そしてそのままゲーセンに行き、医者にボコられた。なんなのあのどこでもドア……
あ、無事卒業しました。
「お前たちは一体何者なのだ……!?どんな時間を過ごせば、そのような力を……」
クロコダインがそう尋ねる。その声色には悪意と呼べるような物は一欠片もなく、カインが目を見るまでもなく純粋な興味しかなかった。己を倒した子供たちが、どうやってその力を身に付けたか知りたいと思うのは至極当然であろう。
「ただの旅人、それで十分。ここまで登ってこれたのも、日々の研鑽としか言い様がないな。なぁラーハルト?」
「そうだな、常日頃から弛まぬ鍛錬をしているからこそだ。だがカイン、それだけじゃあ足りないだろう?」
「そうそう、俺達にあって獣王殿にないもんがあるよな」
「お前たちにあってこのクロコダインにないもの、だと?なんだそれは、一体?」
髪をかきあげ、カインがキザったらしく口を開こうとする。が、それに先んじてアベルが言った。
「ボキ達は互いに目標にしあって、高め合っているんだニ。一人が強くなれば他の二人もそれを目標として強くなり、またそれを繰り返すニ。君にはそういう、所謂友というものが欠けているんだニ」
「お前人のセリフを……」
「カインはちょくちょくカッコつけようとするニ。正直無駄だと思うニ」
「なんだとコラ」
「ニ゛~!」
歯に衣着せぬ物言いにイラッと来たカインがアベルを掴んで振り回しているのを尻目に、クロコダインは一人呟いていた。
「友、か……考えもしなかった。友と呼べる者も、信頼できる者も居らず何が獣王か。ハハハッ、オレはやはり馬鹿なのかもな……」
(こうやってふざけあったり尊敬しあったりできるというのは、素晴らしい事だな。友とは、人間とは良いモノなのかもなぁ……)
「話してる所申し訳ないんやけど、わいはどないすればいいんや」
会話に混じれなかったロバートが漸く会話に参加した。
「正直、目標だった獣王が目の前で坊らにやられてわい涙目やねんけど。あんだけ苦労してもろくすっぽダメージ与えられんかったゆーに、泣けるでホンマ……」
言葉とは裏腹にやや興奮した面持ちでそう語ると、当然全員の視線が集中する。キラーマシンさえ自分を見つめるのでロバートは若干どころではなく居心地が悪かった。
「魔物は従えとるし、獣王に勝ってまうし、おまけにこのマシンや。坊らマジで何者なんや?まさか魔王の手下、っちゅー事はないにしても些か不自然すぎると思うで。特にカイン坊、子供とは思えないんやけど。実は誰かさんの生まれ変わりやったりとか……」
表には出さないものの、今のセリフでカインは若干冷や汗をかいた。別にバレた所でどうこうなるものではないが、『実は俺は一度死んで人生二回目なんだ』なんて言った所で誰が信じようというのか。いや、今のロバートのように“子供に思えないから”と信じる者はいるかもしれないが。
実際の所カインにとってその辺りはどうでもいいのであるが、アベルやマトリフに笑い話の種にされるのも癪、ロンやハドラー辺りにまた変な事を……という目で見られるも癪。従って彼が転生云々について話す事はまずないと思われる。
「なんて、んなワケないか……んで獣王、わいはもっともっと強うなっていつかまた来る。だからそん時はもっぺん勝負や。ええな?」
「オウッ、心得た!」
「やっぱり諦めないで挑み続けるのか。いいねぇ、そういうの。俺はそういう奴大好きだぜ」
話題が変わった事にホッとしながら(当然ながらビクビクする必要もないというのに)カインがそう述べると、クロコダインもそれに賛同した。
「うむ、さっきはああ言ったが、お前の成長を見てみたくなった。いつでも来い、この獣王クロコダインが相手をしてやろう」
「お、お手柔らかに頼むで……」
「それはそうとラーハルト、お前あんな技いつの間に編み出したんだ?」
「コッソリ修行してたからな、秘密にしておこうと思って」
「中々カッコよかったニ。ま、ボキ程ではないがニ」
「デインブレイクだっけか、アレもカッコよかったじゃないか。剣に魔法乗せるなんて普通考えつかないだろうな」
「フッフッフ、もっと褒めるニ」
