餓狼 MARK OF THE DRAGONS   作:悪霊さん

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ボス戦。


第35話 第一ラウンド

 破邪の洞窟は、一説によると神々が作ったものだという。内部に潜むモンスターや罠は、実力に見合わぬ力を手に入れさせない為に存在している、と考えればいくら倒しても尽きる事のない魔物の群れにも幾らかは納得できる。要するにここは、広大な試練の場である考える事もできるのだ。呪文を求める者、破邪の力を求める者、破邪に限らず力を渇望する者――このダンジョンは、そんな者達に試練を与える存在である、と。

 洞窟の存在意義はどうあれ、結果的に挑戦者へ試練が与えられているのには変わりない。今こうして地下100階へと到達したカイン達も、それは例外ではないのだ。

 

「なんだこりゃ」

 

「デカイ鏡だが……気をつけろ、魔物か罠かもしれん」

 

カイン達の前に立ちはだかったのは、道を塞ぐように置かれた大きな鏡だった。悪魔の鏡のような魔物かとも思って警戒したが、それにしては襲ってくる気配もない。通路に置いて進路を妨害するのならともかくここは部屋になっている。どこかの塔宜しく鏡に映っている自分達が魔物かと思って調べてみたが、どうやらそれも違うようだ。

 

「案外誰かが身だしなみを整えるのにでも使っているのかもしれんニ」

 

「そんな事気にするような魔物いたかねぇ……」

 

 一瞬カインの頭に、誰よりも強くそして美しいと自称する拳法家が浮かんだがそれを無視してコンコンと鏡面を叩いてみる。触った感じも何の変哲もない鏡だ。そう言おうとして振り返った瞬間、鏡が光を放ち始めた。

 

「何だ!?」

 

「カイン、鏡から離れるニ!」

 

 全員が溢れる光に目をふさいだと同時に、何かの声が聞こえてきた。何を求める、と問いかける声が。光と共に段々と意識も薄れてきた。ロビン達がいるとはいえ洞窟の真ん中で意識を失うのはマズイ。そう考えて意識を保とうとしたが、光は尚も強くなり続ける。光が収まった時、カイン達は全員が地面に倒れ込んでいた。

 

 

◇◇◇◇◇

 

 ラーハルトが目を覚ました時、そこは洞窟ではなくのどかな村だった。

 

「ここは……幻惑呪文の類か?クソ、厄介な」

 

 そう毒づき立ち上がると、辺りの探索を始めた。自分がここにいるのは十中八九あの鏡が原因だろう。幻惑呪文(マヌーサ)か、それとも極楽鳥も得意とする強制転移呪文(バシルーラ)の可能性も否定はできない。幻惑なら兎も角、後者だとすると厄介だ。仲間の位置を把握できなければ合流することもできない。そもそも風景からするとここは明らかに洞窟の外だ。

 

「小さな村のようだな……のどかな所だ。……あの塔のような建物が少々気になるが。しかし上に登る階段はなかった。だがあそこから見えるのは窓だ、そう考えると二階部分に何者かがいるはず……ん?」

 

 探索をしていると、近くで何かの足音が聞こえた。魔物の可能性もある、まずは相手を見極めよう。そう考えて物陰に身を隠すとすぐに足音の主が現れた。

 

「……」

 

 足音の主は、黒衣を纏った銀髪の青年だった。棘の着いた肩当てを装備し、腰には剣を下げている。一目見て分かる程、強者の風格を漂わせる男だった。男は塔のような建物を一瞥すると、ゆっくりとラーハルトの隠れている方へ歩いてきた。

 

(アイツ……何者だ?隙がない。それにあの雰囲気、ただの剣士ではない!)

 

 そう考えると同時、背にタラリと一筋の冷や汗が流れるのを感じた。息を詰めていると、そよ風が吹いて男の髪を揺らした。

 

(……!)

 

 髪に隠れて見えていなかったが、男の耳は人間のそれよりも長く、鋭利だった。それが意味するところはつまり。

 

(あの男……魔族か!)

