劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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90話目です


容赦の無い助言

 深雪たちを部屋に帰し、達也は作業車で起動式のアレンジをしていた。隣では五十里も作業をしている。

 

「司波君、そろそろ戻ったら如何だい? 君が担当する選手の出番は四日目以降なんだから」

 

「もうこんな時間でしたか」

 

 

 時計の針は既に十二時を回っている。五十里の言うように、達也が担当するのは一年生、つまり新人戦だけを担当すれば良いのだから、開催前日から根をつめる必要は達也には無い。

 

「それではお先に失礼します」

 

「うん、お疲れ様」

 

 

 男子にしては色っぽい笑みを浮かべ、五十里は達也を見送る。同性の友人が少ないのが悩みと聞いていた達也は、何となく原因はこれじゃないのかと思ったが、口には出さなかった。

 

「(少し見回りでもしとくか)」

 

 

 葉山からも、風間からもこの辺りに不審な動きをする集団が居ると聞かされていた達也は、ホテル周りを散歩がてら見回る事にした。何も無ければそれで良い。達也は希望的観測をしながらブラブラと歩き始める。存在を探れる達也にとって、別に歩き回らなくても見回りは出来るのだが、先ほどまで作業をしてたので気分転換も兼ねての見回りなのだ。

 

「(怪しい動きをしてるのが三人……CADでは無く拳銃か……ん? これは幹比古か?)」

 

 

 不審者の存在をキャッチし、武装も確認して近付こうとした達也の意識が、知り合いの気配を感じ取った。

 

「(精霊喚起の練習か……如何やら幹比古も不審者に気がついたようだな)」

 

 

 あの位置なら自分よりも先に幹比古が不審者に遭遇する。達也は出来るだけ気配を殺しつつ迅速に不審者が居るポイントまで移動した。

 

「(……それでは間に合わない)」

 

 

 幹比古が展開した起動式を読み取り、達也は瞬時に右手でCADの引き金を引いた。不審者たちが幹比古に向けていた拳銃はバラバラに分解され、その直後に幹比古の放った雷が不審者に落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 少し遡り、幹比古は不審者の存在を精霊から教えられた。

 

「(こんな場所に不審者? 軍の施設だぞ此処は)」

 

 

 達也のように予め不審な動きがあるなんて知らされていない幹比古はかなり焦っていた。不審者に気付く前から、幹比古の心中は穏やかでは無かったのだ。

 昨日父親に言われた言葉、「本来自分が立っていたであろう場所を見てこい」と言うのは、事故に遭わなければ自分も九校戦に参加していただろうと言う事なのだ。力を失い、補欠としてでしか入学できなかった自分に、今の力を実感させる為に放った言葉だったのだと、幹比古はちゃんと理解している。

 エリカは手違いだと言っていたが、あれも父親が手を回してさせた事だったのだろうとも気がついている。

 

「(僕だって出来る)」

 

 

 不審者を捕まえれば自分が十分戦える事が証明出来る。そう思い幹比古は呪符を取り出し魔法を発動させる。

 だがその直前に不審者たちも幹比古の存在に気がつく。

 

「(駄目だ、やられる……)」

 

 

 幹比古の魔法は一秒後に不審者たちにダメージを与えるが、不審者たちの拳銃は0.5秒後に銃弾を放ち、幹比古を貫くだろう。

 やられると覚悟した幹比古だったが、拳銃は弾を吐き出す事無く分解され、その直後に幹比古の魔法が不審者たちを気絶させた。

 

「誰だ!」

 

 

 やられなかったのは援護があったから。だが援護してくれたからと言って、その相手が自分の味方だとは限らない。敵の敵は味方……とは限らないのだから。

 

「俺だ」

 

「達也?」

 

 

 暗闇から現れたのは、達也だった。自分と同じ二科生ながら、達也は並み居る一科生を倒したと噂されている。幹比古は達也の強さの秘密を知りたいと思っているのだ。

 

「死んではいない。いい腕だな」

 

 

 自分の考えを他所に、達也は不審者たちの状況を確認している。幹比古は褒められたにも関わらず卑屈な態度で達也に話しかける。

 

