ロンの家で、俺達は茶を飲みながら(ロンは酒を飲んでいる。昼間から飲むなよ……)談笑していた。
「ワッハッハ……!悪かったって、そういつまでも不貞腐れるなよ、カイン!」
笑いながらロンが俺の肩を乱暴に叩く。不貞腐れてなんてないやい。
「しかしボウズ……おっと、カインがロンの奴と知り合いだとは思わなかったな。どうやって知り合ったんだ?」
武器屋の店主――ジャンクが意外そうな目で俺とロンを交互に見る。俺から言わせれば、一介の武器屋と魔族の鍛冶屋が何故知り合うのか不思議なんだが。
「なに、そこで拾っただけよ……こいつがたまたま修行、か?やってるところに出くわしてな」
「あの時はビビったぞ、いきなり魔族が話しかけてくるんだからな」
「ぬかせ、ちっとも動じてなかったじゃねぇか」
良く冷えた茶を飲みながら肩を竦める。実際はビビリはしなかったが、驚いたのを覚えている。動きの確認をしていたら突然声をかけられたからな。
「しっかしまぁ……キラーマシンを倒すとは、一体どんな手を使ったんだ?」
「人聞きの悪い、正面から倒したよ。レーザー一発食らったけど、こっちは脚一本折って他にもいくつか壊した。完全勝利だったぞ」
信じがたい、という目でジャンクが見てくる。といっても、ロビンという証拠がそこにいるんだがな。
余談だが、ロンはキラーマシンの存在を知っていたらしい。だったらちゃんと教えろよ、と思わないでもないが、結果的にはこうして無事に帰り、その上キラーマシンも手に入ったのだから万々歳なのだが。とはいえ、ムカついたので掴んだ相手にサマーソルトを浴びせる投げ技、シュワルツモーメントを食らわせておいたが。しっかり当てれる辺り、成長してるなと実感できるのは嬉しいんだが……。
「まぁ確かに、見違える程の成長ぶりだしな、納得せざるをえない。で、ブルーメタル採ってきたんだろうな?」
そうそう、忘れちゃいけない。こいつを使って篭手を作るって話だったな。
ロビンの前面装甲を開けさせて、中に収納していたブルーメタルを取り出す。因みにこの中、子供なら2,3人、大人でも1人ぐらいは楽に入れるだけのスペースがある。急な雨でもこれで安心……っと、そうじゃない。
「ほら、指定された数持ってきたぞ。これとあといくつかの素材で作ってくれるんだろ?」
と、ブルーメタルを渡し――
「なんか数が多くないか?」
「は?」
ロンの一言でピタリと止まる。数が多いって?
どういう……ことだ……
「は?いや、だってお前渡したこのメモにちゃんと数書いてあるだろ」
ロンに渡されたメモを見せる。ジャンクとロンが覗き込みながら数を数え――
「あ」
「「あ?」」
「すまん、桁が一つ多かった」
「「……」」
……これはキレてもいいよな?な?
「ま、待て待て!余った分で……そうだ、ついでだが剣も作ってやる!だから無言で頭を掴むな!」
ギリギリと音を立てて片手でロンの頭を掴んでいると、そんな事を言ってきた。
もし俺にバギクロスでも使えたなら、今頃『お別れです!』的な事になっていたのに、残念だ。
「……それでも余ったら?」
ジトーっとロンを睨みつけると、ロビンを指し示し、そいつの改造にでも使えばいい。必要なら高く買い取ってやる、と言った。
そういうことならいいだろう。あまり使わなそうだが、剣も手に入る。ロビンも色々と手を加えたい所だしな。ハドラーの所にあった本の何冊かをデータにしてロビンに残してある。材料さえ揃えば、それらを作る事も出来るかもしれないしな。
「分かったよ。じゃあ、俺はまた素材探しに行くけどいいよな?」
立ち上がってそう言うと、ジャンクは引き止めてきた。もっとゆっくりすればいいだろう、急ぐわけでもあるまいし、と。
「そうは言うがな、俺は確かに子供だ、しかしそれは同時に伸び盛りということでもある。子供の頃から無茶だと思われるぐらい修行しないと、俺みたいな凡人は高みにいけないんだよ。目標とする奴に追いつこうなんて、夢のまた夢だ」
頭を振ってそう言うと、ジャンクは微妙な顔つきに、ロンは納得したような顔になった。
「妙に生き急いでるなと思えば、そういう事か。じゃあよ、お前さんは誰を目標としている?」
神妙な面持ちでロンが問いかけてくる。
こればかりは迷う事もなく、正直に答える。
「魔王ハドラーは勿論の事、お前も目標だよ、ロン・ベルク」
「……ハッハッハ!この俺も目標ときたか、いやはや全く食えない野郎だ」
二人で愉快げに笑っているが、ジャンクはまだ首を傾げていた。
未だ名残惜しそうにしているジャンクと未だ酒を飲んでいるロンに見送られながら、俺はロビンと共に再び旅に出た。どこに行こうかな、とボーッと考えながら。
これは言わなかったが、目標としているのは他に何人かいる。出会う事はないだろうにしても、だ。
格ゲー好きなら、彼らの名前を聞いた事もあるのではないだろうか。
例えば、『拳を極めし者』豪鬼。
例えば、『虐殺の交響曲』ルガール・バーンシュタイン。
そして、『悪のカリスマ』ギース・ハワード。
彼らのような強さ、気高さ、執念。目標とすべき所は沢山あるのだ。
いずれはあのぐらいの高みには立ちたいものだと夢想する。いずれ起こるある闘いを知るよしもなく、唯、呑気に。