餓狼 MARK OF THE DRAGONS   作:悪霊さん

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暫く入院してました。まだ療養中なのでリハビリがてら。
今回もまた短いです。

6/28追記
活動報告に重要なお知らせがあります。目を通していただけると幸いです。


第33話 破邪の洞窟

 ――破邪の洞窟。古文書によれば、人間の神が邪悪なる力に対抗するための魔法の全てをおさめた場所とされている。実力に見合わぬ強大な力を身につけさせぬ為、その迷宮は想像を絶する厳しいものであるという。各階一つずつの呪文が契約できるというが、カイン達はむしろ群生している怪物たちが目当てであった。魔法を使うのはアベルと極楽鳥のみであり、カインとラーハルトの二人は殆ど関係がない。アベル自身も、契約できる魔法よりも魔物との戦いで経験を積む事が重要であった。

 

 地下25階。大破邪呪文ミナカトールを契約できるという魔法陣のすぐ横で、ラーハルトとアベルは武器の手入れをしていた。そのすぐ傍らには二つの棺桶があり、ロビンと極楽鳥がそれを守っている。暫くしてラーハルトが棺桶の一つを叩き、呟いた。

 

「そろそろ時間だぞ、カイン」

 

「ン……ああ、今起きる」

 

 棺桶の中から、カインの眠たそうな声が響いた。

 

「しかしこのベッドのデザインはどうにかならないのか?棺桶というのはあまり縁起が良くないぞ」

 

「人一人収めて眠るにゃこれが丁度いい……ふあぁ」

 

 欠伸を噛み殺しながら、カインが蓋を開けて起き上がってきた。それを聞いてラーハルトはやれやれと肩を竦めた。それを見てアベルも呆れた風に言った。

 

「カインは昔からセンスがズレているから、今更言う事でもない二」

 

「まぁそうなんだが。しかし食料入れも同じデザインというのはどうにも慣れん」

 

 ラーハルトの言うとおり、もう一つの棺桶には食料が入っていた。一体どういう収納術なのか、明らかに棺桶の体積よりも多く詰め込まれているのだ。わざわざ幻魔石で作った頑丈な棺桶なんだぞ、とカインが言うとラーハルトが棺桶は死人が入る物であって眠る為の物じゃあないと返す。そもそも問題なのはそこではない。

 

「ったく、いいじゃないか。お前らだってこれ使ってるだろ?」

 

「そりゃあ地面に直接横たわるよりは休まる二。でもそれとこれとは話が別だ二」

 

 確かに、ここまでの道中交代で仮眠を取りながら進んできて、その仮眠は棺桶を使ってとっていたのだが。カインには何故二人が呆れているのか分からなかったが、まぁいいかと気を取り直して立ち上がった。誰もカインのセンスがズレているというのを否定しない。

 ちょうどいいタイミングで魔物の気配もするし、寝起きのストレッチ代わりに倒されてもらおうか。そう思って柱に目を向けると、正にその方向から魔物が飛びかかってくるところだった。

 

「いよっと」

 

「グギャッ」

 

 飛びかかってきた銀色の体毛が特徴的な猿のような悪魔のような魔物、シルバーデビルの爪を受け止めつつ地面に叩きつける。悪魔が悲鳴を上げると同時にラーハルトの槍が悪魔の身体を斬り刻み、あっさりと戦闘は終わった。

 

「準備運動にもならなかったな」

 

「わざわざ1匹で来たというのに、運のない奴だ」

 

 ここまでの道中も、打撃がメインの魔物は尽くカインの当て身投げの餌食となった後にラーハルトにトドメを刺されている。それを見て魔法やブレスで攻撃しようとした魔物達も、ラーハルトの速度とアベルの放つ魔法の前には驚異とはなり得なかった。つまり、未だに苦戦するような敵がいないのだ。これにロビンという強力なアタッカー兼壁役と、極楽鳥という回復役がいるのだ。魔物達としてはやってられるかという感じだった。

 

「今何回だっけ?」

 

「25階だな」

 

「どのくらいまであるのかわからんが、25階でロンダルキア前後ってところか?強い奴はいないのかねぇ」

 

「そういえば他に潜っている冒険者とかいないもんか二、一人や二人くらいいても良さそうなもんだが二」

 

