餓狼 MARK OF THE DRAGONS   作:悪霊さん

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明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。

書いてる最中に一回吹っ飛びました。悲しいなぁ


第19話 移設、学校、旅

 墓の移設先としてカンダタとテラン王、そしてアバンが選んだのは、竜の騎士の神殿が沈んでいるという湖の畔だった。

 竜の騎士についての事は、地底魔城で読んだ書物に載っていたので多少は知っている。完璧に理解しているか、と聞かれれば否だが。そういえばハドラーが『俺を倒しに来てもおかしくないはずなんだが』とか言ってたっけ。

 

「なぁ、カイン」

 

「ん、どうしたラーハルト」

 

 ボーッと立ってのんびり考え事をしていると、ラーハルトに声をかけられた。何かあったのかと思ったが、不安げというより困った感じだったので少し安心した。

 

「ちょっと相談なんだけど……その、これからはオレも一緒に旅する訳だろ?でも、オレは呪文が苦手だし、素手もちょっとキツイ。何か武器とかないかな?」

 

「あー……確かに用意した方がいいな。武器なんてアベルが使ってる小さい剣しかないし。ちょっと待っててくれ、考えてくる。っと、ついでにちょっとカンダタに用事あるから行ってくるわ」

 

「ああ、悪い」

 

 確かになー、俺みたいな戦い方をラーハルトにさせるのも無茶だな。俺は闘気や色々な格ゲー技あるし、アベルも剣と呪文が使えるから気にしてなかったが、どうしようかな。

 そう考えながら覆面マントを探すと、ちょうどテランの国王と話しているところだった。よく見るとアベルもいる。

 

「よう、カンダタ。ちょっといいか」

 

「おうカイン。ちょっと待ってくれ、今王様に許可貰ってるところだから」

 

「おお、君がカイン・R・ハインライン君かね。話は聞いておる、友人のためにここまで我を通し皆を動かすとは感心感心。彼のご両親の墓のことは任せたまえ、カンダタ義賊団は正式に我が国の兵として扱う事になったからの。何かあったらいつでも王宮の門を叩きなさい」

 

「ありがとうございます、これで我が友人も安心した事でしょう。この恩義にはいずれ報いたいところです」

 

「敬語似合わないニ」

 

「うるせぇ、俺だって分かってるよ。でも一応王様の前でぐらいこうしないとよ」

 

 しかも文法的にも用法的にもあってるかどうか分からない。下手すりゃ不敬とみなされたりするかもしれないけど、敬語なんて覚える気にならない。

 

「ホッホッホ、仲が良いのう。そう畏まらずともいいんじゃよ、あるがままの其方でいるがええ」

 

 テランの国王……フォルケン王は白い髭を蓄えた優しげな老人で、見た目子供な俺や見た目変態なカンダタ、そして魔物であるアベルにも紳士的だった。うん、国王が優しそうな人でよかったわ。傲慢な王とかだったら下手すりゃぶん殴っちまいそうだもんな。そういえばフォルケン王は身体が弱いらしいが大丈夫だろうか。

 なんでもテランでは争いの種になるとして、道具や武器の製造を禁じているんだそうだ。そうは言っても薬草なんかはなければ困るし、直接採りに行こうとすると凶暴化した野生動物や魔物に襲われる心配がある。だから今日日の商人は護衛を雇うんだが、カンダタ達は団員全員がそれなりに強いため、護衛を雇う必要がない。結果、かなり自由に動く事ができる。まぁつまりは、作れないからカンダタ達に既製品の薬草なんかを持ってきてもらおうって事らしい。当然武器は禁止で、日用品や薬など限定且つ、今までどおりの行商を認める代わりに有事の際にはテランの兵として戦う事にはなるらしいが。

 ただ、テランが何処かに侵略される事はまずないだろうとも国王は言っている。その理由が、“侵略価値がない”からだという。確かに、普通の人間は広い国土や資源なんかを求めて侵略するだろうが、テランにはそのどちらもない。故に少なくとも最初に侵略されるような事はないだろうという考えだ。もっとも、兵力も殆ど無いため襲われたらどうしようもない。ここを侵略されるのは俺も困るし、何か対策を講じなければ。俺としてはテランに伝わる伝承や竜の騎士に纏わる情報とか、そういうもんはかなり貴重なんだがな。

