劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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タイトル考えなくていいのは楽だな~


婚約者IFルート その4

 元々使っていた部屋はUSNAとの関係で使えなくなってしまったので、リーナは司波家でしばらく生活する事になった。

 いくら国同士で話が付いているとはいえ、スターズの情報を持っている彼女を、USNA軍が素直に手放すとも考えにくいので、しばらくは司波家で生活し、整備が整った段階で四葉家の準備した家に達也と二人で生活する事になっているのだ。

 

「リーナ、貴女軍人だったから仕方ないのかもしれないけど、もう少し綺麗に作れないのかしら?」

 

「ミユキのように毎日やってたら上手に出来るけども、ワタシはまだ数日なのよ? 最初から完璧を求めないでよ」

 

「これをリーナ自身が食べるなら問題ないけど、お兄様に食べていただくのよ? 貴女、お兄様を殺すつもりなの?」

 

「タツヤなら大丈夫よ。即死ではない限り蘇るから」

 

「そういう問題ではないでしょ! やっぱり私も一緒に引っ越そうかしら」

 

 

 司波家のキッチンでは今、リーナの花嫁修業を深雪が手伝っていた。小姑でもある深雪は、リーナに厳しく当たって、隙あらば自分も新居について行こうとしている。そんなことは避けたいリーナは、この家で生活してるうちに、最低限の家事スキルを身につけようと必死になって特訓しているのだ。

 

「ミユキはこの家でミナミと二人で暮らせばいいでしょ! タツヤとワタシの新居にまでついてこようなんて、いい加減タツヤ離れをしたらどうなの?」

 

「リーナには分からないでしょうね。お兄様が貴女を選んだからといって、私がお兄様を敬愛するのを止める事は無いのよ。私は生涯、お兄様を敬愛し続けるわ」

 

「事情があるのはなんとなく分かるけど、四葉の縁者としてそれは許されるのかしら?」

 

「叔母様も独身で居られるし、お兄様とリーナの間に子供が出来れば問題ないわよ。まぁ、妬ましく思ってるのは私だけじゃないけど」

 

「正式に決まったのだから、いい加減諦めてもらいたいものよ……どれだけタツヤはモテてるのかしら……」

 

「お兄様の魅力に逆らえる女子はそうそういないわ。だから、リーナも今の状況を受け入れられないのなら、婚約を解消してUSNAにでも帰ったら?」

 

「そんなこと出来るわけないでしょ! それに、タツヤはワタシだけを愛してくれてるんだから」

 

 

 リーナが頬を染めながら放った言葉に、司波家のキッチンは氷河期に突入――しそうになりすぐに達也の魔法がそれを防いだ。

 

「少しは仲良く出来ないのか、お前らは」

 

「だってタツヤ! ミユキがワタシの事を苛めるんだもん!」

 

「苛めてなどいません! リーナが消し炭をお兄様に食べさせようとするものですから、注意していただけです!」

 

「……リーナはもう少し精進する事。深雪はもう一つまみくらい優しく教える事」

 

 

 達也に注意され、リーナも深雪も渋々といった感じで互いに頭を下げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夕食も済み、リーナは達也の部屋で愚痴を溢していた。

 

「タツヤとミユキの間に何があったかは聞かないけど、いい加減兄離れしてもいいんじゃないの? ましてやワタシ、婚約者よ? 何で従妹より下に見られなければならないのよ」

 

「家事において、深雪は妥協しないからな。もう少し頑張ってくれ」

 

「だいたい、家事なんてHARに任せれば良いじゃないの! そりゃ、ワタシだってタツヤに美味しい料理を作ってあげられたらって思うけど、いきなりあんなスパルタじゃ覚えられるものも覚えられないわよ」

 

「相手がリーナだから、余計に手加減出来なくなってるんだろう」

 

「……ライバルだって認めてくれるのは嬉しいけど、こっちの勝負はもうワタシ勝ってるのに」

 

 

 甘えるように達也にすり寄るリーナ。達也もそれを拒む事無く受け入れ、リーナの髪を撫でる。

 

「というか、四葉縁者からも相当睨まれてるし、歓迎されてないのかしら、ワタシ……」

 

「気持ちの整理がついてないだけだろ。何時までも妬むほど、他の人も子供じゃないさ」

 

「だと良いんだけど……ホノカもアプローチは続けてるみたいだし、ご当主様も愛人の一人や二人くらいって冗談とも思えない感じで言ってるし……」

 

 

 元々重婚でも構わないという流れだったので、達也の事を諦めきれない女子も一人や二人ではない。なおかつ現当主が愛人の存在を認めなさいと言わんばかりの圧力を掛けて来ているのだ。リーナが不安になるのも無理はないだろう。

 

「母上は結婚していないからな。相手を一人占めしたいという気持ちが分からないのかもしれない」

 

「ワタシだって、タツヤくらいモテる相手なら、愛人の一人や二人、仕方ないと思うわよ。でも、一人や二人で済まないでしょ、タツヤの場合」

 

「まるで俺が女誑しみたいな言い方だな」

 

「そうじゃなくて……だって、ミユキにホノカ、エリカにシズク、マユミや他の子たちだって……隙あらばワタシの地位を奪い取ろうとしてるし……そんな状態で愛人を認めるなんて言ったら、大変な事になるのが目に見えてるもの」

 

 

 リーナは自分がそこそこ魅力的だと言う事は自覚しているが、他の候補者と比べて圧倒的だとは思っていなかった。だから掌を返された時、自分は諦めるしかないのかと思ったのだった。

 そんな諦めの気持ちを抱いていたからこそ、婚約者という地位を手に入れた今でも不安な気持ちに押しつぶされそうになっているのだった。

 

「リーナが不安な気持ちを抱いているのは分かってるつもりだし、俺は他の人を相手にするつもりもない。だから安心しろ。いきなりは無理だろうが、少しずつ周りに対する劣等感を薄れさせれば良いだろ」

 

「そうね……そのためにはまず、タツヤの子を身籠りたいわね」

 

「君もエリカに負けず劣らず直接的だな」

 

「そう? 年頃の女の子は、これくらい普通だと思うけどね」

 

 

 達也が愛人を作るつもりが無いと分かり、リーナは少しだけ明るく振る舞えるようになったのだった。深雪とのやり取りでも、以前よりも前向きに受け入れ、それを糧に精進したのだった。




夏休み編でもリンちゃんが話してましたしね

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