤリと口角を上げて締めくくる。

 

「生憎とオレの主も友人も普通じゃあないんでな。普通とか常識とか、そんなものは投げ捨ててしまった。だからオレにとってはこれが普通……いや、オレの決めた道、とでも言おうか。恨み辛みばかり言っていても仕方がないのでな……フッ、慣れない事などするものではないな、オレはあまり弁舌を振るうような性格じゃあないというのに。言いたい事は決まっているのに上手く言葉に出来んよ」

 

「そこはお互い様という奴だ。私もあまり口が達者ではないからな」

 

「なるほど、オレ達は存外似た者同士らしい」

 

「違いない」

 

「「フ……ハッハッハ!」」

 

 二人同時に声を上げて笑う。先程までの苛々とした気持ちが嘘のように消え、決着への期待で胸が高鳴る。最初は気に食わない奴だと感じたが、ひょっとしたらコイツはそこまで悪い奴ではないのかもしれない。そもそも異種族、それもエルフの恋人がいる時点で大悪党という訳ではないのかもしれない。

 

「……お前が私の世界にいたなら是非ともスカウトしたかったのだがな」

 

「悪いが、オレはバラン様以外の方にこの槍を捧げる気はない」

 

「残念だ。……行くぞ、ラーハルト!」

 

「ああ、来い!」

 

 ピサロが叫び、突進してくる。ラーハルトもそれを迎え撃つ為、槍を回転させる。十八番にして必殺の技を放つと同時、雄叫びを上げる。

 

「この一撃で終わらせてやるッ!喰らえ、ハーケン――」

 

 黒い魔力を纏った剣が横薙ぎに振り抜かれる。空間ごと斬り裂くかのような一撃に、ラーハルトは真っ向勝負を仕掛けた。

 

 

 

「――ディストールッッ!!」

 

 英雄の槍と魔王の剣が激突し、けたたましくも美しい音を奏でた。唯一の立会人であるロザリーが固唾を飲んで見守る中、二人の攻撃で巻き起こった砂煙が段々と晴れていく。

 

 

「フ……」

 

「……」

 

 互いに武器を振り切った姿勢のまま静止していた。共に背中を向けた状態の中、ラーハルトはニヤリと笑みを浮かべ、対するピサロは神妙な顔つきだった。

 

「これが魔族を統べる王の剣か……」

 

 どこか清々しい笑みを浮かべたまま呟き。

 

 

「――強いな」

 

 そのまま、ゆっくりと地へ倒れ伏した。

 

 

「……私の勝ちだ」

 

「ああ、そうだな」

 

 倒れたラーハルトの傍まで歩み寄り、ピサロは剣の切っ先をラーハルトの首元へと向けた。ラーハルトは焦った様子もなく、むしろ当然という体でいた。

 

「大きな口を叩いてはみたが、結局オレもまだまだ未熟者だったという事か……さぁ、トドメを刺すがいい」

 

 これからやってくるであろう自身の死を受け入れたのか、ラーハルトは若干悔しそうにしながらも、笑みを浮かべたまま目を閉じる。最期の時を今か今かと待ちながら。

 

 

「……やめだ」

 

「……なんだと?」

 

 ラーハルトは耳を疑った。今何と言った?やめだ、と言ったのか?戦いを始めた時には”死ね”とストレートに殺意を示した男が、今更殺すのを止めるというのか。ラーハルトは戸惑った。まさか最初からそのつもりだったのか、と。

 どういうことだと眼で問いかけると、ピサロは剣を収めながら肩を竦めた。

 

「ロザリーが見ている前で、無駄な殺生をするのは好ましくない。ロザリーに怒られるのでな」

 

「……まったく、貴様という奴は」

 

 ラーハルトは確信した。この男は自分を焚き付ける為に直接的な殺意の意思を見せただけで、本当に命を奪おうという気はさらさらなかったのだと。そもそもただ殺すだけなら攻撃魔法を使えばいいものを、それをせずにわざわざ剣一本で相手をした辺りに程良く加減をしながらラーハルトの意思と力量を同時に試すという思惑が見え隠れしていた。それを見抜けなかった自分に呆れると同時に脱力する。

 

「あの馬鹿もそういうところがあるが、貴様はアイツよりも強い分タチが悪い」

 

 顔を顰めてそう呟くと、ピサロは苦笑を漏らした。

 

「それは悪かった……とは言わんぞ。お前があまりに腑抜けでいるようなら本当に殺っていた」

 

「フッ、どうやらお眼鏡に適ったようで何よりだ……」

 

 そう呟くと、ラーハルトは視界がぼやけている事に気づいた。血を流している訳でもまた幻惑をかけられている訳でもないはずだが。

 

「……そろそろ時間か。お前の連れも試練が終わったようだな、どうなっているかまでは知らんが。先も言ったが、お前の答えと想いが変わらない事を祈っている」

 

「待て、まだ――」

 

 聞きたい事がある、そう言いかけたラーハルトは視界が白く染まると同時、意識を失った。ここに来た時と同じように。

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

「――これで二回目だよ」

 

 辺りの地形が変わっているのが分かった。ロトの放った魔法剣はそれ程の威力だった。当代の竜の騎士が全力で放つギガブレイクと比べても遜色ない破壊力だ。その大破壊を巻き起こした勇者はやるせなさを隠さずに吐き捨てた。

 

「尊敬した相手を殺すのは!ゾーマも、小さな勇者(プチヒーロー)も!なんで尊敬した相手を殺さなくちゃいけないんだッ!」

 

 激情と共に剣を叩きつける。オリハルコンで出来た王者の剣はその程度で傷付く事はなかった。その傷一つない普段と余りにも変わりない姿が、勇者という立場から変われない自分のようで腹立たしさが更に募る。

 

「ゾーマも君も……クソッ……僕が強すぎるからなのか……?」

 

 その慟哭を聞く者はいない。ここに立っている者は彼しかいなかった。

 

「なにが勇者だ……これじゃ、まるで化物じゃないか……!」

 

 地面に座り込み、感情のままに地面を殴りつける。大して力を込めてもいないのに石が砕けた。まるで化物だと彼は言った。化物を倒せたということはそれ以上の化物という事ではないか、勇者はそう嘆いた。

