餓狼 MARK OF THE DRAGONS   作:悪霊さん

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今回は少し短め。そしてタイトル詐欺疑惑回。


第24,7話 魔王VS勇者

 カイン達が獣王クロコダインと戦った数ヶ月後、ハドラーの住まう地底魔城は慌ただしい雰囲気に包まれていた。

 地底魔城の一室で、ハドラーは部下達を集めて会議を開いていた。

 

「もうじき、俺はアバン達勇者共と決着を付ける。必然的に奴らはこの地底魔城に攻め込んでくるだろう」

 

 壇上から魔物達を見渡しつつそう言った。その場にいる部下達はざわめき一つ起こさず、ただ黙ってハドラーの演説を聞いている。

 最近のハドラーの変わりようから、近いうちに勇者との決戦があるだろうというのはヒュンケルを除いた地底魔城の住人皆が覚悟している。以前のハドラーのままなら、いざ決戦という時に慌ただしく準備をする事となっていただろう。以前のハドラーにも指揮能力はあったが、高慢すぎるきらいがあった。人間が相手だから充分、と考えていた為にその精神的な隙を突かれる事が多かったのだ。

 だが、カインの存在が“人間を舐めていけない”という共通認識を生み出し、(ヒュンケルの遊び相手になっていた魔物達は元からだが)“人間にも善人と悪人がいる”などの考えが生まれる程度には人間の事を知るようになっていた。そして、何よりも魔王ハドラーが勇者アバンに敬意を払うようになっているのが、大きな変化だろう。

 

「以前の俺は人間を完全に見下していた……取るに足らない存在だとな。だが、カイン、そしてアバンという二人の男がその認識を改めさせた。お前たちも知ってのとおり、カインは子供ながらにキラーマシンを打倒し、修復すらこなす程。アバンもその智謀と、何よりも勇気と仲間との絆を武器とする恐るべき、そして何よりも尊敬すべき人間だ」

 

 語りながらハドラーは、初めてアバンと戦った時を思い出していた。アバン本人も驚異だったが、もしあの場であの戦士、ロカが自分に攻撃しなければ今頃アバンはこの世に居らず、ひょっとしたらとっくに世界を支配していたかもしれない。

 

(だが、これで良い……あの時の俺は井の中の蛙だった。魔王という肩書きに溺れ、ゆっくりと腐っていったかもしれない。今の俺は、アバンと雌雄を決するッ!それだけが目的、生きる理由と言っても過言ではない!)

 

 魔界の伝承に伝わるような古の大魔王と勇者もこんな間柄だったのだろうか?とぼんやりと考える。もしそうだとしても、アバン以上の切れ者はそうそういないだろう、と何故か誇らしくなる。

 

「その事を思い知った俺は、人間に対する奢りを捨てた。同時に強者への敬意を持ち、あくまでも敵と対等になるように戦う事を心がけてきた。だが……まだ足りないのだ。それだけでは、まだ。率直に言おう。勇者達と戦う事を恐れる者は、早急にここから去り、故郷にでも帰るがいい。引き止めはせんし、無論罰したりもしない。俺に着いてきてくれる者はこの場に残れ。必要なのは、俺に命を預けてくれる者達だ。その覚悟がない者は去っても構わない」

 

 ハドラーがそう重々しく言葉を切った。それを聞いて、魔物達は互いに顔を見合わせ、最後にバルトスと目を合わせ、頷いた。

 バルトスは立ち上がり、ハドラーに向かってこう言った。

 

「ハドラー様、我ら魔王軍は一蓮托生、どこまでもあなたに着いていく所存です。どうか、最後まで、最後までハドラー様と共に戦う事をお許しください」

 

「しかしバルトス、ヒュンケルの事はどうするつもりだ?アイツはまだ幼い、万一の事があっては」

 

「ハドラー様、万一などとらしくない事を言わないでください。我らはあなたの勝利を目指し猛進する姿に、人間たちが勇者に感じるモノと同じモノを感じたのです。それに我が息子ヒュンケルの事は心配無用。あの子は強い、きっと私がいなくても強く育ってくれるでしょう」

 

「……そうだな、俺とした事が後ろ向きな発言だったな。ならばバルトス、お前がアバンに負けた場合、降伏してヒュンケルの事を話せ。お人好しなアイツの事だ、きっとトドメを刺さずに見逃す。そうすれば別れを告げる時間ぐらいはあるだろう」

 

「ハドラー様……ありがとうございます。このバルトス、粉骨砕身働きましょう、必ずや勇者達を食い止めてみせます」

 

 ハドラーは内心、もし自分が負けたらアバンにヒュンケルを託すのも悪くないかもしれない、と思っていた。だが、こうまで言われて負けた後の事など考えていては部下に申し訳が立たない。魔王の誇りを賭けて、勇者と全力でぶつかろう、そう心に決めた。

 

 

◇◇◇◇◇

 

「ハドラー君たら、張り切ってるね」

 

「ホントホント。ちゃんと勝てるかなぁ?」

 

「さぁ、どうだろうね。ちょっかい出すのもいいけど、ちょっと様子を見てからにしよう。下手に手を出して両方に敵対されるのも面倒だしね」

 

「そだね。ボク達は正面からはやらないもんね」

 

「そう、罠にかけてじわじわ……というのがボクのスタイル。必勝法さ」

 

「キルバーンカッコイイ!」

 

「ははは、そう褒めないでくれ。それはそうと、今勇者君達はどこにいるかな?」

 

「こないだは確かネイルって所に暫くいたっけ。多分そろそろパプニカに着くんじゃないかな?」

 

