現実逃避にGGXrdやってました。ラムちゃん楽しい。
「んじゃま、行ってくるわ」
「行ってくるニ」
「行ってきます」
「おう、今度は連れ増やすなよ?」
「無茶すんなよー」
ロンとジャンクに見送られ、俺たちはランカークスを後にした。ロンはなんでまたそんな親御さんみたいなセリフを……ジャンクの気遣いは普通にありがたいんだが。
さて、当面の目的地だが……
「どこに行こうかねぇ」
「無計画かニ」
「違うぞ、これは行き当たりばったりって奴だ」
「同じじゃないか」
いやいや、無計画とは似て非なるものであってだな……やっぱ同じだった。
行った事がない場所っていうと、ロモスやオーザム、それにカールか。オーザムは寒冷な地域らしいし、プチット族のアベルにはちょっとキツイだろう。カールとロモスのどちらにするか。どーちーらーにーしーよーかーなーっと。
「という訳で目的地がロモス王国に決定しましたー」
「何がという訳なのかは分からないけど、確かあの辺りには魔の森と呼ばれる場所があったっけな、そこも行ってみないか?」
「いい案だニ、それじゃあ早速レッツゴーだニ」
◇◇◇◇◇
ロモス領内にある魔の森と呼ばれる場所。そこは動植物系の魔物が多く住まう危険な場所である。魔王ハドラーが台頭してからはその影響で凶暴化した獣も多く、近隣の住民は決してそこに踏み入らないようにしていた。
それでも何かしらの用事があって踏み込まざるを得ない場合もある。例えば薬草などの、魔の森にしかないアイテムが必要な場合、通常は腕の立つ護衛を雇うなりして入る。だが、金を持たない者にとってはそうもいかない。その場合は諦めるか、運良く旅の者が持っている事を期待して待つしかない。
カイン達のように腕試しと称して森に入った者もいるが、殆どが命からがら逃げ帰っている。そういった者を多く見ているだけに、人々は益々恐怖する。
この森の存在感を一際際立たせるのが、獣王と呼ばれる魔物の存在である。その他の魔物とは比べ物にならない程強く、獣王と呼ばれるに相応しい強さだ、とは実際戦って逃げ帰った者の弁である。
その男は、自分の腕に自信があった為に獣王に挑み、敗北し、また挑み。そんな事を繰り返していた。今日もまた、男は負けた。
「フン、これで何回目だ?いい加減に諦めたらどうだ」
「ハァ、ハァッ……ま、まだまだや。わいが勝つまで諦めんで……」
男は満身創痍で、息も絶え絶えになりながらも目の輝きは失われていなかった。リザードマンと相対している彼は、武闘家であった。
「人間の身でこうも諦めずに向かってこれることは賞賛するが……何度やっても同じだ。お前の技ではオレにダメージは与えられん」
ハッキリと告げられ、悔しげに獣王を睨みつける。だが、事実今まで彼の攻撃でまともにダメージを与えられたのは彼の流派の奥義のみだった。
「覇王翔吼拳、だったか?もはやアレを撃つ体力はあるまい。これまでだ」
「ハァ、グッ……んなわけあるかい、全然余裕や余裕」
「強がりが目に見えているぞ。もはや立つのも苦しかろう、ひと思いに……」
そう言って獣王は斧を構えた。強がっては見せたものの、やはり体力の限界だ。手足もろくに動かない。
獣王が斧を振りかぶった。最早これまでか、と目を閉じ、その刃を受け入れようとした。
だが、いつまで経っても痛みが来ない。何事かと思い、彼が目を開けると、獣王はあらぬ方向を睨みつけている。
「どこ見とんねん、やるならはよ――」
