餓狼 MARK OF THE DRAGONS   作:悪霊さん

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ここ最近引越し準備で忙しいです(´・ω・`)
ただでさえ遅筆なのに時間が……


第26話 地底魔城三度

「そうか……ハドラーは負けたのか……」

 

 どこか遠くを見るような目で、カインは呟いた。アバンともハドラーとも友好関係にあるカイン達にとってはなんとなく複雑な気分だった。

 だが、あのハドラーの性格ならば自分を打ち負かしたアバンを素直に称えるのだろう。逆も然り、アバンとハドラーならば少なくとも敗者を貶めるような事はすまい。

 

「……地底魔城、行ってみるか」

 

「えっ、地底魔城に……ですか?恐らく人間達が調査なりなんなりするでしょうから、あまり……ああ、そういえばあなたも人間でしたっけ」

 

「何だと思ってた?」

 

「魔お……なんでもないです、ハイ」

 

 冗談の通じそうな目ではないと感じたザムザは即座に口を閉じた。しかし、人間と認識していなかったのもまた事実である。そのぐらいカインは普段ザムザが目にする人間とはかけ離れていた。これまた理屈ではなく、感覚的なモノなのだが。

 

「まぁカインは人間扱いしていいのか分からないから仕方ないニ」

 

「失礼な、俺はまだ人間辞めたつもりはないぞ」

 

「「「まだ?」」」

 

 ザムザとラーハルトまでもが声を揃えて言った。それ程までに人外扱いされているのか、とカインは若干落ち込んだ。ちょっと普通の人間より強くて仲間が人間じゃないだけで俺はまだ人間だ、とぐちぐち呟いている。

 その姿に思わずラーハルトが小さく吹き出すと、それが呼び水になったかのようにザムザも口元を手で押さえて顔を背け、アベルに至っては相も変わらず声を上げて笑っている。

 

「お前ら……ったく、好き勝手言いやがって」

 

「まぁまぁ、いいじゃないか。このくらいの軽口を叩きあえる仲の方が良いだろう?」

 

「そりゃそうだがよ……まぁいいや。じゃあザムザ、黒魔晶の件、頼んだぜ」

 

「ああ、はい。あの、良ければパプニカまでならルーラでお送りしますよ」

 

「ほう、そりゃ有難い。ちょうど吹雪も止んだし、もう少ししたら行くか」

 

 いつの間にかカッコつけようとして使っていた口調を投げ捨て、いつもの砕けた口調になるカインにザムザはそう申し出た。

 ザムザも研究の都合などでパプニカに行った事があるので、ルーラで簡単に向かう事が出来る。普段人間をモルモットとしてしか見ていないザムザがそんな提案をするというのが驚きだが、短時間の会話にも関わらずザムザの中でカイン達はその提案をしても構わないと思えるぐらいのものになっていた。

 ザムザがそれを自覚しているかは分からないが、カイン達もザムザに対して友好的な所を見ると、確かにカインが人間以外のものに見えてくる。無論良い意味でだが、カインはそう言われると機嫌を損ねるのだろう。

 

「そうですね、交渉も済んだ事ですし。よければこれからもこういったものを買い取って頂けると有難いのですが、どうでしょうか。何分研究にも先立つものが必要でしてね……」

 

「ああ、いいぜ。少なくとも持ってて損はない物ばかりだし、かなり有能な物もある。こちらとしても助かるよ」

 

 その返答に満足したザムザは、大きく頷いた。

 

「さて、それじゃあそろそろ行くか。ようやっとこの極寒地帯からおさらばできるぜ」

 

「全くだニ、寒くて凍え死ぬかと思ったニ」

 

「気候に慣れる必要もあるというのが難しいな。こういう環境でもしっかり力を出せるようにならないとな……」

 

「ははは、私も寒いのはあまり好きではないですが、暑すぎるのも勘弁願いたいですよ?さて、それでは行きますよ」

 

 

◇◇◇◇◇

 

 ザムザのルーラによって飛び立ったカイン達は、あっという間にパプニカへと到着した。城下から少し離れた、カインにとっては馴染み深い森に降り立った一行は、改めて辺りを見回した。

 

「ルーラ、か。キメラのつばさがなくともこれさえ使えばあっという間に目的地に行ける、というのは便利だな……俺は呪文使えないけど」

 

 未だに呪文の契約が出来ない事を気にしているのか、カインは若干気だるげだ。呆れたように肩を竦めるラーハルトだが、ラーハルトはほんの初歩程度の物のみだが、契約する事は出来たのだ。割りと最近までただの子供だったラーハルトまでもが自分に出来ない事を習得するのを見ると落ち込みたくもなろうが、アベルはそもそもカインは呪文が出来る必要は無いと考えている。