 

 

「さて、いいぞ。待たせたな、カイン。で、例の件か?」

 

「ああ、見せてくれ。今掃除とかさせてるが、少し時間がかかるだろうからな」

 

 俺が連れてきた――“ラムダ”と名付けたメイドロボだが、今は墓の掃除、物資の準備その他諸々を任せていた。見た目が翡翠さんなのに名前が某第十一素体なのは気にしてはいけない。任せてる間は暇だから、カンダタが仕入れた商品を見させて貰うことにした。前回は見られなかったからな。さて、どんな物があるかな、楽しみだ。鉱石や何かで上質な物があればいいんだが。

 

 

 

 

「あいよ、好きなもん買ってくれ」

 

「思った以上に色々あるんだな……これはプラチナ鉱石か。こっちの石は?」

 

「そいつは幻魔石だ。幻魔の加護を受けた石だって噂だが、詳しい事は分かってない。一説ではとんでもないお宝の素材にもなるらしいが、どの道扱う技術がなきゃあ無理だな」

 

 鉱石以外にも掘り出し物が沢山あって目移りしてしまうな。特薬草や力の盾とか、一体どこから手に入れてるんだ?特薬草は兎も角盾はパーティの中に装備できるのがいないから買わないが、アバン達も買ったらいいんじゃないか?

 

「その服はなんだ?」

 

「これはよく分かんねぇんだよな。戦闘データを収集して肉体にふぃーどばっくできるとか書いてあったが……どうやら壊れてるらしい」

 

 ネスツ驚異の科学力……それはさておき、色々見てるうちに、銀色の鉱石と青い宝石の着いた指輪を見つけた。この指輪、見たことある気がするな。なんだっけ?

 

「そいつを手に取るとは流石御目が高い!その金属はな、どんな呪文でも弾いちまうんだ。その昔魔界の名工がそいつを使って武器を作り、何者かに贈ったそうな。その武器は鎧の魔剣や鎧の魔槍とか、協力な武具だそうでな……まぁあくまで伝説みたいなもんだが、どうだい、ウチに鍛冶が出来る奴もいるからちょっと作ってみないか?安くしとくぜ」

 

「ン……いや、鉱石は買うが、俺の知り合いにも腕の良い鍛冶師がいるんでな、そいつに頼むよ。こっちの指輪はなんだ?」

 

「そうか、残念だな……これは祈りの指輪と言ってな、指に嵌めて祈りを捧げると魔力が」

 

「俺には必要ないな」

 

「判断速ぇよ!もうちょっと思案しろよなー……さて、これで全部か?」

 

「あぁ、いくらだ?」

 

「全部で9200といいたいところだが、特別に9000Gポッキリだ。いいか?」

 

「悪いな、これからも頼むよ」

 

「毎度有り~」

 

 中々に良い買い物が出来た。これからも贔屓にしておこう……おっと、さっきの金属の話もメモしておかないとな。

 その後ロビンを呼んで金属を内部に収納させ、ラムダの所へ向かった。そろそろ終わっているだろう。

 

「マスター、掃除完了致しました。次は何をしましょう」

 

「ん、ご苦労。後は待機しててくれ」

 

「了解しました」

 

 今喋ってたのがラムダだ。最初期のロビンや某第十一素体に比べれば大分人間味が増したはずだ。相変わらず声に抑揚が無いのは問題だが。因みに殆ど喋らないがロビンもラムダと同じぐらい滑らかに喋れるようになった。……俺の周り、魔族とマシンばっかりだな……別にいいけど。

 

「さて、墓参りだな。ラーハルトもアベルもしっかり挨拶しとけよ」

 

「ああ、ちゃんと行ってきますって伝えないとな……」

 

「じゃあ次に来た時はただいまだニ」

 