 談笑しながらも警戒は絶やさない。この階層の魔物がいくら脅威足り得ないとは言っても、常に万が一という可能性が付きまとう。できるだけそれを無くして探索したい、そう考えながら一行は進んでいた。

 

 

 ここまでが、体感時間としては2ヶ月程前の事。そして今、カイン達は急いで階段を駆け下りていた。

 

「宝箱の中に落とし穴って、作った奴は一体何を想定してたんだ?」

 

「ああいう馬鹿をだろう……しゃべっている暇があったらアベルを探すぞ」

 

 まず、宝箱を見つけたアベルがそれを開けようと近づいた。しかし、アベルの身長ではギリギリ中身が見えなかったのだ。そこで身を乗り出し、中身を確かめてやろうとしたのが拙かった。宝箱の中に落ちたアベルは、そのままなぜか宝箱の下に設置されていた落とし穴にハマり、階下へと姿を消したのだ。本当に、誰がどういう意図であんな配置をしたのやら。

 

「ロビン、サーチ頼む」

 

 ロビンがモノアイで辺りの壁を見渡す。魔力を探知させている間に、カイン達はそろそろと歩いては、耳を澄ませていた。やがてロビンが止まり、壁の方へと近づいた。

 

「こっちは行き止まり……いや、待てよ」

 

 ロビン達を下がらせ、カインは壁に向かって構えを取った。

両腕を弓のように引き絞り、胸の前に闘気を集中させる。手のひらの先にも闘気の塊を生み出し、力を充填する。

 

「カイザー……」

 

 つぶやき、腕を一気に前へと突き出す。同時に、圧縮した闘気を突き出した勢いのままに撃ちだす。

 

「ウェイブ!!」

 

 放たれた闘気弾は凄まじい勢いで壁にぶつかり、破砕音を立てて突き崩した。土煙が晴れた先には、地面に突っ伏しているアベルの姿があった。

 

「……なんか違うんだよなぁ。一応溜め撃ちもできるけど、本家本元のカイザーウェイブとは何か……」

 

「それは後にしろ。今は合流が先だ」

 

 幸いにしてアベルに怪我はなく、気を失っているだけであった。その事を確かめると、念の為に極楽鳥にホイミをかけてもらって棺桶に放り込んだ。些か扱いが雑じゃあないか、と極楽鳥は思ったが黙っていた。そもそも人語は話せないが。

 

「やっぱり縁起が良くないぞコレ」

 

「今更言うな」

 

 その後も探索を進め、目に付いた契約用魔法陣に使われている文字や術式をメモするカイン。ラーハルトは魔物についてのメモをしていた。ほどなくしてアベルが目を覚ますと、最早先ほどの事は笑い話となった。またフロアを隅々まで探索してマッピングを終えてから、階下へと歩を進めた。

 

 

 そうして早地下75階まで進んだ一行。休息を取り、暫く歩くと金属音が耳に飛び込んできた。此処まで進んできた限りでは、他の探索者もいなければ小競り合いをしている魔物達もいなかった。警戒する一行は、即座に身を隠して話し合った。

 

「二人共、今の聞こえたか二?」

 

「ああ、何か剣を交わすのに近い音だった。少々違和感があったが……」

 

「行ってみよう、何か居るのは間違いない筈だ」

 

 そう言葉を交わし、一行は駆け出した。

少し進んだ先では、ちょっとした広場のようになった場所があり、中央に魔法陣があるのが見えた。そこから少し離れた場所で戦っている二つの影も。

 

「アレは……魔物同士のようだな」

 

「2体共ここまででは見なかった魔物だ二……カイン、どうする二?」

 

「……おい、カイン?」

 

「ああ、すまん。ちょっと考え事をしていた」

 

 アベルが声をかけた時、カインは完全に固まっていた。どうしたのだろうと思いつつも、ラーハルトは記憶の中から二匹の魔物についての情報を引っ張り出していた。

 二匹のうち紫色の方はピエロじみた格好をして、釵を巧みに操って攻撃している。時折曲芸じみた動きをしており、もう一方の魔物が投げつける岩石を避ける前にわざわざ綺麗に3等分して斬り捨てている。もう一体は人型をしており、人間で言う髪に当たる部分が白く、石の刺のように逆立っている。その身体は黒く、腰には長布を纏っていた。岩石をなげつけたり石の柱を生み出したり、岩や石を利用した攻撃が得意なようだ。

