開けた場所に出た達也と深雪を出迎えたのは、十数人の部下を引き連れたリーダーと思しき男だった。
「君が司波達也君か。そしてそちらのお姫様が妹の深雪さんかな?」
「お前がブランシュのリーダーか」
「おっと、そうだねまずは自己紹介と行こう。私がブランシュのリーダー、司一だ」
眼鏡の蔓を上げいかにも優男風を装っているが、達也と深雪にはこの司一こそ紛れも無いブランシュのリーダーだと言う雰囲気を感じ取っていた。
「一応投降の勧告だけはしておいてやる。全員武器を捨て両手を頭の後ろで組め」
達也はCAD、シルバーホーンをブランシュのメンバーに向け投降の勧告をする。だが一は面白いものを見るような目で達也を見ていた。
「銃くらい持ってきてると思ってたが、それはCADだね。魔法師だって撃たれれば死ぬんだよ」
「俺は魔法師じゃない」
「おっと、そうだったね。君はまだ学生だったね。それと勘違いしてるみたいだから一応言っておくけど、投降するのは君たちの方だよ。これだけの人数を相手に無事に帰れると思ってるのかい? 此方も今回の計画にはそれなりに費用と時間を費やしているんだよ。その計画を邪魔した君たちを放って置くはずも無いだろ。だが君のアンティナイトを必要としないキャスト・ジャミングはとても興味深い。もし君が我々の仲間になると言うのなら、今回の件は水に流してあげようじゃないか」
「壬生先輩や弟の司先輩を使って俺に接触してきたのは、やはりそれが目的か」
「君はやはり頭が良いようだ。でも、それだけ分かっていながらノコノコとやってくるあたり、やはり子供だな」
司は髪をかき上げ眼鏡を放り達也の瞳を覗き込んだ。
「司波達也、我々の同士になれ!」
そう叫んだと同時に、眩い光が達也に放たれた。そしてその光が治まると、達也の顔から表情が抜け落ち、突き出していた右手がダランと床に向けられた。
「お兄様?」
「ハハハ、これで君はもう我々の仲間だ!」
「!?」
深雪は信じられないような表情で達也を見る。この兄がこの程度の魔法師に負けるはずが無いと信じていながらも、目の前の兄からは何も感じ取れないのだ。
「ではまず、此処まで一緒に来た妹君をその手で始末してもらおう。妹さんも君の手にかかるのなら本望だろ」
人に命令するのに何の躊躇いも無い一は、間違い無くブランシュのリーダーなのだろう。人を殺せと平気で命令出来るのは、それなりにそう言った命令をしているからだろう。
「……いい加減寒い芝居はよせ。こっちが恥ずかしくなる」
「何!?」
「お兄様!」
何も感じ取れなかった兄から、明らかな殺意を感じ取り、深雪はやはり達也がこの程度の魔法師に負けなかったのだと実感した。
「意識干渉型系統外魔法『邪眼』……と称してるが、本当は光波振動系魔法。映像でも再現可能な催眠術の類、もっと言えば手品だ。これで壬生先輩の記憶もすり替えたのか?」
「ではお兄様……やはり壬生先輩は」
「ああ。ヤツに記憶を弄られてたんだろうね。あの記憶違いは後に冷静になれば分かるもののはずだったのに、壬生先輩は一年も勘違いしていたんだから」
「この下種が!」
普段の深雪からは考えられないような単語が発せられ、一は思わずたじろぐ。
「何故効かないんだ!」
「お前の魔法など、肝心の催眠パターンが無ければただの光信号だ」
「貴様……いったい」
「二人称は『君』じゃなかったのか? 大物ぶってた化けの皮が剥がれてるぞ」
達也の余裕な態度に怒りを覚えた一は、部下たちに命令を下す。
「何をしている! 相手は魔法師とは言え上手く魔法を使えない二科生だ! 生け捕りは止めだ! 撃て、撃て!」
マシンガンを構えるテロリスト達に達也が右腕を突き出し、CADを操作した。しかしその操作はテロリスト達に目視出来る速度では無い。
「うわぁ!」
「じゅ、銃が!」
「何が起こったんだ!」
達也が手を突き出した次の瞬間にはマシンガンはバラバラに分解されたのだった。達也が本当の意味で使える魔法の二つのうちの一つを使ったのだが、それはテロリスト如きが知っているような魔法ではなかったのだ。
「武器がバラバラに……これはいったい!?」
もちろん一も達也の魔法を知っている訳も無く、また視えた訳でも無いのでいきなり銃がバラバラになったと錯覚していたのだ。
「くそっ!」
「待て!」
逃げ出した一を追うために駆け出した達也に、テロリストの一人が襲い掛かる。
「行かせるか!」
だが彼は達也にナイフを向けたその瞬間に凍りついた。
「愚か者」
「ほどほどにな。コイツらにお前の手を汚すだけの価値は無い」
「はい、お兄様」
深雪に一応の忠告だけして、達也は逃げ出した一を追うために駆け出した。
「何だ、この冷気は……」
「お前たちも運が悪い。お兄様を傷つけようとしなければちょっと痛い目を見るだけで済んだのに」
足元で凍ってる男、深雪が攻撃するに十分な行為をした男、しかしその結果に深雪は十分な納得をしていなかった。
「何だ、身体が……」
「この魔法、まさか……」
「私はお兄様ほど慈悲深くない」
深雪の周りから襲い掛かる冷気。その冷気はブランシュのメンバーを凍らせるにはそう時間はかからなかった。
『振動減速系広域魔法 ニブルヘイム』
深雪が得意としている魔法の一つが、達也に襲い掛かろうとしたブランシュのメンバーに放たれた。
「祈るがいい。せめて命がある事を」
無慈悲なる攻撃になす術も無く、ブランシュのメンバーは意識ごと凍りついた。深雪はその結果を確認し、此処から出る事を決めた。
「お兄様……」
自分が停めてしまった命を思い心細くなり、自分が最も頼りにしている兄を求める深雪。しかし今は達也に甘えられる状況では無いと自分を鼓舞し、出入り口まで何とか歩いていくのだった……
達也に出口の確保を命じられたエリカとレオは、誰も来ない状況をぼやいていた。
「暇ね」
「しょうがねぇだろ。達也が敵を逃がすとも考えられないし、司波さんも居るんだからな」
「分かってるわよ……ってレオ、あれ!」
エリカが指差した箇所には、銃を持って辺りを気にしているブランシュのメンバーが居た。
「慎重にな。相手は銃を……っておい!」
レオの忠告を聞き終わる前に、エリカはブランシュのメンバーに襲い掛かった。
「つまんないの」
「ホント物騒な女だな、オメェは」
問答無用で殴りかかられたブランシュのメンバーはあっさりと気を失った。
「これで全部かな? もっとドバーって来ないかしらね」
「来る訳無いだろうが……」
さすがのレオもツッコミに回らざるをえない状況に、思わずため息を吐いたのだった。
「アンタがため息? 似合わない」
「うるせぇ!」
どんな状況でもこの二人はやはり口論になる運命のようだった……
相変わらず無敵の司波兄妹……