「そうだな、また三人でただいまって言いに帰ってくるんだ。その時にはオレももっと成長してないとな」

 

 そうしてカンダタやアバン達が見守る中、俺達は無事に墓参りを終えた。

ふと空を仰ぎ見ると、澄んだ青空が目に広がった。この綺麗な空の下でなら、安心して眠れるだろう。いつになく穏やかな気分になって感傷に浸っていると、アバンが声をかけてきた。

 

「ありがとうよ、助かった。俺やアベルだけじゃこうはいかなかったろうな、アンタのおかげだ」

 

「ありがとう、アバンさん。きっと両親も喜んでくれる」

 

「流石はボキを差し置いて勇者になっただけあるニ。褒めてやるニ」

 

「アハハ……いえ、此方こそ。こうして無事に終わってほっとしましたよ」

 

「そうだな、それが何よりだ。後で王様やカンダタ達にも挨拶に行かないと……そういえばマトリフはどうしたんだ?」

 

 辺りを見回してもあのセクハラ爺の姿は無かった。墓の方を見ても待機中のラムダしかいない。

 

「ああ、マトリフさんならアルキードに置いてきた仲間のところに行ってます。黙ってきちゃいましたからね」

 

 苦笑するアバンに釣られて、小さく笑いが起こる。先日の苛立ちが嘘のように晴れ晴れとした気分だ。

 

「ところで三人とも、ちょっとご相談なんですが」

 

 揃って首を傾げる俺達に言ったアバンの次のセリフで、ラーハルトとアベルは首を更に傾け、俺はげんなりとした表情になった。

 

 

 

「“学校”へ行ってみませんか?」

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 この世界ではないが、バトランドという国のイムルという小さな村にも学校というものはある。俺が元いた世界のように義務教育なんてもんがあるわけじゃあないが、こういったものは意外とあちこちにあるらしい。大体は教会と一緒になってたりとかで目立たないようだが。

 ただ、経済的な事情から通えない者も多く、識字率もそこまでではないそうだ。逆に言えばそこさえなんとかなればって事だが。

 このテランもご多分に漏れず、学校があった。とはいっても通っている子供は数名程度、教員も教会のシスターが善意でやっているんだそうな。

 

 で、そんな学校で何をしているのかというと。

 

「はーい皆さん、エプロンは着けましたか?手は洗いました?調理をする準備はOKですか~?」

 

 生徒達が元気よく返事をする。俺とラーハルトは呆気に取られ、アベルは未だに理解していなかった。

 さっきのアバンのセリフで分かると思うが、何故か調理実習に参加させられているのだ。さっきまでの流れからこれはおかしいだろう。というかなんでシスターじゃなくアンタが指導してるんだよ。

 

「解せぬ……」

 

「なんでこんな事になってるんだ?」

 

「ボキにはさっぱり理解できないニ」

 

「はいはい、カイン君もラーハルト君もアベル君も、まずは野菜を切っちゃってくださいね」

 

 手刀で斬ってもいいんだろうか。

 

「今日はシチューを作りますよー」

 

「……ラーハルト、料理できるか?」

 

「え、ああ、一人で暮らしてたから多少は」

 

「じゃあ任せたニ」

 

「うむ、任せた」

 

 俺もアベルも料理なんてできない。したこともない。だったらここは一番料理の得意なラーハルトに丸投げもとい任せるのが得策だろう。

 下手に手を出してダークマターなんかが出来たら目も当てられない。ダークマターはないにしても、やはり慣れた者がやるのがいいだろう。

 

「いやちょっと待て、お前らはどうするんだよ!?」

 

「サボる」

 

「だニ」

 

「待てコラ」

 

 こっそり抜け出そうとしたがラーハルトに捕まった。当然だが。分かったから肩を離してくれ、そろそろHP減りそうだ。痛い痛い痛い。

 漸く手を離してくれたが、逃げられそうにない。仕方ない、諦めるか。

 

「あー……料理した事ないですか?誰か教えてあげちゃってくれませんかね」

 

