例の三人娘喧嘩事件~雨降って地固まる~からはや三年、これ以上ないほどの親友となったなのはとアリサとすずかだがあれからなのはから紹介を受け俺たち三人とも仲良くなり大体六人でワンセットとみられるようになった。
そして、時間の流れというものは早いものでそれも二度目の人生だからか余計に早く感じる。
こんなことを考えるとオッサン臭いが本当に時間の流れが速い、ついこの間なのはが小学生になったと思ったらもう三年生である。
そう、三年なのである、原作が始まる時期が来たのだ、あの忘れもしない第一回原作対策会議のときに逃げられないのならば覚悟を決めるしかないと決意したその日が来るのだ。
そんな大事な時期に俺たちが何をしているかというと。
「おい、蓮どこまで書いたか見せてくれよ」
「いやだよ、お前そういってからが長いんだよ」
「いや、今度は大丈夫だって、俺だって日々進化してるんだから」
「速攻でBボタン連打されるような進化しかしてねえだろ、俺のじゃなくてギルの方行け」
「ちょっとこっちに回さないでくださいよ、蓮君が最後まで面倒見てあげてくださいよ」
「どうせギルのやつが一番完成度も高くて手際もいいんだからそっち見てろよ」
「お、それもそうだな。ギル頼む!」
「お断りします、そもそも一護君自分の割り当て終わってないでしょう」
「こういうやつ苦手なんだよ、こうかっこいいレイアウトとかわかんねえし」
「中身はいい年齢なんですから頑張ってください」
「そんなこと言わずにさー」
『私たちの町のお店調べ』という名の自由課題に苦戦していた。
この課題自分たちの近所にどのような店がありどんな仕事をしているのかを調べ地図にまとめて感想を書くという極めてありふれた宿題だったので俺たち三人は気楽に構えていたのだがその実態は本格的なフィールドワークだった。
まず自分たちの家の近所というが海鳴の駅前にはそこそこ大きなアーケード商店街があるし、必然そこに入っている商店の数も多くなる。
それだけで地図に記載する店の数は多くなるし、更に地図に記載するだけでなくできればそのお店の店員に実際に話しかけて毎日どのような仕事をしているのか、どんなお客さんが来るのか、その仕事い就いてよかったこと大変だったことをインタビューしなければならないのだ。
思えばこの宿題が出たときに翠屋の士郎さんと桃子さんに話を聞けば一発で終わるじゃんラッキーとか言って翠屋に突撃したのがそもそもの間違いだった。
俺たちが宿題のために話を聞きに来たと言うと当然士郎さんと桃子さんは快く協力してくれた、いや協力しすぎなくらいだった。
士郎さんと桃子さんに仕事に関するインタビューが終わった時にこれからいくつかのお店に行って話を聞いてくるつもりだと言ったのが全ての始まりだった。
その言葉を聞いた士郎さんと桃子さんはじゃあ俺たちの知り合いのお店の人たちに協力してくれるよ頼んであげるよと言ってくれ俺たちも軽い気持ちでじゃあお願いしますと答えたのが駄目だった。
あの善意が服を着て歩いているような士郎さんと桃子さんである、その二人の知り合いが一人や二人で済むわけでなくあれよあれよという間に取材に協力してくれる店が増え最終的には商店街だけを調査する予定を超え、『私たちの街のすべてのお店調べ』の規模にまで膨れ上がってしまった。
ここまで来ると俺たち一人では手に負えないので担任に相談したところ
「じゃあ、三人の共同発表ということにしましょう。楽しみにしてますね」
そういわれてしまい今明日の発表に備えて三人で半泣きになりながら必死に作業中なのである。
「そもそも、なんで小学生の簡単な地元調べが本格的な国勢調査みたいになってんだよ」
「そんな今更な話はやめましょう、むなしくなります」
「いや、でもこれ怖いくらいに完成度高くなってんだけど」
俺の目の前にある模造紙には海鳴の拡大地図とそこにある様々な商店が業種ごとに色分けされ記載されていた。
「僕は士郎さんと桃子さんがアポを取った店が十を超えた時点で覚悟を決めました」
そう言うギルの目は死んだ魚のようだった。
「なんでその時点で止めなかったんだよ……」
「完全な好意でやってもらっているのにそんなことできるわけないでしょう」
行く先々で同じことが起こったおかげで海鳴全体マップを作成することになったんだけどな。
結局それからも作業は続き完成は日が昇り始めたころであった。
それだけ頑張っただけあって発表も無事に成功したが俺たちは三人とも発表が終わった時点で眠気が限界であり保健室で昼休みまで爆睡する羽目になったのだった。
「あんたらはいちいちことを大きくしないと満足できないの?」
「あはは、でもギル君たちの発表はよくできてたね」
俺たちに対して辛辣な言葉をかけてくるのはアリサで、それに対して苦笑しながらもフォローをしてくれるのはすずかだ。
昼休みになった時に俺たちを起こしに来てくれたのはありがたいのだがこれが起こしてからの第一声とは少し扱いが雑すぎると思うのだがそれをアリサに言っても。
「なんであんた達にいちいち気を使わなきゃならないのよ」
そう言われて終わりそうだから言わない、というか前に一回言われたし……
「ほら、寝ぼけてないでお昼食べに行くわよ!わざわざあんた達の分のお弁当も持って来てあげたんだから感謝してよね!」
……アリサさんまじツンデレ!