大人びた言動でも、やはり彼らはまだ子供である。カッコイイものに憧れたり、自分をかっこよく見せたいと考えるものだろう。そう考えてロバートはふと笑みをこぼす。
「さーて、そろそろ帰るか。坊ら、よかったらわいの住んどる村来んか、歓迎するで。ネイルゆーてな、あの勇者アバンの仲間の子供が産まれてなぁ、マァムっちゅーんやけどこれがまた可愛い子でなぁ」
アバンの仲間、と聞いてカインは興味がそそられたが、仲間の事を考えると自分だけ行くというのはなんとなく憚られる。故に笑顔で辞退する事にした。
「折角だけど遠慮するよ。ラーハルト達を置いて俺一人で行くのも気が引けるからな」
「遠慮しないで行ってきてもいいんだがな、オレ達は気にしないんだし」
「それがカインの良い所だニ。こうみえてもボキはカインを高く評価してるんだニ。ボキはカインの才能をこの世で初めて見抜いた男であり……」
「いや、それは多分ロンだろ」
ずこーっ、とアベルがこける。ラーハルトが笑う。釣られて皆笑う。
「ほな、わいは行くわ坊らもクロコダインも元気でな」
「オウ、さらばだ」
「じゃあなーロバやん」
「次に会う時が楽しみだニ」
「次はオレ一人で倒せるようになっておきたいな」
こうして獣王との戦いを経て、ロバートという一人の人間と細やかだが交流し、また一つ経験を積んだカイン一行。次はどこへ行こうか、と話しながらどこかへと歩いて行った。
◇◇◇◇◇
「ただいまー、今帰ったで」
「おうロバート、どこ行ってたんだよ。……って怪我してるじゃねぇか!まさか魔の森に……」
「あー、せやせや、魔の森や。友人のお前さんがアバンさんにくっついて魔王倒しに行っとるんに、わいだけじっとしてられんわ。わいが居れば、この村の事やマァムちゃんの事も安心やろ?」
「お、おう……まぁそうだけどよ、あんま無茶すんなよ」
「わーっとる。お、そういやお仲間はどこや?」
「アバンとレイラなら台所、マトリフならマァムの子守だ」
「ぶっ、あのセクハラジジイがマァムちゃんの子守か。見てみたい気もするのう」
「さっきはおしめが上手く変えられない、とか言ってたぜ。アイツ魔法については誰よりも知識と技術があるってのに、こういうのにはからきしなんだな」
「お前が言えた事かいな、この朴念仁」
「なんだとテメェ!」
「ちょちょちょ、喧嘩しないでくださいよ二人共~。マァムが泣き出したらどうするんですか?」
「ぐ……おいアバン、料理はできたのか?」
「ええ、もう出来てますよ。並べるのはレイラに任せて私は皆さんを呼びに来ました」
「アンタの作る料理は美味いからのぅ、楽しみや。ああ、そういえばな?さっき魔の森であったんやけど……」
◇◇◇◇◇
魔王ハドラーの居城、地底魔城。魔王は今日も闘技場でキラーマシンを弄ったり、腹心を相手に修行を積む。最近はヒュンケルとかいう坊やへの態度も軟化してきて、なんだか平和な雰囲気だ。
腹心であるバルトス君も、坊やのお守りにハドラー君の稽古に付き合い部下への指導にとてんやわんや。もう少しのんびりしてもいいんじゃないかと思う。まぁ、ここの住民には慕われているようだ。
魔王だっていうのに、随分とのほほんとした雰囲気じゃあないか。ちょっかいをかけてみたくなるけど、派手な真似は避けたい。こうしてのんびり観察するのも悪くないし、これはこれでいいかな?もっとも、度が過ぎると本業を忘れてしまうかもしれないから、適度に行動している。ここではないが、ね。
そういえば以前ロン・ベルクの所にいたあの子供たち、キラーマシンを連れていたけどどこで手に入れたんだろうか。修復した、と言っていたからには入手経路があるはず。まさかここから直接、とかだったりするのかな?キラーマシン程度なら簡単に始末できるからいいが、射手の名を冠したマシン兵、なんてのが出てきちゃたまったもんじゃない。もっとも、ただの子供には無理だろう。無理ではあっても、何らかの形で驚異にはなるかもしれないし、今のうちにババを抜いた方がいいかもしれない。
いや、待てよ。あの性格なら仲間との仲違いはしそうにない、じゃあそこを突けばどうなる?どうやら人間嫌いなようだし、何か決定的な、人間との敵対を決意させるような事があれば――引き抜く事は不可能ではない、かな?
