今回はポケモンでおなじみのイベントがあります、お楽しみに。
……おや!? イヴの ようすが……?
14歳になったブランです。
あのパーティー以来、何だかんだでルイズとの付き合いは続いていたりする。
ルイズとは領地が近い事もあって互いに行き来する事も多く、何気にうちの領内でも有名になってたりする。
まぁ、どちらかと言うとこっちの領地に来て過ごす事が多かったりする。
理由? そんなのカリーヌ様が怖いからに決まってるじゃなイカ!
……みんな、知ってるか? ≪カッタートルネード≫ってコモン魔法じゃ防げないんだぜ…………
それにルイズの奴、何気にノワとも仲良くしてるんだよなー。
家に来た時もルイズとノワ、プラスのイヴで女子会しててほっとかれる事多いし。
後はあれだな。
あの後ペンダントのデザインがほぼ母さんとローラ義姉さん(正式にアル兄さんと結婚しました)によるものだというのがバレて、それから何やかんやあってお互いの誕生日にそれぞれがデザインしたものをプレゼントするのが習慣になったくらいか。
魔法に関しては、12の頃にやっとこさ師匠からドット魔法の練習の許可が下りた。
ちなみに、今の俺は水のドットメイジ。
攻撃より治療系の方が得意です、主に自分の治療をするためにですけどね……
カッタートルネード怖いカッタートルネード怖いカッタートルネード怖いカッタートルネード怖いカッタートルネード怖いカッタートルネード怖いカッタートルネード怖いカッタートルネード怖いカッタートルネード怖いカッタートルネード怖いカッタートルネード怖いカッタートルネード怖い…………はっ!?
で、現在俺が何をしているかと言うと……
「また置いてきぼりかよっ! このバカ兄貴ーーーーー!!」
「ブイーーーーー!!」
現在雪山にて遭難中です。
ていうか2度ネタかよコンチクショー!!
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「ブランっ、出かけるぞ! 準備しろ!」
いつものように唐突に帰ってきて唐突に言い放つオール兄さん。
いつもの事とは言え、いい加減にしてほしい。
「兄さん、毎度言うけど一体何?」
部屋で今年のプレゼントのデザインに行き詰っていた所だったので、イラつきを抑えきれずに少しきつめに返事をする。
だが、そんな事を気にするような兄さんではなくいつも通りのスルーを見せた。
「もうすぐ北の山で数年に1度しか咲かない【グレイシャスの花】が咲くんだよ。昔お前が興味を持ってたからな、そんなに危ない場所って訳でもねえし今年は連れて行ってやろうって思ってよ」
あぁ、そう言えばそんな話聞いたこともあったっけ。
あの頃はいつもドタバタしてたから忘れてたわ。
「期間は大体5日くらいだから」
「あ、兄さん。ちょt……」
今回は断ろうかと思ったけど、もしかするとプレゼントのデザインの参考になるかもな。
危険も少なくて、5日くらいならどうにかなるだろうし。
「分かった、すぐに準備するから待ってて」
「よっしゃ! 急げよブラン!」
了承の返事を返すとすぐさま部屋を飛び出す兄さん。
ま、今回はそこまで危険ではないでしょ。
「んじゃ……いくか、イヴ」
「ブイー♪」
このとき、俺は忘れていた。
兄さんの基準は普通の人と全然違っていたって事に。
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準備が済んだ俺が兄さんの所へ行くと、兄さんは既に中庭で出発の準備をしていた。
「おお、準備は終わったか。じゃ、早速行くとしますか」
「いや、それは良いんだけど。もしかして【スマッシュ】に乗っていくの?」
そう言って指差した先には、全長5メイル以上の大きさの巨大な隼で、兄さんの使い魔であるバトルファルコンのスマッシュが、背中に鞍をくくりつけられて待っていた。
「? 当たり前だろ」
然も当然のように言い放つ兄さんに嫌な予感を感じ、慌ててキャンセルしようとしたけど既に手遅れ。
俺とイヴはあっと言う間にスマッシュの背中にのせられ、空へ飛び立っていた。
バトルファルコンは、空中での速さは風竜にも迫ると言われるほどのスピードの持ち主。
そんなバトルファルコンのスマッシュに乗って飛ぶこと数時間。
嫌な予感は最大に達していた。
「ね、ねぇ兄さん。今から行くのって何処なわけ?」
そんな問いに返ってきたのは、予測するうちの最悪なものだった。
「あら、言ってなかったか? ゲルマニアだよ、ゲルマニアの【雹厳山脈】」
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雹厳山脈