「ウフフッ、アバン君とハドラー君の晴れ舞台、しっかりと見ていてあげないとね」

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 あの会議から数日、とうとうアバン達が攻め込んできた。バルトスも敗北したのだろう、先程地獄門が開いた。

 部下達はよくやってくれた。最後に俺がアバンを打ち倒す事で、倒れていったアイツらへの手向けの花としよう。俺が世界を支配した暁には、勇者達を称える石碑でも建ててやろうかな。無論部下達の名も刻んでやる。勇敢な戦士達として、未来永劫名が残るようにな。

 足音が聞こえてきた。とうとう決戦の時だ。

 

「ハドラーッ!」

 

「来たな、勇者よ。今日こそ俺とキサマの因縁に終止符を打とうではないか」

 

「……戦う前に、いくつか聞きたい事がある」

 

「何だ?冥土の土産……という訳でもあるまい」

 

「以前のお前は、人間を見下していただろう?無論私の事も。それがいつからか、人間を見下す事を辞めたばかりか、私を対等に見ている。一体何があった?」

 

 ほう、最初の質問がそれか。てっきりバルトスの事かと思ったのだがな。

 

「よかろう、教えてやる。俺は、ある時出会った人間の子供に、それまで抱いていた高慢なだけの無駄なプライドを砕かれた。子供に、ただの子供にキラーマシンが負けたのだ……笑えるだろう?これで人間は弱いなどと言えたら、どれほどの自信家だろうな。俺は、その邪魔なプライドを捨てた。そして今、捨てる訳にはいかない魔王としてのプライド、そして我が命を賭けて戦おうとしているッ!……納得したか?」

 

「……ええ、とても。今ならこう言えますね。貴方は、誇り高き我が好敵手だ、とね。ところでその子供って、もしかしてカインって名前じゃあないですか?」

 

「ほう、やはりお前も出会っていたか。そう、奴だ。アイツと会って、お前は何を感じた?」

 

 フン、誇り高き好敵手、だと?泣かせよるわ、ガキの癖に……ならば俺もコイツの事をそう伝えねばな。

 カインから何を感じたのか、という質問の意図。それは魔族、引いては魔王からだけでなく、人間、それも勇者から見たカイン・R・ハインラインという存在の器を知る事。

 

 魔物の連れがいたり、子供ながらあの力、常識では考えられぬ子供に、アバンは何を感じたのか。俺から見た奴は、ともすれば俺以上の魔王、若しくはそれに準ずるモノになりえる器を感じた。こればかりは理屈ではなく、直感なのだが。そして、奴を表現するならば――

 

「そうですね、月並みですが――根本的な所では、まだまだ子供だと。表面的な部分では、人間……というよりも、子供を一方的にいたぶる者に激怒したり、旅の仲間と楽しげに談笑したり……感情豊か、といった所ですね。そして、カイン君を一言で表すなら……」

 

「表すなら?」

 

「ポーカーで言うところの“ジョーカー”ですね」

 

「フ……フハハハハ!流石はアバン、よもや俺と同じ答えとはな!」

 

 ポーカーにおいてジョーカーの札は、どの札の代わりとしても扱える。スペードのAだろうと2だろうとキングだろうと。即ち、カインは何者にも成れる可能性を秘めている、という事だ。まさか俺とアバン、双方共が同じ答えとはな。魔王から見ても勇者から見ても変わらないのか、それとも俺とアバンだからか?

 

「クックック……やはりお前は面白い。それでこそだ……だからこそ、答えが分かっていて問おう。アバン、俺の配下になれ。そうすれば世界の半分を与えてやるぞ……!」

 

「……断る!」

 

「ハハハハハ!!そうだ、それこそがお前だッ!さぁ、お喋りはここまでだ。そろそろ始めるとしよう……行くぞ、勇者よッ!」

 

「来いッ、魔王ハドラー!!」

 

 俺のヘルズクローとアバンの剣がぶつかり合い、激しく火花を散らした。

 

 

◇◇◇◇◇

 

「いやはや、仲がいいんだねぇ、あの二人は」

 

「あのカインって奴の事一つであんなに喋れるってなんか凄いなぁ。因みにキルバーンはどう思ったの?」

 

「ボクかい?そうだねぇ、ボクはちょっと違うかな。ジョーカーというよりは、コレかな」

 

「コレ……ブランクカード?ブランクって事は……あ、分かった!真っ黒く染められるって事でしょ?」

 

「7割がた正解、かな。正確には黒だけじゃなく、存在自体危ういとか、真っ白なままでいられる、とか。まぁ、何者にも成れるって辺りは大体同じだがね」

 

「へぇ~、結構高く評価してるのかな?」

 

「そりゃそうさ、彼は観察した限りじゃあ今まで見た事の無いタイプだからね。アバン君のようにムードメーカーとなる訳でもなく、ハドラー君のように誰かを従わせるような性格でもない。ハッキリと言ってしまえば、未知数の一言に尽きる。ボクらと共にバーン様に付く未来、勇者と共にバーン様に敵対する未来、そのどちらでもなくただ暴れまわったり、或いは何もせずに傍観したり。ざっと挙げるだけでも、これぐらいはある。詳しく言えばもっと出てくるだろうけど、要はそのぐらい“読めない”んだよ」

 

「ふぇ~……キルバーンも凄いけど、アイツも凄いなぁ。行動が読めないって厄介……ん?キルバーン、アレちょっと見て!」

 

「ん?アレは……ほう、面白そうだね、行くよピロロ。アイツを――」

 


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