買い替え時かなぁ……
地底魔城を去って数日、俺はようやくランカークス村まで帰ってきた。
真っ直ぐロンの所へ行こうかと思ったが、そろそろ日が沈む。着く頃には夜になっているだろうし、そんな時間に押しかけても迷惑だろう。
そう考えて、キラーマシン――ロビンと名付けた、ハドラーから譲り受けた機体だ。そいつを近くの森に隠し、ブルーメタルを持たせて待機させ、俺は村の宿に泊まろうと考えた。盗賊に見つかったとしても、キラーマシンを見れば手が出せないだろうからな。
ここは小さいがのどかでいい村だ。老後はここでのんびり過ごすのも悪くないかもな……
そう考えながら、宿に予約を入れた。さて、後は道具屋で薬草やらを仕入れて、武器屋でも適当に冷やかすかな。
武器屋で剣や槍を物色するのは中々楽しいものである。当然俺は武器を使わないが、世の中には様々な武器を使いこなす猛者もいるのだから俺もそのぐらいやってのけたい、と思うのも事実だ。某武器コレクターのように『最強の剣』を探したりとか、そういうのに憧れる事だってある。
そんな事を考えながら見ていると、隅に置いてある剣に目がいった。手に取ってみると、店主に声をかけられた。
「それを手に取るとはお目が高い、そいつはどうだい?安くしとくぜ」
「うーん……この剣を作ったのは何という方で?」
持ち合わせはそれなりにあるから買えるといえば買えるのだが、それ以上に製作者が気になった。勿論、『最強の剣』とかそういった大層なもんじゃあない。だが、普通の武器とは明らかに違う感じがした。あくまで感じであり、理屈ではないが。
店主は片眉をあげて、知りたいってんなら教えるが、と前置きして言った。
「最近知り合った魔族だよ。気難しい奴だが、その剣を見れば腕の良さは分かるだろ?」
「ああ、魔族か。どうりで……」
さっきの前置きは多分、魔王の脅威がある今のご時世、魔族の友人がいる、なんて言ったらどうなるか、という危惧故だろう。その魔族に迷惑を掛けたくないのもあるだろうが。
まぁ、俺はハドラー達とも親交があるし、ロンも魔族だ。その辺の事でとやかく言うつもりも言われるつもりもない。……あれ、知り合いの人間ってヒュンケルしかいないじゃん俺。
しかし腕の良い鍛冶職人の魔族か、ロン……ではないよな、あそこはそうそう見つからないだろうし。道に迷ったとかじゃあないと見つからないんじゃなかろうか。
「そうか、ありがとう。明日の夕暮れ時に来てまだあったら考えておくよ」
「どうせ客なんざ殆ど来ないから構わんさ。貰うもんはきっちり貰うがね」
苦笑しながら武器屋を後にし、宿に戻った。当てられた部屋に入って荷物を無造作に置いてから、ベッドに身を投げ出し、手帳を取り出した。
この手帳は、地底魔城に挑み始めて何日かしてから、バルトスとハドラーの動き方や俺の得意な間合い、立ち回り、それにキラーマシンの事を覚える目的で購入したものだ。
最近では、気になる事を書き込んだり、今後の予定などを書き込んでいる。こういったマメな事も何かに役立つかもしれないしな。決してカッコつけてる訳じゃあない。
手帳を眺めながら今日の事を思い出していると、先ほどの店主との会話が頭に浮かんだ。魔族と知り合い、というだけで石を投げられる可能性があるのなら、魔族にはどんな反応をするんだろうか。攻撃するか、或いは圧倒的な力の差がある相手なら、怯えるだけか。それ程の差があれば、歯牙にもかけないだろうが。
だが、例えば、力のそれ程強くない魔族の恋人がいる、もしくは親が魔族の子供だったら、どうだろうか。圧倒的な武の前には、数の暴力など意味を成さないが、そうでない場合には。
……やめよう、胸糞悪くなるだけだ。さっさと食事して寝よう。
◇◇◇◇◇
翌朝、俺はロビンを連れて、遠回りでロンの所へ向かった。何故遠回りしたのかというと、単純に見つかると面倒だからだ。キラーマシンに乗って移動する子供。どう見ても怪しいと思われるだろうな。
そのおかげで、多少時間はかかったものの、誰にも見つからずに到着する事が出来た。
ロビンを待機させ、戸を叩く。しばらく待つと、ガチャリと音を立てて扉が開いた。
「はいよ、どちらさん……って、昨日のボウズじゃないか。どうした?こんな森の中で。道にでも迷ったのか?」
戸を開けて出てきたのは、昨日の武器屋の店主だった。営業ではないからか、口調は昨日よりも若干柔らかい。
ここはロンの家だったはずだが、もしかして店主が話していた魔族ってやっぱりロンの事なんだろうか。
「ああ、失礼。知り合いに用事があって来たんですが」
一応俺は子供なので、敬語を使う。敬語慣れないけどな、いつもの口調が楽でいいわ。
「知り合いって……って、なんだそいつ!?」
店主がロビンをみて驚く。忘れてたな、そういえば。普通の人間だったら驚くよな、そりゃ。ロビンにお辞儀をさせると、更に驚いた。楽しい。
とりあえず危険はない事を理解したらしい店主は、家の中に向かって声をあげた。
「騒がしいなジャンク……どうした?って、お前……」
そこでようやくロンが出てきたのはいいが、俺の顔を見て固まった。どっか変な所でもあったか?
首を傾げると、ロンが口を開いた。
「生きてたのか」
「第一声がそれか」
いつの間にか死んだと思われていた。解せぬ。
キラーマシンの名前候補
ロビン
キラーマ
のっひー
無難にロビンにしました。