 

「あっちの紫色が切り裂きピエロで、もう一体が動く石像だろう。そこまで強い魔物ではなかったと思うが……」

 

「なーんか妙に見覚えある動く石像なんだが」

 

「知り合いか二?」

 

「知り合いっつーか良く似た奴を知っているというか……」

 

 なぜか動く石像を見て項垂れるカイン。ラーハルト達は首を傾げている。

と、暫く様子を見ていると件の二匹が動きを止めてこちらを見ていた。気づかれたようだ。身構えると、切り裂きピエロ達は逆に構えを解き、片手を上げて挨拶をしてからこちらに近づいてきた。随分と親しげな感じだが、何者だろうかと訝しむカイン達の目の前まで揃って歩いてきて、まずピエロが口を開いた。

 

「オイオイオイオイ、まさかこんな辺境の洞窟くんだりまで来て、こんな珍しいモンが見れるたぁなぁ~。人間と魔族にプチット族、それにマシンと極楽鳥と来たもんだ。アンタらもこの破邪の洞窟に挑戦に来たクチかい?」

 

「あ……ああ、そうだ。アンタらもって事は、お前たちもか?」

 

 ピエロはやはりというべきか、饒舌に話しかけてきた。面食らいつつも対応すると、ピエロと石像は納得したとでも言うように頷いた。

 

「ワレらのホカにチョウセンし、ココまでタドりツくモノがイたとはな。どうだ、ヒトつコブシをマジえてはみんか?イロイロとエるモノもあろう」

 

 石像がそう語ると、ピエロがそれを補足する形で喋りだした。

 

「わざわざこんな深くまで来るって事は、修行目的だろう?オレらもなんだよ、レベルアップの為にオレと……えーと無界だっけ?コイツで勝負してたってワケよ。修行にゃあ実践が一番だろう?どうだい、悪い話じゃあないと思うが」

 

「良く口回るなお前……だそうだが、どうする二人共?俺は異論はないが」

 

「オレも問題ないぞ」

 

「ボキも構わない二」

 

「うむ、では……ワレのアイテはダレが?」

 

 無界と呼ばれた動く石像が尋ねると、カインが片手を軽く上げそれに応じた。

 

「んじゃあオレの相手は誰だい?」

 

「オレが相手になろう。曲芸がどこまで通じるか試してやる」

 

 釵をくるくると回しながら、ピエロが問いかける。今度はラーハルトが答え、槍の調子を確かめた。

 

「おほ~ッ、格好良いねぇ~。ま、お手柔らかに頼むぜ」

 

「アベル、審判頼むわ」

 

 そう言って、まずカインと無界が柱で仕切られた即席の決闘場に足を踏み入れた。アベルが頷いてちょうど真ん中辺りの柱へ飛び乗った。ぐるぐると肩を軽く回すカインに、無界が問いかけた。

 

「サキホドからミョウなカオをしているが、どうかしたのか?」

 

「ああ、気にしなくていい。ただどっかでこういう奴がいたなぁ、って思っただけだ。気にしなくていい」

 

「そうか。ならば、ハジめるとしよう」

 

 そう言って無界は両腕を軽く上げて構えを取った。カインも斜に構えを取り、攻撃に備えた。

 

「何か妙に様になるねぇ、お二人さん。なんでだろうな?構えが同じワケでもねーのに、みょーにしっくり来るっつーか、なんつーか。なぁ、どう思うよ、えーと」

 

「ラーハルトだ。良く口が回る奴だな……」

 

「オレはピエロだからな。おっと、オレの名はジャック。よろしく頼むぜ」

 

 ペラペラと喋る、切り裂きピエロのジャックに呆れるラーハルト。そういえば昔カインが会ったという一つ目ピエロもかなりお喋りな奴だったそうだな、と思い返しながら適当に相槌を打った。

 

「おーい、外野うるせぇよ」

 

「おっと悪い悪い。大人しくしてるぜー」

 

 突発的ではあるが、中々戦う機会のないスタイルの相手だ。得るものは多いだろう、そう考えカインは走り出した。無界もそれを迎え撃つ形で拳を突き出した。

 本当に人外との関わりのが多いなぁ、と漠然と感じながらも戦いが始まった。




暫く更新頻度が下がると思います。

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