餓狼 MARK OF THE DRAGONS   作:悪霊さん

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第13話 小さな勇者

 ランカークスを発ち数日後、俺はベンガーナに来ていた。

ベンガーナは世界有数の商業大国だ。ここに来たのも、ロビンを改造、或いは何か物を作るための素材や道具を購入に来たのだ。

 金は道中で魔物を蹴散らした時に落としたアイテムやなんかを売って稼いでいる。時には困っている人を助けてお礼を貰ったり、方法は様々だ。一見価値のないようなアイテムでも、好事家は意外といるものだからな。

 ゲームだとメダル王がいるように、こっちでは鉱石マニアやなんかも沢山だ。余っているブルーメタルを買い取ってもらえればかなりの額になる。

 

 とまぁ、そんな風にして稼ぎながらやってきたのだが、ベンガーナのデパート(世界でもここにしかないらしい。かなりの発展具合だ)まで来たのはいいんだが、都会特有のゴミゴミした感じというか、空気の淀みというか、何というか。それが嫌だったので、わざわざ近隣の小さな山村までやって来て宿を取る事にした。

 

 

 宿に予約を入れた俺は、またいつものようにその辺をぶらぶらと散歩していた。

こうして散歩しながら人の会話を聞いているだけでも、何か情報が手に入る事もある。 例えば、今聞こえている会話なら、山菜を採りに行った妻が中々戻ってこないんだが、と心配する声や、夜までには戻ってくるだろうから心配するな、と返す声も聞こえる。

 見たことのない魔物がいた、いや、それはただの見間違いじゃないか、とか。まさかロビンの事じゃないだろうな。

 この辺りで勇者と名乗る者が来ているらしい、まさかあの有名な勇者様か、いや、勇者様の名を騙る偽物かもしれない、とか。

 それを言ったらあのなんとかって盗賊団が来てるらしい、じゃあ勇者様はそれを退治に来たんじゃないのか、いや、俺はもう改心したって聞いたが、とか。

 

 中々楽しいものであるが、流石にそろそろ日も暮れる。宿に戻るか。

 

 

 

  

 宿に戻った俺は、手帳にメモしたデータの整理をしていた。

 ロビンのAI、古代の技術、新しく分かった事などなどだ。ロビンのAIについては、やはり臨機応変に対応させたい。武装の変更も視野に入れよう。

 古代の技術やそれに準ずる物は、解読が難しい物も多い。ゆっくりと解読していこう。今読み取れる範囲では、『空を駆ける事のできる靴』とかいうのが気になるな。

 

 さて、そろそろ寝るか。しっかり寝ないと身体が持たないしな。

 

 俺の日常は大体こんな感じで過ぎていく。

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 翌朝目を覚ました俺は、再びデパートへ行く準備をしていた。露天で適当に朝食を摂りながら必要な物を手帳に纏めていく。

 ぼんやりと考え事をしている時、喧嘩のような声が聞こえてきた。

興味本位で見に行ってみると、騒いでいたのは、昨日山菜がどうとか……違う、山菜を採りに行った妻が中々戻ってこないと言っていた人だった。

 近くの人に事情を尋ねると、その奥さんがまだ帰ってきていないらしく、夫が探しに行こうとしてるのを諌めている所らしい。

 これだけならまだいいんだが、近くで熊や魔物の目撃情報もあり、迂闊に森に入ったら危ないと止めているんだそうだ。

 だが、夫としては尚更行こうとするだろう。自分の妻が危険な目に遭っているかもしれないとなったらそりゃ助けに行くだろう。俺だってそーする。

 

 

 故に俺は、自分が探しに行くと伝えた。当然ながら、子供が行くなんてもっと危険だ、そんな事はさせられない、と、口を揃えて言ってきた。

 

「君は下がっていなさい、これは俺の問題だ、俺が探しにいく!」

 

 と、スキンヘッドの夫が言えば、

 

「彼女が戻ってきた時にお前が戻ってこなかったらどうなる!彼女が悲しむだろう、お前は自分の女を泣かせたいのか!?」

 

 と、傍らの男が言う。

 

「ぐ……だが、仕方ないだろう、アイツに何かあったら、俺は……」

 

「あの、だから、俺が行きますよ?」

 

「だから子供は――」

 

「一人旅ができる程度には強い子供ですが、それでもですか?」

 

 そう言うと、二人共動きを止めて俺に向き直った。ってかさっきのままじゃあ堂々巡りだよな……

 そう考えて密かに嘆息すると、スキンヘッドじゃない方の男が訊ねてきた。

 

「……君は自分の力に自信があるのか?」

 

「そりゃありますよ、過信はしませんが」

 

「なら、どのくらいのレベルなら相手できる?」

 

「お、おい!まさか本当にこの子に行かせるつもりか?俺は反対だ!」

 

 夫のほう……めんどくさいな、村人Aでいいや。Aはまだ渋っていたが、あー、こっちは……Bだな、うん。Bは俺に任せようと考えているようだ。最も、やはり不安なようだが。

 

「魔王ハドラーぐらいのレベルなら、まともにやり合えます」

 

「……分かった。ただし、自分も行く。子供一人にそんな事をさせては、自分の誇りに関わる」

 

「っ!おい!」

 

 Aが声を張り上げようとしたが、面倒なので、

 

「では、走りますよ。ちゃんと付いてきてください」

 

 とだけ言い残してダッシュした。面倒キライ。

じゃあなんでわざわざ面倒に首突っ込むんだ、無視すればいいだろうと思われるかもしれないが、これには訳がある。

 

 

 ……予算オーバー、しそうなんだよなぁ。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 森に踏み込んですぐ、村人Bが追いついてきた。

少し息を切らしているが、構わずどんどん突き進んでいった。

 

「この辺りでは、熊や魔物の出没情報がある。おまけにあの悪名高いカンダタ一味もいるという。余り長居したくはないな」

 

 というセリフを聞き流しながら、こっそりロビンに指示を送って探させる。いちいち説明するのも面倒だからな。

 この人も大して強くないようだし、いざとなったら俺一人でどうにかするしかないな。ま、ハドラーより強いのは流石にいないだろう。

 

 たまに茂みが揺れて身構えるものの、特に何もいなかったり、野兎だったりと空振りが続いた。ロビンの方もまだ何も見つかっていないようだ。

 

「見つからないな……一体どこにいるんだ?」

 

「案外森の中じゃなく、洞窟かどっかに身を隠しているかもしれませんがね。搜索の範囲を広げましょう」

 

 と、相談していた時、突然どこからか声が鳴り響いた。

 

「フッフッフ……お困りのようだニ」

 

「誰だ!」

 

 聞き覚えのない声に身構え、ロビンを臨戦態勢に入らせる。ついでにBを後ろに庇って、声の出処を探る。

 

「怖がる必要はないニ。ボキは弱きを助け強きをくじく、みんなのヒーロー……そう」

 

 木の上から小さな影が眼前に飛び降りてきた。

そいつは、ビシッとポーズを決めて、仰々しくこう言った。

 

「人はボキを……勇者と呼ぶニ」

 

「チェンジ」

 

 勇者と名乗ったのは、勇者は勇者でも魔物の勇者。

『プチヒーロー』という魔物だった。

 




※呼びません

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