劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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ある程度は予定調和


選手選考会議

 深雪たち六人が部活連本部に戻ったのは、モノリス・コード交流戦の選手選考会議が始まろうとしているタイミングだった。進行役は部活連会頭・五十嵐鷹輔。記録係として生徒会書記の三矢詩奈が五十嵐の隣の席に着いている。会議のメンバーの中には幹比古、レオ、そして意外な参加者としてレオが言った通り、エリカの姿もあった。深雪の視線に気付いたエリカが、軽く手を振って返す。

 

「司波会長、態々すみません」

 

 

 深雪の姿を見て、五十嵐はすっかり恐縮していた。

 

「生徒会長として無関心ではいられませんので。どうぞ、私に構わず始めてください」

 

「は、はい。そうですね」

 

 

 深雪に促される格好で、五十嵐が会議の始まりを告げた。

 

「具体的な議論を始める前に、一つお報せしておくことがあります」

 

 

 開会を宣言した後、議長の五十嵐から発言があった。

 

「先程他校の代表と協議した結果、今回の交流戦では、十師族血縁者は出場を辞退してもらうことになりました」

 

 

 ざわめきが起こる。だがそれは、すぐに収まった。特に質問や反発は無い。参加者全員が、「仕方が無いな」という顔で納得した。

 

「では候補者を上げてください」

 

 

 立候補は募らない。今回は他薦のみと、事前に決まっている。手はすぐに上がった。仮チームとはいえ既に何度も練習を重ねて、候補はある程度絞られている。

 真っ先に名前が挙がったのは、去年も選手として出場した幹比古。次に進行役をしている五十嵐が推薦される。気弱なところはあるが、彼の実力は一高の誰もが認めている。ただ先輩や同級生にもっと凄い生徒がいる所為で、これまで表立って活躍する機会が無かっただけだ。

 次に名前が挙がったのは森崎だった。入学してしばらくは勘違いと空回りが目立っていたが、一年生の夏休み明け頃から虚勢を張る悪癖が影を潜め、それと共にテクニカルな魔法運用という本来の長所を発揮し始めた。今ではキャパシティや干渉力で劣っていてもテクニックでそれを補って余りある結果を出す、一高有数の技巧派魔法師という評価を勝ち取っていた。――その評価を、本人が良しとしているかどうかは別にして。

 

「五十嵐、一言良いか」

 

 

 推薦とそれを支持する声を受けた森崎が手を上げて立ち上がった。

 

「推薦してもらったのは嬉しいが、俺は一高の代表に相応しくない」

 

 

 そんなことは無い、という声が上がる。だが森崎は退かなかった。

 

「自分の実力はよく分かっている。俺では力不足だ」

 

「誰か他に推薦したい生徒がいるのか?」

 

 

 五十嵐の問いかけに、森崎は迷わなかった。

 

「俺より西城の方が相応しいと思う」

 

「オレっ!?」

 

 

 レオが自分を指して調子外れな声を出した。二人は入学早々もめ事を起こした間柄だが、今はもうレオと森崎の間に確執は無い。だからと言って、森崎の口から自分の名前が選手候補として出てくるなど、レオにしてみれば思いも寄らぬことだった。

 

「西城は新人戦での実績もある。吉田との連携にも慣れている。俺が出るより、好結果を残せると思う」

 

「いや、ちょっと待ってくれよ。新人戦のアレは達也のお膳立てがあったからだぜ? 硬化魔法以外まともに使えないオレは、モノリス・コードのルールじゃ本来満足に戦えねぇよ」

 

 

 レオは謙遜ではなく、本心から辞退を申し出た。しかし森崎は納得しなかった。彼もまた、レオが選手に相応しいと真剣に考えているのだ。

 

「二年前は戦えたじゃないか。得意魔法の問題は、同じデバイスを使えば解決する」

 

「いやいや、ありゃ、相手が想定していない奇襲だったから通用したんだ。オレが出場すると分かれば、どの学校も対策してくるだろうよ」

 

「それでも、俺より西城の方が相応しいと思う」

 

 

 レオと森崎、どちらも譲る気配は無い。ここで五十嵐が口を挿んだ。

 

「西城君、森崎君の意思は固いようだ。君の言うことも分かるけど、そこを曲げて出場してもらえないかな」

 

「レオ、君の得手不得手は良く知っている。その上で君には代表選手として活躍してくれる実力があると私も考えているよ。この場に集まっている者は皆、きっと同じ意見だ」

 

 

 これは剣道部部長、相津のセリフ。どうやら彼も、レオの出場に賛成らしい。

 

「いや、待ってくれ。別に出るのが嫌だってわけじゃないが、魔法の向き、不向きを度外視して良いんなら、俺より適任がいるだろ」

 

「西城君は誰を推薦するの?」

 

 

 五十嵐の問いかけに、レオは迷う素振りも無く答えを返す。

 

「エリカだ」

 

「へっ!? あたし!?」

 

 

 エリカの驚きようは、先程のレオを超えていた。まさに「鳩が豆鉄砲を喰らった」ようだった。

 

「認めるのも癪だが、エリカは俺よりもずっと戦い慣れている。遠隔攻撃ができない俺と違って、無系統の斬撃を飛ばす技もある。本当に癪だが、俺より間違いなく戦力になるだろうぜ」

 

 

 二度も「癪だ」を繰り返す辺り、レオは正真正銘の本気だ。

 

「でも女の子だよ」

 

「女子じゃまずいのか?」

 

 

 五十嵐の常識的な反論に、レオが反問する。

 

「まずいのかって……」

 

 

 まさかそんな問いかけが返ってくるとは、五十嵐は予想していなかったのだろう。この場にいる誰もが、レオの反論に即座に反応を示せなかった。




レオとエリカは確かに実力者だからな

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