餓狼 MARK OF THE DRAGONS   作:悪霊さん

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今回はちょっと短め。


第32,5話 日記

 この日記を書き始めてから、今日で5年が過ぎた。結構な冊数になってきたし、そろそろ日記を収納する棚を作るべきだろうか。

 折角だ、節目と言っても差し支えない日だし、あの日からの事を順番に、人ごとに思い返そう。

 

 

 まず、バラン様。

 ディーノ様が見つかってから、ソアラ様と親子でデルムリン島に移り住んだ。月に1回テランに来てはフォルケン王に挨拶し、私達に顔を見せに来る。家族仲は至って良好なようで、時々酒に酔ってはその仲を自慢している。

 剣の腕も衰えていないようで、時折マスターやラーハルト様達と稽古をしている姿が見受けられる。冗談でギガブレイクを使おうとした時は、珍しくマスターが本気で逃げていたのが印象的だった。その後ソアラ様にお説教されていた。

 纏めてしまうが、ラーハルト様は竜の騎士直属の配下である竜騎衆の”陸戦騎”となられた。2年前、バラン様が直接勧誘し、ラーハルト様も喜んで承諾されていた。旅についてだが、有事の際に呼び出されるだけなので問題はないそうだ。ラーハルト様も、『竜の騎士に仕えられるのもそうだが、バラン様程の方の下で働けるのは嬉しい事だ』と語っていた。最近は益々腕を上げたそうで、特にそのスピードにおいてはバラン様をして『凄まじい』と言わしめるまでになっている。マスターやアベル様との組手においてもその速度を発揮されるが、マスターは当身という技術を、アベル様は動きを先読みする事によって対抗している。齢16にしてその実力はかなりの高みにある、とはバラン様の弁。

 ソアラ様は、デルムリン島で魔物達とも仲良く過ごしているそうだ。私はそれを実際に見てはいないが、ブラス様とよくディーノ様のお話をして楽しんでいるそうだ。ブラス様もそれを楽しみにしているそうで、良き友人のような間柄だという。余談だが、ブラス様の方がバラン様よりも子供を寝かしつけるのが上手いそうだ。ソアラ様が言っていた。

 ディーノ様は、ブラス様の名付けたダイという名前を通称として、ディーノの名を本当に信頼できる相手にのみ明かす真名としている。デルムリン島の魔物達と元気に遊びまわり、健やかに育っているそうだ。パピラスやキメラに乗って空を飛ぶ事が多いそうで、物怖じしない性格なようだ。デルムリン島の魔物皆が友達と豪語するだけあって、どこからか現れた金色のスライムとも友達になったそうだ。マスターは金色のスライムは記憶にないと首をひねっていたが、確かに私やロビンのデータバンクにも該当しなかった。突然変異の類かもしれない、という結論に落ち着いたが、マスターは今でもたまに首を傾げている。※追記、名前を書き忘れていた。彼の金色のスライム、ゴールデンメタルスライムは”ゴメちゃん”という名前だそうだ。マスターはまた首を傾げている。

 アベル様。変わらず剣と魔法の腕を磨いておられるようで、バラン様とよく刃を交わせている。マスター曰く、『無尽蔵にレベルが上がるような感じ』だそうだ。私にはよく分からないけれど、『一番強いのは剣でも魔法でもなくその精神』とも言っていた。精神力という言葉はあるけれど、精神が一番強いとはどういうことなのだろう。後で質問してみようか。書いていて気付いたが、変化が殆どない。何故なのだろうか。これも尋ねてみよう。※追記。『変化がないのがアイツらしくて良いんだ』とのこと。要考察。

 次にルミア様。いつものように私と共に墓を掃除したりして過ごしている。最近はカンダタ氏に頼み込んで機械の素材を貰ってきては弄っている。一度理由を尋ねたら、『カインと一緒に色々造ったりできるのが楽しい』と言っていた。マスターも『飲み込みが早いから教えるのも楽しい』と言っていたし、満更でもないようだ。現状マスターの作業を手伝えるのはルミア様だけである。ラーハルト様やバラン様が首を傾げたり呆れたりといった時でもマスターの手伝いができるというのは、他に類を見ない。

 マスターこと、カイン・R・ハインライン様。ロビンのデータを参照しても、やっている事は昔から変わっていない。修行をして、マシンの研究をし、ふらりと帰ってきてはまた旅に出る。それでもアベル様と同じく充実しているそうだ。特筆する事といえば、最近思うようにレベルアップできない、とぼやいていた事と、機械に関する技術の向上くらいだろう。レベルアップの方は、私は戦うという事がまずないためによく分からない。ラーハルト様達なら分かるのだろうか?しかし、竜の騎士であるバラン様とも度々戦っているのにそういった事がありえるのだろうか。ロビンに尋ねても要領を得ない。機械技術については、最早今更語る事でもないだろう。『仕組みさえ分かれば戦いながらでも解体できそうだ』と豪語しているが、あながち見栄という訳でもないはず。言っているだけであって、少なくとも魔王ハドラーが倒れて以降マシン兵と戦う機会など無いとは思うのだが。

 

 一応、私とロビンについても書いておこう。

 私、ラムダ(以下Λと表記)とロビンは、ディーノ様が発見されてしばらく後、マスターによってAIが付けられた。マスター曰く、『従来の命令通りにしか動かないものとは違う、自分で思考し動く事のできる』AIだそうだ。詳しい事は私でも分からないが、こうして私が日記を書けるのもそのおかげである。

 人によっては、機械にそんなものは必要ない、あっても邪魔なだけ、何の役に立つ、などといったように良い感情を抱かないかもしれない。事実、私も何故知能を与えられたのか理解できない。従来通りのただただ命令を聞くだけのものでは駄目だったのだろうか?私達は所詮ただの機械、つまりは道具であるからには主の為に自らを投げうって役に立つのが当然ではないのか?