 

 警戒を深めると、魔族の男が徐に口を開いた。

 

「隠れているのだろう?出てこい」

 

(……)

 

 その声は穏やかだったが、同時に棘を感じさせる声色だった。隠れ通すのは難しいだろう、そう判断したラーハルトが物陰から出ると同時、丁度彼が隠れていたすぐ近くから桃色の髪の少女が姿を現した。男が目を向けたのは少女の方だ。自分に言ったと思ったのは勘違いだったか、そう自問するラーハルトに男は鋭い目を向けた。少女に向けた優しい目とは全く異なる。そこまで考えて、ラーハルトはカインと目の前の魔族がどこか重なって見えた。

 

「勝手に出歩いて……まぁいい、今は大丈夫か」

 

 男がそう言うと、少女は申し訳なさそうな顔をする。若干俯いた際に見えた耳からすると、彼女も人間ではないようだ。男が微笑んで少女の顔を撫でると、少女も嬉しそうに顔を綻ばせる。ここにいても邪魔だろう、そう思って立ち去ろうとしたラーハルトに、男は待てと静止する。

 

「オレがここにいては邪魔だと思うが」

 

「ここがどこだか分かるか」

 

 ラーハルトの言葉を無視した問いかけに眉を顰める。が、男は無視して語りだす。

 

「ここはロザリーヒル。だが、ロザリーヒルであってロザリーヒルではない」

 

「どういう事だ?分かるように説明しろ」

 

「そう急くな。私も同じだ、ピサロであってピサロではない。彼女……ロザリーもそうだ」

 

 ピサロと名乗った男はそのまま淡々と話し続ける。ロザリーと言うらしい彼女を優しく微笑んで撫でながら。

 

「私は、言うなれば試練の具現。お前達が求めるものを得る為の試練。それに相応しい形を取って真似ているだけ……いわばただの偶像だ。だが、幻ではない。ここで死ねば当然明日の朝日は拝めん」

 

「偶像、だと?」

 

「その通りだ。私達は姿こそ真似ている。だが、その思考や行動などは元の存在と何も変わらん。偽りの存在である私だが、ロザリーを愛し人間を憎むのは元のピサロと同じだ」

 

「待て、その話通りならば元となる存在がいるのだな?その元となる存在をどうやって選んでいるんだ。それに試練と言ったな、オレだけではなくオレの仲間にも同様の試練が与えられているのか?」

 

「質問は一つずつにしろ、面倒だ。……最初の質問だが、答えは記憶だ。次の質問については自分で確かめろ」

 

「記憶……だと?オレはお前たちなど記憶にない」

 

「お前になくとも、お前の仲間の記憶にあるのだろう。何者かは知らんが……魔族の王であった私とロザリー、そしてこの村の存在を知る者がそうそういるかは兎も角としてだ」

 

 その言葉にラーハルトは考え込む。アベルだろうか?いや、ピサロの言葉からするとパーティの誰とも面識はなさそうだ。アベルならば間違いなく彼に挑んでいるだろう。魔族の王と名乗る者が勇者を名乗る魔物を捨て置くものだろうか。となると、消去法で答えはカインだ。だが世間の人間達に、魔族の王は誰かと聞いたらなんと答えるだろうか?答えなど一つしかない。ハドラーだ。ピサロという名前は影も形もない。ラーハルトだって今初めて聞いたのだ。

 

「さて、話は終わりだ」

 

 その声に思考を中断させられると、ピサロは音高く剣を抜き放った。手振りでロザリーを下がらせ、ラーハルトに向かって構えを取る。それを受けてラーハルトも英雄の槍を構える。

 

「お前が探している答え、自覚はしているか?」

 

「……何のことだ」

 

「恍けるか、ならばそのまま死ね」

 

 その言葉と共に、魔族の王と半魔族の闘いが始まった。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

「成程ニ……さしずめ、ボキに与えられた試練であるキミは即ち勇者……ということだニ?」

 