 このパーティでの各員の役回りは、アベルが回復、補助、攻撃と比較的何でもこなせるオールラウンダー、ラーハルトは突出したスピードと槍捌きで敵を圧倒するどちらかというと攪乱兼切り込み役だ。ロビンはその頑丈な装甲を活かしたいわば壁役、若しくは弓矢やレーザーでの砲台役。極楽鳥は臨時の回復役兼バシルーラ役、そしてカインは突出した闘気によって、他の者の攻撃が通じないような相手にまで強力な攻撃を加えられる分かりやすいまでのパワーアタッカーである。

 言ってしまえば、カインが呪文を使えようが使えまいがどちらでも良いのだ。いや、むしろ使えないからこそ余計な魔力を消費しない分ロビンを不休で動かす事が出来るのだろう。そう考えているアベルが、カインが呪文を使えなくてもいい、と考えるのは自然な事だ。そしてそれをわざわざストレートに“使えないほうがいい”だけ伝えてカインに投げ飛ばされるのも、最早自然な事だ。カインは分かっていてやっているのだが。

 

「そこまで魔力を使う訳ではないですが、キメラのつばさも安くはないですからね。便利なものです。さて、私はこれで失礼しますよ。黒魔晶は……そうですね、3日程したら採れると思うので、それ以降にお尋ねください」

 

「ああ、助かるよ。じゃあ、元気でな、また会う時を楽しみにしているよ」

 

 そう言ってザムザは再びルーラで何処かへと飛び去っていった。暫くザムザが飛び去っていった方を眺めていたカイン達は、ゆっくりと地底魔城に歩みを進めた。

 

 

「しかし凄い賑わいだな、城下町は。ここまで喧騒が聞こえてくるぞ」

 

「それだけ魔王が討たれた、というのが喜ばしいんだろうニ。これで平和な時代が訪れるというのなら、このぐらいは喜んでもいいんじゃないかニ?」

 

「……そうだな。ただ、ロビンやラムダが居るのも、魔王ハドラーのおかげとも言えるだろう?そう考えるとちょっと複雑だな……」

 

「気持ちは分かるニ。しかし、魔王ハドラーが居なければボキ達はきっとこうして出会う事は無かったニ。魔王によって失われたものも多いとは思うニ。でも、それと同様に魔王によって巡り会えた者達がいるのも事実だニ。……やっぱりちょっと複雑だニ」

 

 ラーハルトとアベルが会話をしながら歩いていると、カインが一言も喋っていない事に気がついた。いつもなら自然に会話に混ざっているのだがどうしたのだろうか。二人がカインの方に目を向けると、カインは顎に手を当てたまま考え事をしているようだった。魔物が出ないとはいえ、考え事をしながら歩くのは少々危ない。邪魔するのも気が引けたが、声をかけてみた。

 

「ん?あぁ、ちょっとな。ハドラーが倒されたって事は、地底魔城の中は結構な数の魔物の死体があるのかな、って。もし野晒しだったら墓ぐらい作ってやろうぜ」

 

「ああ、そうだな……確かに、ちょっと前まで戦場だったんだもんな。弔いぐらいしてやらなければな」

 

 地底魔城の魔物達とは、カインもそれなりに交流があった。割りと淡白な所のあるカインだが、こういった考えが出る程度には人間的なんだろうか、とアベルはうっすらと思った。そういえばあの地獄の騎士も倒れたのだろうか、ハドラーが倒れたのならばそうなのだろうが。そう考えながらアベルが歩き出す。

 

「火事場泥棒みたいな真似するのは癪だが、色々と調べておかなきゃあな」

 

 そう呟いて、カインも歩き出した。

 

 

 

 地底魔城に到着し、念のために人や魔物がいないか気配を探ってみたが、どうやら誰もいないようだ。人がいないのなら好都合だ。今なら堂々とロビンやアベルも侵入できる。

 

「デルパ」

 

 カインが懐の筒から極楽鳥を呼び出すと、辺りの哨戒を命じた。誰かがこの地底魔城に近づいたらすぐに知らせるように言い、内部へと潜っていった。

 内部に入ったはいいが、魔物の死体はほぼ無かった。灰のようなものは恐らく不死系怪物の成れの果てだろう。オークなどの動物型の魔物などは影も形もなかった。キラーマシンも見当たらない。

 

「……妙にすっきりしてるな。もうちょっと何かいても良さそうなもんだが」

 

「全滅した訳ではない、のか?逃げれた奴もいたのかもしれない」

 

「だとしてもキラーマシンの残骸すら無いのは妙じゃあないかニ。人間が調査で持ち帰ったとしても、人員を割いていないのはおかしいと思うがニ」

 

 首を捻りながら、真っ直ぐに地獄門へと向かっていく。その道中にも、何も見つける事は出来なかった。かつてはここに入り浸っていただけあり、カインは地底魔城の構造を熟知している。迷う事もなく、すんなりと魔王の間へとたどり着いた。

 

「地獄門の前には灰は無かった。とすると、バルトスは別のところで倒されたのか……?アイツが持ち場を離れる程の理由なんて一つしか無いが……」

 

「……ここも、がらんとしてるな。闘いの跡はあるが、ハドラーの死体はないのか……アバンさんが埋葬したんだろうか」

 