「でも、達也の補助が無ければ僕はやられていた。本来なら僕は死んでいたかもしれないんだ」

 

「……阿呆か」

 

「え?」

 

 

 卑屈になり、「その通りだ」と言われると思っていた幹比古にとって、達也の発言は思いがけないものだった。

 

「俺の助けがありお前が敵を倒した。これが唯一の事実だ。本来なら? 幹比古、お前は何を本来の形だと思ってるんだ?」

 

「それは……」

 

 

 達也の問いかけについ言葉に詰まる幹比古。達也はその姿を見て更に呆れたように続ける。

 

「まさかとは思うが、どんな手練を相手にしようが、どれほど敵がいようが関係無く、一人で全てを片付ける。そんな事を基準にしてるんじゃないだろうな?」

 

 

 達也の問いかけに幹比古は心臓を掴まれたような感覚に陥る。あまりにも馬鹿らしい基準だと思う反面で、それに近しい事を考えていたのだと思い知らされたのだから。

 

「……もう一度言うぞ、幹比古。お前は阿呆だ」

 

「達也……」

 

「何故お前はそうまでして自分を低く見せようとする?」

 

「達也に言ってもしょうがないよ。これはどうにもならない事なんだ」

 

 

 突き放し話を終わらせようとする幹比古に、達也は更に踏み込んだ。

 

「どうにかなるかも知れんぞ」

 

「えっ?」

 

「幹比古、お前が気にしてるのは魔法の発動速度じゃないのか?」

 

 

 自分の悩みをズバリと言い当てられ、幹比古は一瞬だけたじろぐ。

 

「……エリカに聞いたのかい?」

 

「否」

 

「じゃあ何で分かるんだよ」

 

「お前の術式には無駄が多すぎる」

 

「……何だって?」

 

「お前自身の能力では無く、お前が使ってる術式に欠陥があると言ったんだ」

 

「何故君にそんな事が言える! 僕が使ってるのは吉田家が長年かけて編み出したものだ! それを一回やそこら見ただけで欠陥扱いするなんて!」

 

 

 幹比古は激昂した。自分の家が長い間研究を重ねたものを欠陥扱いされた事にもだが、自分が目を逸らしてきた事を言い当てられたような気がして、それを否定したいが為に激昂したのだ。

 

「俺には分かるんだよ。無理に信じてもらう必要は無いがな」

 

「……何だって?」

 

 

 先ほどと同じ言葉を違う意味合いで使う幹比古。達也が嘘を言っているようには見えなかったのだ。

 

「俺には視ただけで起動式の記述を読み取り、魔法式を解析する事が出来る。まぁ無理に信じろとは言わんが……それで、コイツらを如何するかだが、俺が見張ってるから幹比古が警備員を呼んできてくれ」

 

「わ、分かった」

 

 

 幹比古としても、達也から聞かされた事実を自分の中で処理するのに時間が欲しかったので、達也の提案はありがたかった。

 呪符を取り出し生垣を飛び越えた幹比古を確認してから、達也は暗闇に話しかける。

 

「そろそろ出てきてはくれませんか、少佐」

 

「気付いていたのか」

 

「何となくですがね」

 

 

 上官であり兄弟子である風間玄信の存在に気づいていたので、幹比古に警備員を呼びに行かせたのだ。

 

「コイツらの処理をお任せしてもよろしいですか?」

 

「いいだろう。そもそもコイツらの持っている情報は我々にも役立つだろうからな。特尉に頼まれなくても此方から申し出たさ」

 

「そうでしたか……」

 

「それではコイツらは我々が引き取ろう。達也、私たちもこのホテルに滞在してるから、明日にでも部屋に来ると良い」

 

「分かりました」

 

 

 呼び方が「特尉」から「達也」に代わったのを聞いて、達也も上官に接する態度から兄弟子、もしくは旧知の人間にする態度に変え敬礼では無く会釈をしてその場から部屋に戻ったのだった。




原作よりも、達也の存在を探る力は上がってます

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