「そこにいる奴ら、隠れているのは分かっている。出てこい」
「ッ!?」
その言葉を聞いて、目を見開く男。声をかけられた茂みから出てきたのは――キラーマシン、ロビンであった。
「悪いな、邪魔する気はなかったんだが。とはいえ、見てしまったもんはしょうがないだろう?」
次いで頭を振りながら出てきたのはカインだった。後にはラーハルトとアベルも続いている。
「人間の小僧か……引っ込んでいろ、死にたくなければな」
「はよ帰れや坊。これはわいらの問題や、すっこんどれ……」
「おいカイン、ああ言ってるけどどうするんだ?」
ラーハルトにそう尋ねられ、カインは顎に手を当ててこう言った。
「いやまぁ、決闘とか邪魔するつもりないけどさ、もう勝負ついてるから」
「ふざけんなや、わいはまだ負けて……痛ぅ!」
「……確かにその小僧の言うとおりだ、もう勝負は決した。止められても問題はない」
「だったら――」
「しかし興を削がれたのも事実、お前たちがこの獣王クロコダインを相手してみるか?」
「ハァっ!?」
驚きの声を上げたのは男のみで、カイン達の反応は実にあっさりとしたものだった。
「あ、いいぞ」
「中々手強そうだニ、いい経験になるニ」
「オレは構わないぞ。この槍を全力で振るえる相手が欲しかった所だ」
そう言いながらカインが筒から極楽鳥を出し、クロコダインを含めた全員にベホマラーをかけさせた。
「どういうつもりだ?」
「勝負はフェアじゃないとな」
「グフフッ……中々骨のある奴よ。名はなんと言う?」
「カイン・R・ハインライン」
「アベルだニ」
「ラーハルトだ」
「カイン、アベル、そしてラーハルトよ……この獣王クロコダインが相手だッ!」
「おうよ、あ、ロビン。そっちのロバ守っとけ」
「了解」
「坊、一体何者なんや……」
「通りすがりの旅人だよ、ロバート・ガルシア」
「なんや、わいの事知っとるんか……?」
「……有名だぜ、アンタ。さて、お喋りはここまでだ。行くぞ」
ロバートをロビンと極楽鳥が守るように挟み、カイン達が散開してクロコダインの前に立つ。クロコダインも斧を構え、戦いの準備は整った。
「「行くぞッ!!」」
最初に動いたのはラーハルトだった。持ち前のスピードを活かし、英雄の槍の切先をクロコダインの腹部に突き出す。
「ヌンッ!」
しかしクロコダインは冷静に腹部に闘気を集中する事で攻撃を弾き、態勢が崩れたラーハルトを狙い、斧を振り上げる。
身体を捻ってかろうじて躱すが、その隙を見逃す獣王ではない。すかさず左手から闘気弾が放たれた。
放たれた闘気弾は、飛び込んだアベルの構える盾に阻まれる。その間にラーハルトは立て直し、アベルと共に後ろに飛び退った。
「シュワルツパンツァーッ!」
ちょうどラーハルト達が退いた所に、左腕に轟々と燃え盛る紫炎を纏わせ、カインが突進してきた。その腕はしっかりとクロコダインの胴を捉えた。
「甘いわぁッッ!」
獣王は炎にも怯まず、逆にカインの腕を掴んだ。ガッシリとしたクロコダインの腕が、ギシギシとカインの腕を潰そうと音を立てた。
「甘いのはどっちだ、よッ!」
カインも怯まず、瞬間的に左腕から闘気を爆発させ、その勢いを以てクロコダインの腕から逃れた。力自慢の獣王といえど、強力な闘気を武器とし防具としているカインの腕を簡単に握りつぶす事はできなかった。
「グフフッ、中々やるな……少しばかり本気を出そう」
