卒業式を終えたあずさは、生徒会メンバーに挨拶をするために生徒会室を五十里と共に訪れていた。現生徒会メンバーの中で、会長の深雪と書記長の達也とは長い付き合いになっているので、あずさの目頭には熱いものがこみ上げている。
「司波君、深雪さん、二年間ありがとうございました。私が会長としてちゃんとしてこれたのは、司波君と深雪さんがフォローしてくれたからです」
「深雪は兎も角、俺は途中からしか中条先輩の下についていません。お礼を言われる事もしてないと思うのですが」
「そんなことないですよ! 司波君がいろいろ教えてくれたから、私もCADの調整技術が高まりましたし、それに何より司波君が早く仕事を終わらせてくれたからこそ、私たちも頑張らなきゃって思えたんですから」
実際達也が他のメンバーと同じ量の仕事をこなせば、所要時間は半分近くで済む。そのお陰で達也は自由時間を確保し、他のメンバーは尊敬と自分もしっかりとしなければという気持ちが芽生えたのだ。
「僕も司波君にはいろいろと教えてもらったし、司波君がどう思ってたかは分からないけど、同性の友達が出来て僕は嬉しかったよ」
「友達と思っていただいていたとは、光栄です。俺の方こそ、五十里先輩にはいろいろと教えていただきまして、ありがとうございました」
「花音もだいぶお世話になったし、重ね重ねありがとうね、司波君」
あずさも五十里も達也にばかりお礼を言っているが、深雪はちっとも機嫌が悪くなかった。むしろ達也の事を認めてくれている二人に、満面の笑みを向けているくらいだ。
「卒業記念に、私のCADを調整してくれませんか?」
かねてからお願いしていたが、ずっと煙に巻かれていた事を、このタイミングなら断られないだろうと確信しているようにあずさが達也に迫る。
「……今回だけですからね」
「はい!」
達也は毎回、ライセンスを取るまで待ってほしいと断っていたのだが、四葉家の次期当主に決まってしまった以上、その言い訳は使えなくなってしまった。
「えへへ、なんだかうれしいです」
「では中条先輩、測定器のある部屋に移動しましょう」
「達也様、私たちは生徒会の仕事を片付けておきますので」
「ああ、頼む」
「僕も見学がてら同席してもいいかな?」
「俺は構いませんが、中条先輩はどうです?」
「五十里くんなら私も構いませんよ」
あずさの了承も得、五十里も達也の調整をじっくり見ておこうと同行する事にしたのだった。
「司波君が普通の家の人だったら、僕の家に欲しいくらいなんだけどね」
「五十里家で雇ってもらえるほどではないと思うのですが」
「謙遜も行き過ぎると嫌味だよ。君の実力は僕が認める。それだけで五十里家では十分評価されるものだよ」
「五十里くん、なんだか楽しそうですね」
「中条さんだって、嬉しいのを隠せてないくらい浮かれてるね」
あずさも五十里も、早いうちから達也の実力を認めているので、こうして達也の実力を間近で見られるチャンスは絶対にものにしたいと思っている。頑なに調整を引き受けなかった達也だけに、こういうチャンスを手に入れたあずさと五十里は、それぞれ自分が浮かれているのを自覚しながらもそれを隠す事が出来なかったのだ。
「そう言えば中条さんは、司波君がトーラス・シルバーじゃないかって疑ってたね」
「だって、公開間もない飛行術式を低スペックのCADで再現して、起動式が公開されていないインフェルノ、フォノン・メーザー、ニブルヘイムを使用させて、吉祥寺真紅郎君しか使わなかったインビジブル・ブリットを改良してみたりと、普通の高校生には無理難題な事をやってのけたんですから。それくらい疑っても仕方ない事をしてきたんですよ、司波君は」
「確かに、恒星炉の時も普通の高校生には考え付かないような事をやってみたり、論文コンペの時もいきなり代理を頼まれても問題なくこなしてたし。むしろ司波君の書き上げた論文を見てみたいとすら思ったくらいだもんね」
「お二人とも、褒めたからってなにも出ませんからね」
あまりにも褒めちぎる二人に、達也は若干の居心地の悪さを感じていた。昔から褒められてこなかったせいもあるが、達也は褒められる事に慣れていないのだ。
「別に何か欲しくて褒めてるわけじゃないよ。純粋に君は凄いって思ってるだけだから」
「司波君が調整した選手は負けないってジンクスは、まだ続いてるわけですからね。私じゃ太刀打ち出来ませんでしたし」
「僕もだよ。同じスペックのCADを使ってるはずなのに、どうしてあんなに差が出るんだろうか不思議でしょうがないよ」
「起動式の無駄を出来るだけ省いて、同じ効果が得られるようにアレンジしてるだけで、他に大したことをしてるわけじゃないんですけどね」
「そのアレンジが、高校生レベルじゃないと思うんですけどね。前に吉田くんの魔法をアレンジしていたのを見ましたけど、私には同じことは出来そうになかったですし」
「そうなんだ。中条さんがそう感じたって事は、僕にも難しいんだろうな」
二人が羨望の眼差しを達也に向けると、達也は困ったように頭を掻き、端末にインストールした鍵を使って調整室へとさっさと入っていくのだった。
「照れたのかな?」
「珍しい事もあるんですね」
あずさと五十里はくすくすと笑いながら、達也の後に続くように調整室へと入っていくのだった。
あーちゃん歓喜展開に……