「ウフフッ……考える価値はあるね、ちょっとピロロに話してくるかな」
そう呟いて、ボクは地底魔城の外に出た。外は穏やかな風が吹いていて、とてもすぐそこに魔王の居城があるとは思えないようなのどかさだ。
さて、ピロロはどこかな?外を散歩している、とは言っていたが。そう考えて歩き出した時、背後に誰かの気配を感じた。
「……」
ゆっくりと振り向いて、その姿を確認したボクは少しばかり嬉しそうな声を出した。勿論フリではなく本意だ。
「なぁんだ、誰かと思ったらミストじゃないか。どうしたんだい、こんな所で?」
「……」
「やれやれ、やっぱりダンマリかい?君ったら必要がない限り殆ど喋らないんだもんなぁ、そこが格好いいんだけどね。でも君はもうちょっと笑顔があってもいいと思うよ。ほら、スマイルスマイル」
「……」
ああ、彼はやっぱり喋らない。無視しなかったり、苦笑めいた雰囲気が伝わってくる辺り、話を聞いてくれてるのは分かるけどもたまには彼の声が聞きたいと思わないでもない。今だってミストがツッコミを入れられるようにボケてるんだよ?ほらほらミスト、そこは言ってくれなきゃ。『お前はいつも笑顔の仮面だろう』ってさ。もしくは『私が表情を変えても分からんだろう』ってね。そうしたらボクは言うのさ。
『仮面が浮かべている表情が偽物とは限らないよ?』とか、『ボクはミストが好きだからすぐ分かるけどなぁ』ってね。断っておくけどボクにそういう趣味はないよ。
それにしても、ミストは喋らないけどボクは外も内もお喋りだ。彼とは対照的、性格もそうだ。なのに何故こんなにも気が合うのかな。
「……バーン様が」
「!」
おや珍しい、口を開いた。それでも一言目が彼の敬愛する主君なのが彼らしく、またちょっぴり妬けちゃう所だ。
「私に暇を下さってな……」
「へぇ~、バーン様ったらやっぱり気前がイイねぇ。ボク、ヴェルザー様の部下辞めてこっちに就こうかなぁ?」
「フッ……好きにするといい」
「そのセリフは歓迎してるって取るよ?勿論そうだろうけど。にしてもミストってばアレだね、最近流行りのクーデレって奴かい?でも、なんでここに?」
「……」
あれ、またダンマリ。でも雰囲気的には話す気がないというよりも言いづらそうだ。ここはボクが代弁してあげなきゃあね。
「も・し・か・し・て。ボクに会いに来てくれた?フフッ、なーんて」
「……」
頷いちゃったよ。まさかの図星かい、ミスト。
「……以前、ピクニックがどうとか言っていただろう?折角バーン様が私に時間を下さったのだから使わねばな……たまにはのんびりしろ、と言われた」
「そうだね、ミストはちょっと働きすぎだ。バーン様も忙しいからって君が動くのは分かるけど、働きすぎていざって時に動けなかったら困るだろう?」
「……そうだな、反省する。バーン様やお前の言う通り、たまには……そうだな、五ヶ月に一度くらいは休もう」
「ミスト、それは世間的には過労に分類されると思うよ」
彼はたまにこうやってボケるが、それが天然だと知っているのはボクとピロロ、そしてバーン様ぐらいだ。勿論ミストはそうとは思ってない。
「あ、そういえばピロロを探してたんだ。さ、一緒に行こうか、ミスト」
「うむ」
たまにこうやって普通に会話してくれる辺り、デレがあると見ていいのかな。クーデレとかいう謎性格だという前提だけども。これだからこの生活は辞められない。冥竜王の所にいるよりもよっぽど充実してる。
ふと、あの坊や達もこんな感じなのかな、と考える。そうだろう、まず間違いなく今の自分と同じような思いを抱くだろう。さっきは人間に敵対させるための云々考えていたが、実際ボクがその立場だったらと思うとゾッとする。実行するのは勿論ボクなんだけど。それでもミストをどうこうされたり、今の生活が続けられなくなるのは困るな。
まぁいいか、今はこの時間を楽しもう、それがいい。
草原に寝転がって昼寝をしているピロロを見つけて二人で苦笑するのは、その後すぐだった。
これまでに出てきたキャラが今どんな感じか、というお話。
カンダタとかロンはいないけど、ほぼ変わってないという事で。
不思議なのは最後の辺りを書くとき、異常に筆がサラサラ進んだ事。解せぬ。