劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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色々と大変だ……


IFルートリーナ編 その4

 同居初日からとてつもない事実を突き付けられたリーナは、落ち着きを取り戻す為に入浴をしていた。居候の身でありながら一番風呂を貰うのは気が引けたのだが、達也も深雪も気にしなかったので遠慮なく入浴させてもらったのだった。

 

「まさか、タツヤがあの『シルバー』だったなんて……」

 

 

 シルバーモデルのCADはUSNA軍でも採用されており、飛行術式を最も効率よく扱えると定評のあるデバイスを大量受注したくらいだ。そのデバイスを造ったのが学生、しかも同い年だとはリーナは思ってもいなかったのだ。

 

「(シリウスであるワタシを破り、しかもシルバーとか、いったいどれだけのインチキなのよ)」

 

 

 達也本来の魔法がどのようなものなのか分かっていないリーナとしては、これから何回戦っても達也に勝てるビジョンが見えてこないのだ。

 それだけでも厄介なのに、リーナは己のライバルが達也では無い事にため息を吐いた。一人でも厄介な相手だが、二人揃うとおそらく手も足も出ないであろう相手、それがリーナの魔法師としてのライバルであり、恋のライバルでもあるのだ。

 

「(そもそもミユキとタツヤには血のつながりがある。同性婚は認められている国はあるけども、近親婚――ましてや兄妹同士の結婚は何処の国でも認められていないはず……ましてやどちらも優秀な魔法師なら尚更よ)」

 

 

 国際基準でも優秀な魔法師である深雪と、実戦魔法師として最強かもしれない達也の婚姻を、日本の魔法協会はおろか世界の魔法協会も良い顔はしないだろう。ましてや血縁関係なら尚更だと、リーナは己のライバルが越えられない壁を見出して思わずガッツポーズをしてしまった。

 

「(でも、タツヤの事を好きな女子は他にもたくさんいるし……ミユキが気にしなきゃいけないのは「そう言った事」をする時だけ。一緒にいるだけなら、むしろ血縁関係は最高の理由よ……)」

 

 

 ましてや達也たちには両親との時間が無い。その所為で深雪は達也にベッタリになってしまっているし、達也も深雪に甘くなっている、と事情を知らないリーナは分析している。それだけにあの兄妹の間にある絆を見抜けないのだ。

 

「(ワタシの気持ちはタツヤに伝えたけど、ホノカやマユミも伝えているのよね……何でタツヤは誰かしらを彼女にしないのかしら……もしかしてホの人なのかしら……)」

 

 

 風呂から出たら達也に確かめよう。リーナはそう決心して風呂から出る。元々お風呂という習慣が無いリーナなので、入っていた時間はわずかなのだが、彼女なりには濃密な時間を過ごしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リーナが風呂から出てきて、次にどちらが入るかで少しもめた(主に深雪)が、特に大事には発展せずに深雪がリーナに続き風呂に入る。

 リーナとしては深雪がいない今、達也に事の真相を確かめるチャンスではあるのだが、なかなか切り出せずに不自然な挙動を繰り返していた。

 

「なにしてるんだ」

 

「えっと……ちょっとトイレに……」

 

「今さっき行ったばかりじゃないか?」

 

「そ、そうよね……あはは」

 

「……何か聞きたいんじゃないのか?」

 

「何で分かるの!? って……それくらい分からなきゃタツヤじゃないわよね」

 

 

 自分が明らかに挙動不審である事を忘れ、達也の観察眼の鋭さに感服するリーナ。一方の達也はリーナの勘違いに苦笑いを浮かべていた。

 

「それで、何を聞きたいんだ?」

 

「えっとね……タツヤは女より男が好きなの?」

 

「は? 何を言ってるんだリーナは」

 

「だって! 自分で言うのも何だけど、ワタシと付き合いたいって男子は結構いるのよ。それに、ホノカやマユミだってかなり人気が高いのに、タツヤは誰とも付き合って無い。もしかしたらミユキとそう言った関係なのかも、って思ったけど、この数時間でその考えは否定出来た。だから残った可能性は……」

 

「身の毛のよだつ勘違いをするな。俺は別に衆道の趣味は無い」

 

「修道? ちょっと意味が分からないわね……」

 

 

 達也の言い回しが分からず首を傾げるリーナ。達也は直接的な表現を避けたのだが、リーナには通じなかったようで頭を振って言葉を変えた。

 

「同性愛の趣味は無い」

 

「あっ、そういう意味だったのね……でも、それなら何で誰とも付き合わないの?」

 

「色々とあるんだが……そうだな、俺には感情が殆ど無い。だから恋愛もろくに経験した事が無い」

 

「は? それって……」

 

「簡単に言えば、人を好きになった事が無い。だから好きだと言われてもピンと来ない。それが理由だ」

 

 

 重い話なのだが、達也は実にあっさりとリーナに真実を告げた。もちろん、全て話したわけでもないし、話すつもりも無いので、これ以上聞かれても達也に答えるつもりは無かった。

 

「そう……理由は分からないけど、かなり大変なのね、タツヤって……」

 

「別に大変な事ばかりでは無い。人を殺しても特に何も思わないしな」

 

「それは……」

 

 

 自分が同胞殺しで頭を悩ませていた事への嫌味なのかとも思ったリーナだったが、達也の顔は冗談を言っているような感じはしなかった。それ故に、達也が感情を持ち合わせていないという事も、事実だと理解出来たのだ。

 

「それじゃあ、タツヤは別に男好きでもなければ、ミユキと付き合ってるわけでは無いのね?」

 

「当たり前だ。俺と深雪は兄妹だし、俺は同性愛者でも無い」

 

「なら、ワタシが達也の彼女になっても問題は無いのね?」

 

「……色々と問題はあると思うが、俺個人としては問題は無い」

 

 

 その色々な問題に頭を悩ませる未来しか見えないのだが、達也はリーナの告白を断らなかった。

 

「じゃ、ワタシの部屋はタツヤの部屋ね。一緒のベッドで寝ましょう」

 

「それとこれとは話が別だ。年頃の淑女がそういう事を簡単に口にするな」

 

「アメリカじゃこれくらい普通よ。まぁ、ワタシは普通の女の子じゃ無かったけどね。これからその『普通』を取り戻すのよ!」

 

 

 妙に意気込んだリーナを、お風呂から出てきた深雪が止めようと魔法を発動させたのだが、再び達也によって二人の争いは未遂で終わった。

 この日から、司波家では小姑と嫁――のような争いが続き、それに加えて真夜からの刺客で水波まで加わった生活が始まるのだが、あまり本編とは関係ないのでここでは語らない事とする。




とりあえずリーナ編は終わりです。甘くなるのは、次のIFからですかね……

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