「その可能性はあるニ。アイツならそうしても不思議ではないニ。このボキをして勇者と言わしめる男だからニ」

 

 しばし思案するカインだったが、魔王の間のすぐそばにあるハドラーの私室へと入っていった。いないと分かっていて敢えてノックをしてから入ると、そこには本や何かの魔導具が大量に保管されていた。

 本棚に近づき、無造作にその中の一冊を手に取って読み始めたカインは、一通り流し読みしてから、ロビンの中に放り込んだ。

 

「おいカイン、勝手に持って行っていいのか?」

 

「どうせもう使えんだろう、なんならメモ書きでも残しておくか」

 

 そう言ってサラサラと手帳に『借りてくZE✩』と書き、ページを破いて机に置いた。この机も、かつてはハドラーが勉学に励んだり何かを記録する時にでも使っていたのだろう、年期が入っていた。

 

「やってる事が泥棒みたいだぞ……全く、持っていくのは必要なのだけにしろよ」

 

「日記見っけ」

 

「それはそっとしておけ!」

 

 内容が気になったが、ラーハルトが目を光らせているので読むのも持ち帰るのも断念した。持っていく事にしたのは、竜の騎士に関する文献、魔族についての本、それにマシン系のモンスターの考案書などなどだ。メタルドラゴンなども名前だけは出ているのだが、製造法が書かれていなかった。そういえばメカバーンってエビルメタルで作れそうだな、と呟きつつ次々と本を仕舞って行く。確かにやっている事が泥棒のそれに見えなくもない。

 

「そうだ、もう一箇所見る場所があったっけな。お前らはここで待ってていいぞ」

 

「何言ってるニ、ついてくに決まってるニ」

 

「そうだ、言っておくが何か盗むんじゃないかとは思ってないからな」

 

「ラーハルト、それ言っちゃうのは疑ってるって言うようなもんだから」

 

 他愛のない会話をしながら、カインを先頭に歩いていく。雑談をしながらも周囲に気を配る事は忘れない。何かがいたら気配で気づくだろうからそこまで過剰に注意しなくてもよいのだが、三人とも過信をせずに気を配っている。

 程なくして、道中に灰があるのを見つけたカインがそこにしゃがみこんだ。傍に落ちている六本の剣を手に取りながら呟いた。

 

「……バルトスの剣だ。ここで逝ったのか」

 

 そこは、カインがロビンを倒した後に担ぎ込まれた部屋、そしてかつてヒュンケルが住んでいた部屋のすぐ目の前であった。ハドラーが倒される前に地獄門からここまでやってきていたのだろう。

 

「今際の際に息子に一目会おうと思ったか……だが、この位置から考えると会えなかったのだろうな。……ああクソ、こういう時なんて言えばいいんだかな、言葉が出てこねぇよ」

 

「立派な剣士だったニ。敵前逃亡した訳じゃあないだろうニ、恐らくアバンに負けた後にここまで来て、そこでハドラーが倒されたんだろうニ」

 

「貴方の事はカインから聞いていた。不死系怪物ながら人間の子供を育て上げた、立派で心優しい騎士……せめて、一目会ってみたかった」

 

 溜息を吐いた後、カインがバルトスの遺灰を掻き集め始めた。二人もそれに無言で続いた。

 

「せめて日当たりの良い場所にでも埋葬してやろう。探しておかないとな」

 

「だったら、オレの父さんと母さんの墓の横に埋めてやってくれないか?あそこなら日当たりもいいし、何より……ラムダがちゃんと墓を手入れしてくれるだろう?」

 

「ボキからもお願いするニ。カイン、頼むニ」

 

「頼まれるまでもないっつの。俺だってバルトスの事は尊敬してるんだ、おざなりにする訳ないだろ」

 

 先程よりも心なしか明るい雰囲気で言葉を交わしながら、ヒュンケルの部屋の扉を開けた。

 そこには――誰もいなかった。子供の使うようなおもちゃが置かれたまま、その部屋は痛いぐらいの静寂に満ちていた。

 

「ヒュンケルもいない、か。アバンにでも保護されたかね」

 

「有り得るな」

 

「まあアバンだしニ」

 

「段々アバンなら仕方ないって雰囲気になってないかお前」

 

 そう話しながら地上に出ると、丁度極楽鳥がやってくる所だった。どうやらパプニカの兵達が調査に来たらしい。

 

「……人間が来た?分かった、行くぞお前ら」

 

「ああ。ここに居ると面倒な事になりそうだ」

 

「じゃあ、とりあえずテランに向かうニ。レッツゴーだニ」

 

 やってきた人間達に見つからない内に、カイン達は極楽鳥に乗って飛び去っていった。ロビンもそれに追従している。

 

「……これからこの世界はどうなるかね。吉に転ぶか凶に転ぶか……神のみぞ知るってか?」

 

 口の中だけでそう呟くカインは、憂いを帯びて見える。

 この後、カイン達はテランにてバルトスを埋葬した後、再び旅に出た。

 

 

 そして、三年程の時間が過ぎた――。

 


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