劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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個々だと無理でした……


IF甘婚約者ルート 平河姉妹編

 小春と千秋は春休みを利用して、達也が実質トップとして活動しているFLT第三課にアルバイトという名目で手伝いに来ていた。

 

「さすが御曹司の婚約者様だけありますね。学生レベルは完全に越えていますよ」

 

「このままウチに就職してほしいくらいです」

 

 

 小春は九校戦のエンジニアに選出されるくらいの実力者であるが、妹の千秋も知識量もさることながら技術力もそれなりにあるので、第三課の研究員たちはお世辞抜きに平河姉妹の事を賞賛した。

 

「司波君に比べたらまだまだですよ」

 

「彼は知識量も技術力も、争うのが馬鹿らしいくらいの差を見せつけてきましたからね」

 

 

 千秋は達也と争う気がまだあるようだが、小春は既に負けを認めている様子である。一昨年の九校戦で、初めは二科生である達也の事を下に見ていた小春ではあったが、次々と優秀な成績を収める選手は、ほぼ達也が担当エンジニアの選手ばかりであり、しまいには本人がモノリス・コードに参加して『クリムゾン・プリンス』を真っ向からねじ伏せ『カーディナル・ジョージ』に技術力で圧倒したのを受け、素直に負けを認めたのだった。

 

「御曹司はいろいろと高校生離れしていますので、比べる必要は無いと思いますがね」

 

「そもそも、御曹司と比べれば我々だって未熟者ですよ」

 

「オメェら、無駄口ばっか叩いてねぇで仕事しろ! お二人と違ってオメェらは正式に雇われてるんだからな」

 

「あっ、牛山さん」

 

 

 平河姉妹とお喋りしていた研究員たちは、慌てて持ち場に戻ったが、二人は主任である牛山に会釈し、そのまま会話をすることにしたのだった。

 

「すみやせん、お二方。御曹司はもう少ししたらここに来られますので」

 

「司波君、いろいろと忙しいみたいですね」

 

「へぇ。四葉のお坊ちゃまという事が世間にも公表されましたので、御曹司が保有していた株券が正式に御曹司名義に変更されやしたので、重役会議には顔を出さなければならなくなったんでさぁ」

 

「同い年なのに凄いですよね」

 

 

 千秋が素直に賞賛を送ると、小春が意外そうな顔で妹の顔を覗き込んだ。

 

「どうかしたの?」

 

「いや、千秋が素直に司波君の事を認めるなんて珍しいな、と思っただけよ」

 

「技術力では張り合いたいけど、そういうところでは張り合えないもん。私は普通の家に生まれたんだし、司波君みたいに圧倒的な力は持ってないし」

 

「まぁ、御曹司にもいろいろあったんで、必ずしも家の力というわけではねぇんですがね。その辺りは知ってるとは思いますが」

 

「一応は聞いていますし、司波君も大変だって事は知っています。それでも、私は司波君と張り合いたいんです」

 

「若いってのは羨ましいですな。俺も少しでも上を目指した方が良いのかもしれやせんね」

 

 

 そう言いながら牛山は頭を掻き、仕事がありやすからと言い残して奥に消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アルバイトの時間も終わり、達也も重役会議を済ませて第三課に顔を出し、牛山に二、三指示を出して平河姉妹と一緒に帰る事になった。

 

「今日はお姉ちゃんの部屋に遊びに行っていいんだよね?」

 

「別にいいけど、何もないわよ?」

 

「家に司波君を呼ぶと、お母さんがうるさいんだもん」

 

 

 小春は進学すると同時に家を出ており、今は一人暮らしである。その部屋に千秋と達也が遊びに行くことになっているのだ。

 

「そう言えば司波君は一科生に転籍するの? それとも魔工科のまま?」

 

「三学年で全て学科が違うのも面倒なので、魔工科のままです。そもそも、一科生の中に入る気になれませんので」

 

「アイツら、未だに司波君の実力を認めようとしないもんね」

 

 

 千秋が言うアイツらとは、森崎たちの事であり、半分以上の一科生は達也の実力を認めているのだ。

 

「それにしても、司波君が四葉の御曹司だったとは驚きだわ」

 

「事情は聞いたし、それなら仕方ないって納得出来たけど、それならそうと論文コンペの時に言ってほしかった」

 

「無理だと思うわよ、それ……あの時はまだ事情を明かせる状況じゃなかったし、貴女と司波君の関係は同級生ってだけだもの」

 

 

 小春のツッコミに、千秋も分かってると言わんばかりの表情を見せた。

 

「とりあえず寛いでて。今お茶淹れるから」

 

 

 部屋に到着し、小春は二人をリビングに案内して自分はキッチンでお茶を淹れる。その間達也と千秋は会話をせず、二人とも黙ったまま座っていた。

 

「お待たせ」

 

「ねぇお姉ちゃん」

 

「なに?」

 

「お姉ちゃんってキスしたことあるの?」

 

 

 千秋の質問に、小春は持っていたカップを落としかけたが、達也が素早い動きでカップを受け止めたので、大事にはならなかった。

 

「い、いきなり何を言うのよ!」

 

「だって、お姉ちゃんだったら司波君の前に彼氏がいてもおかしくないかなって」

 

「いないわよそんな人! 千秋だって知ってるでしょ!」

 

「姉妹だからって何でも知ってるわけじゃないでしょ? お姉ちゃんだって私の事全部知ってるわけじゃないんだし」

 

「まぁ……それはそうだけど」

 

 

 正論で返され、小春は困惑してしまう。確かに姉妹だからと言って何でも知っているわけではない。知っていたのなら、妹が危ない事をする前に止められただろうと、小春は論文コンペの時の事を思い出していた。

 

「せっかくだし、今日ここで司波君にしてもらったら? 婚約者なんだし、それくらい普通でしょ」

 

「それだったら、千秋だって婚約者なんだから、一緒にしてもらえばいいじゃない」

 

 

 姉妹の中で何かが決まったようで、二人揃って達也に視線を向けた。

 

「というわけだから司波君、まずはお姉ちゃんからね」

 

「何がそういうわけだからだ……」

 

 

 呆れながらも、達也はしっかりと二人に口づけをしたのだった。




二人纏めてとは……さすがはお兄様……

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