 アバンが苦笑しながら生徒に声をかけると、金髪の少女が勢いよく手を挙げた。改めてアバンが彼女に頼むと、ぱたぱたと駆けてきた。

どっかで見たことのあるような格好だが気のせいだろう。

 

「というわけで、彼女に教わりながら作ってみてください」

 

「あー……よろしく」

 

「よろしくだニ」

 

「よ、よろしく……」

 

「よろしくねー三人共。私はルミアっていうの、仲良くしてね」

 

 ルミアと名乗った少女は一応ここで最年長らしい。アベルを見ても特段大した反応を見せないのは気にしてないのかアベルの見た目故か。魔族だからと毛嫌いしない辺り好感が持てるな。

 ラーハルトとルミアに教わりながら野菜を切りながら雑談をしていると(手刀で斬ろうとしたら怒られた。何故だ)必然的に食べ物の話題になった。

 

「皆は好きなおやつとかあるの?」

 

「何か無性にアップルパイが食べたい。という訳でアップルパイが好きだ」

 

「ボキは特にこだわりは無いニ。美味しく食べられればそれでいいニ」

 

「オレもアベルと同じかな。何でも好きだぞ」

 

「そーなのかー」

 

「待って、今の返事淒いデジャブを感じた」

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

「どういう風の吹き回しだ?」

 

「何の事ですか?」

 

 調理場の外の壁に隠れるようにして、アバンとマトリフが立っていた。

マトリフは責めるというよりも訝しんでいるだけと言った体で、カインとマトリフが喧嘩していた時のような険悪なムードは欠片もない。

 

「あのボウズどもをなんでわざわざ学校に呼んだのかって事だよ。ほっといても一件落着って感じだったろ?」

 

「ええ、確かにそうでした。ただ、気になったんですよ」

 

 平時のアバンには珍しく、真面目な声だった。普段お調子者の仮面を被っているアバンだが、締めるところはしっかり締めている。普段のお調子者ではなく勇者の声だった。

 

「彼、カイン君。どう見えました?」

 

「少なくとも子供にゃ見えなかった。かといって魔族にも見えないが、だからといってまっとうな人間にも見えない。そんなところか」

 

「私もそう見えました。加えてあのマシン兵達。アレを作るだけの技術と知識を保有している子供というのも些か不自然です。伝説にあるような竜の騎士ともまた違う異質な存在です。ですが、人間に敵対している訳ではないという……」

 

「だが奴の目には諦観のようなモンが見て取れたぜ。所詮はこんなもんだろう、期待して損したっていうような」

 

「だから、せめて彼が優しく接する事のできる子供達に囲まれれば何か分かるんじゃないかと思いまして。シスターに頼まれたというのもあるんですがね」

 

 わいわいと楽しげに調理をする生徒達の声を聞きながら、カインの目つきを思い浮かべ顔をしかめるマトリフ。自分の失敗は兎も角としても、ラーハルトの件で怒りを顕にする以前に何かあったのだろうか、そう考え僅かに気が滅入る。

 

「一体どんな人生送ればあんなに擦れちまうんだかな。当初はハドラーのせいかとも思ったがどうやら違うようだし、どちらかというとハドラーとは友好的な関係らしいな。となるとやはり……」

 

「人間のせい、ですかねぇ……」

 

「そうだな……ああ、俺も気になることがあったんだが」

 

「なんですか?」

 

 腕組みをしながら唸るマトリフ。ちらりと後ろを見ながら疑問を口にした。

 

「メラゾーマが僅かなダメージしか与えられなかったのはどういうことだ、ってな。ハドラー風に言えば炎が得意だから効かないって事だろうが、それでもああやって涼しい顔でいられちゃ自信無くすぜ」

 

 言葉とは裏腹に楽しげな目をしているマトリフは、珍しい物を見たというような口調で語った。

 

「ハドラー風は兎も角としても、実際その通りなんでしょう。自らの炎で焼かれては笑い話にしかなりませんからね」

 

「つくづく変わった奴だよなぁ。さて、お前はそろそろ戻ったらどうだ?どうせアイツら今頃てんやわんやしてんだろ?」

 

