劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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ほっこりする反応


IF婚約者ルートほのか編 その2

 雫が出て行ったあと、ほのかは頭を悩ませていた。達也の側にいたいのは当たり前なのだが、彼は別に遊びに来ているわけではない。雫が言ったように「ずっと側にいる」という事は不可能だとほのかにも分かっている。

 では、もう一つ言っていた攻めの姿勢を取ってみるという事を考え、ほのかは恥ずかしさのあまりベッドに倒れ込む。浜辺でも味わったが、達也以外の視線はどうしても恥ずかしいと思ってしまうのだ。

 

「無理だよ、雫……」

 

 

 提案をするだけしてさっさと自身の部屋に戻っていった親友の名を呟きながら、ほのかは達也が泊まっているホテルがある方角に視線を向ける。

 

「今頃深雪は達也さんと……ううん、達也さんはそんなことしないだろうし、深雪だってそれくらいの分別は付くわよね」

 

 

 達也は兎も角として、深雪に関してはイマイチ自信が持てなかったが、あの二人は遊びに来ているわけではないのだから、間違っても「そういう事」にはならないだろうと、ほのかは自分自身に言い聞かせた。

 

「達也さん、私たちがくっついていた時、どんな気分だったんだろう……」

 

 

 感情が読めない――ほのかは元々そのような事は出来ないが――ということがこれほど辛いとは思わなかったほのかは、一人寂し気に眠りに就いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 家の都合でパーティーを中座した達也を見送ることしか出来ずに、深雪に「手伝えることは無いか」と問い、何もないと言われ、ほのかはガックリと肩を落としていた。

 

「こればっかりは仕方ないよ」

 

 

 ほのかも分かるよね、という感じで雫に声を掛けられ、ほのかは肩だけでなく視線も落としたのだった。

 

「分かってるけどさ……私たちに『達也さんの家のお仕事』を手伝えるだけの実力は無いし、ついて行っても足手纏いにしかならないというのも」

 

「ここにいる人たちは達也さんの事情を一応知ってるから、隠さなくても良かったんじゃないかな?」

 

「一応ね。ほら、詳しく聞かれても困るからさ」

 

 

 達也が四葉の次期当主であることは知られているが、家庭の事情などを聞かれてもほのかには答えられない。だから伏せたのだが、雫に必要なかったのではと言われ苦笑いを浮かべて頷いた。

 

「こうなったらほのか」

 

「なに?」

 

「達也さんが戻ってきたら目一杯甘えるしかないね」

 

「甘えるって……雫は簡単に出来るかもしれないけど、私はそんなこと出来ないよ」

 

「別に難しい事じゃないよ。放置された分甘えさせてほしいって言えば、達也さんも深雪も納得するしかない」

 

「私にはそれを言う勇気がないもん……」

 

 

 雫なら出来そうだなとほのかは思ったが、それを自分にやれと言われても出来そうにないと感じていた。普段から達也の側まで簡単にすり寄っていける雫が、ずっと羨ましかったのだ。

 

「達也さんって、必要以上に近づかれると寝てる時でも反応するらしいけど、雫はそんなことお構いなしに達也さんのテリトリーに入っていくもんね」

 

「達也さんが私を攻撃するはず無いし」

 

「うん、分かってるけどさ……」

 

 

 自分が近づいて行っても攻撃されることは無いと頭では分かっているのだが、どうしても雫のように出来ない。それが最近のほのかの悩みなのだった。

 

「雫やエイミィが羨ましい……」

 

「むっ! ほのかは胸が小さい方が良かったと?」

 

「そんなこと言ってないでしょ!」

 

 

 何故か機嫌が悪くなった雫に、ほのかは手を焼いたのだった。そのお陰で、達也がいない寂しさを紛らわせることが出来たのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 家の仕事を終えた達也が会場に戻ってきた途端、雫は達也の腕にしがみつき、それを見てほのかも反対側の腕にしがみついた。

 

「どうかしたのか?」

 

「私たちを放っておいてどこかに行っていた罰」

 

「別に遊びに行っていたわけじゃないんだが」

 

「それでもです! 今日はずっと一緒にいてください」

 

「ずっと!?」

 

 

 何を想像したのか、達也ではなくその後ろに続いていた深雪が声を上げる。その声に達也が訝しげな視線を向けると、深雪はすぐに頭を下げ恥ずかしげに俯いたのだった。

 

「ずっと一緒にいるのは構わないが、動きにくいんだが」

 

「それくらいは我慢すべき。達也さんは私たちの事をちょっと蔑ろにし過ぎだと思う」

 

「そうですよ。深雪ばっかり贔屓してると思います」

 

 

 ほのかが深雪の首筋に光るネックレスに視線を向ける。誕生日プレゼントだと理解してても羨ましいと思ってしまうのだった。

 

「私たちも達也さんからアクセサリーを贈られてみたいです」

 

「高校生の内から指輪をするわけにもいかないだろ?」

 

「指輪……」

 

「ほ、ほのか? 何を考えてるの?」

 

 

 急に顔を真っ赤にしてふらふらとし始めた親友に、雫は慌てて声を掛ける。それだけではなく達也から腕を解いてほのかの身体を支えに行った。

 

「雫……達也さんから指輪を貰ったら、私生きていけるかな……」

 

「どういう事?」

 

「だって、結婚指輪だよ? 嬉しすぎて死んじゃうかも……」

 

「その程度で死んじゃったら、初夜の時どうするの?」

 

「しょ……」

 

 

 雫の直接過ぎる表現にさらに頭が沸騰したのか、ほのかはそのまま倒れてしまった。それを見ていた達也はやれやれと首を左右に振ってから、ほのかを抱きあがて会場の隣の部屋までほのかを運ぶことにした。

 

「(あれ? 私今、持ち上げられてる? 誰に……?)」

 

 

 辛うじて気は失っていなかったほのかは誰かに抱きかかえられている事を意識し、誰がそのような事をしてくれているのかを確認するために目を開ける。

 

「た、達也さん!?」

 

「耳元で大声を出さないでくれ」

 

「ご、ゴメンなさい」

 

 

 これほど密着した事など無かったので、ほのかの心臓は未だかつてないくらい早鐘を打っていたが、そんなことどうでも良いと思えるくらい、ほのかは幸せな気分を味わっていたのだった。




表現が直接的な雫……

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