劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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弁えているのか……?


IF夢姉妹ルート その2

 もっとも会いたくない相手と夢の中で再会し、息子の事で言い争いになるなど、真夜も思っていなかった。だが夢のお陰で深夜も達也の事をちゃんと思っていたのだという事が分かり、真夜は少し誇らしげに思えた。

 

「私のたっくんを姉さんもちゃんと評価しててくれたなんてね」

 

「その呼び方、どうにかならないのかしら? 仮にも貴女は四葉家の当主で、達也は次期当主、母子だとしても呼び方は改めるべきでは無くて?」

 

「別に公の場でそう呼んでるわけじゃないんだし、改める必要はないのではなくて? 私だってTPOを弁えて呼んでるわよ」

 

「深雪さんも達也の事を神聖視してるみたいだし、もうちょっと躾けを厳しくしておけばよかったかしら」

 

「深雪さんはしっかりしてると思いますよ? 姉さんが必要以上に押し付けた所為で、その反動が今出てるだけだと思うけど」

 

 

 互いに譲らない言い争いだと理解していながら、深夜も真夜も引く気はなかった。双子だから分かる、互いに相手に負けたくないという気持ちが強いのだ。

 

「そもそも姉さんがたっくんを産んですぐ私の許に返してくれれば、こんなことにはならなかったのよ」

 

「それは私に文句を言うのではなく、先代当主である英作さんに言うべきでは無くて?」

 

「残念ながら、英作さんは私の夢に出てこないので、たまたま出てきた姉さんに文句を言ってるだけよ」

 

「とにかく、達也を私の許に残すという結論を出したのは先代なのですから、私に文句を言うのはお門違いだと思いますがね」

 

「まぁ、姉さんは結局たっくんを愛する事が出来なくなってしまったのだから、たっくんの事を自慢する事すら出来なかったものね。幼少期のたっくんを近くで見られなかったという恨みは、それで相殺にしてあげるわ」

 

「貴女、私にも副作用が生じると分かっててあの実験をさせたのかしら?」

 

「そんなことありませんわよ。まぁ、姉さんの感情が消えればいい、とは思いましたがね。女としての幸せを奪った姉さんから、感情を奪いたいとは思ってたかもしれませんが」

 

「あれは……」

 

 

 あの時はそれがベストだと思ってやったが、その結果真夜は女としての幸せを失った。その事を今指摘されて深夜は答えに窮してしまった。

 

「とにかく、姉さんに言いたかった事はすべて言えましたし、そろそろ起きるとしましょうか」

 

「ま、待ちなさい!」

 

「さようなら姉さん、もう二度と会う事は無いでしょうね」

 

 

 そう告げて、真夜は自分の意識を覚醒させることに集中しだすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目を覚ました真夜は、すぐさま枕の下に入れた写真を取り出し、引き出しの奥底にしまい込んだ。

 

「まさかたっくんじゃなくて姉さんの夢を見るとはね」

 

 

 写真を選んだのは自分だし、その可能性があるという事を考えていなかったのも自分だ。真夜は自分の行動を思い出して苦笑いを浮かべる。

 

「おはようございます、奥様。昨晩は良い夢を見られましたか?」

 

「そうね……姉妹喧嘩なんて久しくしてなかったから、楽しかったと言えば楽しかったかもね」

 

「姉妹喧嘩? 深夜様の夢を見られたのですか?」

 

「たっくんの夢を見たかったのにね。まさか姉さんの夢を見るなんて思ってなかったわよ」

 

「しかし、深夜様はどのような用件で真夜様の夢の中に?」

 

「私とたっくんが仲良しだから嫉妬してたみたいよ? 私がたっくんの夢を見られないのは、姉さんが邪魔をしてたかららしいし」

 

「そのような事が……精神干渉魔法というのは、そういう事も出来るのですか?」

 

「さぁ? 私には精神干渉魔法の適性は無いもの。後でたっくんか深雪さんに電話で聞いてみましょうか?」

 

「奥様が達也殿と会話したいだけなのではありませんか?」

 

 

 葉山の指摘に、真夜は苦笑いを浮かべながら視線を明後日の方へ向ける。

 

「そういえば葉山さん、たっくんたちの新居はもうじき完成するのかしら?」

 

 

 あからさまな話題変更にもかかわらず、葉山はツッコミを入れる事無く真夜の質問に答える。

 

「来月の半ば――いえ、初旬には完成すると聞いておりますが、青木の見立てでは達也殿の誕生日前後になると聞いておりますので、詳しい日程は私には分かりません」

 

「恐らく青木さんの見立てが正しいでしょうね。あの人は性格は兎も角仕事に置いては信頼が置けますから」

 

「その言葉、青木に聞かせてやりたいですな。あやつは奥様の事を神聖視しておりますので、奥様に褒められたと知れば、ますますやる気を出すでしょう」

 

「青木さんはたっくんに対しての態度が問題外だから、本当なら追い出したいんだけど、あの仕事っぷりはもったいないと思わせるのよね」

 

「達也殿は気にしてる様子ではないので、奥様がそこまでする必要は無いと思いますが……最悪、達也殿に怒られてしまうかもしれませんよ?」

 

「それは問題ね……たっくんに怒られたら立ち直れないかもしれないし……」

 

「まぁ、達也殿はそのくらいで怒ったりするお人ではありませんよ」

 

「分かってるけどね……ちょっと想像しただけでこれだけのダメージを負うなんて……葉山さん、今日午前だけお休みを頂けるかしら?」

 

「かしこまりました。奥様の代理は私めが務めておきますので、ごゆっくりとお休みくださいませ」

 

 

 想像しただけで精神的ダメージを負った真夜に、葉山は慈しみの視線を向けるのだった。




精神的に脆いな、ここの真夜さんは……

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