劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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四人ともそれぞれ美味しい思いはしたのかな……


IF四つ巴ルート その7

 不正が無かったと認めざるを得ない状況だったので、深雪はリーナを引き連れて自分の部屋へと戻る事にした。だが、何時までも恨みがましくくじを見詰め、そして諦めたのかそのくじをゴミ箱に捨て入れた。

 

「では、七草様は私の部屋ですので、ご案内いたします」

 

「えぇ、お願いするわ……」

 

 

 真由美も自分の引いたくじを睨み、ため息を吐いて水波の後に続いた。四人がリビングからいなくなり、残ったのは達也とエリカの二人となった。

 

「それじゃあ、俺たちも部屋に行くとするか」

 

「う、うん……」

 

 

 どことなく居心地の悪そうなエリカだったが、達也はその事を指摘する事は無かった。

 

「達也くんは緊張しないの?」

 

「緊張したところで、エリカがどこかの部屋に移れるわけじゃないんだし、エリカが必要以上に緊張してるから、俺は冷静でいた方が良いだろ?」

 

「まぁ、達也くんまで緊張してたら、あたしはとっくに気を失ってたかもしれないけどね」

 

 

 これが達也のやさしさだと理解しているエリカは、何時も通りの皮肉げな笑みを浮かべようとして、失敗した。

 

「あ、あれ? なんだろう、上手く表情が作れない……」

 

「幹比古と美月の事を言えないな、これじゃあ」

 

「べ、別にあそこまで純情じゃないわよ!」

 

 

 からかうのは大好きだが、からかわれるのが苦手なエリカは、普段自分がからかっている相手を引き合いに出されて、必要以上に大声で吠えた。

 

「大声を出さなくても聞こえてるんだ。少しは抑えてくれ」

 

「ご、ゴメン……って! 達也くんがあたしのことをからかったからでしょうが!」

 

「そんなに一緒が嫌だというなら、三人の誰かと変わるか、俺は地下室で作業するから一人で部屋を使うか?」

 

「変わるのは駄目! それに、家主である達也くんを追い出すのもね……大丈夫、嫌じゃないから」

 

 

 頬を赤らめ、視線を逸らして呟くエリカの頭を、達也は軽く撫でて部屋まで案内するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 エリカが恋する乙女状態になっている頃、深雪の部屋ではリーナが不機嫌なのを隠そうともしない態度で布団に寝転がっていた。

 

「リーナ、あんまり不機嫌オーラを振りまかないでくれないかしら?」

 

「そういうミユキだって、殺気が漏れ出てるわよ」

 

「まぁ、達也様でしたら問題ないでしょうが、エリカが抜け駆けしないかと不安なのよ」

 

「エリカって普段肝が据わってる風だけど、いざという時にはヘタレるから平気じゃない?」

 

「貴女、何処でそんな言葉を覚えたのかしら?」

 

「これくらい軍属だったからといって知ってるわよ! ミユキはワタシの事をバカだと思ってるの!?」

 

「えぇ」

 

「………」

 

 

 まさか肯定されるとは思ってなかったリーナは、完全に言葉を失ってしまった。

 

「それにしても、エリカは分かってて最後に引くと言い出したのかしら」

 

「ど、どうかしらね。エリカは本気でタツヤの部屋を狙ってた感じはしなかったけど」

 

「そうね、それは私も感じてたわ。でも、日本の諺にそういうのがあるから、もしかしてそれを信じたのかもしれないし」

 

「あぁ、なんだっけ……そう! 余り物には毒がある!」

 

「福、よ……毒があったらほしくないでしょ」

 

「し、知ってるわよ……ちょっとミユキを試しただけよ」

 

 

 自分が間違えた事に恥ずかしさを覚えたリーナは、何とかして誤魔化そうとしたが、深雪はその事を必要以上に追及する事はしなかった。

 

「とにかく、エリカがヘタレてくれるのを祈るだけね」

 

「心配なら見に行けばいいじゃない」

 

「リーナがもしエリカの立場だったとして、私が確認に来たらどう思うかしら?」

 

「そりゃ『フザケルナ!』よ……あぁ、そういう事ね」

 

 

 深雪が何を懸念したのか理解したリーナは、黙って深雪を同じ方に視線を向けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 緊張して眠れないかとも思っていたが、エリカはぐっすりと眠ってしまった。

 

「ん……」

 

 

 何かの物音で頭が覚醒し、ゆっくりと目を開けた。

 

「えっと……そうか。昨日は達也くんの部屋に泊ったんだっけ……って、あれ? 達也くんは?」

 

 

 部屋の主がいるはずのベッドに目を向けたが、そこには達也の姿は無かった。エリカは首を傾げながら気配を探ったが、少なくともエリカが探れる範囲には達也の気配は無かった。

 

「いったいどこに……あっ!」

 

 

 そこでエリカは、達也の日課を思い出した。

 

「こんな時間から……そりゃ強いわけだよね」

 

 

 エリカは達也の実力を知っている。実際に戦ったことがあるわけではないが、恐らくは自分の実力では達也に勝てない――それどころか一撃も食らわせる事無く負けるだろうと思っている。

 

「あたしだって達也くんと初めて会った時よりかは強くなってるけど、それでも追いつけないもんな……」

 

 

 入学早々の勧誘合戦に始まり、数々と達也の凄さを見てきたエリカとしては、追いつけるとは思ってなくとも近づきたいとは思っているのだ。

 

「そうと分かればあたしも少し身体を動かしておこうかな。でも、千葉家じゃないからシャワーとか勝手に使えないし……そもそも着替えが無いし……」

 

 

 寝間着で運動しようとは思えないので、エリカは部屋で出来る簡単なストレッチだけに留めようと決め、キッチンに人の気配を感じ取った。

 

「深雪? それとも、達也くんかな」

 

 

 恐る恐る部屋を出てキッチンを覗くと、そこには深雪の姿があった。

 

「あら、おはよう。エリカも早起きね」

 

「まぁね。そうだ、シャワー借りても良い? あたしも身体を動かしたいんだけど」

 

「達也様が帰ってくるまでに空くならいいわよ」

 

「オッケー」

 

 

 こうして、エリカも軽く運動をしてシャワーを浴び、脱衣所で達也と鉢合わせるというベタな失敗を演じるのだった。




達也も考え事してたんでしょうね……

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