 勇者は嘆いている。俯いて、感情を吐露している。故に彼は気付けなかった。空から何かが降ってくるのを。

 

 

「だから嫌だったんだ……君を殺すことになるから――」

 

「――に」

 

「えっ?」

 

「勝手に……人を殺すんじゃあない二゛……ニ゛ッ」

 

 空からポスンと、軽い音を立てて小さな何かが落ちてきた。確かめるまでもなく、それはアベルだった。確かにギガブレイクで消し飛んでしまったと思っていた、小さな勇者だった。最初はなんて都合のいい幻覚だと思った。ボロボロになりながらもしっかりと生きているなんて、想像だにしなかった。これほどの威力の技を受けて尚、五体満足でいられたというのか。

 

「なん、で……」

 

「言ったハズだ二、ここで死んじゃいられないって。……ま、ボキのデインブレイクで威力を減衰させただけじゃ、消し飛びはしなくとも腕の2、3本程度は吹っ飛んだかもしれないが二」

 

「そんな理屈で、死を免れるなんて出来るわけがないだろう!」

 

「理屈はどうあれ、ボキは生きている二。例えあの御仁の助力があったとはいえ、ボキが生きている。真実はそれだけだ二」

 

 ロトは深々と溜息を吐いた。そして悟った。アベルの言う通り、理屈を抜きにして真実を受け入れるしかないと。そう考えた時、アベルの言葉に引っかかるものを感じた。

 

「待て。あの御仁、だって?どこにそんな奴がいるんだ?」

 

「それは……二?どうやらどこかへ行ってしまったようだ二。まぁそれはともかく、状況をおさらいする二。あの時君のギガブレイクは確かにボキを仕留めるに十二分な威力だった二。ボキはデインブレイクをぶつけて相殺しようとしたんだ二」

 

 威力は僅かに減衰させられたが、それでも即死級のダメージだったとアベルは語る。そしてこう続けた。

 

「あの時ボキは死を覚悟した二。君の一撃はそれ程強力なものだったから、二」

 

「じゃあ、なんで生きてるんだ」

 

 ロトは内心の歓喜を押し隠すように呟いた。

 

「まず一つ目。君の一撃は確かに強力だった二、文字通り地形を変える程に。その一撃で凄まじい衝撃が巻き起こり、ボキの小さな身体はその衝撃によって上空まで吹き飛ばされたんだ二。ギガブレイクが直撃する前に吹き飛ばされた事で、まず一つの命綱が繋がった訳だ二。まずそれが、空から落ちてきた理由だ二」

 

 なるほど、言われてみればこんな小さな身体程度吹き飛ばせるような衝撃だった。まだ子供と言っていい頃の身体であるカインだって、アベル程度は軽々と振り回せるサイズと重量だ。そこはまだ理解できる。

 

「衝撃だけとはいえそれでもボキは一旦死にかけた二。本当に即死するレベルだったから二」

 

 最早ロトも、なんで生きてるんだとは言えなかった。コイツに理屈で向き合うのは辞めておこう、ロトは密かにそう思った。

 

「まぁその即死分のダメージは気合で耐えたんだが二。思いっきり食いしばってやった二」

 

「……本当に、無茶苦茶だ」

 

「我ながらよく耐えたもんだと褒めてやりたい二。その直後、ボキは意識を失いかけていたんだ二。しかしそこに誰かが強い魔力と叱咤を送ってくれたんだ二。それがボキを覚醒させ、吹き飛ばされながらも自分にベホイミを使う余裕を与えてくれたんだ二」

 

 つまり、その誰かの助けがなければいくら気合で耐えたとしても死は免れなかった。そういう事なのだろう。確かに理屈は通っている。問題なのは、その魔力を送り込んだというのが誰なのか、だ。あの土壇場で自分に察知されず、彼のベホイミで自身の命を繋ぐに充分な量の魔力を即座に、それもアベルが完全に意識を落とす前にそんな芸当を可能とできるだけの存在。もしかして、という思いはあった。もしかして、その魔力をくれたのは……そう考え、空を見上げる。空は少し明るくなっていた。

 

「とはいえ……ダメージは甚大だからニ、いくらベホイミかけたとは言ってもこれでも結構死にかけだニ……ぐふっ」

 

 そういってぱたりと顔から地面に倒れこむアベル。

 

「……は、ははっ」

 

 ロトは力なく笑う。彼を殺さずに済んだ事に安堵した。自分の情けない姿に羞恥心が込み上げる。さっきの無様な叫びを聞かれていたと思うと少しばかり恥ずかしい。が、それ以上にアベルが生きていた事が嬉しかったし、心底負けたと思った。勇者は彼の方が相応しい、と。

 

「……負けたよ。君が、真の勇者だ」

 

「……何言ってるニ、勇者に真も偽もないニ」

 

 ゴロンと仰向けになってアベルは語る。

 

「勇者とは勇気あるもの、相手の強さによって出したり引っ込めたりするのは本当の勇気じゃない、だニ。ボキの知り合いの大魔導師……の、師匠が言っていた言葉だそうだニ。君は大魔王相手でも一歩も退かずに戦い、そしてボキと正面から真っ直ぐにぶつかってくれたニ。君は勇者だニ、ボキが保証する二」

 

「……君には敵わないな。もし生きてる間に君に会えたらと思うと、本当に残念でならない。全く、こんなんじゃ父さんにもゾーマにも顔向けできないな……」

 

 もしさっきの自分をゾーマに見られていたとしたら、自分を倒した勇者がなんと情けない、自分はそんな弱い男に負けたつもりはないぞくらいのお小言は言われるかもしれない。そう考えると自嘲するような笑みが浮かんだ。

 

「大体、君がそんなウジウジしてたら君に負けた者達に失礼だニ。大魔王ゾーマだってこんな情けない勇者には負けてないって怒ると思うニ。」

 

「本当に言われそうだ……一喝された方が頭も冷えるかな。……負けた者達に失礼だなんて、考えた事もなかったよ。そうだね、確かにその通りだ。父さんだって最期まで立派な人だった。ゾーマもそうだ、僕に倒されても堂々とした姿で、立派に……」

 

