劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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再びポンコツっぷりを発揮する……


天然のリーナ

 日本にやってきたリーナはまず、協力してくれることになっている九島家を訪れた。本当は真っ先に達也に会いたかったのだが、日本にやって来たのは遊びではなく任務なのだから、そこはちゃんとしなければいけなかったのだ。

 

「はじめまして、九島将軍。アンジェリーナ・シールズと申します」

 

「そう畏まる必要は無い。USNA軍から話は聞いている。滞在時は東京の拠点を貸すので、好きに使ってくれ」

 

「ご協力、感謝いたします」

 

「崑崙方院の生き残りがいたとはな。四葉だけが標的になるならまだしも、日本全土がテロの脅威に見舞われるのは阻止しなければならないからな」

 

 

 リーナの目的は、あくまで達也の婚約者候補として擁立してもらう事なのだが、烈は何故かジード・ヘイグの事を気にしてるようだった。

 

「将軍、私の目的は――」

 

「ああ、そっちも聞いているよ。君も司波達也君の婚約者として四葉の内情を探ろうとしているのだろ」

 

「私も、と言いますと?」

 

「立候補してるうち、どれくらいの人数が本気なのか私にも分からない。少なくとも、孫娘は本気のようだがね」

 

 

 

 リーナの考えでは、立候補したほぼ全員が本気だと思うのだが、どうやら烈はひねくれ過ぎて物事を多角的に見る癖があるようだった。

 

「とにかく、真夜には上手く推薦しておいたから、後は君が頑張るだけだ」

 

「ご協力、感謝いたします」

 

 

 リーナは烈に頭を下げ、従者が運転する車で東京の拠点へと移動する事になったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 東京に到着して、リーナは荷物の整理もほどほどに拠点から外出する。目的地はもちろん、この拠点の近くにあるという司波家だ。

 

「ここね」

 

 

 表札を確認して、リーナは一つ深呼吸をしてからインターホンを鳴らした。深雪が出るか、それとも達也が出るかと緊張していたリーナだったが、生憎家の中に人の気配は無かった。

 

「何で……あっ、今日は平日だったわね」

 

 

 軍属である彼女に、学校という概念はあまりなかったのですっかり失念してしまっていたのだが、今日は平日で達也たちは学生なのだから、平日のこの時間に家にいると言う事はまずなかったのだ。

 

「仕方ないわね……どこかショッピングでも出来そうな場所に行きましょうか」

 

 

 本来の目的が遂行出来ないとなると、達也が帰ってくるまでの時間を潰す必要がある。ここがアメリカなら訓練なり何なりとやることがあるのだが、今の彼女はただの十七歳の少女として日本にいる。訓練や任務で時間を取られる事は無いのだ。

 その事実を存分に噛みしめながら、リーナは去年数ヶ月間だけ過ごした日本でショッピングを楽しむ為、街へ繰り出したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自宅付近でリーナがうろついているなど露知らず、達也は生徒会室で昼食を摂っていた。

 

「今日は私が担当だから、あんまり期待しないでくださいね」

 

「エイミィはあんまり料理が得意じゃないもんね」

 

「そりゃ、ほのかや雫と比べれば全然だけど、それでもちゃんと食べられるものは作れるんだから」

 

 

 かなり低い目標に聞こえるが、エイミィにとって相手が倒れることなくちゃんとしたものを作る事が大事だと思っているのだ。もちろん、上達するために回数は重ねているのだが、そう簡単に上達出来るほど、彼女は器用ではなかったのだ。

 

「お兄様、もし問題がお有りでしたら、こちらのお弁当をお食べください。万が一を考えて、お兄様の分もお作りしておきましたので」

 

「ちょっと深雪! それって酷くない?」

 

「だって、昨日からエイミィが不安そうな顔をしていると、吉田くんが心配していたので」

 

 

 深雪と幹比古はあまり会話する機会が無いのだが、クラスメイトであるエイミィの挙動が少しおかしいと、達也を介して聞いていたのだった。

 

「後で吉田くんにはお仕置きが必要みたいだね。乙女が必死になって頑張ってたのに、不安そうだとは」

 

「まぁまぁ、確かにエイミィは昨日から挙動不審だったし、吉田くんが不安そうだと思ってしまうのも無理はなかったと思うよ」

 

「スバルまでそんなことを!」

 

 

 ぎゃあぎゃあと横で騒ぐエイミィを意識の端に追いやり、達也はエイミィが作ったお弁当を食べ始める。問題がある味なら、彼の魔法で無味に変える事が出来るので、完食する分には問題ない。だがその場合、かなり味気ないものになるのだ。

 

「特に問題は無いと思うぞ」

 

「本当ですか!?」

 

「何でエイミィが驚いているの? まさかとは思うけど、味見もせずにお兄様に得体のしれない物体を食べさせたというのかしら?」

 

 

 深雪がエイミィに詰め寄ったが、それを途中で達也が遮った。

 

「得体のしれない物体は言い過ぎだ」

 

「申し訳ありません。エイミィもごめんなさいね」

 

「う、うん……大丈夫だよ」

 

 

 深雪の変わり身の早さに圧倒されながらも、エイミィは達也に褒めてもらった嬉しさで舞い上がっていた。

 

「次はスバルの番だね」

 

「僕はエイミィほど酷くないが、ほのかや雫、深雪のように自信があるわけでもないからね。司波くん、あまり期待しないでくれたまえ」

 

「分かった。過度な期待はしないでおこう」

 

 

 達也の返事に、スバルはどこか複雑な表情を浮かべたが、自分で期待するなと言った手前、不機嫌さを前面に出すのも憚られたのだった。

 

「お兄様、そこは『期待して待っている』と言うんですよ」

 

「そうなのか? スバル、期待してるぞ」

 

「う、うん……任せてくれたまえ」

 

 

 直球に言われ、さすがのスバルも素面ではいられなくなり、顔を真っ赤にして達也から視線を逸らした。そんなスバルの表情を、エイミィがすかさず端末で写真に収めたのだった。

 

「これ、スバルのファンの女子に見せたらどうなるかなー?」

 

「悪ふざけは止めろと言ってるだろ」

 

「え? 別にふざけてないよ。結構本気だもん」

 

「なお悪い!」

 

 

 結局はドタバタして誤魔化したが、エイミィもスバルも、達也に期待されて舞い上がっているんだなと、雫とほのかはしみじみとそんなことを考えていたのだった。




学生のタイムスケジュールを理解しよう……

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