劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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見ごたえは十分


不満が出ない理由

 達也は七体のパラサイト、その本体に目を向けた。相変わらず霊子情報体の構造は「視」えない。だがそこに何かがあるということくらいは分かるし、パラサイトをこの世界に留めている想子情報体の視認――「視」て、確認する――には、達也は既に慣れていた。

 彼はスーツ内蔵のCADから、『アストラル・ディスパージョン』の起動式を呼び出し、読み込んだ。今ではこの魔法も、『雲散霧消』と同じくらいスムーズに構築可能となっている。

 達也は右腕を真っ直ぐ頭上に掲げた。拳銃形態のCADを使わないのは、パラサイトが物質次元に存在せず、物質的な存在と紐付けされていないからだ。この様な場合、特化型CADの照準補助機能はかえって邪魔となると、達也は経験から学んでいた。

 

「(霊子情報体支持構造分解魔法、アストラル・ディスパージョン――発動)」

 

 

 七体の精神生命体全てに照準を合わせ、右腕を伸ばしたまま、水平位置まで振り下ろす。『アストラル・ディスパージョン』が発動した。パラサイトの本体が、不可視の渦に呑み込まれる。この渦は恐らく、パラサイトが元々存在していた世界に通じる次元の通路だ。パラサイトをこの世界に留めるアンカーの役目を果たしていた想子情報体が破壊されたことで、パラサイトの本体が本来あるべき世界に引きずり込まれているのだ。

 七体のパラサイトが消失する。我々の宇宙を構成する、物質次元と情報次元からの消滅。達也の魔法によって、パラサイトは滅びた。

 エリカたちがいるシェルターの映像が切り替わったのは、この魔法、『アストラル・ディスパージョン』を見られたくないからだ。特に、幹比古には見せるべきではない。それが真夜と本家技術者の一致した意見だ。

 『アストラル・ディスパージョン』は、本家でもまだ解析し切れていない、間接的にではあるが精神に干渉する魔法だ。古式魔法師がこの魔法を知れば、四葉家を脅かし得る術式のバリエーションが編み出される可能性があると、彼女たちは考えたのである。パラサイトの肉体を滅ぼした段階で映像を切り替えるよう、水波は厳命されていたし、中継システムもその様にプログラミングされていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 巳焼島に押し寄せたアメリカ軍の中で最も強かった敵は、スターズ第六隊隊長、オルランド・リゲル大尉が率いた搭載艇だろう。奇襲作戦の部隊編成にあたり、米軍は戦力を均等には分けなかった。リゲルの部隊には同じスターズ第六隊のイアン・ベラトリックス少尉とサミュエル・アルニラム少尉も含まれている。元々この三人がトリオでの戦闘を得意としている点が考慮されたのだろうが、三人しか参加していないスターズ恒星級隊員を一つに纏めたのだ。必然的に、他の部隊と比べて戦力が突出していた。

 にも拘らず、リゲル大尉が指揮する上陸部隊は海岸沿いの道路から先に進めずにいる。リゲル、ベラトリックス、アルニラムの前には、新発田勝成が立ちはだかっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 切り替わった映像を見ながら、幹比古が感嘆を漏らす。

 

「――強い」

 

「こいつもただ者じゃねぇな……」

 

 

 レオが唸る傍らで、エリカは無言でディスプレイを見詰めている。今、カメラが中継しているのは、移動基地を出た勝成が率いる守備隊の戦闘模様だった。

 

「……桜井。この人、誰? 四葉家ってのは、こんな強者がゴロゴロしているのか?」

 

「新発田勝成様は、四葉分家の次期ご当主様です。その御力は一族でも十指に入るとうかがっております」

 

「うへぇ! 四葉のトップテンか。でも納得だ。少し安心したぜ」

 

 

 水波の答えに、レオは言葉通りホッとした声を漏らす。

 

「何お気楽なこと言ってるの。十本の指に入るってことは、四葉家にはこの人以外に同レベルの実力者が少なくとも九人、いるんでしょ。少しも安心できないわよ」

 

 

 だが、弛緩した空気は沈黙を破ったエリカの言葉ですぐに霧散した。レオが反論しなかったのは、エリカの指摘がもっともだと考えなおしたからだろう。あるいは、思考の焦点が別のポイントに移ったからか。

 

「……しかし、分かんねぇなぁ。あれだけの力があれば、水際で撃退できたんじゃないか?」

 

「多分、わざとよ」

 

 

 レオのセリフに応えたのは、今回も水波ではなくエリカだった。

 

「僕もそう思う」

 

 

 エリカの推測に、幹比古が相槌を打つ。

 

「なんでだ?」

 

「アリバイ作り」

 

「はぁ?」

 

 

 エリカの答えに、レオは訝しげな声を上げた。

 

「僕たちを証人にしているんだよ。不法に侵入されたから、反撃してるって証人にね」

 

 

 幹比古が振り向いてレオに説明する。彼の目には、切羽詰まったと表現できる程の真剣な光が宿っている。

 

「証人になるって言ったのはあたしたちだもんね。口惜しいけど、文句も言えないや」

 

 

 アハハ、とエリカが乾いた笑いを漏らす。彼女は映像から一瞬も目を離そうとはしない。レオの方にも幹比古の方にも、決して振り向こうとはしなかった。

 

「エリカのヤツ、随分と真剣に見てるな」

 

「それだけこの人が強いってことだと思うよ。エリカも『千葉の剣士』だから、強い人を見て血が騒いでいるのかもしれないね」

 

「なるほどな。血気逸って助太刀に行こうとしただけのことはあるぜ」

 

 

 自分の背後でそんなことを言われているにもかかわらず、エリカはレオの頭を叩こうとはせず、ただただ勝成の戦闘をモニター越しに見詰めるのだった。




達也の戦闘シーンより戦ってる感はありますから

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