「君がすべき事は、まず自分に自信を持つ事だニ。勇者とかそういうのは関係なく、君は強い男だニ」

 

「自信を持ったら、その後は?僕が倒してきた彼らに何て言えばいいんだ、こんな情けなく無様な僕が」

 

「誇るニ」

 

「え?」

 

「だから、君が倒してきた者達の強さを誇るニ。自分の方が強かったけども、アイツも凄く強かったぞーって具合に誇るニ。それが手向けだニ」

 

「誇りが手向け、か……今からでも間に合うかな?」

 

「勿論だニ」

 

「……ふふ、ありがとう。試練なんて言って、どっちが試練を与える側か分かったものじゃないな。僕が逆に説教されてるよ」

 

「まぁ、せっかくだから勇者の何たるかを小一時間話し合いたいところだがニ……流石にそろそろ、きついんだニ」

 

 すっかり忘れていたが、アベルは満身創痍なのだった。ベホイミをかけたとはいえ、死に体である事に変わりはない。慌ててアベルにベホマを掛けようとしたが、アベルはそれを拒否した。

 

「傷は男の勲章だニ」

 

「それで死んだら元も子もないんだけど」

 

「言ったはずだニ、こんな所じゃ死んでられないって」

 

「なんだろう、さっきと同じ台詞なのにさっきよりカッコ悪い気がする」

 

 溜息を吐くと、どちらからともなく笑い出す。先程の黒いものが嘘のように霧散し、清々しい気分だ。思えば自分を貶めていてばかりだったが、それは彼の大魔王を筆頭に自分が打倒してきた者達への侮辱になっていたのかもしれない。力量で言えば自分が圧倒的に上なのに、この小さな勇者には驚かされてばかりだ。技は勿論、心構えなどでも。

 

「……僕が勇者なら、君も勇者だ。こう言うのもなんだけど、君は確かに僕より力はない」

 

「いずれは超えてみせる二」

 

「その時を待っているよ。でもね、これだけは言わせてくれ。君のこれまでの道の中で、君に救われた人達はいたんだ。僕も含めて、ね」

 

 地面に寝転がりながらロトははっきりと口にする。

 

「君が僕より少し力がなくたって、救われた人がいるなら勇者だよ。君も、僕も。今やっと分かったよ。僕があれだけ嫌ってきた勇者にも、色々いるんだ。人を助ける勇者、人に勇気を与える勇者、敵を打倒する勇者……勇者って魔王を倒すだけじゃあないんだね……真の勇者なんてものはない。強いて言うなら、勇者と呼ばれる者がそうなんだ。ああ、今なら胸を張って僕は勇者だと名乗れそうだ」

 

「そうだ二……ボキはこう思う二。勇者というのは、自分より他人に勇気を沸き起こさせるような人だと。君の仲間もきっと、君の勇姿に勇気づけられてた二。勇者って呼び方が嫌ならヒーローと呼ぶに相応しい二」

 

「ヒーロー……勇者とどう違うんだい?」

 

「……呼び方、か二」

 

 もう何回彼の言葉に脱力させられただろうか。

 

「ま、まぁ呼び方は兎も角君は凄い男だってことだ二」

 

「ああ、うん……言いたい事は分かるんだけどさ、なんというか……締まらないね」

 

「……ボキは多くを語るタイプじゃない二」

 

 どの口が言うか。最初から大分饒舌じゃないか、そう思ったが黙って飲み込んだ。彼がこういう肝心な場面でもイマイチ締まらない質なのは分かっていた。それでもいちいちツッコミたくなる辺りにロトの気質も出ているが。

 

 そうしていると、アベルが咳払いをして言った。どうやらこれが限界のようだ。

 

「ま、そういうワケだニ。君との戦い、楽しかったニ」

 

「欲を言えばもっと話したかった。でも仕方ないか……おやすみ、勇者アベル。君の道が光溢れるものであることを祈っているよ」

 

「さよならだニ、勇者ロト。いつか、また会えた時はもう一度勝負するニ」

 

 その言葉を最後に、アベルは目を閉じた。まるでこの世を去ったかのような状態だったが、しっかりといびきをかいている。気を失っただけのようだ。

 ロトは暫し眼を伏せると、徐にいつも頭に装備していたサークレットを外し、アベルの手に握らせた。しっかりと握りこませると、ゆっくりと立ち上がり、どこかへと歩いて行った。

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

「ハッハァッ!楽しいなぁギースよぉ!」

 

「フン、粋がるな小僧!」

 

 カインとギースの戦闘はどんどん苛烈なものになっていく。ギースが空中から闘気弾を無数に撃ちだすと、カインはそれを全身から凄まじい勢いで焔を吹き上げて防御する。着地際を狙って突進しながら蹴りを繰り出すとギースはそれを掴んで投げる。投げられている最中でもカインは腕を思い切り振るい、その勢いのままに焔が襲う。腕を振り上げ、烈風拳でそれを跳ね返すと、地面に落ちたカインの頭を掴み、再び地面に叩きつける。が、カインは大したダメージを負った様子もなく即座に反撃に転じる。

 

「ハハハッ!そうだ……来い!私を倒したいのなら……!そんな攻め方では私は倒せぬぞ!」

 

「ならもっとギア上げてくぜギィース!」

 

 叫びながら獣のように飛びかかる。ギースが身を捻って回避すると同時、闘気の篭った拳が寸前までギースが踏みしめていた地面に叩きつけられる。炸裂と同時、砕けた地面の欠片が襲いかかる。急所に当たる物だけ弾き、それ以外は敢えて受ける。受けながら手刀をカインの首筋目掛け振るうと、金属の塊を殴りつけたかのような感触が伝わってきた。思わず手を引っ込めると同時、首筋を焔が包み込む。

 

「ククッ、惜しかったな。今のが通っていれば首を撥ねられただろうに」

 

「全くだ。いくら闘気で強化しているとはいえ、貴様の身体は一体何で出来ているのか問いたくなるぞ」

 

「ハハッ!おいおい、俺は人間だぞ?まるで鉄か何かと思ってるような言葉じゃないか」

 

「フン、人間だと?貴様の動きはまるで餓えた獣のように荒々しいがな!」

 