ゲルマニアの最北端に位置する、1年中氷の解けない山脈。
そこはガリアの火竜山脈と並んでハルケギニアの未開の地としても有名な所だったりする。
「よーし、到着だっ! ここから先は徒歩だからしっかり着いて来いよ」
猛吹雪に襲われる中、兄さんは風の魔法で自分の周りを保護して平然としている。
だが、俺にそんな上等なもんは使える訳もなく、持ってきた服を必死に着込んで何とか寒さに耐えている。
ついでにさすがにこの寒さはきついだろうと、スマッシュは既に離脱しているためここから帰ることも不可能。
飛び立つときの、すごく不憫なものを見るようなスマッシュの目が、やたらと印象的だった。
「兄さん……これのどこが……危険じゃ……ないって……?」
「ブイ……」
「そうか? ただ雪が降ってるだけだろ?」
俺の服に潜り込んだイヴと一緒に抗議するも本人はこの調子。
このバカ兄め……、殴れるもんなら殴りたいぞ。
「とにかく、出発するからついて来いよー」
「あっ、ちょt………………」
兄さんは、そう言うとこっちの返事も聞かずに一目散に走り出し、あっという間に吹雪の中に消えていった。
残されたのは俺たちと、一面真っ白な光景。
そんな中俺たちに出来たのは……
「また置いてきぼりかよっ! このバカ兄貴ーーーーー!!」
「ブイーーーーー!!」
叫ぶ事だけだった。
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そんな叫び声も吹雪にかき消され、ここにいても仕方ないので何処か避難できそうな場所を探すためにその場を後にする。
何だかんだ言っても、帰る前には兄さんが見つけてくれるだろうからとにかくこっちは生き残る事を最優先に考えないと。
幸いいつもの経験から、食料だけは多めに持ってきてるから飢える心配はなし。
これも成れか……と、諦めもそこそこにその場を後にした。
[遭難1日目]
幸いにもすぐに岩のくぼみを見つけて避難。
そんなに多くない精神力を使って≪ファイヤーボール≫を発動。
持ってきている衣服を少し燃やして暖を取った。
[遭難2日目]
以前吹雪は止まず。
兄さんへの恨み事と、プレゼントのデザインを考えつつ1日を過ごす。
イヴは、この寒さに少し慣れたのか、俺の服から出て活動。
それでも、1日中くっついていた。
[遭難3日目]
この日は吹雪も止んで青空が広がる。
今の内にこの避難場所の環境を整える事にする。
イーブイが<あなをほる>を使える種族で本当に良かった。
[遭難4日目]
ヤバい。
真面目にピンチだ。
俺は今、【ロックリザード】と対峙している。
ロックリザード。サラマンダーと同じのリザード種のモンスターで、岩のように硬い鱗と鋭い牙、強力な力が特徴の凶暴な奴だ。
普通はこんな雪山になんか居るはずないんだけど、どこからか逸れたのがここに来たらしい。
ポケモンで言うと(岩/ドラゴン)な奴は、正直ドットの俺とノーマルタイプのイヴじゃかないっこない相手だ。
唯一の救いは元々のスピードが遅い事と、この猛吹雪な環境の中で奴の体力が少しずつでも削れていってる事(多分)だ。
ただしそれはこちらも同じだから、そんなに過信出来る事実ってわけでもないんだけど。
「イヴ、<みがわり>!」
「ブイっ!」
イヴに<みがわり>を指示して、その場から離れる。
ロックリザードの気がみがわりに向いてる隙に少しでも距離を……ってみがわりが一撃で壊されたっ!?
なんてパワーだよ!
これじゃ、イヴだと一発喰らったら即終了か。
なら、こっちも一撃で決めるしかないか。
「イヴ、<かげぶんしん>、続けて<ふるいたてる>だっ! 積めるだけ積めっ!」
「ブイブイーっ!」
すぐさまイヴの姿がブレ、瞬く間にその数を増やした。
俺も≪ファイヤーボール≫をRリザードの目の前に打ち出し、水蒸気で一瞬でも目くらましを仕掛ける。
時間稼ぎにしかならないけど、今はそれが目的だ。
あいつを倒すには遠距離から一撃で仕留める。
そのためにはイヴで積めるだけの積み技を使った<アシストパワー>が一番確実だ。
本当だと<のろい>も積みたいところだけど、それで追いつかれたら本末転倒だから仕方ない。
「っ、<まもる>!」
「ブイブっ!」
Rリザードとは一定の距離を保ったまま、時々飛んでくるRリザードの≪ストーンブラスト≫を防ぎつつも何とか持っている。
けど、
「はぁ……はぁ……、くっ≪アクア・ブレット≫!」
「水」の攻撃系ドットスペル≪アクア・ブレット≫は、この寒さで一気に凍りつきその強度を増しているが、そのどれもがすぐに撃ち落とされる。
加えて俺の体力も少しずつ限界に近付いてRリザードとの距離もジリジリと詰められてきている。
いくしかないかっ!
