餓狼 MARK OF THE DRAGONS   作:悪霊さん

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お久しぶりです。一応は落ち着きました。
次話投稿時に、作品タイトルを変えようと思います。


第28話 竜の騎士

「竜の騎士っていうと確か……世界のバランスを崩す者が現れた時にそれを征伐し、バランスを保つ役目を負った存在……だったかな?」

 

「知っているなら話が早い。いかにも、その竜の騎士だ。しかしよく知っているな、現代では人にも魔族にも、伝承の存在程度にしか認知されておらんというのに」

 

「テランはそういう伝承が色々伝わっててね。それに、ちょいと長生きな友人から聞いた事もあったし。まぁ所詮はその程度の知識なんだけどね」

 

 竜の騎士と聞いて目を軽く見開いたカインはそう語った。常日頃からそういった伝承などに興味を示し、あれこれと調べまわっているカインには、確かに竜の騎士についての記憶があった。彼が言った通り、その程度の知識でしかないのだが。

 

「で、バランさんよ。アンタらがこの辺に暮らしている事を言うな、てのは分かった。分かったんだが……」

 

 気まずそうに顔を逸らしながら、カインが言った。訝しがりながらバランが、どういうことかと尋ねようとすると。

 

「悪い、俺の旅の仲間にバレたわ」

 

「は?」

 

 バランが間の抜けた声を出すと同時に、いつの間にか背後に回っていたアベルとラーハルト、それにルミアががっしりとカインの頭を掴んだ。

 

「いないと思ったら、何をやってるんだ?」

 

「しかも見目麗しい女性とダンディな男と一緒とは、修羅場の匂いがプンプンする二。カイン、正直に話す二」

 

「カイン、噛んでいい?」

 

「……お、おい?」

 

 戸惑いながら声を掛けるバラン。ソアラに至っては可愛らしく小首を傾げたまま動かない。

 

「待て待て待て待て!まともなのがラーハルトしかいねぇぞ!?とりあえずルミア、腕を噛むな!アベル、お前は後で羅生門の練習台になってもらうからな!」

 

 言葉のみ慌てた様子で取り繕う姿は手馴れたものだった。ガブガブと腕に噛み付いているルミアを振りほどこうと暴れながらしっかりとアベルに攻撃し、ラーハルトはこっそり安全圏に避難している。

 突然の襲撃に困惑しているバランをよそに、カイン達は賑わしく話していた。咳払いするとようやく騒ぎが収まり、話をできる状態になった。

 

「……とりあえず、立ち話もなんだ。早いところソアラを休ませたいし、ここでは人目に付く。私たちの住んでいる小屋に来い。できるだけ静かにな」

 

 そう念を押してカインに背を向け、バランはゆっくりと歩き出した。ソアラはちょいちょいと手招きをしている。

 

「あいよ。お前ら、着くまでは黙ってろよ、いいな?」

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

「……わざとやってんのか?」

 

 カインが振り向いた時には既に口元を手で隠していた三人をジトーっとした眼で見つめるカインを見て、ソアラは微笑ましそうに笑みを浮かべた。ふふっ、という可愛らしい声に反応すると、彼女はこう言った。

 

「四人とも、随分と仲がいいのね」

 

 

◇◇◇◇◇

 

 小屋に案内されたカイン達は、のんびりと茶を啜りながらラーハルト達の紹介をしていた。カインは最初に喋ったので省略だが。

 バランが竜の騎士だと聞いた時のラーハルトとアベルの反応だが、アベルは意外なことに冷静だった。もっとテンションが上がって騒ぐかと思われたのだが、”騒ぎ立てては迷惑になる”と至極まともな事を言った。対照的に、かの竜の騎士と会えた事に喜びテンションが上がっていたラーハルトはばつが悪そうにしていた。ルミアは首を傾げていたが。

 

「まぁバレちまったもんはしょうがないとしてだ。確か……真魔剛竜剣、だっけ?それを見せればフォルケン王なら力になってくれると思う。フォルケン王なら竜の騎士の事も知ってるだろうからな」

 

「それ程推すのならば悪くないのかもしれん。だが、あまり迷惑はかけたくないのだ。万一テランとあの国との戦に発展してしまえば大変なことになる。テランは武力がないだろう?蹂躙されるのは目に見えている」

 

「そうならないためにも兵力を充実させたい所なんだがな……ただバランよ、お前が戦えば例え一人でも並みの国相手なら勝てるだろう?戦わない理由を教えてくれ」

 

「……私に、罪のない人々を斬り捨てろというのか?そんな事は出来ない。私は……人間を守る為に奴と戦ったのだ。守るべきもの達を自らの手で葬るなど、私にはできん」

 

