劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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今回最後のIFルートです


甘IFルート エリカ編

 千葉修次がアンジー・シリウスに敗れた事を知っているのはごく僅かな人間だが、その僅かな人間の中に、千葉修次ともアンジー・シリウスとも親しい人物が存在した。スターズ総隊長アンジー・シリウス、正体アンジェリーナ・シールズとそれなりに親しくなっていたエリカは、兄が彼女に負けたという事で苛立っていた。

 

「達也君、もう一件行くわよ!」

 

「食べ過ぎじゃないか?」

 

「いいの! 結局リーナに報復する事が出来なかったんだから」

 

「別にエリカが負けたわけでもないし、お兄さんだって不意打ちされたからやられただけだろ」

 

 

 達也の言うように、修次はシリウスに不意を打たれて負傷しただけで、正面から挑んで負けたわけではない。だがエリカにはそんな事は関係無かったのだった。

 

「不意打ちだろうが、なんだろうが、ウチの兄貴に怪我を負わせたんだから、それなりのお礼詣りをしなきゃ気が済まないのよ」

 

「そのお礼詣りが、このやけ食いとどう関係してるんだ」

 

「だって、達也君はシリウスの正体を知ってて黙ってた訳じゃない? つまり、同罪よ」

 

「どんな理屈だ……」

 

 

 口ではこんな事を言っているエリカだが、その実は単純に彼氏である達也と一緒にいる口実としか思っていないのだった。確かに兄に傷を負わせたリーナに苛立ちは覚えたのだが、お礼詣りをするほどの怒りは抱いていない。達也と二人きりになるには、彼女であるエリカですら容易くないので、今回はリーナを利用したのだった。

 

「達也君さぁ、折角付きあってるのに滅多に一緒に出かけたりしてくれないでしょ? だから、それも兼ねてのやけ食いなの」

 

「事情は何となく分かってるんだろ? 家の都合もあるんだ、勘弁してくれ」

 

「大変そうだもんね」

 

 

 達也の事情を知らない人が聞けば、深雪の相手で忙しいように聞こえるように話す達也。だが本当の事情を何となく知っているエリカは、つまりそういう事なのだろうと正確に理解していた。

 

「そもそもお兄さんが怪我したおかげで、エリカは家で甘えられるんじゃないのか?」

 

「そんな事無いわよ。むしろあの女が毎日のように訪ねてくるから家にいたくないのよ」

 

「あの女って、渡辺先輩か?」

 

「そ、渡辺摩利よ」

 

 

 修次の彼女であり、既に卒業した為に時間が余っている摩利が、毎日のように修次を見舞っているので、エリカは修次に甘える事は出来ていない。怪我は治ってはいるのだろうが、まだ現場復帰するには至っていないようだった。

 

「パラサイトを殲滅した時に、お兄さんの気配を感じたんだが、まだ動けないのか?」

 

「あの程度なら兎も角、本格的な任務となるとね……まだ厳しいみたい」

 

「寿和さんの方は? 色々と忙しかったんだろ」

 

「クソ兄貴なら、今日も今日とて事件を追っかけてるわよ。それくらいしなきゃ、税金で食ってるんだからさ」

 

「年頃の女子が使う言葉では無いな」

 

「あによ、達也君まであたしの言葉遣いにケチ付けるっていうの!?」

 

 

 普段から口うるさく言われているからだろう、エリカが過剰に反応したのは。そんなエリカを前にしても、達也は顔色一つ変えずにエリカに近づき、そして優しく髪を撫でる。

 

「別に俺はエリカの言葉遣いをどうにかしようなんて思って無いさ。だが、お兄さんたちが嘆くのも何となく分かるってだけだ」

 

「しょうがないでしょ……あたしはこういう喋り方しか出来ないんだから……」

 

「前に猫被った喋り方をしてるエリカを見たが、深雪が笑いそうになってたな」

 

「あれは仕方ないでしょ! 次兄上の前ではどうしても緊張しちゃうんだから!」

 

 

 エリカにとって、修次は兄であり越えなければならない相手だ。普段相手にしている人間よりも緊張していしまうのは仕方の無い事なのだ。だがそれでもエリカは、あのようにお嬢様然とした喋り方をしたくないと常々思っているのだった。

 

「ねぇ達也君」

 

「なんだ?」

 

「達也君の家って、確かご両親がいないんだよね?」

 

「そうだな。親父は後妻のマンションに入り浸ってるし、母さんは既に死んでいるからな」

 

「それじゃあ、部屋余って無い? いっそ家出してやろうかとも思ってるのよね」

 

 

 高校入学の際に、父親が一高近くにマンションを買ってやると言ってきた時は断ったのだが、エリカとしてみれば、あの家は居づらい場所なのだ。独り立ち出来るのであれば今すぐにでも出ていきたいと思うほどに。

 

「美月の家にでも転がりこもうとか思ったけど、さすがに可哀想かなって」

 

「一日中エリカと顔を合わせていたら、美月が倒れるかもしれないからな」

 

「うんうん……? それってどういう意味よ」

 

「別に深い意味は無い。それで、ウチの部屋が余ってるかだったな。あるにはあるが、色々と面倒だぞ?」

 

「深雪でしょ? 大丈夫だって」

 

「いや……もう一人いる」

 

「へー……誰?」

 

 

 何となく嫌な予感はしていたエリカだったが、聞かずにはいられなかった。それが誰であろうと、達也の特別な存在は自分なのだという自負がそうさせたのだった。

 

「実家からの監視だろうな。俺と深雪が裏切らないようにする為の、と言えば分かるか?」

 

「うん……何となく想像付いてたし、達也君たちが特殊な立ち位置なのも知ってるからね……で、それって女の子?」

 

「そうだな。来月一高の後輩になる」

 

「そ、そうなんだ……へー……」

 

 

 このままでは自分の居場所が無くなってしまうと焦ったエリカは、そのままの勢いで司波家を訪れる事にした。そこで顔を合わせた水波に先制攻撃をされたが、自分は達也の彼女だと告げると、水波はその場で膝を付いて崩れてしまった。

 そして深雪と水波を説得し、司波家に厄介になる事にしたエリカだったのだが、毎日のように深雪と水波から鋭い視線を向けられ、隙あらば達也の横を奪い取ろうという計画を阻止しつつ、幸せに生活したのだった。

 後日、千葉家当主が司波家を訪れた際に、溜まっていた鬱憤を全て吐き出して、帰宅した際にはキッチンにあった塩を全て撒きつくすという暴挙にでたのだが、その事を千葉家当主は知る由もなかった……




八つ当たりからの甘え……定番ですかね……

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