劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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三人が飛ばし過ぎてエリカが……


IF四つ巴ルート その2

 荷解きがあるからと、達也と深雪は自室に下がり、リビングに案内された三人は、表面上はにこやかに会話をしていた。

 

「千葉さんとシールズさんは、何処で達也くんが今日帰ってくるって知ったのかしら?」

 

「あたしはほのかと雫から教えてもらったんです。そんな事より、七草先輩こそ何処で知ったんですか?」

 

「七草の情報網を甘く見ない方が良いわよ」

 

「随分と物騒な雰囲気ですね」

 

 

 達也一人の為に七草の情報網を駆使したのかと、エリカは苦笑いを浮かべたい衝動を押さえ、リーナに視線を向けた。

 

「リーナが一番分からないわよ……どうやって知ったの?」

 

「愛の力よ!」

 

「響子さんから聞いたんでしょ。同じ九島の血縁だし」

 

「あっさりとバラすなんて、マユミはノリが悪いわね」

 

 

 表情はにこやかだが、リーナの瞳には並々ならぬ殺気が込められていた。

 

「それから、ワタシは正式に九島家の人間として日本に帰化したから、九島リーナになりました。もうシールズではありませんので」

 

「よくUSNAが帰化を許したわよね……だってリーナは――」

 

「エリカ!」

 

「おっと。口止めされてたわね、そういえば」

 

「何の話?」

 

 

 真由美の立場であれば知っていてもおかしくないのだが、どうやら真由美はリーナの正体を知らないようだった。エリカは教えてもいいのではないかと思ったが、リーナではなく達也に怒られるかもしれないと思い直し口を噤んだ。

 

「ところで千葉さん。摩利は元気かしら?」

 

「知りませんよ、あんな女の事なんて。気になるならご自身で電話なりすれば良いじゃないですか」

 

「相変わらず摩利との関係は改善されてないのね」

 

「別に親しくする理由がありませんので。そもそも兄貴との婚約の際、達也くんを間に挟んであたしに報告してきた女に、こちらから歩み寄る理由がありません」

 

「義姉妹になるんだから、少しは仲良くした方が良いんじゃない?」

 

「千葉の家の話ですから、部外者の七草先輩には関係ありません」

 

 

 取り付く島もない態度に、真由美はこれ以上の説得は無理だと判断して話題を変える。

 

「婚約と言えば、私たちもそろそろ引っ越しの準備をしておかないといけないじゃない? 二人は準備してるのかしら?」

 

「あたしは何時でも家を出て行けるように最低限のものしか持ってませんので」

 

「ワタシも、日本で生活するのに必要最低限のものしか揃えていません。引っ越しが済んでから本格的にものを揃える予定ですから」

 

「そうなんだ。いろいろあるのね、二人とも」

 

 

 エリカの事情もリーナの事情もそれほど詳しくない真由美は、興味なさげにそう呟き、達也がやってくるのを今か今かとリビングの扉を見詰めていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リビングに不穏な空気を感じながらも、達也はいつも通りのポーカーフェイスでリビングにやってきた。

 

「達也くん、少し疲れてない?」

 

「別に、エリカに心配される程ではない」

 

「でも、達也くんがそんな分かりやすく疲れてるなんて、よっぽどじゃない?」

 

「まぁ、いろいろあったからな……まだ終わっては無いが」

 

 

 特に意識しなかったが、達也はエリカの隣に腰を下ろした。その行動に真由美とリーナがムッとした表情を浮かべたが、達也はいつも通りの場所に腰を下ろしただけで、エリカが優先されたというわけではない。

 

「達也さま、コーヒーをお持ちしました」

 

「すまない」

 

 

 水波がすかさず達也の前にコーヒーを用意し、遅れてきた深雪の前にロイヤルミルクティーを置く。

 

「あら、エリカが達也様の隣なのね」

 

「あたしが座ったんじゃなくて、達也くんがここに座ったんだからね」

 

「まぁ、達也様はいつもそこに座るから仕方ないのかもしれないけどね」

 

「そうだったんだ。てか、七草先輩とリーナの視線が痛いんだけどね」

 

「それだったら、そこから動けば良いんじゃない? そうすれば睨まれることも無くなるし」

 

「これくらい耐えられないとやっていけないんでしょ? 深雪だって他の婚約者から睨まれたりしてるんでしょうし」

 

「私の場合は妹だったって事で何とかなるもの」

 

 

 鉄壁のポーカーフェイスでエリカの嫌味を流して、深雪はにこやかにリーナに視線を向けた。

 

「ところでリーナ、貴女USNAと完全に切れたの?」

 

「当然でしょ? ワタシは国よりタツヤを選んだんだから」

 

「というか、リーナは仕事が耐えられなくなったんじゃないの? 達也様に救ってもらったのを口実に、達也様の婚約者になるって決めたんじゃないの? だから愛じゃなくて義理みたいじゃないのかしら?」

 

「そんな事ないわよ! ワタシは本気でタツヤの事を愛してるのよ!」

 

「あらあら、ご馳走様」

 

 

 リーナの告白を受けて、深雪は冷やかすような口調でしれっと視線を逸らした。逸らした先では、真由美が顔を真っ赤にしているのが目に入った。

 

「七草先輩は何で真っ赤になってるんですか?」

 

「他の人の愛の告白を聞けば、真っ赤になると思うけど?」

 

「そうですかね? エリカは特に表情を変えてませんけど」

 

「まぁ、あの女と修次兄貴のイチャイチャを見せられたりしてたからね」

 

「なるほどね……あの二人も周りの事を考え無さそうだものね」

 

「深雪がそれを言う?」

 

 

 エリカの言葉に、深雪はにっこりと笑みを浮かべて誤魔化したのだった。




摩利との関係は相変わらず……

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