「アハハ、そうですね。では私は戻ってシチューを作ってきますね。折角ですから食べていきませんか?」

 

「悪いが遠慮するぜ。ほれ、さっさと行きな」

 

 促され、軽く会釈をしてからアバンは調理場に戻っていった。

アバンが立ち去るのを暫し眺めていたが、ぼそりと呟いた。

 

「いつまで隠れてるつもりだ」

 

「流石にバレるか、気配隠してたんだがな」

 

「ハン、このマトリフ様を欺こうなんざ千年早いんだよ」

 

 木陰から姿を現したのは、件のカインだった。

サボりか、と笑いかけるマトリフに肩をすくめ、先ほどアバンが立っていた場所まで歩んできた。

 

「で、実際のところどうなんだ。人間は嫌いか?」

 

「どちらかというと嫌いだね。でも、アバンのような良い奴がいるのも知ってるしアルキードのあの街の連中みたいな下衆がいるのも知ってる。正確に言うと、俺が嫌いな事をする人間が嫌いだ」

 

 自分勝手だろう?と笑うが、そりゃ誰だってそうだろうと返される。

 

「じゃあ、お前が嫌いな事ってのはなんだ?」

 

「子供に手を出す奴、種族差別をする奴、一対一の決闘を邪魔する奴だな。それ以外なら許容してやるが」

 

「案外まともだな。もっとこう、我が儘言うのかと思ったぜ」

 

「失礼な。気に食わないから倒す、とかそんな馬鹿は言わないぞ?強いて言えば自分のやりたいようにしかやらない、とかか」

 

「それもそれで問題だがな」

 

 軽口を叩き合う二人は、喧嘩をしていた時のような険悪な雰囲気もなく、楽しげに話していた。年齢差もあって年寄りと孫のようにも見えるが、互いに対等な者として扱っていた。

 

「……ああそうだ、お前さん昔何かあったか?」

 

「昔?いや、特に。急にどうした?」

 

「随分とひねたガキだがなんでこうなったのか、ってな。ただの興味本位だ」

 

「興味本位でそういう事聞くのどうなんだよ……まぁいいや。ちょっと人間の汚い部分も知ってるってだけのただのガキだよ。現代日本の若者にありがちなタイプさ」

 

 そう肩をすくめながら笑って言うと、マトリフは首を傾げた。

 

「日本?どこだそりゃ」

 

「なんでもない、気にすんな」

 

 訝しげな顔のマトリフだったが、追求はしなかった。

 

「ま、言いたくないんならそれでも構わんさ。そろそろ戻った方がいいんじゃないか?」

 

「ああ、そうす――」

 

 言いかけたカインの頭に何かが飛んできて、ゴツンと鈍い音がした。

何事かと目を見開いたマトリフの目に映ったのは、麺棒だった。それを力一杯投げつけたのは誰かというと。

 

「い、いきなり麺棒はねぇだろラーハルト……」

 

 サボっていたカインを捕まえに来たラーハルトだった。

 

「調理を抜け出してこんな所でサボっている馬鹿には例外なくこの麺棒をぶつけるのが流儀でな」

 

「それ今決めただろ」

 

「当たり前だ、こんな流儀あってたまるか」

 

「お前が言ったんだろ」

 

 コントのような会話を繰り広げながら、ラーハルトがカインの首を掴んで引きずっていった。一人取り残されたマトリフは、出会って間も無いだろうに仲のいい事だな、と独り言ちた。

 そして暫くしてから。

 

「シチューに麺棒はいらねぇだろ……」

 

 と、呟いた。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 結論から言うと、シチューは普通に美味かった。俺は殆ど何もしてないが。

サボった事でまたとやかく言われるのかと思ったが、別にそんなことはなかった。追加で麺棒を食らったが。ラーハルトは結構気が短いのかもしれない。

 片付けも終わり、俺とアベル、ラーハルトとアバン。それになぜかルミアがその場に留まって話をしていた。これからの話や人間との付き合い方などを話しているだけなのだが、とても興味深そうに聞いていた。

