劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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きつかったのでまとめました


OGIFルート その1

 珍しく予定もなく街をぶらついていた達也の背後から、聞き慣れているが久しぶりに聞く声がかけられた。

 

「達也君じゃないか、久しぶりだな」

 

「お久しぶりです、渡辺先輩。お一人ですか?」

 

「いや、真由美と市原も一緒だ。あたしは今別行動中だがな」

 

 

 先に店から出てきたのか、摩利は近くのカフェを指差している。

 

「相変わらず仲がよろしいようで」

 

「いや、今日は偶々だ。シュウのヤツが忙しいらしくてな。予定が空いてたところに真由美から誘いの電話があったからで……」

 

 

 何か慌てたように言い訳を始めた摩利を無視して、達也はこの場からさっさと離れる事にした。この場に留まっていたら面倒な事に巻き込まれると分かっていたから。

 

「では渡辺先輩、俺は……」

 

「あー! 達也君じゃない! 九校戦前に会って以来ね。今年も大活躍だったんだってね。香澄ちゃんと泉美ちゃんから活躍は聞いてるわよ」

 

「お久しぶりです、司波君。大規模実験といい九校戦での活躍といい、貴方の活躍は魔法大学でも耳にしてます」

 

 

 離脱に失敗した達也は、恨みがましい眼を摩利に向けたが、彼女はまだ言い訳を続けていてこの状況に気付いていなかった。

 

「ところで、摩利はなにを言ってるのかしら?」

 

「だからあたしは……おや、真由美。もう終わったのか?」

 

「ええ、面倒だったから七草の名前を出してお引き取り願ったわ」

 

 

 ここで「何があったのか」などと墓穴を掘るような質問を、達也はするはずもなく、真由美の興味が摩利へ向いている隙にもう一度離脱を図った。だが達也の試みは、もう一人の女性によって阻まれた。

 

「司波君、例の実験のデータですが、まだ残っているのなら見せていただけないでしょうか?」

 

「例の実験? あぁ、恒星炉のですか。端末にデータは残ってますので、ケーブルさえあればお渡し出来ますが」

 

「どこか腰を落ち着かせた方がいいでしょうか? なんなら近くの喫茶店で……」

 

「いえ、それ程時間のかかる事ではありませんし」

 

 

 達也としては、一秒でも早くこの場から離脱したいので、鈴音の提案を却下し彼女の端末に繋がれているケーブルの反対側を自分の端末に差し込んだ。

 

「それにしても、良くあのような実験を思い付きましたね」

 

「思い付いただけで、実際に実験を成功出来たのは五十里先輩や中条先輩、そのほか大勢の人の助けがあったからです」

 

「確かに手助けはあったでしょう。ですが、あの実験を企画出来たのは司波君だからだと思いますよ」

 

「リンちゃん、大学で悔しそうだったもんね。達也君の実験内容を記事で読んでた時」

 

 

 真由美に捕まってしまい、達也は離脱を諦めて会話をする事にしたのだった。彼女から逃げ出すのは、達也でも難しいのだ。

 

「それで、達也君は何でこんな場所に? 深雪さんの付き添いかしら」

 

「いえ、今日は深雪とは別行動です」

 

「ほう。本当に別行動をするんだな、君たち兄妹も」

 

「当たり前です。そもそも、去年も言いましたが学校では殆ど別行動です」

 

 

 同じ事を摩利に言ったはずだと記憶している達也は、摩利に呆れているのを隠そうともしない視線を向けた。摩利も覚えていたのか、向けられた視線から逃げるように眼を逸らして行く。

 

「じゃあ達也君は今自由時間なのね?」

 

「自由時間という表現が正しいのかはともかく、別段予定があるわけではありません」

 

「じゃあお姉さんたちと一緒にケーキを食べに行きましょう! 美味しいケーキがあるお店を知ってるから」

 

「……先ほど喫茶店から出てきたのをお見かけしましたが」

 

「女の子は甘いものは別腹なのよ」

 

 

 真由美に腕を取られ、そのまま引きずられていく達也を、摩利は笑いを堪えている表情で、鈴音は何処か面白くなさそうな表情で眺め、その後に続いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真由美の案内で連れて来られた店は、確かにケーキは美味しかった。だが、コーヒーや紅茶はイマイチで、達也は注文したコーヒーを何となく持て余していた。

 

「達也君、そう言えば君には彼女がいないんだったな」

 

「ええまぁ、中途半端な気持ちで付き合うのも悪いので、告白は断ってます」

 

 

 実はほのかの他にも何度か告白をしてきた女子がいるのだが、達也はその都度丁重に断りを入れている。

 

「君は硬派なんだな。今時中途半端な気持ちでも付き合う男なんて珍しくないだろ。もちろん、女もだがな」

 

「確かにそういう人はいるのでしょうが、俺には出来ません」

 

「君らしいな。実は真由美に言いよってきている男共がいるらしくてな。一時的にでも君が恋人になれば解決するかとも思ったんだが」

 

「ちょっと摩利! 余計な事は言わないでよ!」

 

 

 口では否定的な真由美だが、表情はまんざらでもなさそうに達也には見えていた。

 

「七草家の令嬢としては、そこら辺の家の出の男じゃ釣り合わないだろ? 達也君なら家柄とか関係なくお前と付き合えそうだがな」

 

「ですが摩利さん、司波君と真由美さんとではどちらが年上か分かりませんよ」

 

「それは確かにそうだが……」

 

「ちょっと! 摩利もリンちゃんも酷くない? 私の何処が子供っぽいのよ!」

 

「そういうとこだろ。すぐにムキになるところ」

 

 

 摩利に指摘され、真由美は押し黙るしか出来なかった。

 

「そう言えば市原も言いよられてるんだっけか? 十文字から聞いたぞ」

 

「十文字くん、心配してくれるのはありがたいけど、何で摩利に言っちゃうのかしら……」

 

「他に相談出来る相手がいなかったのでしょう」

 

「と言うわけでだ、達也君。この二人に言いよってきている相手を納得させる為に、一日だけで良いからこの二人の彼氏になってくれないか? 相手を納得させるだけだから、半日ずつで構わないから」

 

「嘘はいずれバレますよ?」

 

「バレない嘘を吐けばいいんだ」

 

 

 悪い顔を浮かべた摩利に、達也は苦笑いを浮かべ答えた。

 

「半日で良いのでしたら。それで、どちらから先にするんですか?」

 

「そうだな……家的に真由美の方を先に片付けた方がよさそうだし、明日の朝魔法大前まで来てくれ」

 

 

 二人で進められた約束に、真由美と鈴音は顔を赤らめる事しか出来なかったのだった。




真由美はピンでも出来そうだったけど、鈴ちゃんが難しかったので……

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