劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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やっと本編で彼女が……


大人たちのティータイム

 真由美と摩利の出番の合間に、達也はホテルの一室を訪れていた。本来なら先輩の競技を見てるのが普通なのだが、達也に見に来て欲しいと思ってる選手の方が稀であり、男子選手に至っては見に来るなとすら思っているのだ。

 来てほしく無いと意思表示されてる以上、達也が見学に行くと精神に異常をきたす恐れがあるので、達也は見学には行かなかったのだ。

 そしてこの一室、普通の高校生なら近付いただけで追い返されるような雰囲気が中から漂ってきているのだが、達也は気にせずドアの前に立っている若者(とは言っても達也よりは年上だ)に声を掛けた。

 

「お待ちしておりました。どうぞ」

 

 

 声を掛けなくとも同じ反応をしたのだろうが、達也は自分の方が年下で、恐らく中に居る人間に任されたんだろうと理解していたので声を掛けたのだ。

 

「風間少佐、お客様です」

 

 

 客などと言った身分では無いんじゃないのか? と達也は思ったが、あえて指摘はしない。余計な口を叩けるほど、自分はこの場所で発言権は無いと思ったのだろう。

 

「入れ」

 

 

 中から許可が出たので、立ち番の若者がドアを開ける。中には大人の男性が四人と若い女性が揃ってドアを見ていた。その視線に耐えられなかったのか、若者はすぐさま一礼して立ち番に戻る。

 

「来たか、まあ掛けろ」

 

「いえ、自分はこのままで」

 

 

 風間に掛けろと言われて「では失礼して」と言える間柄では無い。達也もその事を弁えているからこそその場で休めの体勢を取ったのだ。

 

「達也君、私たちは君を『戦略級魔法師・大黒竜也特尉』としてでは無く、我々の友人『司波達也君』として呼んだんだ。立ったままだと我々の友人関係にまで上下が存在するみたいじゃないか」

 

「それに、君が立ったままだと話し難いしな」

 

 円卓のテーブルに座っている他の人間も頷き達也に着席を促す。独立魔法大隊のティータイムは円卓と決められているのだ。

 部下、または仲間では無く、この場では友人だと風間と同じくテーブルを囲んでいた二人の仕官にも着席を促され、達也は一礼して席に腰を下ろした。

 

「真田大尉、柳大尉、ありがとうございます」

 

 

 達也が腰を下ろしたのとほぼ同時に、背後から達也に抱きついた女性、その姿に達也以外の男性は呆れ顔を浮かべている。

 

「藤林、もう少し我慢出来なかったのか……」

 

「まあまあ少佐、藤林君としては我慢した方だと思いますよ」

 

 

 風間のぼやきに真田が答える。彼女――藤林響子は入室してすぐに抱きつこうとしてたのを、無言のプレッシャーに負けて我慢してたのだ。

 

「達也君、久しぶりだねー」

 

「そうですね。藤林少尉だけでは無く柳大尉もお久しぶりです。真田大尉、この間はありがとうございました」

 

「いやいや、『サード・アイ』の調整は僕の仕事だからね。それに、あの距離での狙撃データは君じゃなきゃ手に入らないから」

 

「元々あれは自分のですからね。そう言えば山中先生、先日の検診結果をまだ貰ってませんが」

 

「達也……俺にだけ態度が違わないか?」

 

「面と向かって『人体実験させろ』なんて言う相手に、いくら達也君でも礼儀良くなんて出来ませんよ、山中先生」

 

「ちょっと弄ったくらいでは大した影響は無いと思うんだがな……」

 

「影響が無ければ良いって訳じゃありませんよ」

 

 

 軍医であり、一級の治癒魔法師である山中軍医少佐に達也に抱きついたままの藤林が反論する。

 

「……藤林、そろそろ離れたら如何だ?」

 

「達也君も困ってるよ」

 

 

 視線での非難では全く堪えなかったので、ついに風間も真田も声に出して藤林を非難し始める。

 

「達也君、困ってるの?」

 

