劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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タイトルほどラブラブしてないかも……


ラブラブIFルート 雫編

 七宝の問題も一通り落ち付き、達也は一時の平和を味わっていた。あれ以降七宝がかみついて来る事も、香澄が何か言ってくる事も無く、実に平和な時間が流れていた。

 進級してからゆっくりする時間も無かった達也は、雫の提案で開かれた誕生日パーティに参加していた。これも、問題が一先ず解決したから参加出来たのであって、問題が続いていたらここにいられるかは微妙だった。

 

「それではお兄様、水波ちゃんと私は先に帰ります。お兄様はごゆっくりしていってくださいませ」

 

「達也兄さま不在の間、深雪姉さまの御身は私が守ります」

 

「すまない、なるべく危険が及ばないよう、こっちでも手は打ってあるが、万が一の時は頼むぞ」

 

「お任せください」

 

 

 深雪の側を離れる時は、達也が四葉家に報告を入れそのバックアップをしてもらっていたが、今は水波がいる。バックアップも最低限で済むし、当主である真夜が達也の自由をある程度認めてくれたおかげで、今回のようにある程度の別行動は取れるようになったのだ。もちろん、一部は深雪の傍に力を残してあるので、何かあれば達也にもすぐ分かるのだが。

 こうして深雪たちを先に家に帰し、達也は主催者の雫と二人きりになった。他の客も既に帰っており、達也の隣には恋人である雫が控えていた。

 

「達也さん、本当に大丈夫なの?」

 

「心配するな。家の事はちゃんと任せてあるし、この事で立場が危うくなる事も無い」

 

 

 自分が十師族・四葉家と関わりがある事は雫にのみ伝えてあるのだが、潮や紅音には知られるとマズイので会話は小声でかつ『四葉』という単語は用いずに行われた。

 

「家の事もだけど、深雪や水波ちゃんが嫉妬しない?」

 

「嫉妬はするかもしれないが、深雪は妹で水波は従妹だ。彼女である雫が気にする事じゃない」

 

「うん……達也さんの彼女は私だもんね」

 

 

 恋人らしい時間はあまり過ごせていないが、雫は達也と付き合っている事を嬉しく思っている。親友や友達は諦めないと宣言しているので、少しでも油断すると盗られてしまうかもしれないが、雫はそれでも達也を束縛する気は起きなかった。その理由の一つとして、達也の実家の事を知っているからだ。

 十師族であり、その中でも突出した力を持っていると言われている四葉家は、色々な秘密があり、達也はその事で縛られている。だから雫はこれ以上達也の自由を奪いたくないと思っているのだ。

 

「ねぇ達也さん」

 

「なんだ?」

 

「達也さんは深雪が跡を継いだらどうするの? 傍にいるの?」

 

「アイツがそれを望むのなら、出来る限りは応えてやりたいとは思ってる。だが、深雪は雫との関係を認めてくれているからな。雫との時間を優先したとしても怒りはしないだろうさ。嫉妬はするかもしれないがな」

 

 

 十師族の当主候補である深雪は自由に恋愛する事が出来ないと達也から聞かされている雫は、深雪が達也の事を傍に置きたいと考えるのは、せめてもの抵抗なのだろうなと感じていた。恋愛は出来ないけどせめてその気分は味わいたいという小さな抵抗だと……

 

「それで、そんな事を聞く為に俺を帰さなかったわけじゃないだろ?」

 

「うん……ほのかたちはプレゼントを渡してたけど、私はまだ渡せてないから」

 

 

 そういって雫は更に達也の傍に近づく。達也と雫の身長差ではどう頑張っても届かないので、最後は上目遣いでお願いして達也にかがんでもらい、雫は漸くプレゼントを渡す事が出来た。

 

「お誕生日おめでとう、達也さん。貴方が生まれてきてくれた事に感謝します」

 

「ありがとう、雫。この『プレゼント』は深雪たちには見せられないな」

 

「うん……だからこうして二人きりになってから渡したの」

 

 

 恋人だから出来る事、恋人だからしたい事をプレゼントにして達也に渡した雫は、達也の代わりに顔を真っ赤に染め上げてそっぽを向いた。彼が感情を持ち合わせていない事もまた、雫は本人から聞かされているのだ。

 

「恋人として認めてもらってるけど、それでも達也さんは人気だから……誰にも盗られないように私の印を達也さんに」

 

「俺は別に誰かに乗り換えるつもりなどないんだがな……雫はそんなに俺の事が信用出来ないか?」

 

「違う! でも、達也さんの事を好きって公言してる人が多いし、私と付き合ってるって知っててもなおアピールを続けてる人がいるから……それに、その人たちは私と違って色々と成長してるし……」

 

 

 自分の胸のあたりに視線を落とし、ションボリと俯く雫を、達也は優しく抱きしめる。気にし過ぎてションボリしている雫を、達也は可愛いと思っていたのだった。

 

「俺は別に体付きでパートナーを選ぶわけではない。それに、雫だって立派に成長してるだろ?」

 

「ううん、ほのかや深雪、それに七草先輩に比べたら……」

 

「比べる必要は無いだろ。雫は雫、他は他なんだから」

 

 

 普段周りとの差を気にしない雫だが、体付きの事は過度に気にしているのを達也は知っている。このやり取りも何度目か分からないほど繰り返しているのだが、それでも雫は気にしているのだった。

 

「だったら、達也さんはこんな私を抱ける?」

 

「現に抱いているだろ」

 

「違う。この抱くじゃなくって……その……ね?」

 

 

 恥ずかしがりながらも上目遣いでおねだりをしてくる雫。そのお願いの意味をシッカリと理解した達也は、雫を抱き上げて部屋へと向かう。

 

「卒業したら達也さんは私の専属になってもらうから」

 

「だから、それは俺がライセンスを取ったら……」

 

「違う。調整の事じゃなくって恋人として。深雪もほのかも七草先輩も纏めて諦めてもらうように、私が達也さんの恋人だって全力でアピールする。だから私の専属」

 

「……今も雫の専属のつもりなんだがな」

 

 

 雫の決意を受け、達也は苦めの笑いを浮かべていた。そして二人は、甘い時間を過ごすのであった。




次回はほのかです

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