そう言ってクロコダインは片腕に凄まじい闘気を込めだした。その余波でクロコダインが右肩に付けていた防具が弾け飛ぶ。
「見よ、これがこの獣王クロコダインが秘義ッ!受ければただではすまんぞ……!」
身構えるカイン達に向けて、クロコダインは自信に満ちた笑みを浮かべた。その一撃に相当の信頼があるのだろう、正しく必殺の一撃というのが見て取れる。
「受けてみるがいい、このオレの――獣王痛恨擊をーッ!」
言葉とともに先程よりも肥大化した腕が突き出される。それと同時に、凄まじい勢いの闘気流が吹き荒れる。闘気の渦に巻き込まれ、大木が何本も粉砕されていく。その威力を間近で見たロバートは身を凍らせた。
咄嗟に横に飛び退ったラーハルトとアベルは無傷で済んだが、直撃したカインは大きく吹き飛ばされた。
「カイン!」
「フン、まともにくらったか……生きてはいるだろうが、最早身体はズタズタ。これ以上は……!?」
クロコダインが目を見開いた。立ち上がる事は出来ないだろうと考えていた相手が、平然と起き上がったのだ。
「いってぇなぁ、オイ。大層な名前なだけはあるな、まともにくらったら流石にお陀仏だったかもしれん」
「キサマ……何故ろくにダメージがない!?獣王痛恨擊は確かにキサマを巻き込んだハズ……ッ!」
「ああ、巻き込まれたさ。だがな、さっきの技は凝縮された闘気を放つ技だろう?」
大仰な仕草で肩を竦めながら歩み寄ってきて、最初の辺りの距離に戻った所でこう言った。
「生憎と同じ系統の技は俺も使えるんでね、闘気流の流れを見切る事は容易かった。勢いが強かったせいで吹っ飛ばされはしたが、渦の流れと同じ方向に俺が纏っている闘気を移動させる事で、威力をほぼ殺したってだけだ」
「ヌ、ヌゥッ……!!」
自慢の一撃を初見であっさりと攻略されたクロコダインは怒りではなく、感嘆の唸りを漏らした。驚愕や悔しさもあるが、何より一歩間違えば再起不能となるやり方を取り、あまつさえそれを成功させた胆力を賞賛した。
「見事だ、カインよ……オレの獣王痛恨擊を真っ向から破ったのはお前が初めてだ。見事と言う他はあるまいて。さぁ……次はお前たちが見せてみろ、その力をッ!」
「いいだろう、ではまずはこのラーハルトの技を受けてもらう」
ラーハルトがそう言って一歩前に出ると、槍を高速で回し始めた。
「……これぞ修行の中で編み出したオレの奥義ッ!修行の日々、仲間の教え、その結晶だ!その名も……」
高く飛び上がり、必殺の斬撃を繰り出した。圧倒的な加速度+ロン・ベルクの生み出した名槍から繰り出される一撃は威力十二分。
「ハーケンディストール!!」
ラーハルトの槍の一撃をクロコダインは両腕を交差させ、闘気で力を高めた上で防御した。槍と腕はしばしせめぎ合っていたが、やがて大きな音を立てて両者が大きく体勢を崩した。
「グムゥ……」
「チッ……」
「今度はボキの番だニ」
そう言ってアベルが颯爽と駆け出し、先程のラーハルトのように高く飛び上がる。
そして剣に稲妻を落とし、こう叫んだ。
「勇者のイカヅチ……受けてみるがいいニ!」
「魔法と剣を同時に扱うとはッ……!」
クロコダインは驚愕した。通常、魔法を扱う時は武器を使えず、剣を扱う時は魔法は扱えない。それは人間も魔物も同じである。単純に制御できない、というのもあるが、何よりも生半可な技量や才ではそれを可能とするには程遠い。それを可能とできる者といえば――
(――勇者ッッ――!!)
