「フッ……余りの格好良さに声も出ないかニ」
否、俺と村人Bはただ単に反応に困っていただけである。
いきなり魔物が勇者と名乗って話しかけてくれば困惑ぐらいするだろう。というかそうは思わんのか、コイツは。
「おっと、こうしてる暇はない。急ぎましょう」
「え、あ、ああ」
Bを急かして、プチヒーローを迂回して進んでいく。プチヒーローはさっきのポーズのまま固まっていた。
「なんだったんだ……?」
「変な奴もいるもんですねぇ」
後ろから走ってくる声が聞こえるが気にしない。プチヒーローが必死に叫んでるのなんて聞こえない。
「ちょっと待ってくれニ!人を探してるならこのボキが手伝うニ~!」
「……どうします?」
「どうするといっても、悪意はないようだが……」
そうだな、ちょっと試してみるか。
「よく聞いてください。今から20秒後に、キラーマシンが出てきます。そうしたら立ち止まってください、キラーマシンへの反応で決めます」
「き、キラーマシン!?なんだってそんな奴が――」
「タネ明かしは後でと相場が決まってますよ。いいからほら、準備してください」
こっそりとロビンを先回りさせる。ロビンに対して、例えば捕まえろとか言うんだったら無視、もしくは吹っ飛ばす。ただし、もしも『人間』を助けようとするんだったら、合格だ。キラーマシンのように強さが分かりやすいとこういう時に便利だ。差し向けた時の反応で簡単に判断できる。やってる事は少しばかり汚いが、本当に急いでるのだからこれぐらいは仕方ない、うん。
「よし、来いロビン」
がさり、と音を立てて草陰からロビンが出てくる。
Bは おどろきとまどっている!
「ほ、本当にキラーマシンが……」
「あ、コイツ無害なんで大丈夫です。で、アイツは……」
後ろを振り返ってみると、さっきのプチヒーローがちょうど追いついてきた所だった。
「ぜぇぜぇ……や、やっと追いつい……って、なんでキラーマシンがこんな所にいるんだニ!?」
さて、どう出るか……
「コイツは危険だニ!君達はボキに任せて逃げるニ!」
うわ、わかりやすっ。
プチヒーローは剣を抜いてロビンに飛びかかった。が、あっさりと倒された。分かり易い、そして弱い。
「ロビン、もういいぞ、下がれ」
「ニ……ニ?」
状況を把握できていない様子のプチヒーローだが、ロビンの上に座り直した俺を見て理解したようだった。
「そういう事かニ……」
「ああ、そういう事だ。騙して悪いが――」
「お前が魔王ハドラーかニ!」
「「……」」
訂正、全くもって理解してない。
◇◇◇◇◇
俺の説明(物理)によって、どうにかプチヒーロー……『アベル』は、試されていた事を理解した。
アベルというのがプチヒーローの名前らしい。アベルは勇者として、ハドラーを倒す事を目標にしているらしい。魔物なのにそれはいいのか、と聞いたら、
「魔物とか人間なんて、正義の前には些細な事だニ」
と返された。一応一本筋の通った奴のようだ。弱いけど。ハドラーどころかバルトスに勝てるかも危ういが。
口が悪いって?そんな事はない、俺は事実を言っているだけだ。とはいえ、ベホイミやヒャダルコ程度の魔法なら使えるそうだ。取れる手段は俺よりも多いのだろう。
「キラーマシンを従えてるなんて、カインは相当変わった人間だニ」
「うるせぇ、お前も相当変わった魔物だろうが」
「ヒーローというのはいつの世も理解されないものなのニ」
どこかズレた奴だが、どうにも憎めない。なんだろう、ゆるキャラってこんな感じなのか?それともアベルがちんまいからか?
「二人共、話すのはいいんだがもう少し静かにしてくれ、熊が出たらどうするんだ」
「少なくとも君以外は熊より圧倒的に強いニ」
「……見たことのない魔物が出たら」
「アベルの事でしょう、多分」
「……か、カンダタ一味が出たらっ!」
「「襲われたらボコって情報収集」」
「もう無理だ!」
「むしろカンダタ一味とやらには出てもらわないと困るんだがな、俺は」
ロビンに揺られながら、財布の中身を確認する。ええと、大体3500ゴールド……やっぱり少し心許ないな。
「盗賊からなら色々奪ってもいいよな?」
「山賊みたいな考えだニ」
アベルの呟きを無視し、辺りに注意を払いながら進んでいく。カンダタ一味か目的の女性、それもいなけりゃ熊でもいないかなーっと。
そう考えながら視線を巡らせていると、森が少しばかり開けているのが見えた。
「この辺りはもうテランとの国境近くだ、流石に一旦戻った方がいいだろう」
「戻るのはあの辺を見てからでもいいんじゃないか?」
「そうだニ、そこの開けた場所……ん、洞窟があるニ」
こっそりとアベルの見つけた洞窟を伺ってみると、屈強な男が二人入口に立っているのが見えた。
これはもしかすると、もしかするかもしれんぞ。
「二人共、ここで待っててくれ。俺がちょっと訪ねてくる」
「待った、奴らは多分噂のカンダタ一味だ。君一人では――」
「いてきまーす」
「せめて最後まで聞いてくれ!」
声を無視し、俺はカンダタ一味(推定)に近づいていった。