 ゆっくりと首を振ってカインの意見を否定するバラン。それを見て、カインは大きく頷いた。しかし、そのカインが発した言葉で場の空気がほんの僅かに凍ったように感じられた。

 

「グッド、良い答えだ。じゃあもう一つ質問だ。アンタは幸せになりたいか?」

 

「……私とて意思ある生物、そう思うのは当然だ。だが、私が……竜の騎士が幸せなどと夢を見ても良いのだろうか。私はソアラを愛しているし、最愛の彼女との間に子を成す事もできた。これ以上の幸などないのかもしれんがな……」

 

 バランが俯いてそう言うと、ソアラは無言で彼に寄り添った。それを見て微笑むバランをよそに、カインは溜息を吐いた。

 

「オイオイ、誰とかは知らんがお前はもう竜の騎士としての役目は果たしたんだろ?だったらもう引退してのんびり余生過ごしゃあいいだろ。何を迷う必要があるってんだ、のんびり幸せに……え、子供?」

 

 セリフの途中でようやくそれに気づいたカインは、首をカクンと曲げてからソアラに目を向けた。ソアラは微笑みながら腹を撫でていた。

 

「まさかとは思うがカイン……気づいてなかったのか?」

 

「き……気づいてたに決まってんだろ、ははは」

 

「「「嘘吐け」」」

 

「……ハイ」

 

「ふふっ、あなたも大分馴染んできたじゃない。もうこの子達の事信用しても大丈夫だと私は思うわ」

 

「む、う……確かにそうなのだが……済まない、少し考えさせてくれ」

 

 顎に手を添えて唸るバラン。カインは頷いて茶を飲み干した。

 

「別に焦る必要はねぇよ。ゆっくり考えりゃあいいさ。で、ラーハルト達はどうする?」

 

「オレ達か?どうって、何がだ」

 

「俺はちょっとラムダとロビンに付けたい機能があるんでな、一回帰る。お前らはどうするんだって話」

 

 それを聞いて考え込むラーハルト。ルミアもそれを真似てうーんと唸ってみせるが、おそらく特に何も考えてはいないのだろう。アベルは目を閉じたまま動かない。寝ている訳ではないようだが。

 

「バランさん、色々話を聞かせてほしいんだが、構わないか?昔から竜の騎士は憧れなんだ」

 

「ボキも興味がある二、是非とも聞かせて欲しいもんだ二」

 

「バラン、私もあなたの武勇伝を聞いてみたいわ。あなたが戦ってきたのは知ってるけれど、どんな事があったかよくは知らないもの」

 

「ああ、そのくらいなら構わない。お気に召すかは分からないがな」

 

 表情を明るくする三人を見てカインも笑みを浮かべた。ルミアを伴って小屋を出たカインは、ルミアの自宅へと戻っていった。

 

「私が戦った相手だが、冥竜王と言って……」

 

 

◇◇◇◇◇

 

「ねぇねぇ、付けたい機能って何なの?」

 

 道すがらそんな事を尋ねるルミアに、カインは得意げにその機能について語った。それを聞いてルミアは”なんかよくわからないけど便利らしい”と思った。あやふやな理解ではあるが、だいたいあってるからまぁいいか、と呟く。

 自宅の前に待機させていたラムダから作業を始めたカインは、重苦しい溜息を吐いた。

 

「あー、また溜息。溜息吐くと幸せが逃げるって言うよ?」

 

「よく言うよなーそれ。どっから始まったんだか」

 

「茶化さないのー。……バランおじさんの事?」

 

「お、おじ……なぁルミア、お前カンダタの事も最初おじさんって呼んでたけど、呼ばれる側としては結構傷ついたりするんだぜ?確かにバランの事だけどよ……」

 

 若干脱力しながらそう話すカインは、首を傾げながら語った。

 

「冥竜王とか言う奴倒して役目終わったんだろ?だったらもうのんびりしてもいいと思うんだよ俺。なのに竜の騎士が云々って、竜の騎士関係なくただのバランとして暮らせばいいのに頑固すぎるぞ?」

 

(初対面の人でも割とズバズバ言うのは相変わらずなんだなぁ。それに頑固ってどの口が言うんだか)

 

「何か言ったか?」

 

「言ってはいないよ」

 

「そうか。っつかよ、ソアラってどこの国出身なんだかな。陸続きじゃない所に行けば少しは安心……ああ、ソアラが身ごもってるんじゃあまり長く旅はできない、か。テランに留まってるのも仕方ないのかもな」

 