「気高く餓えなきゃ勝てないって誰かが言ってたっけな。確かに俺は餓えているよ、勝利になァ!」

 

「猿の次は餓狼か、余程獣が好きと見える」

 

 言いながら突進し、勢いを乗せてカインの顔面目掛けて肘打ちを繰り出す。ふわりと飛び上がってそれを回避し、中空から踵を振り下ろすと足を掴まれて放り投げられる。頭から派手に落下し、地面が少しばかり陥没したがカインにダメージはないようだ。少し前まではこの一連の動作でダメージを食らっていたというのに。その防御能力の高さとこの短時間で自分を驚嘆させられる程のカインの成長力に、ギースは我知らず笑みを浮かべる。

 

「チッ、やっぱり当身投げが厄介だな」

 

「フフン、その程度か?」

 

「冗談。それに、その当身投げを破る手立てはあるのさ」

 

「……ほう」

 

 そう言って、カインは突然ギースに向けて突進した。ただ勢いを乗せただけか、そう鼻で笑い再び攻撃を流そうと構える。構えると同時にカインの手刀が袈裟懸けに振り下ろされた。受け止めようとしたギースは鋭い痛みに目を見開いた。

 ギースの当身投げという技術は、攻撃を受け、その威力を流して無防備な相手を投げる事に因る技だ。故に飛び道具で攻撃されては通じない。だからこそ、遠距離攻撃ではなく近接攻撃を選んだカインの選択を鼻で笑ったのだ。確実に当身を潰せる飛び道具ではなく、直接攻撃を仕掛けるなどと愚かな、そうギースは思っていた。

 

「ぬ……ンッ!」

 

 カインの振り下ろした右手刀は、威力を受け流そうとしたギースの掌の表面を切り裂いた。深く切り込めなかったのは仕方ないとしても、受け流す事も許さずギースの主力である拳に傷を残した事に、カインは笑みを浮かべた。そして手刀を振り下ろしたカインはそのまま身体を一回転させ、その勢いのままギースの顎目掛けアッパーを繰り出した。首を後ろに逸らす事でかろうじて回避したが、目前で大砲でも撃ったかのような轟音が耳を劈く。今の一撃を食らっていたら、戦闘不能ないし致命傷になっていただろう事を理解しながらも、ギースはギラリと獰猛な笑みを見せる。

 

「心地よい緊張感だな。やはり、命の削り合いはいいものだ!」

 

「ああ、楽しいなァギースよ!かつてない高揚感を感じるぞ、最高にハイな気分だッ!」

 

「クク、やはり若僧だな。さぁ、魂をすり減らすような死闘をしようではないか!」

 

「あぁ、望むところだ!」

 

 カインが吼え、ギースが笑う。二人の戦いは続く。幾度とないぶつかり合いで、既に二人の身体は至る所に傷が見受けられる。そもそもカインは既に重症の身だった筈なのだが、そんな事実はないとばかりに暴れまわっていた。ギースとて先程の拳の他にもあちらこちらに火傷などを負っているが、お構いなしにぶつかり続けていた。

 

「クハハッ、どうしたよ、随分と紅くなったじゃあないか!最近は皮膚を紅く染めるのが流行りか?」

 

「そういう貴様は血化粧が好きなようだな、カブキ者でも気取っているのか?」

 

 軽口を叩きながら真っ直ぐに蹴りを叩き込む。当身投げをされないようにと焔を纏わせたそれを、ギースは躊躇なく掴み自分の懐へと引き寄せた。

 

「まだロウソクのほうが燃えさかっているぞ!貴様の焔はその程度か!」

 

「あァ!?ンな訳ねぇだろ、血染めの灰にしてやろうか!?」

 

「やれるものならな……!」

 

 ギースの拳がカインの顔面に叩きつけられる。拳から溢れ出た血がカインの視界を遮ると同時、もう何度目かの乱舞がお見舞いされる。急所やそうでない部位も見境なしに滅多打ちされるが、カインは先程致命傷を受ける原因となったそれを敢えて受け続けた。

 

「デッドリーレェィッ!!」

 

 幾度となく攻撃を受ける内に、カインはギースの狙いに気づいた。滅茶苦茶に繰り出しているように見えて、その実ギースの攻撃は精密にそれぞれ同じ箇所を狙っていた。闘気鎧があるとはいえ、ダメージを完全に防げる訳ではない。乱舞という技の特徴上直ぐには気づきにくい事だが、言うなれば鎧の傷ついた箇所をひたすらに攻め立てるようなもの。例えば、腕で攻撃をガードしたとしよう。その場合ダメージを負う事になるのはどこか。論ずるまでもなくガードをした部位である。10のダメージを1に減らす。言ってしまえば、防御というのはそういう事である。カインのやり方が回避ではなく闘気鎧による防御である以上、その1のダメージは存在する。ギースはその1を積み重ねる事でカインの防御力を突破しようというのだ。

 

「クハハッ!最初はこんなズタボロにされたが、もう慣れた!いい加減殴られるのも飽きたぜ!」

 

 デッドリーレイブを受けながら、カインは強引に反撃に出る。防御を絶やさず、拳や蹴りにも闘気を纏わせて殴りかかる。それを回避しながらギースがお返しとばかりに、未だ血液を滴らせている傷口に手刀を突き込む。痛みに顔を顰めるものの、それならこちらもとその手刀を焔で焼く。強い闘気を纏ったそれを一瞬で焼き尽くす事こそできなかったものの、ギースの手刀に篭った闘気とカインの身体から噴き上がる焔、軍配が上がったのはカインの焔だった。

 

「ウオォッ!」

 

「ハハ、どうしたギース。地獄の炎はこんなもんじゃない筈だぜ!?」

 

「フン……ならば貴様が逝って確かめてこい!」

 

 そう叫び、ギースは烈風拳を放つ。カインは左足を振り上げ、蹴りで闘気の流れを生み出す事でそれを相殺する。どうだとでも言いたげに笑みを浮かべるカイン。ギースは取り合わず、すぐさま追撃に二発目、三発目の烈風拳を撃ちだしていた。即座に回避をしようとするが、視界がブレたのを感じる。気がつけばぐらりと身体が倒れ掛かっていた。

 

(チッ、流石に傷を負いすぎたか?急に身体の力も抜けてきた、そろそろ限界か……だが、負けられん。今更この程度のダメージでどうこう言ってる暇もない……力が足りなきゃ命を燃やすだけだ!!それでもダメなら我が全てを灰燼とするだけよッ!)