「いやまぁ、そうだけど」

 

「ならば話は早いニ。ボキも勇者、キミも勇者。剣を交えて高め合おうではないかニ!」

 

「なんか……いい意味で凄い単純そうな頭というか……」

 

「シンプルイズベスト、だニ」

 

 鏡の光が収まったと思った時、アベルは広い荒野に立っていた。首をかしげかけたものの、目を開けたときに目の前に居た黒髪の青年からラーハルトがピサロから受けたものと大体同じような説明を受けて納得していた。ロトと名乗った青年はピサロよりも分かりやすく丁寧な説明をしていたが、アベルは先程の会話のような思考ですぐに納得した。

 

「ところでロトって本名なのかニ?」

 

「いや、称号だよ。本名はあるけど、多分後の世には勇者ロトとして伝わっていると思う」

 

「ふむふむ、つまり称号を与えられる程の勇者と戦えるのかニ!これはいつになく燃えるニ」

 

「なんだかとても羨ましい性格してるなぁ……僕の場合色々あったからかな」

 

「勇者は大変だニ。でも、勇者というのは苦労と同じだけ、いやそれ以上の経験をするものだ二。それを理解できるのは苦楽を共にした仲間、そして同じ勇者だけだニ。苦難があろうと何があろうと、最後まで勇者で有り続けたキミをボキは心から尊敬するニ」

 

「……ハハ、ありがとう。叶うならその言葉は、本物の僕にも言ってやってほしかったけど……それはもうかなわないか」

 

 そう儚げに微笑むと、勇者ロトは剣を抜いた。アベルもそれに倣って剣を構える。

 

「君は魔物だけれど、悪い奴じゃあないみたいだ。もし君が僕と同じ世界、同じ時代に居たら肩を並べて戦えたかもしれない、そう考えるとこの試練がとても価値のある邂逅に思えてならないよ」

 

「ボキはいつだって全ての出会いを大事にしているニ。さあ、これ以上は剣で語ろうじゃないかニ!」

 

 そう言ってアベルが駆け出す。ロトは苦笑してそれを迎え撃つ姿勢を取った。

 

 

◇◇◇◇◇

 

 カインが目を開いた時、そこは最早見ることはないと思った高層ビルの中だった。周囲にもビルがいくつか立ち並んでいるのが見える。一体何故こんなところにいるのか、混乱したもののすぐに冷静さを取り戻した。まずはここがどこなのか、誰か人はいないのか探索してみようと思い立ち、ビルの中を歩き出す。

 

 暫く歩いていると記憶に軽い引っかかりを覚えたものの、そのまま探索を続ける。上階に登ってみると、今度は屏風や仁王像、刀や甲冑などの妙に日本らしい物がいくつも飾られていた。この時点でカインはここがどこかを半ば確信していた。いくつかの屏風には覇我亜怒と書かれている。若干呆れながら、確信を持って屋上へ向けて歩き出した。

 

「……やっぱり、アンタか」

 

 屋上には、白い道着と赤色の袴を纏った男が立っていた。男は腕組みをしたまま、眼下の町並みを眺めていて、カインの声にも反応はしなかった。身動ぎ一つせずに、黙ってフェンスもない屋上の縁で町を眺めている。

 

「お目にかかれるとは思ってもいなかった。どういうこったろうな、これは」

 

「……フン」

 

 語りかけられた言葉に鼻を鳴らし、男は振り返った。不敵な笑みを浮かべ、カインを見据える。ゆっくりと歩いてきて、少しの距離を開けて立ち止まる。

 

「なぁ、ギース・ハワード」

 

「……」

 

 名前を呼ばれても、男――ギース・ハワードは大した反応を見せなかった。ただゆっくりと腕を解き、片手をくいくいと曲げ、挑発するように呟いた。

 

「C'mon,youngboy」

 

「ハッ……そうかよ、なら遠慮なく行かせてもらうぞ!」

 