 カインはいっつも一人で納得しちゃう癖があるなぁ、と呟きつつルミアはカインの作業を手伝う。会話しているのかしていないのか分からないが、これも度々ラーハルトに怒られている。

 

「最初は素直に自分だけ出ていこうとしたけどソアラさんと駆け落ち、かぁ……浪漫だね」

 

「そういうもんなのか?」

 

「そうだよ、女の子なら誰でも一度はそういうのを夢見ると思うよ?」

 

「俺には分からんが」

 

「じゃあカインがバランさんの立場だったら?」

 

「俺なら……どうするかね。そもそも俺はそういう出会いとか無いだろうけどな」

 

「今凄い失礼な事言った自覚はある?」

 

「すまん」

 

「よろしい」

 

 いつもの軽口を叩きながら着々と作業を進めていく。二人が互いをそういう目で見ているかは置いておくとして。ルミアはマシンの事はよく分からないが、カインの指示をよく聞いて作業している。カインが趣味と自称するマシンの研究などに関わるのを良しとしている辺り、彼らの信頼関係が伺える。

 そんなやり取りをしている間に、ラムダの方は作業が終わり、ロビンの番となった。

 

「テランの兵力かー……メルキドみたいにゴーレムでも作れればいいんだが、俺は魔術系統は門外漢だからなぁ、やっぱりマシン兵で補うしか……いやまずはフォルケン王がそれを良しとするかだな。俺の一存でどうこうする訳にゃいかんし」

 

「どっかから強い人をスカウトしたらどうかな?」

 

「スカウトか……あれ、名案じゃね?」

 

 確かにマシン兵を量産するよりはそちらの方がフォルケン王としてもいいだろう。問題はスカウトするに値する人物がいるか、いたとしても他の国で何かの役職に着いていないか、そして何よりも誘いを受けてくれるかなのだが。そもそもスカウトに誰が行くというのか。カインは確かに強いが、見た目は子供だ。カンダタは論外である(主に服装的な意味で)。体の弱い王が行く訳にもいかないし、そこがネックだ。案としては悪くないのだが……

 

「しかし身分が高いって大変なんだな、恋愛すらままならないとは」

 

「身分関係なくそうだと思うけど、バランさんを追い出したっていう連中はちょっと酷いんじゃないかな。魔王が怖かったのは分かるけど魔物かもしれないから追い出すなんてさぁ」

 

「力を持たない連中ってのは必要以上に強者を怖がる節がある。そういう攻撃的な姿勢は恐怖の裏返しなんだろうが、馬鹿なこった。相手がどういう奴かも分からずにとりあえず攻撃ーなんて猪じゃねぇんだからよ」

 

「猪でも相手は選ぶんじゃないかな、つまりその人たちは猪以下だね」

 

「最近口悪くなってないか?」

 

「気のせいだよ。そういえば真魔剛竜剣って言ったっけ?バランさんが持ってたあの剣、竜の騎士の証明みたいな物なんでしょ?それ見せてもダメだったのかなぁ」

 

「竜の騎士自体ただのおとぎ話だと思ってる奴もいるぐらいだからな。テランみたいに伝承が深く伝わってるような所なら兎も角、ソアラの出身国には竜の騎士の伝承すら無かった可能性もある。若しくは湾曲して理解してるかもしれんな」

 

 竜の騎士を英雄のように扱う可能性もあれば、神の使いとして崇める場合も、はたまた魔物と同一視して石を投げる可能性も否定できない。言外にそう語るカインは顔を顰めていた。噂にしろ伝承にしろ、言葉という物は人を通して広まるにつれ、変質していく事がままあるのだ。竜の騎士などと呼ばれていても、魂ある生物には違いないだろうに。そう呟いてカインは溜息を吐いた。

 

「溜息禁止!」

 

「やだ」

 

「やだも禁止」

 

「なんでだよ」

 

 子供のようなやり取りをしながら(実際子供なのだが)作業を終えた二人は茶を飲んで一服していた。ほう、と息を吐きながら茶を啜るカインはどことなく年寄り臭い。それを指摘するルミアに反論しようとして出来ないカインを見て、ルミアの笑みは更に深まった。

 

「っと、そういえばカンダタに用事があったんだった。ルミア、先にバランの所に行っててくれ」

 

「ん、りょーかい。カインも早く来てね」

 

「おうよ」

 

 そう言葉を交わし、二人は逆方向に歩き出した。

 

 

「……もしかしたら、力尽くでソアラを取り戻そうと来るかもしれないな。何か対策を講じておいた方がいいか。カンダタが何かそういうのに便利な物持ってるといいんだが」


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