 

 ギースからもその様子は見えていた。歯を食いしばりながらバランスを崩すのを見て、カインにも余力があまりないのを察知した。この場に戻ってきた時点で死に体だったというのに、よくもここまで保たせたものだと感心する。それと同時に、全力で叩き潰してやるという衝動も湧き出る。だがまずはこの二発の烈風拳だ、これを避けられず食らうとしてそれでどうなるか。耐え切るか、それとも力尽きるのか。この二発だけで沈んだとして、それはなんらおかしな事ではない。いくら防御能力が異常に高くとも、カインは人間だ。人間である以上は限界が訪れる。そもそも最初にこの屋上から叩き落とされた時点で死んでもおかしくない程の重症だったのだ。しかし、ギースはこう考える。この二発の烈風拳は奴にトドメを刺すには至らない、ともすればあの状態からでも完全回避してのけるかもしれん。そんな確信めいた予感を感じていた。

 

(この程度で終わるようならそもそもこの私とこうまで渡り合う事など出来はしない……さぁ、どう出る!?)

 

「クッ……」

 

 バランスを崩したカインの目前まで烈風拳が迫る。せめて焔で防御して少しでもダメージを減らすのが得策だろう。どの道防御するなら足を止めざるを得ない。一瞬の硬直を狙って、もう一度羅生門なりレイジングストームなりお見舞いしてやろう。ギースはそう考えた。だが、ギースの目論見は外れる事となった。カインは回避したのだ。

 

「……今の動きは……」

 

「……」

 

 カインは滑るようにスっと動いた。倒れかけた姿勢からほんの僅かに片足をあげただけの姿勢になり、それを維持したまま烈風拳から逃れるように、僅かな距離だけだが移動し、回避してみせたのだ。カインはその自分の動きに対し驚いたように呟いた。

 

「今のは一体……無意識だが、アレに似た動きを……」

 

「……フン、あのタイミングで回避してのけた事実は認めてやるか。貴様は窮地に陥ればそれだけ成長するのか?だが、本能や才覚だけでこの私に勝てる……などと思い上がっている訳ではあるまい。さぁ、貴様の限界を見せてみろ」

 

「……ああ、そうだな。少なくとも俺はまださっきの動きを自分の物にした訳じゃあないし、な。限界まで飛ばすぜ」

 

 烈風拳を回避したカインは暫し自分で自分に驚いていたが、口に溜まった血を吐き出してギースに向き直った。

 

「ケリをつけようぜギース」

 

「貴様の死をもってな」

 

 そう言ってギースが当身投げの構えを取る。カインはそこに敢えて左腕を大きく振り被り、わかりやすく拳で殴りかかる。

 

「バカめ、性懲りもなく打撃を仕掛けるか!」

 

 当然ギースは当身投げの餌食にしようと腕を伸ばす。

 

「後悔させてやるぜェ!」

 

「なッ……ぐぁぁッ!?」

 

 カインの拳はその威力を流そうと触れたギースの掌を弾き、顔を僅かに掠めていった。結果的に空振りに終わったかのように見えたその一撃はギースを捉える事こそなかったものの、その圧倒的な闘気はこのビルの屋上を丸ごと吹き飛ばすかのような衝撃を生んだ。その衝撃はギースを容易く吹き飛ばし、その身体を眼下に暗い町並みが見える中空へと押し出した。

 

「くっ……」

 

 間一髪、伸ばした腕は屋上の縁を掴んだ。全体重を支えた腕がビキリと痛んだが、気合を入れて自身を持ち上げる。なんとか戻ったギースタワーの屋上は、先程までより更に酷く荒れていた。もういつ崩落してもおかしくはないほどだ。

 

「防御とか全部忘れて、ただの一発に全部込めてみれば俺でもこのくらいできる。だがよギース。それだけじゃあ足りないよな。俺がアンタを超えるにゃ、アレを打ち破らなきゃあな……来いよ、全力のデッドリーレイブで」

 

「ほう、いい心がけだ。良かろう、相手してやろう。その生意気なセリフが二度と言えんようにしてくれるわッ!C'mon!」

 

 両者共に腰を低く落とし構え、同時に飛び出す。全く同じ動作で拳を突き出し、ギースの右拳とカインの左拳が激しくぶつかり合った。

 

「フン!貴様の力は所詮こんなものか!」

 

「そいつはちょっと早計ってもんだぜギィィィス!」

 

 続く蹴りも互いに相殺しあい、更なる連撃も正確に、同じタイミングで放たれ相殺される。速度は全く同じ、威力も寸分違わず拳の握り方さえも鏡写しのようである。何度かぶつかり合ったギースはそれに気づき、舌を巻いた。自分の動きを二手、或いは三手先までは読んでいるかもしれない。

 

「少々性格に問題があるがやはりいい素材だ。それだけに惜しいな、こんなところで潰すのは!」

 

「言ってろ、潰してもまた這い上がってきてやるよ!」

 

 壮絶な乱舞のぶつかり合いの最中でも笑みを絶やさず、二人は舞う。荒々しく、獣のように。

 

「オラオラァッ!どうしたギース、疲れたなら引退してなァ!」

 

「ハハハ!若僧がよく吠える、貴様のような未熟者には負けぬわ!」

 

演舞のような嵐のような、そんな印象だった。時折朱が飛び、紫の焔が舞い散る演舞。近づくものを粉々に打ち砕き、圧倒的な破壊を齎す嵐。二人のデッドリーレイブは、一種の芸術のような美しさと暴力を持ってぶつかり合う。拳と蹴りの応酬、その永いようでいて一瞬にも感じられるぶつかり合いに終止符を打たんとギースは両手を胸の前で構え、闘気弾を放った。最初のラウンドでカインを地に落とした一撃。カインはそれを見据え迎え撃つ。

 

(これだ……この一撃を破って、猿真似じゃあない、俺の技で勝利する。それ以外、あの腑抜けた俺に決別し、ギース・ハワードに勝利する道はない)