 

「私はテランから出た事がないもん。旅の話を聞いて色々想像するぐらいいいじゃない」

 

「いやまぁ、そりゃそうなんだが」

 

「大体私と大差ない年なのに旅ができるカインがずるいのよ。私も連れてけー」

 

「まぁまぁ、ルミアちゃん。旅は楽しいですが危険なんですよ。女の子に何かあったら彼も困るでしょう?」

 

「むー……まぁいいか。それで、カイン達は次どこに行くの?」

 

「特に決めてないが、お前らどうする?」

 

「ボキはどこでもいいニ。修行になるならどこにだって付いてくニ」

 

「オレはさっきも言った通り、武器が欲しいからカインの知り合いだっていう鍛冶師に会ってみたいな。歩いても行けるんだろ?」

 

「だな。じゃあ、次の目的地はランカークスだ。決定」

 

 楽しげに談笑しながら、ロンの顔を思い浮かべる。あいつ結構気難しいからな、ちゃんと武器作ってくれればいいが。そういえばブルーメタルで剣作ってくれるって言ってたし、それをラーハルトに回すか。アベルは今使ってる剣気に入ってるみたいだしいいか。

 そういえば防具の事は考えてなかったな。戦闘の時は闘気使うから、大概の攻撃は闘気の鎧で防げるから意識してなかった。その辺も考えとかなきゃな。

 

「今日出会ったばっかりなのになんだか寂しいなぁ。また遊びに来てよ、三人とも?」

 

「おう、ここに来るときは大体カンダタに用事あるからな、ついででよけりゃここにも顔出すか」

 

「そうだニ、中々居心地も良かったからニ。何より自然が豊かで過ごしやすいニ。ベンガーナなんかとは大違いだニ」

 

「ここの子供達はオレを見ても嫌な顔をしなかったし……そうだな、また来たいよ」

 

 老後はここで暮らしたいな、と呟くラーハルト。こんなガキの頃から老後の心配ってのもなんだかなぁ。ま、ここで暮らしたいってのには同意だが。

 そして話が終わり、今日中にここを発つ事になった。余り長居しても泊まる場所がないからな。流石に湖の畔だと野宿するには寒い。学校に泊まるにしても、ロビンは外に居させなければならない。

 

「ラーハルト、荷物はとりあえずロビンの中に突っ込め。適当でいいから」

 

「ああ、分かった。しかし便利だな、ロビン……」

 

「お褒めに預かり光栄です」

 

 今喋ったのがロビンだ。ちょっと堅苦しいかもな。AI弄ってもっと感情表現豊かにしたいんだが……

 

「さて、出発するかニ」

 

「じゃあね、三人とも。私の顔忘れてたりしたら頭噛むからねー」

 

「アハハ、懐かれましたね~。では皆さん、お元気で。またいつか会えますように」

 

「怖ぇよルミア。ま、生きてさえいれば会えるさ、そのうち」

 

「さらっと死亡フラグを建てた気がしないでもないニ……ま、そっちも元気でやるニ」

 

「本当にありがとう、アバンさん。今度会った時は武器の扱いを教えてほしい。ルミアも元気でな」

 

 いつものようにロビンに飛び乗り、ランカークスに向かって歩き出す。ラーハルトは名残惜しげに二人の影が見えなくなるまで手を振り、アベルは後ろを向かずに手を振って歩いて転んでいた。

 テランは良い所だったなぁ、ホント。また来たいどころか何回でも訪れたいぜ。

 

「さて、これからよろしくな、ラーハルト」

 

「とりあえず戦闘は暫くはボキとカインに任せるニ。見るだけでも多少は参考になると思うニ」

 

「ああ、よろしく、二人共。足を引っ張っても悪いからそうさせてもらうよ」

 

 これからは三人+一機パーティってわけだ。これからの旅が楽しみで仕方ない。ロンの奴への土産話が増えたな。手帳を取り出しながらこの先の旅路に思いを馳せた。

 


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