劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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彼女たちは纏めて……


お泊りIFルート その1

 九校戦も終わり、達也はFLTでの開発以外忙しい事もなく夏休みを過ごしていた。そんなある日、司波家に複数の女子が訪ねてきた。

 

「ここが達也様のお宅……意外と庶民派なのですね」

 

「愛梨、達也さんは数字付きじゃないから」

 

「わしらの基準はちとズレておるからの」

 

「一般家庭に当てはめれば、この家は大きい部類になります」

 

「……人の家の前で何を話してるんだ、お前たちは」

 

 

 盛り上がる三高女子の背後から、呆れたのを隠そうともしない声がかけられる。その声は四人が会いたかった人物の声だ。

 

「達也様っ!? 何故ここに」

 

「愛梨、ここは達也さんの家の前。いてもおかしくない」

 

「じゃが、香蓮の情報では在宅中のはずじゃろ?」

 

「盗撮でもしてるのか? 俺だって出掛ける事くらいある」

 

 

 沓子の言葉に呆れながらも、達也は四人に家に入るかの確認をする。深雪は外出中だが水波は中にいる。そしておそらく、四人の来訪に気付いているだろう。

 

「是非お邪魔しますわ!」

 

「どうやってこの場所を知ったんだ?」

 

「達也さんは数字付きの実力を甘く見てる。達也さんの家を調べるくらい簡単」

 

「この家には深雪嬢もおるからの。有名なのじゃよ」

 

「もちろん、数字付きの力を持ってしなければ調べられませんので、セキュリティの心配は無用ですので」

 

 

 香蓮のフォローも、達也には何の意味もなさない。後で本家へ連絡する用件が出来てしまったと心の中で愚痴を言いながらも、達也は玄関の扉を開き四人を招き入れた。

 

「お帰りなさいませ、達也兄さま。三高女子エリート集団の方々もようこそいらっしゃいました」

 

 

 所々に棘を感じさせる挨拶だが、水波は不自然さを窺わせないようにあえてそう言ったのだろう。現に、何故水波が驚く事もなく愛梨たちを招き入れたのかという疑問は、三高女子四人には浮かばなかったのだから。

 

「リビングで待っててくれ。俺は着替えてからいく。水波、愛梨たちに何か飲み物を入れて差し上げろ」

 

「かしこまりました。では、ご要望などはございますか?」

 

 

 達也に短く命じられ、水波はお客様に要望を聞く。おそらく達也に命じられなければ水しか出さなかっただろうと、達也は内心苦笑いを浮かべていた。

 

「私はアイスティを」

 

「私も愛梨と同じものを」

 

「わしは冷たい日本茶を貰おうかの」

 

「私は麦茶をお願いします」

 

「承りました。少々お待ち下さい」

 

 

 メイドとしての使命感からか、水波は綺麗なお辞儀をしてキッチンへと姿を消した。残された四人は、水波の立ち位置が気になりだしていた。

 

「香蓮さん、彼女は達也様の従妹ではなくって?」

 

「そう聞いていますが……」

 

「何だかメイドさんみたいだった」

 

「服装が普通じゃからまだ思わんかったが、あれでメイド服を着ていたら完璧にメイドさんじゃな」

 

 様々な憶測が飛ぶ中、水波はトレーに載せた四人分の飲み物を丁寧に運び、それぞれの前に音を立てずに置いた。

 

「ガムシロップはそちらにございますので、お好みでお入れください」

 

「ありがとう。ところで貴女……えーっと桜井さんと言いまして?」

 

「はい、桜井水波と申します」

 

「貴女、達也様の従妹のはずよね? 何でメイドみたいな事もしてるの? ……はっ! ひょっとして達也様のご趣味!?」

 

 

 とんでもない誤解をしている愛梨に、水波は苦笑いを禁じえなかった。だが、他の三人はそうはいかなかった。

 

「達也さんがメイド趣味だなんて」

 

「家政婦じゃダメかの?」

 

「ちょっと違うと思いますよ?」

 

「誰がどんな趣味だって? 盛大な勘違いだな」

 

 

 着替え終えた達也がリビングにやって来たが、その表情は苦笑いではなく苦い笑いを浮かべているほどだった。

 

「水波は好きでこういう事をしてるんだよ。深雪がいる時は出来ないから余計にメイドっぽく見えるんだろう」

 

「そうなのですか? 達也様がご命令してるのではなく?」

 

「俺に特殊な趣味は無い」

 

「そうです。達也兄さまから言われてやっているのではなく、これは私が個人的にしたいからしているのです」

 

 

 達也に対する誤解が解けたようなので、水波はさっきから気になっている事を四人に聞く事にした。

 

「そちらの荷物はなんでしょうか? もしよろしければ玄関に運んで置きますが」

 

「これはこちらに厄介になる為のものですわ」

 

「「は?」」

 

「司波家二泊三日ツアーじゃ」

 

「愛梨と沓子が言い出して聞かなかったものでして……」

 

「事前に連絡しておくべきだったのでしょうけども、生憎達也さんの番号は私たちは知りませんし、メールアドレスも同様に……」

 

 

 嬉々として語る愛梨と沓子、そして申し訳なさそうな栞と香蓮と分かれてはいるが、既に四人の中ではこの家に泊まる事は確定事項のようだった。

 別段隠すべき事は今この家には無いが、それでも数字付きの四人をこの家泊めるのは色々と問題があるだろう。ましてや四人は年頃の女子、いくら達也が欲望に流される事が無いとはいえ全くの皆無というわけでもない。彼の精神衛生上これ以上美少女が増えるのは避けたいところだった。

 

「四人も泊まるとなると、部屋がさすがに無いぞ」

 

「そうですね。掃除もきちんとしていませんし、お出迎えするには準備不足です」

 

「構いませんわ。リビングでも誰かと同室でも私たちは一向に構いません」

 

「達也殿と同じ空間で生活したいじゃけだからの」

 

「司波深雪の説得は私たちがするから、達也さんは何の心配もいらない」

 

「既に交渉に向けてのプランは立ててありますので」

 

 

 そういう問題では無いのだが、達也は深雪がこの四人の滞在を許可するとも思えなかったので、せめて短い間だけでも夢を見させたやろうと思っていた。

 だが、彼の考えは実の妹の裏切り(?)によって脆くも崩れ去ってしまう。

 

「お兄様、折角遠くから来て下さったのですから、追い返すのは失礼だと思いますわ」

 

「深雪? お前、何て言われて言いくるめられたんだ?」

 

「そ、それは……『お兄様の部屋に泊まるチャンスが私にもある』と言われまして……」

 

 

 妹の弱点を的確に突かれたなと、達也は眩暈と頭痛の両方に襲われた錯覚に陥り、ソファに座り項垂れる。良く見れば水波も気合いが入っているように見える。おそらくは深雪と同じ事を言われ向こう側に引き込まれたのだろう。こうなってしまっては抵抗は無駄に終わるだろうと観念し、達也は四人の宿泊を許可したのだった。




意外と多くなってしまったので、個別ではちょっと無理そうでした……

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