目が覚めたとき、普通の人はまず天井が目に入るだろう。布団やベッドに寝ていれば誰だってそーなる、俺もそーなる。知らない天井だ、なんて台詞もあるくらいだ。勿論野宿(といっても今の時代でそんな事をする人は少なくとも俺の住んでいる国では殆どいなかったかもしれないが)やら机に突っ伏して寝るなりしていればその限りではないだろうが。少なくとも今まではそうだったのだ。
なぜそんな事を話しているかというと、たった今目覚めた俺の目に入ったものが明らかにおかしかったからだ。頭を抱えて蹲り、プルプルと小刻みに震えている幼女を見て戸惑わない自信があるか?俺にはない。
黙っていてもどうしようもないので話しかけてみる。そういえばここ俺の部屋じゃないんだが、なんだここ。辺り一面真っ白だし。
「あの、どうかしたのかい?」
声をかけた瞬間、幼女がビクッと反応した。涙目になってこちらを見ているその様子は罪悪感を抱かせるに充分。何もしてないんだからそんなに怖がらなくても……別に怒っている訳でもないのに。若干落ち込みつつ首を捻っていると、どこからかスケッチブックを取り出して文字を書き始めた。
『ごめんなさい』
誰か教えてくれ、初対面の幼女にいきなり謝られたらどうすればいい。俺が何をしたと言うんだ。俺は子供を泣かせる趣味なんかないんだ。
『私の失敗であなたを殺してしましました』
ああ、間違ってるよ、しまいましたって書きたいんだろうけどしましましたって……。
……ん?んん?殺してしまいました。……え?
「えー、と・・・」
『私、神です。あなた、死にました』
頼むから誰か教えてくれ、初対面の幼女にいきなり衝撃の真実を伝えられたらどうすればいい。いや、いきなりでなくとも困るが。それ以前にいきなり私は神ですとかあなたはしにましたとか言われても反応に困る。な、なんだってーとか驚けばいいのか?俺はリアクション芸人じゃないんだぞ。
「……なんで?」
『間違って』
「間違って?」
『あなたの家に隕石おとしました』
な ん で だ。
『ごめんなさい』
「えー……蘇生したりは」
『無理です。よくて転生です』
「ですよねー……え、転生?輪廻転生とかそんな感じの?」
『です。悪いの私ですから』
「神とか隕石とか転生とか……どうにも眉唾物な話ばかりだけど、いきなりこんな事になってりゃ信じる他ないかぁ」
『ごめんなさい』
……すぐ謝るのはどうにかならないんだろうか。神ってこんな腰の低いものなのか?もっとこう、如何にもな感じで尊大なもんだと思ってた。それに俺のイメージする神様ってのは大体老人だったから、涙目でスケッチブックで会話している目の前のこのちんまい子が神様です、なんて言われてもこんな謎空間にいなきゃとても信じられん。
『何か希望する事はありますか?』
「希望?」
『はい。どんな姿がいいかー、とか』
「って言われてもなぁ……特にはないですね。強いて言えば人と関わっても問題ないような容姿ならそれで」
『分かりました。じゃあ早速送りますね』
「あ、その前にちょっと」
頭の上に?を浮かべて可愛らしく小首を傾げる神様。
「転生って言ったけど、どこに生まれるとかは決まってるんですかね?」
『まだ確定ではないですけども、あなたが暮らしていた世界とは異なる世界です』
「……マジかー」
『ごめんなさい』
もういいって。それよりも気に掛かるのはつまり、ざっくり言っても文字通りの異世界という事だ。ネット小説とかでよくある感じの。普通ならテンションが上がったりする所なんだろうけど、今の俺にそんな心の余裕はない。文化の違いとか言語とかもっとこう、心配すべき事があるだろうと。もし言葉も通じず食文化なんかもまるっきり違う、なんて事になったら数日と経たずこの神様と再会する事になるかもしれない。
『文化はともかく言葉については大丈夫になってるはずです』
文末四文字で一気に不安にしてくれるねこの神様は。
『はずです』
強調したからといって不安がなくなったりはしない。
「まぁ、成るように成るか……?」
最低でも衣食住は確保したい所なんだけどなぁ……
「まぁいいや。そろそろお願いします」
『分かりました』
そうして目を閉じると、段々と意識が遠のいていった。……今思えば死んだ瞬間を自覚してなかったのは良いことなのか悪いことなのか……どっちなんだろうか。
誤字などありましたらご指摘いただけると幸いです。
7/1改訂