 

「トドメだ、もう一度地に墜ちるがいいッ!」

 

「終わりだ、ギース・ハワードッ!」

 

 そこから、カインはギースの動きを読む事を止めた。意図的に同じ威力の同じ攻撃をぶつける事でギース・ハワードのデッドリーレイブを、その力の流れを読み取る意図があったが、この瞬間からカインはその読み取った動きを利用し彼の必殺の一撃を打ち破らんとしていた。読みに回していた分の集中力を闘気のコントロールに使う。先程も拳や蹴りに圧縮した闘気を使っていたが、今度はそれ以上に強く。下手を打てば闘気の暴発で自らの身を危うくする程に。

 

 まずカインは、アッパーをするように右腕を振り上げ、目前に迫った闘気弾を上に向けてぶん殴る。闘気のぶつかり合いによる衝撃が、間近にいたギースにも感じられた。防がれたか、と内心感嘆するギースを余所にカインは動き続ける。次に放ったのは左ストレート。上へと跳ね除けられた闘気弾を貫き、ストレートを放った左拳とアッパーを繰り出した右拳が重なり合った。目を見開くギースの視界に、紫が広がった。

 

「―――」

 

 爆音と共に、重なり打ち合った拳から爆焔が放たれる。強烈な闘気も含まれたそれは、ギースをあっさりと吹き飛ばした。吹き飛ばされるより先に爆焔が身を焼き、闘気が身を裂いた。強烈な一撃の反動でカインの身体にも少なくない衝撃が襲いかかったが、一瞬の間機能しなかったギースの視覚が回復した時、既にカインは動いていた。反動を利用して宙へ飛び上がり、魔靴によって齎される推進力を以てギースへと襲いかかる。竜の爪を想起させる形状に折り曲げた指には超圧縮された闘気と焔に包まれており、まるで本物の竜が迫ってくるような、そんな強い脅威を、ギース・ハワードに感じさせた。

 

「バカな……この私が……ギース・ハワードが……!」

 

 投槍のような勢いで猛進するカインの一撃はギースを穿ちビルの一角をケーキを切り崩すように容易く破壊した。ギースは辛うじて防御する事ができたが、カインの一撃はその防御を貫き、ギースの身体に五つの風穴を開け、その傷にも瞬時に焔が這い回る。

 

「ぐおおおおおおッッ!!」

 

 叫び声を上げながらも、カインに食らいついてやろうと自らの傷に向けていた視線をカインに戻すと、カインは血に塗れた身体でこちらへ向かっているようだった。時間がゆっくりと流れているように感じる中、ギースはカインの接近が攻撃目的でないことに気づいていた。何故なら。

 

「掴まれ、ギース!テメェ、ビルから落ちて負けなんざ認めねぇぞ!」

 

 ギースの身体はビルの瓦礫と共に、遥か下に見える地面に落ちようとしていた。ギリギリ崩落していない場所からカインが手を伸ばし、今なら安々とその手を掴み取れるだろう。そうすれば再びビルへと戻れる。

 

 

 だからこそ。

 

「フンッ!」

 

「あ……!?テメェ、ギース!」

 

 ギースは差し伸べられた手を振り払った。パチン、と乾いた音を立て、カインの手が弾かれる。

 

「……貴様の勝ちだ、カイン。まぁ、一応合格点をくれてやるか。よく聞け、カイン!」

 

 ゆっくりと落下していく中、その声はしっかりとカインに届いていた。

 

「負け犬になるか、狼の執念を持ち続けるかは、お前次第なのだ……!この私を失望させるような最期は許さんぞッ!」

 

「ギースッ……!」

 

「さらばだ、カイン!ハーハッハッハッハッハ!!」

 

 敗者とは思えない高笑いをあげながら、ギースは落下していった。夜の街並みにその姿が消えていくまで、カインはずっとそれを眺めていた。ゆっくりと深く吐いた溜息には万感の思いが篭っていた。その後も暫く街並みを眺めた後、静かに立ち上がろうとすると眩暈がカインを襲った。

 

「うおっ……とと、悪い」

 

「気をつけたまえ。折角勝利を掴んだというのに、君まで落ちては笑い話にもならない」

 

「そうだな……。……俺は……勝ったんだよな?」

 

 足を踏み外し、危うく屋上から落下する所だったカインの手を、同じ顔の男が掴んで引き止める。カインは屋上のまだ崩落していない辺りに寝転がり、小さな声で呟いた。それに対し男は、微かに笑みを浮かべて答えた。

 

「ああ、私も見ていた。夢幻ではなく、君は確かにあの男に認められ、勝利を手にした。紛れもない事実だ、誇りたまえ」

 

「ああ……そうだよな、勝ったんだよな、俺。でもなんでだろうな、あんだけ勝ちたかったのに……嬉しいってより、なんだか寂しいような……愉悦とも寂寥とも言えない、複雑な気分だ……」

 

「……私が言葉にするべきではないようだね。今はただ、ゆっくりと身体を癒すといい」

 

「おう……じゃあな、カイン」

 

「ああ、おやすみカイン」

 

 

 

 目を閉じ、カインは意識を手放す。次に目が覚めた時、カインが横たわっていたのはあのビルの屋上ではなく、洞窟の冷たい地面の上だった。緩慢な動作で額に手をやるとヌルリとした感触があった。顔の前に持ってくると、赤い血液が未だ滴り落ちているのが分かった。胡乱な眼のまま起き上がると、すぐ近くにラーハルトやアベルは勿論、ロビンと極楽鳥も地に伏していた。この距離で気配を感じ取れない程消耗しているのを自覚すると、身体に痛みが戻ってきた。先程までは酷く高揚していたからか忘れていた痛みに呻くと、ラーハルトが微かに身動ぎした。意識はないようだが、自分と違って致命傷を負った様子はない。アベルはかなりダメージを食らっているようだが、ガーガーといびきを掻いている様子を見るに命に関わる傷ではないと判断した。

 

「あれは……夢、な訳ないよな。でも何が……」

 

「んなのオレ達が知りたいっつの」

 

