ラーハルト達がロンの所で修行をするようになって早三ヶ月が過ぎた。
ラーハルトは元々槍の扱いに才覚があったようで、特に速さでは最早カインを完全に上回っていた。カインは相変わらず技を再現しようと悪戦苦闘しているようだが、闘気の扱いが益々向上している。ロビンの改良にも取り組んでいるが、やや行き詰まっているようだ。アベルは一番の弱点である魔力の不足を解消する……とまではいかないが、上級呪文も何発かは使えるぐらいには成長していた。ロンに言わせるとまだまだだそうだが。
この夜は、カインとロンが外で月を眺めながら話をしていた。ロンは相変わらず月見酒と宣いながら酒を飲んでいる。カインは一応自重して茶を飲んでいる。
「それで?話ってのはなんだ」
「前話した金属の事なんだけどさ、ちょっとこのデータ見てくれ」
そう言ってカインが紙をロンに手渡す。怪訝な顔をして受け取ったロンが、徐々に目を見開いてく。
「お前こんなもんどこで……」
「ハドラーの所で本読んでる時にあったからロビンにデータコピーしてきた。これ作ろうかと思うんだけど、あの量じゃ足りなさそうだよなぁ」
手帳をトントンと指で叩きながらカインが唸る。手帳に記された予定量には例の金属、他にも様々な素材が不足していた。これさえ作ればかなりの戦力になるのに、とぼやきながら溜息を吐いた。
「確かにな、コイツを作るにゃあ色々必要だろうし、かなり強力だってのも分かる……だがカイン、お前はコレを作る事が出来ると思うのか?」
「え、出来るよ」
あっけらかんと答えるカインの姿に思わず酒を吹き出してしまった。
「簡単に答えるが、本当にそう思うのか?」
「まぁ不可能じゃあないだろ。作る時はロンにも手伝ってもらうし」
「おい初耳だぞそれ」
「それはそれとして」
「おい」
「常時マホカンタ展開ってのはどうにかならないかねぇ」
「……あの金属をボディに使えばそれに近しい効果は得られる。あくまで反射じゃなく無効化だから数段劣るだろうが、汎用性はあるかもな」
「あ、その手があったか。なら課題の一つはクリア、と。とりあえずそのうち素材集めに行くかな」
「ラーハルトもお前に劣らないぐらいには強くなったし、いいんじゃないか?強いて言えば回復役なんかが欲しいところだな。傷を癒す手段がアベルのベホイミと薬草しかないだろ?」
「当たらなければどうということはない」
「そのセリフははぐれメタル並の回避力を身につけてから言え」
いつものように雑談を交えながら相談をして夜は更けていった。
――ロンに手渡した紙にはあるマシン兵の記述が書いてあった。これはハドラーも素材がなかった為に製作を断念したというマシン兵である。
そのマシン兵は強力無比な攻撃を繰り出し、様々な剣技を使いこなす。そのモノアイからは高熱のレーザーを撃ち、機体下部に装備したボウガンで敵を撃ち抜く。おまけに呪文を放たれてもそのボディに纏ったマホカンタの力が跳ね返し、キラーマシン以上に強固な機体は生半可な事では絶対に傷つかない。いつかのカインのように弱点を狙おうと胴体を繋ぐチューブを狙うと、体を分離させて回避してしまう。その分離した状態でもお構いなしに剣戟や射撃が飛んでくるのだからたまったものではない。
ある世界の海底に存在する宝物庫では宝を守る番人として幾多の冒険者を葬ったという。
キラーマシンの改良型であるキラーマシン2、その更に改良されたモノがこのマシン兵である。その強さはキラーマシンやその前身であるプロトキラーとは比べるまでもない。
その紙には、“キラーマジンガ”と書かれていた。
◇◇◇◇◇
翌日、ロンはラーハルトに武器を作る旨を伝えた。
「お前の体格に合わせたお前だけの武器だ。大事に扱えよ」
「ありがとうロンさん、オレのためにわざわざ……何か手伝える事はないかな?」
「んじゃとりあえず中入れ、やる事あるからな。おい、カイン!」
アベルを放り投げて遊んでいるカインに声をかけて呼び寄せる。キャッチされなかったアベルが地面に激突して鈍い音を立てたがお構いなしに話は進められた。