 もしかしたら、こうして自らの在り方について考えさせる事それ自体が目的なのだろうか。マスターはただ飄々としているだけのように見えて、その実非常に様々な事を考えておられる方だ。私がこうして思考する事が、あの方が次のステップへと進む為に必要な事なのかもしれない。しかし、自動機械以上の技術など私には思いつかないのだが。それでも主の為ならどんな命令だろうと実行するのが私達機械。従って私や主の進歩の為にも、こうして悩み、考え、時には迷い。そうして進んでいくのが、主に報いる事なのだろう。ならば私はそれに従事するだけだ。しかし、マスターの事だから実はもっと単純な理由だったり、そもそも意図なんてないのかもしれない。良い意味で何を考えているのか分からない方なのだ。

 分からないと言えばこの日記。書くように指示したのはマスターだが、何故わざわざ紙媒体にしたのだろうか。内部データに記録しても別段違いは無いと思うのだが……

 それはそれとして、ロビンについて。ある意味では私の兄とも言えるロビンは、私と同じく自分で思考できるAIを装備している。如何なる方法によってか、内部に多数の武器を収納しており、戦う相手によって使い分ける事ができる。主にロン・ベルク氏がリハビリと称して作った武器を使用しているのだが……改めてマスターの人脈は訳が分からないと思う。魔王や竜の騎士、魔界の名工など、普通の人間が得られる人脈ではないだろうに。

 彼の性格としては、まず殆ど喋らない。必要がなければ全く喋らない。いや、それは私もなのだけれど、ロビンは私以上に喋らない。だが、一度口を開けば(口は無いのだけれど、この表現は正しいのだろうか)それなりに饒舌だ。主に敵に対してしか喋らないそうだが。どちらにしても敵に対しては一切の容赦もないので相対した場合、凄まじい重圧を感じるだろう。

 

 さて、こんな所だろうか。ここまでで約3000字、これは多いのか少ないのか。とりあえず、大まかな事は書き留めただろう。記入漏れはあるかもしれないが。機械といえども完璧ではない。マスターもきっとそう思っているのだろう。

 

 ここからは今日の日記だ。

 

 今日はルミア様が私に化粧をしようと画策していた。一応人のような顔をしてはいるけれど、私は身体の殆どが鉱石等の複合素材で出来ているから化粧は効果が薄いのではないかと思われる。そう話したら、『化粧が出来ないなら髪を弄ればいいじゃない』と言われ、結果髪が金にされ、ついでとばかりに三つ編みにされた。機能性に違いはないと思うのだけれど、これは何らかの利便性があるのだろうか。その後服も着せ替えられた。そういえば『楽しかったから今度カインにもやってみよう』と言っていた。もしかしたらただの趣味なのかもしれない。でも、ああして楽しそうだから多分良いんだろう。定期連絡の際にそれをマスターに話したら『ブリスの類は流石に勘弁して欲しいもんだ』と言っていた。ブリスとは何だろう……。

 昼過ぎにバラン様が、何者かに『軍に来ないか』という勧誘を受けたそうだ。人間は嫌気がさすだろう、お前のようなものは人間と共に暮らすなど出来はしない、ならば我々と共に来い、そういった内容だったそうだ。使いの者を通して勧誘していたそうだが、バラン様はそれを蹴ったそうだ。『確かに人間と共に歩むなど不可能かもしれない、それでも私は人を愛した。故にここにいる』と語り、バーンと名乗る者の誘いを断ったそうだ。使いだという白い衣の者は、恐らく5年前に私が見た、マスターが”イカ頭巾”と評した者だろう。特徴が一致していた。マスターにそれを連絡した所、暫く王宮内とルミア様の近辺を特に注意して警備するよう命じられた。バラン様がテランの王宮に居る際に安々と侵入して白昼堂々そんな誘いをする輩だ、警戒するに越したことはないだろう。断られた事に激昂したりはしなかったらしいから早々おかしな真似はしないとは思うが、念には念を入れよとの事だった。

 マスター達は、つい先程から破邪の洞窟へ潜ったそうだ。アベル様が実家であるプチット族の郷へ帰る事になったため、その前に大きな冒険をしたいとの希望で、予てから目をつけていた彼の洞窟へ挑戦する事にしたそうだ。特製の荷物入れに食料と水と砥石を大量に詰め込み、ザムザ氏から手に入れたアイテムを持ち込み、準備は万端、意気揚揚と向かったそうだ。破邪の洞窟はリレミトを行使できないため、いつもより念入りに準備をしたという。地下何階まであるかも分からない程厳しいダンジョンという話だし、マスター達程の力を持った方達でも警戒するのは当然だろう。行ける所まで行くとの事だったので、ひょっとしたら次に陽の光を浴びるのは数年先かもしれない。洞窟内でも通信できるとは限らない。無事を祈るばかりである。ふと思ったが、こうして心配するなどの人間らしい心の機微を、マスターは必要としたのだろうか?機械である私に心などというものがあるのかは分からないが……。

 大きな出来事はこのくらいだろう。さて、マスターから絶えず魔力供給がされていると言っても無駄遣いは好ましくない。一応私達は魔力を貯める、いわば心臓部とも言える部分をいくつも持ってはいるが、何が起きるかというのはその時にならないと予測できない。今日はもうこの辺りで筆を置く事にする。

                                      ――Λ。




キーボードのGが使えないだけでここまで不便だとは……
バラン編は一応ここで終わりという形になります。
次回から破邪の洞窟になりますが……ちょっと色々やりたい事をやるので、まぁアレです、あしからず。

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