「イヴっ、<アシストp……っ!?」
「ブイっ!?」
くそっ、雪に足を取られたっ!?
「<まもる>!」
「ブ、ブイーー!?」
一気に速度を上げてきたRリザードの体当たりをまともに受けたイヴはそのまま吹き飛ばされる。
幸い<まもる>が間に合って直撃は避けたみたいだけど、それでもかなりのダメージかも……っ!?
「グルルルゥ」
くっ、油断した。
ほぼ完全に抑えつけられた状態で、俺は自分の迂闊さに唇を噛む。
絶体絶命なこの状況で、万に1つも助かる可能性は残っていないが、最後の望みを掛けてスペルを詠唱。
でも、完全に相手の方が速いっ!
「ブ……イーーーー!!」
もう諦め掛けたその時、Rリザードの横っ腹に突っ込む一つの影。
っ! 怯んだかっ、今!
「≪ウォーター……フレーーイル≫!!」
咄嗟に突き付けた手より巨大な水の塊が生み出され、Rリザードを吹き飛ばす。
≪ウォーター・フレイル≫、敵に水の塊をぶつける「水」「水」のラインスペル。
呪文だけは覚えていたけど、この場で成功するとは思わなかった。
急いで起き上がって先程の影――イヴを抱きかかえる。
イヴの全身は傷だらけで、立っているのもやっとな状態だった。
「大丈夫かっ、イヴ!? ……≪ヒール≫!」
すぐさま「水」「水」のラインスペル≪ヒール≫を掛けると、多少傷も落ち着いたみたいだ。
「良かった、無事だな」
「……ブイっ!」
イヴは1鳴きすると、俺の腕から飛び降りて再びRリザードと対峙する。
慌てて止めようとしたが、その背中にはまだ十分な闘志を感じさせて、こちらが止めるのをためらう事となった。
しゃーない、こうなったらトコトンやるしかないか。
「よっしゃっ! 奴をぶっ潰すぞ、イヴっ!!」
「ブイーーーー!!」
その時だった。
イヴの体が光に包まれ、そのシルエットを段々と変化させ始めた。
その光が収まると、光の中から現れたのは先程までの茶色とクリーム色の毛並みではなく、短めの水色の毛に全身覆われた、さっきまでの姿から一回り大きくなったイヴだった。
「グレイ……シア?」
「シーアっ」
イーブイからグレイシアに進化したイヴは、その鈴の様な鳴き声を響かせる。
「ギャーーーッ!!」
「っ!? 行くぞ、イヴ」
「シアーっ!」
Rリザードの雄たけびで咄嗟に我に返ってイヴと共に迎え撃つ。
「イヴ、<こごえるかぜ>! 続けて<れいとうビーム>!」
「レーイ、シアーっ!」
イヴの鳴き声に合わせるように、周囲の風がRリザードを包み込み、その体に霜を付着させ、追い打ちをかけるように冷気を束ねた光線を打ち出す。
咄嗟にその光線を避けようとしたRリザードだが、先の<こごえるかぜ>の影響か、動きが鈍くまともにくらっていた。
<れいとうビーム>を喰らったRリザードの半身は氷に包まれその身動きを止める。
よし、こうかはばつぐんだ! って言ってる場合じゃねぇ!?
凍っていない上半身をこちらに向けてRリザードが≪ストーンブラスト≫を放ってきたが、それは全く見当外れの方向へと飛んで行った。
一瞬ミスショットかと考えたがすぐにその理由に思い至る。
これならっ!
「≪スノウ・ハイド≫!」
咄嗟にスペルを組み合わせて即席で魔法を発動。
≪スノウ・ハイド≫。「水」「風」のラインスペルで、自身を周囲の吹雪の中に紛れ込ませる魔法。
それは丁度、グレイシアの特性である「ゆきがくれ」の様にな。
さっきのはイヴの「ゆきがくれ」の効果でRリザードがこちらの位置を誤認してくれた影響って訳だ。
「イヴ、一気に決めるぞ」
「レイっ!」
俺はイヴと頷きあうと、すぐさまスペルを唱える。
唱えるのは<アクア・ブリット>、でもそれに更に「水」を足して「水」「水」のラインスペルとして唱える。
「イヴ、<ふぶき>だっ! ≪アクア・ブリット≫!!」
「シ……アーーー!」
俺の≪アクア・ブリット≫をまきこんだ<ふぶき>は、Rリザードを一気に包み込んだ。
「いっけーーっ!!!」
「シアーーっ!!!」
ありったけのパワーを込めた2つの技が収まると、そこには氷の彫像と化したRリザードの姿があった。
「は、はは……。勝った? うそだろ?」
余りの光景に力が抜けて、仰向けに倒れる。
体が火照っているのか、今は雪の冷たさも心地良いくらいだった。
さっきの<ふぶき>で一緒に吹き飛んだのか、空には青空が広がっている。
「シアっ!? シアー!!」
いきなり倒れた俺に慌てたのか、イヴが駆け寄ってくるが、その様子もなぜだか笑いがこみ上げる。
「心配しなくても生きてるって。それよりも……」
そこで言葉を止めて、イヴの体を撫でる。
「お前、本当に進化したんだな~」
「シーア♪」
今までとは違う、そのひんやりとした体を撫でると、イヴも嬉しそうに声を上げる。
そこで、ようやく生きてるんだっていう実感が出てきた。
「で、これからどうするか」
真面目に動けん。
体力も精神力も使いはたして、ホントにピクリとも動けません。
このままだと早々に凍死するんじゃないか、俺?