体躯は己より遥かに小さいものの、今この瞬間のアベルは確かに勇者として見られていた。
「これがボキの必殺剣……デインブレイクだニッ!」
雷鳴を響かせながら、勇者の剣が獣王に叩き込まれた。
「グオオオオオオーーーッッッ!!」
強烈な熱と光、そして見た目からは想像もできない程強い膂力によって放たれた攻撃には流石の獣王も叫び声をあげた。
だが、それは悲鳴ではない。己を鼓舞する雄叫びである。これ程の攻撃を長くは続けられまい、そう見たクロコダインは全神経を防御に回した。先程のハーケンディストールで負った傷を正確に切り込んだ一撃は、さしもの獣王といえど看過できないダメージとなるのは明白だった。
「この獣王をッ……」
そう低く呟き。
「舐めるなァーーーッ!」
「ニ゛――ッ!」
叫びとともに振り払った腕が、アベルを吹き飛ばした。ボテっ、と音を立てて落ちてきたアベルを見て、クロコダインは僅かの安堵と驚愕の混じった息を吐いた。
「最後は俺だな」
カインがそう言って間合いを開ける。
「反撃するならしても構わんぜ。どう反撃しようと、或いは防ごうとも俺を止める事はできない」
「グフフッ……後悔するなよ、小僧」
そう言ってクロコダインは再び獣王痛恨擊の構えを取った。先程の攻防によるダメージのせいで威力が落ちる事を承知でもう一度奥義を放とうというのだ。
「今一度受けてみるがいいッ!獣王痛恨擊――ッッ!!」
闘気流が迫ってきても、カインは動こうとしなかった。じっと獣王痛恨擊を見据えたまま棒立ちになっている。
「何やっとんねん坊!躱すか攻撃するかせい、なんで動かんのや!」
焦ったロバートから声が飛んだ。しかしそれも意に介さず、カインはひたすらタイミングを見計らっていた。
(なんだ、何を考えている……?先程はダメージを防いでも吹き飛ばされていた、とても耐えようとしているようには見えんし……ハッ、まッ、まさかッ!?)
クロコダインが目を見開くと同時に、カインが思い切り地を蹴った。身体を回転させながら、さながらドリルのように闘気の渦に突っ込んでいく。
「サイコクラッシャーーッ!」
とうとう痛恨擊に飛び込んだ。だが、その回転の勢いは止まっていない。カインがダメージを負った様子もなく、ロバートは驚愕した。アベルとラーハルトは、アイツらしいやり方だな、と見ているだけだが。
「そうか、先程と同じ……今度は自らに闘気の渦を纏わせたかッ!しかも獣王痛恨擊とは逆の回転……僅かにでも目測が狂えば二つの渦に巻き込まれてズタズタとなるというのに、なんという無茶をッ……!本当に子供か、あのような闘気の扱い方……ッ!」
クロコダインが驚愕している間に、カインは獣王痛恨擊をやり過ごしていた。地に立ち、真っ直ぐに走ってきた。
「カァァーッッ!!」
瞬間、クロコダインの口からブレスが吐き出された。ヒートブレスと呼ばれる彼の奥の手だ。何かされる前にこれで動きを鈍らせようという目論見で放ったブレスは、見事に空を切った。
「な、なにィッ、は、速いッ……!」
ヒートブレスが届く前に、カインは既にクロコダインの懐へ潜り込んでいた。そして、その技の準備も既に整っていた。
「デッドリー……」
「う、うおおおおおおおおおおッッ!!」
「レェイブッッ!!」
カインの拳と蹴りの嵐がクロコダインのガードを弾き飛ばしながら、その強固な身体に強烈な衝撃を与えていく。防ごうにも防ぐ事のできないその乱舞は、いつ終わるのかもしれないほど長く、重く、そして優美だった。
デッドリーレイブの締めとして、両の手から紫炎と共に衝撃波が撃ち出された。獣王の鎧を穿ち、獣王そのものさえも大きく吹き飛ばした。
「グ、オォォォッッ……!」
呻き声を上げながらクロコダインが立ち上がり、息も絶え絶えになりながらも言った。
「この獣王が、こんな小さな小僧どもに……破れるとはッ!不覚ッ……!」
「身体の大小に意味なんてないよ。やれる事がそれぞれ違うだけ。違うかい?」
「フッ……そうだな、その通りだ……お前たちを子供だと思って舐めてかかったツケか……」
そう言って、晴れやかな笑顔を浮かべ、獣王はこう宣言した。
「オレの――負けだ」
23話目にしてようやくまとも(?)な戦闘。しかし駆け足。