劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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本編に久しぶりに登場


遭遇

 リーナを家まで送り届け、自分も家に戻り朝食を済ませてから、達也は入学式の準備のために深雪と水波と一緒に学校へ向かう。その途中、見知った集団を目にして深雪がムッと表情を曇らせた。

 

「おはようございますわ、達也様」

 

「愛梨? それに、栞に沓子に香蓮も……何かあったのか?」

 

「いえ、今生活している場所から一高までの道のりを、改めて確認しておこうと思いまして」

 

 

 四葉家が用意している新居は、残念ながら新学期には間に合わなかった。月末には何とか用意できるという事で、愛梨たち三高の生徒と、亜夜子は四葉家が用意した仮住居で生活しているのだ。

 

「仮住まいと言っても、さすが四葉が用意してくれた場所だなって思う」

 

「そうじゃの。ワシたち四人が纏めて生活してても十分快適じゃと思えるからの」

 

「東京の相場は分からないですが、恐らく平均以上の部屋だと思います」

 

 

 三人が口々に今の住まいを褒めると、愛梨も少し複雑そうな表情を浮かべながらも三人の言葉に同意する。

 

「一色が同じような部屋を用意しようとしても、ちょっと難しいかもしれないとは思いましたわね」

 

「一色は拠点が石川だからな。仕方がないだろ」

 

「ところで一色さんたちは、何故このような場所で立ち止まっていたのですか? 道のりの確認なら、早いところ済ませた方が良かったのでは?」

 

「まぁまぁ深雪嬢、そうカリカリしなさんな。ワシらはそなたたちに挨拶をと思って待っておったのじゃ」

 

「挨拶?」

 

 

 沓子の言葉に、深雪は首を傾げてしまった。確かに四人は一高の端末を使って三高のカリキュラムを消化する事で転校することなく東京にやって来ている。正式に通うわけではないが、一高の敷地を借りるわけだから挨拶するのは当然だ。だがそれは学校に対してであり自分たちにする意味がちょっと分からなかったのだ。

 

「もちろん、学校の方にはすでに挨拶は済ませてあります。それとは別に、達也様と深雪さんに挨拶をと思ったのです。これから一緒に住まうわけですし、その挨拶も兼ねて、ですけど」

 

「そういう事でしたか」

 

 

 つまり、生徒としてではなく婚約者として、という意味合いが強かったのかと、深雪は漸く納得したように頷いた。

 

「ところで、達也様たちは本日は何故制服なのでしょうか?」

 

「入学式の準備で、細々としたことがまだ残ってるのよ。何せ一昨日まで家の都合で沖縄にいたものだから」

 

「そういう事ですか」

 

 

 愛梨も当然、四葉家の人間である深雪たちが家の都合と言えば学校側が強く出られないことを理解している。自分や将輝だってそういう事があったし、二十八家の中でも四葉家は特別だと理解している。

 

「それじゃあ、そういうことですので」

 

「新学期からは同じ学び舎に通う事になるから、その時に改めてまた会おうではないか」

 

 

 深雪の会釈に、沓子が人好きのする笑みを浮かべながら手を振り、それに続くように栞と香蓮が会釈をする。

 

「では達也様、また近いうちに」

 

 

 最後に愛梨がそう付け加えて、四人は一高最寄り駅へと向かっていったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 達也たちが生徒会室に到着した時には、既に泉美とほのかが部屋の中にいた。ほのかは泉美に心配してもらったことへのお礼を言っているようで、泉美も安心した表情を浮かべている。

 

「おはよう、ほのか。もう大丈夫そうね?」

 

「おはよう、深雪。昨日はありがとう。おかげさまで、もう大丈夫だよ」

 

「泉美ちゃんもおはよう。今日もよろしくね」

 

「はい! おはようございます、深雪先輩。今日もお美しいです」

 

 

 相変わらずの泉美の態度に、深雪はちょっと苦笑い気味な表情を浮かべたが、すぐに何時もの表情に戻り、作業を開始する。

 

「今年は来賓の方が随分と多いわね」

 

「それだけ深雪先輩が注目されているという事です! もちろん、司波先輩と関係を結びたいと邪推する人や、純粋に新入生をお祝いしたい人もいるでしょうが」

 

「去年はまだ、七宝家は師補十八家でしたが、今年の総代である三矢詩奈さんは、十師族の人間ですからね。去年より来賓の方が増えるのも当然かと」

 

 

 泉美の考えに、水波が冷静に自分の考えを付け足して、来賓が増えるのは当然だと主張する。もちろん総代が十師族の関係者だという事も多分に含んでいるのだが、本当の理由は泉美が言ったように深雪や達也と関係を結んでおきたいと邪推する人間が増えた、ということだろう。

 

「泉美ちゃん、さっきからそわそわしてるけど、何かあったの?」

 

「い、いえ……先ほど校門のところに一色家の愛梨さんらしき人たちが見えた気がしたのですが、もし本当に愛梨さんだったら何をしに来たのだろうと……」

 

「あぁ。あの人たちなら今の住まいからここまでの道のりを再確認しに来たらしいわよ。さっきばったりあって聞いたから間違いないわ」

 

「そうでしたか。愛梨さんも世間では美形だと知られていますし、深雪先輩と愛梨さんが並んでいるところを平凡な男どもが見たら失神してしまうかもしれませんね」

 

「大袈裟よ」

 

 

 一高の生徒は深雪の事をほぼ毎日見ているので耐性があるし、新三年生はそれに加えてリーナという美少女が深雪の隣にいる光景を見ているので、例え愛梨が深雪の隣に立っていたとしても失神はしないだろう。だが、二年生以下はどうなるか分からない。ましてや新入生たちは彼女たちの美貌に加えてその家柄も相まって、恐れおののく可能性すらあるのではないか。深雪は自分の事を棚上げして三高女子たちを心配したのだった。




まぁ、綺麗ではあるかもしれませんが……

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