 声に振り返ると、そこに立っていたのは切り裂きピエロと動く石像だった。パーティーメンバーが戦闘不能、自身も満身創痍。どうするかと考えかけた途端、眼前の彼らの事を思い出した。

 

「ジャック……無界……?」

 

「んだよ今の間。まさか忘れてたのか?」

 

 不満げなジャックの声で、暫く前の事を思い出した。彼らは自分達と同じく、この破邪の洞窟に挑戦している者達だ。此処まで潜ってきたのか、血の抜けた頭でうっすらとそう考える。

 

「イシキがモウロウとしているようだな。ジャック、カレらホドのゴウのモノがダレともワからぬザコにツブされるはフユカイだ。カイフクするまでワレらでマモるとしよう」

 

「だな。コイツをここまで追い込んだ奴も気になるし……っと。言ってるそばからお客様だぜ」

 

 彼らの会話をぼんやりと聞いていると、不意にジャックが武器を抜き放ち、入り口に眼を向ける。釣られてカインもゆっくりそちらに眼を向けると、今度は泥の魔人が立っていた。

 

「全く、人が死にかけてるってのに客の多いことだ。何か用か、ムガイン」

 

 やってきたのは、ラーハルトに真っ二つにされたはずのムガインだった。見るとその切断面は若干歪で、彼が従えていたモンスター達の身体の一部が浮き出ていた。モンスター達を取り込んで再生したのであろうことは想像に難くない。

 

「大変でしたよ……その銀髪のボウヤに斬られた半身を復元するのは。ドローマスターが4体、鉄騎界が5体、アクアドッグが9体……まぁそれはいいです。それ程そのボウヤが凄いという事ですから……銀髪のボウヤだけではない、キミ達は強い……認めますよ、素直にね……!」

 

「部下のモンスターを喰らって再生、か。そういう奴は決まってあっさりとやられるものだよ」

 

「フフ……そうかもしれませんね。ですが見たところ、あなたの命は最早風前の灯……更にはお仲間はその魔物二匹を除いて皆戦闘不能!あっさりとやられるのは……」

 

 そう言ってムガインは泥のような身体の切断面から刃を何本も生やし、カインに飛びかかりながら叫んだ。

 

「そちらの方ですよォッ!」

 

「カイン!」

 

 無界がカインを庇おうと前に踏み出る。が、カインはそれを腕で制する。血まみれのカインの行動にぎょっとする無界とジャック。それを見て諦め故の行動と取ったムガインは勝ち誇って叫んだ。

 

「そう、ジタバタせずに大人しく斬られなさい!そのまま私がやられたのと同じ目に遭ってもらいますよ……61対39の比率で……!胴体を真っ二つにしてねェェッ!」

 

 ムガインは身体の泥剣を回転させながら勝ちを確信する。カインは避ける素振りも見せず、ムガインの攻撃が迫るのを黙って眺めていた。そうして吸い込まれるように剣がカインの首に達した瞬間。

 

「……は……?」

 

 パキン、と硬質な音を立て、剣は砕けた。人間の急所に向けて振るわれた結果とは思えないような事象を前に、ムガインの思考が一瞬硬直した。思わず間の抜けた声を漏らした時には既に、カインの拳が眼前に迫っていた。最早闘気すら纏っていない、ただの暴力。それだけでも泥の魔人の顔の形を変えるのではないかという威力で、それをカインは時折足技も交えながら素早く放つ。

 

(バッ……バカな、私の計算でも……いや、計算するまでもなく確かに死にかけている筈なのにこの威力はっ……ま、まずい!このまま喰らい続けるのは……確実にマズイッ!)

 

 意識が飛びそうになりながらも、ムガインは必死に反撃の糸口を探す。痛みを堪えつつ、必死に策を練っているとカインの鋭い蹴りによってムガインの右腕が千切れ飛んだ。瞬間、ムガインは微かに笑みを浮かべた。千切れたムガインの腕は、泥で出来た縄となり、カインを拘束せんとその身体に巻き付き動きを封じる。

 

(やったッ!この拘束なら力技では破れないッ!計算通り、そうだ計算通りだ!このまま手早く片付け……ッ!?)

 

 その歓喜の笑みはすぐに凍りついた。カインを拘束したはずの腕が凍りつき、砕かれた。バカな、この金髪は焔の使い手の筈――そう驚愕すると、先程まで倒れていたプチヒーロー達、アベル達が起き上がっているのが見えた。アベルは手をカインに向けており、ラーハルトは槍を振り切った姿勢だった。

 

(しまった、既に目覚めて……あの魔物が私の腕を凍らせ、魔族がそれを砕いたのかッ……!?)

 

 起死回生の一手は敢え無く潰され、再びカインの乱舞がムガインを襲う。重い拳の一発が身体を抉る度に泥の身体が弾ける。左腕もいつの間にかなくなっていた。そうして必死に耐えていると、闘気弾が焔と共にムガインの身体に撃ち込まれる。その衝撃で腹部から生やしていた剣は全て砕け散った。それでもムガインはそれを耐え切り、大技を放った後の隙を晒している筈のカインに向けて吠えた。

 

「舐めるなァァァッッ!!」

 

 腕は二本ともなく、剣も全て折れた。ならばその頭を噛み砕いてやるとムガインが迫る。それを見てもやはり慌てる事もなく、カインは両手をゆっくりと上へ向けた。降参でもするつもりか、それともまた攻撃してくるのかムガインには分からなかった。どの道する事は同じだと、大口を開け、カインの頭に狙いを定める。

 

「レイジング……」

 

 呟かれた言葉は、妙に響いて聞こえた。狙っていた頭が僅かに下がる。掲げられていた両手は振り下ろされ、交差して地面に叩きつけられる。直後、ムガインの視界を紫が覆った。カインが地面に打ち付けた両手から、紫の闘気の牙が吹き出してムガインを襲ったのだ。気づいた時には既にムガインの身体は紫焔が余すところなく這い回り、頭部が僅かに残るのみだった。その残った頭部も闘気の牙に喰らい尽くされ、特徴的だった角も粉々に砕け、薄れゆく意識の中でムガインは驚愕していた。

 

(バカな……こいつの命は本当に風前の灯だったはず……こんな業火を出す余裕がある筈もなかったのに……こんな……!こんな事、計算外にも……程があ……る……ウ……!)