 そう叫びながら、右腕に炎を纏わせて突進する。ギースはそれを見ても不敵な笑みを浮かべたままだった。しまったな、と思いつつも勢いのついた攻撃は止まらない。炎が触れるか触れないかという瞬間、ギースの腕がカインの右腕をがっしりと掴む。それを視認した時には既にカインの身体は宙を舞っていた。地面に叩きつけられ、息が詰まる。動きが止まった隙に、ギースは再び動き出した。落下した直後のカインの頭を再び掴んで持ち上げ今度はそのまま地面に叩きつける。雷でも落ちたかのような衝撃を味わったカインは毒づきながら立ち上がる。

 

「クッ……当身の事忘れてたな。突っ込むべきじゃあなかった。じゃあ、今度はこっちの番だッ!」

 

 自分を鼓舞しながらニヤリと笑みを浮かべ、カインはその身から盛大に焔を噴き上げる。焔はビルには伝わらずカインの意のままに動き出す。炎の塊のような魔物にフレイムというのがいるが、フレイムの身体を形作っている炎でさえこうも吹き荒れるようなものではない。カインはフレイムよりも激しい勢いで噴き上がる焔を身に纏った。元々闘気の鎧を着込んでいるようなものだが、徹底的に物理攻撃によるダメージを抑えようというのだろう。噴き上がる焔の勢いからもそれが伺えた。

 

「……それで?まさか見掛け倒しということはあるまい」

 

 ここで漸く、ギースが普通に語りかけてきた。軽く驚いたものの、互いに不敵な笑みを浮かべたまま睨み合う。

 

「当然。油断してると焼き殺すぞ」

 

「フン、油断しているのはお前ではないのか?」

 

「ほざけ」

 

 言いながら走り、右手で殴りかかる。闘気と焔を纏った今の状態なら純粋な殴打でもダメージになり得るだろう。大技を振ってその隙を突かれるよりは小技で着実に手傷を負わせる事を選択したのだ。隙の小さい動きならばそれを強引にキャンセルしてフェイントのようにすることもできる。その狙い通り、先程の突進では突き出した腕をあっさりと掴まれていたのが今度は掴まれる前に脚を振り上げて回避することができた。その蹴りはバックステップで紙一重で回避されてしまったが、カインは確かな手応えを感じた。行ける、と。

 流れをものにしようと、回避した直後の姿勢のままのギースに向かって両腕を背中側に弓なりに引き絞る。ギースが軽く目を見開くのを見ながら、腕を前方に思い切り突き出す。その勢いのまま撃ち出された気弾はギースに真っ直ぐに飛んでいく。ヒットを確信し、更なる追撃を繰り出そうと身構えるカイン。だが、その気弾はギースにダメージを与えるには至らなかった。撃ち出された気弾は、ギースが片腕を勢いよく振り上げて撃ち出した、闘気と風の塊によって相殺されたのだ。

 

「烈風拳か!あのタイミングでも防がれるとは、流石はギース・ハワードといったところか」

 

 感嘆しながらも動きは止めない。鉤爪のように折り曲げた指先に特に強く闘気を込めて斬りかかる。それを迎撃しようとギースの拳が唸りを上げてカインの攻撃と衝突する。強烈な音を立てて、互いの闘気がぶつかりあった。一瞬拮抗した後、カインの指がギースの頬を掠めて火傷の跡を残し、ギースの拳がカインの髪を打ち抜いた。

 一気にラッシュを仕掛ける、そう決めて拳と蹴りを次々と繰り出す為に大きく息を吸い込んで力を溜める。そうしてすぐさまカインはギースの懐に潜り込む。

 

「デッドリーレェイッ!」

 

 叫び、いつかクロコダインと戦った時のように素早くラッシュを繰り出す。これなら焔によるものも含めて一気に大打撃を与えられる。そう思って殊更力を込めたのだが、ギースは次々撃ち出される打撃を、時には受けきり、時には捌く事でその連撃を防御した。歯噛みしながらも締めの一発として爆発的な闘気弾を撃ち込むも大したダメージは与えられていないようだ。

