劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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どっちが大事かなど言うまでも無く


二つの出頭命令

 一高で交流戦選手選考会議が始まった頃、達也は電話がかかってきたことを留守番の水波に告げられた。

 

「何処からだ」

 

『魔法協会関東支部の百目鬼部長様からです』

 

「つないでくれ」

 

 

 内線ヴィジホンで申し訳なさそうな顔をしている水波に、達也は内心面倒だという思いしか生まれなかったが、そう命じた。

 

『かしこまりました』

 

 

 その声と共に五十過ぎの痩せた男性がモニター画面に登場した。

 

『司波達也君だね? 私は魔法協会関東支部の百目鬼だ』

 

「司波です。それで、ご用件は」

 

 

 百目鬼の横柄な態度に、達也は冷静に応える。以前の達也であればこういう相手に対しても、波風を立てないよう丁寧に対応しただろう。だが今や、彼の立場は変わった。既に彼の力や知識、名前を利用しようと様々な人間が近づいてきている。達也は百目鬼に誤解を与えないよう、あえてぶっきらぼうな口調で問い返した。

 その対応に百目鬼は不快感を表情に上らせた。どうやら、分かり易い人間のようだ。

 

『君が東京に戻ってきていると聞いてね。我々協会は、君に直接訊ねたいことがある』

 

「そうですか。分かりました、ご質問をどうぞ」

 

『直接と言っただろう。明後日、関東支部に出頭してもらいたい』

 

 

 達也の応えに、百目鬼は目に見えて苛立つ。それでも、ここで怒鳴り出さないだけの分別はあるようだ。相変わらず横柄な口調で、百目鬼は達也に自分たちの所へ来るよう命じた。

 

「ですから、電話で直接お答えします。無論『答えられる範囲で』ですが」

 

『出頭を拒否するつもりか!? 魔法師は例外なく協会所属なのだぞ』

 

「知っています。この国の法律では、本人の意思に関わりなく魔法師のライセンスを取得した者は日本魔法協会の所属となる。この規定はライセンス取得前の魔法大学付属高校生徒にも適用される」

 

『その通りだ。そして協会に所属する魔法師ならば、出頭命令に従う義務がある!』

 

「日本魔法協会に、魔法師だからと言うだけで無条件に出頭を命じる権限はありません」

 

『なに?』

 

 

 達也の棒読み口調の回答に鼻を鳴らしていた百目鬼だったが、達也の反論に虚を突かれた顔で絶句する。

 

「出向けと強制したいのなら、手順を踏んでください」

 

 

 その隙に達也は正論を叩きつけた。ちょうどその時、モニター画面の端に内線着信のサインが表示される。

 

「失礼します」

 

『おい、待ちたまえ!』

 

『お電話中、失礼します』

 

 

 達也が応答するより早く、水波が画面の中から話しかけてくる。

 

「どうした?」

 

『本家の葉山様からお電話が入っております。如何致しましょう?』

 

「少しだけ待ってもらえ。今受けている電話はすぐに終わらせる」

 

『かしこまりました』

 

 

 達也はヴィジホンを魔法協会との通話に戻した。

 

「お待たせしました」

 

『おい、君。ちょっと有名になったからと言って――』

 

「出頭の件は改めて。他のご用件は無いようなので、失礼します」

 

『待てと言うのだ! 話は――』

 

 

 達也は魔法協会との通信を切り、保留中だった内線電話に切り替えた。

 

「水波、繋いでくれ」

 

『はい、ただいま』

 

『達也様、お電話中に失礼致します』

 

 

 葉山は魔法協会の百目鬼とは対照的に、敬意を伴う丁寧な口調で達也に話しかけ、お座なりではない会釈を見せた。

 

「いえ、問題ありません。もう終わりましたので」

 

『どちらからのお電話か、うかがっても?』

 

「魔法協会からです。聞きたいことがあるから協会に出頭しろという話でした」

 

『ほう……。魔法協会が、四葉家直系の達也様に出頭を命じたのですか。相手は十三束会長ですか?』

 

「いえ、百目鬼支部長です」

 

『関東支部が……。それで達也様は何とお返事を?』

 

「お断りしました。今の私の立場では腰が軽いと見られるのもあまり好ましくありませんので」

 

『良いご判断かと存じます』

 

 

 葉山が小さく、ただ恭しく頭を下げる。

 

「それで葉山さんのご用件は何でしょうか」

 

『おお、これは失礼しました。実は師族会議で達也様からお話をうかがいたいという意見が出ているようでして。会議にご出席いただけないか、達也様のご意向をうかがうよう奥様より申し付けられましてございます』

 

「母上が出るべきだというご判断でしたら、当然出席します」

 

『それでは明日の午前十一時より開催されます、臨時師族会議にご出席願います。場所は金沢の加賀大門ホテルです』

 

「明日の十一時ですね。了解です」

 

 

 あいにくと達也は『加賀大門ホテル』という名のホテルの存在を知らなかったが、所在地が金沢なら空を飛んでいけば二時間もかからない。別にエアカーやフリードスーツを使う必要は無い。達也の専属執事になっている花菱兵庫にヘリコプターを操縦させれば良い。

 まさか今時、ホテルにヘリポートが無いということはないだろうが、もしもの場合は魔法で降下すればいいだけだ。達也は頭の中でそう計算して、葉山の言葉に頷いた。

 葉山との通信を終えたところで、もう一度内線着信が表示される。

 

『達也様、関東支部の百目鬼様からお電話が……』

 

「こちらは既に返答したのでお断りしろ。しっかりとした手順を踏めば、考えなくもないと言っておけ」

 

『かしこまりました』

 

 

 達也の返答に恭しく一礼して、水波は百目鬼に達也の答えを告げ電話を切ったのだった。




あんま偉そうにしてると氷の嵐がやって来るぞ……

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