「俺は暫く武器作りに専念するから邪魔しないようにな。時間かかるからどっか行っててもいいぞ」
「あいよ。んじゃ適当に出歩くわ」
そう言ってロビンに向けて歩を進めようとしたカインにアベルのライデインが降り注いだ。雷鳴を無視しながらロン達は家の中に入り、パタリとドアを閉めた。ライデインをくらったカインも苦笑いしている。アベルも気分は治ったようだ。
気を取り直してロビンを待機させている所まで歩いて行った二人の前に、一匹の魔物が現れた。正確には、ロビンの前だが。
その小さな魔物は、“ひとつめピエロ”と呼ばれる種族だった。何故こんな所に、と訝しげに思いつつもカインはそのひとつめピエロに話しかけた。
「おーい、ウチのロビンに何してんだお前」
突然人間に話しかけられたにも関わらず、ひとつめピエロは些かも動じていないようだ。カインの声にロビンを触る手を止め振り返った。
「ねぇねぇ、このキラーマシンって君が作ったの?」
「……作ったというより修理しただがな。それよりお前は何をしている?」
「やだなぁ、そんなに怖い顔しないでよ。ちょっと珍しい物があったら触ってみたくなるでしょ?誰だってそーなるだろうしボクもそーなる」
飄々としていてどうにも形を掴みづらい、そういう印象を抱かせる魔物だった。ふわふわと空に浮かびながら、品定めでもするかのような目でこちらを見ている。カインは直感的に良くない者だと思い、アベルは最初からそう思っていたようで既に臨戦態勢である。
「もー、短気だなぁ。それにしても君は変だね、魔物と一緒にいるなんて!もしかしたら君も魔物だったりして?ああ怖い、ボクなんか食べられちゃうかも!」
「うるさい奴だな、さっさとどこかへ行け」
「仕方ないや、それじゃあね……異端者クン」
そう言ってひとつめピエロはどこかへ飛び去っていった。
「カイン……あんなチビの言うことなんて気にするなニ。例え異端者だろうと何だろうと、このボキが付いてるニ!だから心配するなニ、ボキだけじゃなくラーハルトもロンも、アバン達だってカインの優しさを知ってるんだニ。アルキードの時みたいな人間が嫌っても、ボキ達はカインの味方だニ」
「うるせぇよ……分かってるよそんな事は。信頼してるからこうやって一緒にいるんだぞ、そもそも有象無象の連中なんざどうでもいいっての。俺はお前やラーハルトみたいに自分の周りの奴だけが大事なんだよ」
アベルが熱弁を振るうのは特に珍しい事でもないのだが、この時ばかりはカインも素直に受け止めた。少々気恥しいのか若干刺々しい言い方だったが、そろそろ付き合いも長くなってきたアベルにはカインのそういった所も理解できるようになっていた。
「さ、気を取り直して適当に出かけてこようぜ」
「そうだニ、何か良い物が見つかればいいんだけどニ」
そうしていつもの雰囲気を取り戻し、二人はロビンに乗って去っていった。
「仲がイイんだねぇ、お二人さん……ウフフフフ!」
「どうしようか?彼らにちょっかいかけるのも簡単だが、あの様子だとちょっとやそっとじゃ仲違いしそうもない。一度帰るかい、それとも別のところに行くかい?」
「ンー……そうだね、ボク達も別のところへ行こう。さっき話に出てきたアルキードにでも行く?それともハドラー君の地底魔城とか」
「ふむ、どっちも面白そうだねぇ。暫くは仕事のお呼びもないだろうし、ボクらも楽しもうじゃあないか。とは言っても、怒られない程度に、だがね」
「怒られるのは嫌だもんね、いつもどおり影から色々やっちゃおうか」
「ああ、そうだね。折角今は自由なんだ、自由にやらなきゃ。彼処に居た時は仕事が多かったからねぇ……楽しいからいいんだけど。そうだ、今度誰かを誘ってピクニックにでも出かけようか?消し飛ぶ前に堪能しなきゃ勿体無い」
「うわぁ、楽しそう!でも来てくれるかなぁ」
「フフフ、どうだろうね。そこも含めて楽しみだ。さ、ボクらも行こう」
「うん!そうだね、キルバーン!」