 

「チッ、流石に強いな……しかし、……」

 

「……何故自分の技が効かないのか。そう思っているな?」

 

「そりゃアンタが強いからじゃねぇのかよ」

 

「違うな。お前の技には致命的な欠点がある」

 

「欠点、だと?」

 

 眉を顰めるカイン。力量不足や隙の大きさなどなら理解している。だが、力量が足りないというのなら兎も角致命的な欠点とは一体。思わず動きを止めて続きを促す。

 

「先程の闘気弾や乱舞……お前の技ではあるまい」

 

「……ああ、そうだよ。言われなくても分かるさ、特にデッドリーレイヴは元々アンタの技だ。それくらい」

 

「分かっていないな。そこにお前の出す技が稚拙な理由があるというのに」

 

 見下すような視線を向けるギース。それを黙って受けるカイン。

 

「貴様がやっているのはただの猿真似だ。上辺だけを真似た所で、その真価は発揮されん!知っているぞ、昔から真似た技が不完全だった事は。いつかの稽古の時に南斗獄屠拳とかのたまって唯の飛び蹴りをした時や、獣王とやらと戦った時に突進でしかないものを格好つけてサイコクラッシャーなどと叫んでいたりと」

 

「ちょっと待て、なんでアンタがそれを知ってるんだ?知れる訳ない事だぞ、それ」

 

「独学でこのギースの必殺技をも身につけたといい気になっているようだが」

 

「聞けよ」

 

「所詮は真似事に過ぎん。技の本質も何も理解せずに形を真似ているだけで私に勝てる気でいるとは思い上がりも甚だしい!」

 

 鼻で笑うギースを黙って見返す。確かに編み出した本人からすれば真似事としか映らないだろう。それでも、そういった”真似”をした技でない格闘術は自分で積み上げたものだ。その日々の修行を嘲笑うかのようなギースの言葉に歯噛みしてしまう。思わず拳を強く握り締めると、ギースが言った。

 

「悔しいのか?悔しければまずは勝て。話はそれからだ」

 

「言われなくとも。勝たない事にゃ言い返せもしない」

 

「威勢だけは一人前だな。ならば、今一度受けてみるがいい。本当のデッドリーレイヴを!」

 

 突然叫び、ギースが突進してきた。カインは咄嗟に当身投げの体勢を取るが、直ぐに自分の失策を悟った。カインはギース程”捌く”という防御が強い訳ではない。むしろ受けない防御という点においては目の前にいるギース・ハワードという男に一日の長がある。何故ならばギースという男は、カインが普段使っている当て身投げという技術の元祖とも言えるべき存在なのだ。その道の先達相手では見切られるであろうことは予想できる。

 

「デッドリーレイヴッ!!」

 

 予想通り、ギースの重い拳と蹴りが身体を抉る。一発ごとに重い打撃が響き、身体がぐらりと揺れた。薄れそうになる意識をつなぎ止めながら睨みつけようとすると、ギースは揃えた両腕を撃ち込む所だった。爆裂呪文でも炸裂したかのような音と共に強烈な闘気の塊が零距離で放たれる。

 

「ガっ……ぐ、あッ!?」

 

 血反吐を吐きながら吹き飛ばされる。闘気と焔の鎧を纏っていたというのに、喰らった事もないような衝撃を味わう。宙を舞いながらも敵を睨みつけると、その道着の袖が燃え尽きるのが見えた。少なくとも焔による防護の効果はあったというのにそれを貫通してダメージを与えられた事に益々苛立ちが募った。

 

 それでも体勢を立て直そうと、カインの両足が地面を踏みしめる――事はなかった。

 

「弱い」

 

 その一言が聞こえた時には、カインの眼下には暗い街並みが広がっていた。吹き飛ばされるうちに、ビルから落下したのだ。そういえばギースに負けるとあそこから投げ捨てられるんだったな、などとどこか他人事のように感じながら、重力に従って暗闇の中へと落ちていった。


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