「身動きが出来ないので多少は」

 

「そう? じゃあしょうがないね」

 

 

 上官である風間の言う事には従わず、達也の言葉にはあっさりと従った藤林、その姿に全員が苦笑いを浮かべた。

 

「そう言えば、昨夜はご苦労だったな」

 

「少佐、やつらはやはり……」

 

「ああ、無頭竜の工作員だった」

 

 

 九校戦のメンバーに決まった日の夜に注意は受けていたが、実際に無頭竜の工作員に出くわすとは達也も思って無かったのだ。

 

「達也君、お手柄だったね。もしかして警戒してたの?」

 

「いえ、散歩していたら偶々気配を掴んだだけですよ」

 

「お散歩? あんな遅い時間に?」

 

「試合用のCADのチェックをしていたんですよ。その後で少しブラブラとしてただけです」

 

「誘ってくれたら付き合ったのに」

 

「藤林」

 

 

 あからさまな誘惑に風間の顔を顰めた。藤林が達也に好意を寄せているのは理解しているが、あまりにも堂々とされると周りとしては迷惑なのだろう。

 

「ところで、君はエンジニアとして参加してるようだが、チームメイトは君が『シルバー』だと知ってるのか?」

 

「山中先生、それは一応秘匿情報ですので」

 

「高校生の大会に君が参加するのは場違いなような気もするけどね」

 

「あら、真田大尉、達也君はれっきとした高校生なのですが?」

 

「そうなんだけどね……」

 

 

 達也の技術力の高さを知っている真田からしたら、達也が参加するだけで優勝するのでは無いかと思っているのだ。もちろん他のメンバーも概ねそんな感じなのだが……

 

「選手としては参加しないの? 『マテリアル・バースト』は兎も角としても、『フラッシュ・キャスト』や『雲散霧消(ミスト・ディスバージョン)』があるんだから結構良い所まで行くと思うわよ? 『トライデント』は持ってきてるんでしょ?」

 

「トライデントはCADのレギュレーション違反で使えませんし、フラッシュ・キャストは四葉の秘匿技術ですから」

 

「そもそも軍事機密の魔法である『マテリアル・バースト』を衆人環視の中で使わせる訳にはいかないだろ」

 

「そもそも殺傷ランクAの『分解』を使えるとは思えないけどね……七草家の令嬢や十文字家の御曹司の魔法とは訳が違うんだから」

 

「あら、真田大尉はご存知無いんですか? 殺傷ランクが高い魔法でも、スピード・シューティングとピラーズ・ブレイクでは使えるんですよ?」

 

「藤林、それくらいにしておけ。達也には隠さなきゃならない事情が多い。下手に注目されるのはマズイだろうが」

 

 

 上官の一声で藤林は大人しくなった。達也としても競技に参加するつもりは無かったので風間の対応には感謝するしか無い。

 

「面白いとは僕も思うけどね」

 

「自分が選手として参加する状況にはならないと思いますが」

 

「万が一そんな場面になったとしても……分かってるな?」

 

「ええ。『雲散霧消』を使わなければいけない状況になったら、大人しく負け犬になりますよ」

 

「なら良い」

 

「ですが、さっきも言ったように自分が選手として参加するとは考え難いと言うかありえないと思うのですが……」

 

「心掛けの問題だ」

 

 

 風間がティーカップを持ちながらの忠告を終えると、我慢していた藤林が再び達也にくっつく。ただし今度は背後からでは無く正面にだ。

 

「藤林少尉、何故自分の膝の上に座るのですか?」

 

「固い事は良いじゃない。それよりも達也君、何時までも階級で呼ばれると寂しいんだけどな~」

 

「……他に如何呼べば?」

 

「何時も言ってるように、名前で良いわよ。呼び捨てでも構わないし」

 

 

 藤林の態度に、達也は周りの猛者たちに救いを求めるが、誰一人達也と視線を合わせようとはしなかった……歴戦の猛者も彼女には敵わないのだろうと、達也は諦めて自力で何とかするのだった……




かなり響子が甘えてます……

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