「でも先生も言ってたけど将来の夢か……」
保健室から弁当を食べるために屋上のベンチに移動して食べ始めるとなのはがそうつぶやいた。
「みんなは将来の夢って何か決まってるの?」
その質問にまずアリサが
「私はお父さんもお母さんも会社経営をしてるから、それを継ぐならいっぱい勉強しなきゃくらいかな?」
続いてすずかも
「私は機械系が好きだからその関連のお仕事ができたらいいなぁと思ってるよ。なのはちゃんはやっぱり翠屋の二代目?」
「お料理は好きだからそれも将来のビジョンの一つではあるんだけど……それが本当に私のしたいことなのかなぁって」
なのはがすずかの言葉にそう答える、その顔にいつもの元気さはなく沈んでいる。
「ほら私得意なことあんまりないから、だから何がしたいことで私にしかできないことってあるのかなって……」
「そんなことないよ!なのはちゃんにしかできないこともあるよ」
「そうよ!そもそもなのはの方が私より理数系のテストは点数高いじゃない!それなのに得意なことがないってありえないでしょ!」
なのはのネガティブな発言に対してアリサとすずかが強く否定する。
「にゃはは、ありがとう二人とも。……そういえば蓮君たちの将来の夢って聞いたことがなかったけど何かあるの?」
口をはさめる空気ではなかったのでおとなしく弁当を食べていた俺たち三人になのはがそう質問してくる。
「将来の夢ですか?僕はアリサと同じく父の会社を無事に継いでさらに大きくすることですかね?」
その質問にまず明確に目標が決まっているギルが答える。
しかし、ギルの裏事情を知っている俺からするとその発言は僕はまだまだ会社を大きくしますよっていう宣言にしか聞こえなくて若干ひいてしまうんだが……
「俺はなーとりあえず今は剣道が面白いからな、行けるとこまで行ってその後考える」
ギルに続いて一護が答える。初めは転生特典の為に始めた剣道だったが一護の性に合っていたらしく今も楽しそうに道場に通っているし時々高町家の方にも顔を出して指導してもらっているらしい。
「一護も案外考えているのね、てっきり本能だけで生きてるのかと思ってたわ」
一護の言葉にアリサが心底驚いたという風に言う。
このアリサの言葉からも分かる通り一護は三年になっても変わらず全力で小学生やってる。
「おいおい俺だって日々いろんなことを考えてるんだぜ、傍目には気づかれない様にしているだけで」
「そうね、どうでもいいことを考えることについてだけはいつも一流よねあんたは。この前も放課後に男子を集めて学校全体を使って缶けりしてたみたいだし」
「あれは楽しかったな、缶の位置を決めるのが難しくてさー、校庭だと丸見えだから蹴りに行きにくいしかといって校舎内とかだと缶を蹴った時に飛距離が伸びないし」
その行動力をもう少しまともなことに発揮してくれれば言うことはないんだけどな。
「蓮君の夢は何なのかな?」
アリサと一護が掛け合いをしているのを放置してすずかが俺に聞いてくる。
それにしても将来の夢か……
「そうだなぁ、とりあえず大学まで行ってそれからどこか安定した仕事についてできればきれいな嫁さんもらえれば最高だな」
この世界に転生してから原作の事と目先の事しか考えていなかったから改めて普通に将来の夢を聞かれると困ってしまい無難な答えしか返せない。
「なんか意外だね、蓮君の事だからもっと突拍子もないことを言うかと思ったのに」
なのはが俺の夢を聞いて失礼なことを言ってくる。
「意外とはなんだ、俺はそこの二人とは違ってごく普通の小学生なんだからおかしい所はないはずだぞ」
「蓮君が普通の小学生なら普通の小学生なんかいなくなっちゃうと思うの……」
「失礼な、俺ほど普通の小学生はいないぞ、ギルや一護みたいな例外とワンセットにするな」
「でもそんなこと言って蓮君もいろいろとむちゃくちゃしてるよね?」
「そうだよね、急用があるからって教室の窓から飛び出していったのには驚いたね」
なのはとすずかが立て続けに俺がいかにおかしいかを主張してくる、確かに人から改めて言われるとちょっとおかしいかなーという気がしないでもないが身体能力が人外になってからもう五年は立つのである、ちょっと校舎の二階位なら普通の人でも落ちても平気だよなーとか思ってしまってもおかしくないと思うのである。
そんな必死の反論をしてみるが
「蓮君……それはちょっと無理があると思うよ」
そんなかわいそうな子を見る目をしないでもらえませんかねなのはさん。
そんなこんなでいつも通りわいわい話していると時間はどんどん過ぎ去っていくもので気が付くと昼休みは終わり、その後の授業も何事もなく終了する。
「今日は塾の日だから一護たちとはここでお別れね」
校門を出たところでアリサがそう言う、なのは達は三人とも同じ塾に通っているが俺たちはさすがに小学校の勉強を塾に行ってまでしたいとは思えなかったのでなのは達が通うことが決まった時に一緒にどうかと誘われたが断っている。
「そうですね、じゃあまた明日」
「また明日なー」
「はいよ、また明日学校でな」
アリサの言葉に俺たちは三者三様の言葉を返し家に帰っていく。
しばらく歩いて行き完全になのは達が見えなくなったあたりでギルが話を切り出す。
「二人とも気づいてますよね?」
「ああ、そのためにこれまでやってきたんだから当然だろ」
「むしろ今まで何も言いださなかったから俺しか覚えてないのかと思っちまったよ」
「じゃあこれからの予定は大丈夫ですね?」
「もちろん、任せとけ!」
「これまでの訓練の成果を見せてやろうぜ!」
そう、俺たちの原作知識が正しいなら今日が運命の日だ。
あの日転生した時の思いは今もまだ変わっていない、いや、実際になのはと知り合って更に思いは強く決意は固くなっている。
どうせなら完膚なきまでのハッピーエンドを目指すだけ、俺たちの転生特典は中途半端なものだったけどやりようはいくらでもあることを見せてやる。
次回から戦闘シーンに入りそうですね、戦闘とか初めて書くのでどうなるのか分かりませんが……
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