本格的に命がヤバそうなこの状況をどうするか考えてると、ピシリッと何かが砕けるような音がした。
その音は段々大きくなり、それに合わせて嫌な予感も増大していく。
恐る恐る音のする方へ目を向けると、そこにはさっきの氷像。
ただし、全体にひびが入り、今にも割れてしまいそうだ。
ってアイツまだ生きてんのかよ!?
咄嗟に動こうとするも、体に全く力が入らない。
「くっ。イヴ、お前だけでも逃げろっ!」
「シアっ、シアーっ!!」
俺の言葉に必死に首を振るイヴ。
もうだめかと今度こそ諦めた瞬間、氷像が一瞬で大きな竜巻に包まれて中のRリザードごとバラバラに砕け散った。
何が起こったのか全く理解できなかったが、その答えはすぐに空から降ってきた。
「まったく、全然付いてこないから探したぞ」
いつもの気の抜けたような声に、安心してそのまま意識が沈んでいく。
お…いん…よ、オ……にい…ん…………
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次に気がつくと、目の前には板張りの空間が広がっていた。
「知らない天井……なわけないか」
てか俺の部屋だし。
「気がついたの!」
「うぉっ!?」
いきなり上がった声の主はノワ。
ノワは最近じゃ殆ど見ないくらいの量の涙を瞳に溜めていた。
「えっと……おはよう?」
「『おはよう』じゃないわよっ! 心配したんだからっ!!」
俺の右手を握って泣き出すノワに、戸惑うことしかできない。
少しして落ち着いたのか、「みんなを呼んでくる!」と言って部屋を飛び出したノワを見送りつつ、今の状況を整理してみた。
といっても、あの後オール兄さんに助けられたって事と意外にヤバい状態だったって事しか分からんけど。
すると、廊下の方が段々騒がしくなってきた。
そして数瞬もしないうちにドアが開け放たれて、人が一気になだれ込んできた。
「シアーーーっ!」
真っ先に飛び込んだのは水色の物体。
あぁ、そう言えばグレイシアに進化したんだっけ。
俺の枕元に立って頻りに頬を摺り寄せてくるイヴをそのままに、視線を入口の方へ移す。
ていうか家の人間全員居るんじゃね?
「まったく。心配させおって、バカ息子が」
「父さん、それオール兄さんに言って。それと状況説明プリーズ」
「もう言っておいたわい。それと今日はお前がオールと出ていってから2週間目だ」
2週間っ!?
あの後、オール兄さんに連れられて還ってきた俺は、外傷こそなかったけど、それこそ全身凍傷で命の危険もあったらしい。
一応今は持ち直してるけど、それでも完治まではリハビリ含めて約2カ月掛かるらしい。
改めて聞くとホントギリギリだったんだな。
「って、2か月だとルイズの誕生日には」
「いける訳ないだろうが」
「ですよねー」
まあ、当然だよな。
しかし、ルイズに何て言い訳するか。
無難に「風邪引きました」とかかね。
「悩んでる所悪いが、ヴァリエールには全部伝えてあるぞ。お前が起きた事も今しがた伝書フクロウに届けさせたから明日か明後日には顔を見に来るだろう」
ちょっ!? 父さん何してんのっ!
「当たり前だろうが。仮にもお前の……なんだ、親友だろう。ならばこそちゃんと伝えないとな」
「え、なに今の言い淀み。それに親友だからこそ心配かけないように秘密にするという方向性は……」
「ないな」
「そんなー」
もう、あいつ絶対泣くだろ。
で、あいつに泣かれるとつらい訳だよ、親友としてはさー。
「それがお前への罰だ。観念するんだな」
マジ勘弁してよ~……
おめでとう! イヴは グレイシアに しんかした!
というわけで、イヴの進化回でした。
やっぱポケモンといえば進化ですよね~。
ちなみに、今回出てきた“雹厳山脈”や“ロックリザード”はオリジナル設定ですので、あしからず。
それと、ブランとオールがゲルマニアに出入りしていたのはオールが事前に許可を取っていたっていうことでおねがいします(苦笑)。