 

 その驚愕を顔に貼り付けたまま、泥の魔人は爆散した。欠片の一つも残さず焼き尽くされ、後には千切れ飛んだ両腕の一部が残るのみだった。

 

「……おっそろしいねぇ、この間より……いや、比べ物にならないくらい強さも雰囲気も変わっちまって。んな死にかけの身体でよくあんな動きできるぜ……」

 

 ジャックがそう呟くと、カインはゆっくりと振り向いた。その視線に射抜かれたジャックは一瞬、狼の牙にでも囚われたかのような錯覚を覚えた。それも束の間、肩を竦めながらこちらに向けて歩き出すと、その重圧は消え去った。

 

「死にかけだからこそ、てのもあるかな。死に物狂いでぶつからなきゃ勝てない奴と闘ってたんでね」

 

「ほう、お前でもそういう時はあるんだな。少し意外だ」

 

「ボキも死にかけた二。いやぁ、ロトは強かった二」

 

 アベルが何気なく呟いた名前に、カインがピクリと反応した。が、特に何も言う事はなく、ロビンの横に鎮座している棺桶に凭れ掛かる。

 

「……ジャック、無界。すまないが少し席を外してくれないか」

 

「ラーハルト?」

 

「おう、オレ達がいちゃ話しづらい話題か?行こうぜ無界、オレはあっちを見張ってる。お前は反対側な」

 

「ココロエた。オわったらヨんでくれ」

 

「ああ、助かる」

 

 訝しげな顔をするカインを尻目に二人は離れていく。無茶を叱られるのかと思ったカインは嫌そうな顔をする。

 

「確かに無茶をしたとは自分でも思うけどよ、相手が相手なんだから仕方ないだろ?アイツは俺より格上なんだからよ」

 

「……別に説教をしようという訳ではない」

 

「ありゃ、違ったか。説教じゃないならなんだよ」

 

「少し聞きたい事があるだけだ。アベル、お前はロトという者と闘ったのか?」

 

 首を傾げかけたアベルだが、ラーハルトの質問の意図を理解して頷いた。

 

「然り、だ二。彼は」

 

「どんな者だったか話すのは後にしろ。カイン、お前は?」

 

「……ギース・ハワードって男だよ。強い……とても強い男だ」

 

 そうか、と呟くとラーハルトは英雄の槍を撫でる。何が言いたいんだ、と首を傾げるカインに、自分の相手だった者の名を告げる。

 

「オレが闘ったのは、ピサロという魔族だった」

 

 ロト、ピサロ。どちらもカインにとって聞き覚えのある名前だ。勇者と魔族の王、何故そいつらが出てくるのだろう。そう考えかけたカインは、一瞬顔が引き攣るのを自覚した。

 

「ピサロは魔族の王……つまり、魔王と名乗った。奴に聞いた話では、ピサロもロトも、ギースという男も記憶から生み出された幻影に過ぎんらしい」

 

「……初耳なんだが」

 

「……お前は教えられなかったのか。まぁいい、今重要なのはそこではない。アベル」

 

「ニ?」

 

「魔王と言ったら誰だ」

 

「そりゃハドラーだ二」

 

 ここに来てようやく、カインもラーハルトの問いの真意を理解した。理解して、顔を引き攣らせた。今度は明確に。

 

「そうだ、ハドラーだ。ピサロという名前は聞いたこともない。そうなるとその記憶の持ち主とは……カイン、お前ということになる」

 

「……ああ」

 

 辛うじてそれだけを呟いたカインに、ラーハルトは問い続ける。

 

「つまり……お前は魔王ハドラーの他に魔族の王ピサロという存在を知っていて、その内面や在り方など……少なくともある程度は奴のことを知っている、ということでいいんだな?」

 

「……」

 

「その上で聞きたい。以前からお前はどこの生まれなのか尋ねられてもはぐらかしていたな。最初はオレと同じように、何らかの理由でそこを去らざるを得なくなったのだろうとだけ考え、尋ねるのを止めた。だが、尋ねることを辞めても尚考えは尽きなかった。何故オレとそう歳も離れていない人間の子供が旅をしていたのか。何故魔族であるオレや魔物であるアベルに忌避感がないのか」

 

「それは厭う理由がなかったからだ!もしお前らと友人でなくても、オレは魔族や魔物を嫌うことはなかったと断言できるぞ!」

 

「そうだな……お前はそういう奴だ。すまない、今のは少々意地の悪い言い方だった。兎も角お前には常識という物が通じなかったのでな。……続けるぞ。基本的に人間は、魔族や魔物に忌避感があって然るべきだ。明確な脅威であるのだからな。魔物と共に育ったとか、そういった過去があるというなら得心がいく。そういう訳でもなくある程度人の世に精通していたお前が忌避感を抱かないのは何故か。勿論性格によるものが一番の理由だろう」

 

 そこで言葉を切り、ラーハルトはカインに向き直る。

 

「確かにお前の性格故、というのは納得できるし、理解もできる。そろそろ付き合いも長いからな……だがオレはもう一つ理由があったのではないか……そう考えていた」

 

「……どんな理由だよ」

 

「……お前の暮らしていた所には、魔族も魔物もいなかったのではないか?」

 

 ラーハルトの問いに、カインは一瞬逡巡したものの頷いた。

 

「……やはり、な。お前の態度には、魔物への脅威というものを分かっていないのではないかと思えるものが多々あった。自身の強さ故ではない、ただの無知……というには少し違うか。兎に角、お前は魔族も魔物も、脅威どころか外敵とすら見ていない……しかし、お前は魔族の王と呼ばれる者やそれが親しくしているエルフの娘を知っている。明確に自身より強い……しかし、どこを探しても存在しない者達をハッキリと知っていて、尚且つ魔物のいない地に住んでいたという。有り得ない事ではないかもしれない……だが、限りなくおかしな事だ」

 

 一つ大きく息を吸い込んで、ラーハルトはカインを真っ直ぐに見つめて言った。

 

「……教えてくれカイン。お前は一体、どこからやって来たんだ?」




次はそこまで長くならない筈なので早めに投稿でき……たらいいなぁ……

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。