劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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奏太も普通に強い部類


奏太VSミマス

 ミマスは突如、頭上に魔法の気配を感知した。頭上と言っても、彼の真上ではない。二列縦隊の最後尾辺りだ。同じパラサイトといっても、そのスペックは同化した人間のレベルに左右される。スターズ隊員が生来持つ素質のレベルは、衛星級であってもスターダストを明確に上回る。スターダストの戦闘力は生体化学的強化によって無理矢理引き上げられたもので、そうしたブースト部分はパラサイトの能力に反映されない。この様な理由で、魔法発動の兆候を捉えたのはアレハンドロ・ミマスだけだった。

 パラサイトは意識を共有しているから、その情報は他の八体にも瞬時に伝えられた。だが発動地点に関する情報は、あくまでもミマスの肉体から見た相対的なものだ。

 意識は一つでも身体は別々。それが、感知した発動兆候の情報に従って魔法を回避しようとした場合、かえって混乱を招く結果をもたらした。

 隊列最後尾の二人に頭上から爆音が襲いかかる。一人には音の塊が掠めただけ。だがもう一人には、『音響砲』が直撃した。聴覚だけでなく全身が音に蹂躙され、精神と肉体のつながりが何ヶ所か部分的に遮断される。

 その影響は、意識を共有しているパラサイト全体に及んだ。特に今、行動を共にしているミマスを含めた八体が受けた影響は大きかった。

 直撃を受けた個体は、一時的に身体の一部が動かなくなっただけだ。しかし他の八体は、肉体に欠損が生じたような、不快な錯覚に見舞われた。本体が精神生命体であるパラサイトは人間と同化することで肉体を手に入れ、この世界で安定した存在となる。この世界を精神体だけで漂っているのは、不安定な状態なのだ。ピクシーやパラサイドールのような機械の器に閉じ込められた状態にパラサイトが甘んじるのも、精神体単独でいるよりその方が安定するからだった。

 精神体にとって、「不安定」は即ち「不安」。肉体はパラサイトにとって安定をもたらすものであり、身体の一部欠損は器の喪失=「不安定」を連想させる「不安」の種だ。

 奏太にとっては想定外だろうが、『音響砲』はパラサイトの激しい怒りと憎悪をかき立てた。

 

「(私が/個体名アレハンドロ・ミマスが、この敵を排除する)」

 

 

 魔法の発生源を探知したミマスが、奏太を殺しに行くと決意を伝え――

 

「(私が/我々が移動を補助しよう)」

 

 

――他のパラサイトが、『生体発火』に特化した為に魔法を利用した機動力が低下しているミマスに、移動のサポートを申し出た。

 

「(では移動する)」

 

「(では移動させる)」

 

 

 主体と客体が入り混じった思念が飛び交い、ミマスの身体が路上から消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自分のいる食糧倉庫に向かって一直線に飛び跳ねてくる一際強い気配に、奏太は声と思念で叫んだ。

 

「なにっ!? (見つかった!?)」

 

 

 彼我の距離は、およそ二百五十メートル程あった。魔法師にとっては無いも同然、と言うのは言い過ぎだが、お互いの存在を知覚するのが困難になる間合いでもない。だが奏太は奇襲を掛ける際の当然の心得として、魔法の発動地点、つまり自分のいる場所を感知されないよう気配を念入りに抑えていた。

 それなのにこのパラサイトは、間違いなく自分に向かって来ている。その意味するところは、この個体の魔法的知覚力が彼の隠蔽技術を上回っているということだ。

 相手を侮っているつもりは無かったが、「認識が甘かった」と奏太は認めざるを得なかった。同時に、逃げるのではなく迎え撃つ覚悟を固めた。この敵を野放しにしたら、味方にどれだけ損害が出るか分からない。少なくともこの地区を受け持っている魔法師の中で、最も戦闘力が高いのは奏太だ。自分がやらなければ、という使命感が彼をこの場に留まらせた。

 奏太が迎撃を選択するまでに掛けた時間は五秒足らず。彼が心を決めた時には、相手の気配は間近まで迫っていた。

 

「(――今だ!)」

 

 

 パラサイトが奏太のいる屋根に姿を見せる。同時に奏太は『フォノンメーザー』を放っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二度の跳躍で、ミマスは奇襲攻撃を仕掛けた敵の許にたどり着いた。その瞬間、彼は攻撃魔法の発動を感知して急所の前に両腕を掲げた。心臓をかばった左腕に高熱が生じる。ミマスは左腕の感覚をカットした。

 攻撃が心臓を狙った『フォノンメーザー』だったと認識したのは、左腕が肘まで焼け焦げた後だ。腕を貫通されなかったのは、能力特化の影響で他のスキルが低下しているとはいえスターズ正規隊員の魔法力で展開した真空シールド――魔法攻撃で最もポピュラーな、圧縮空気弾などの空気を媒体とした攻撃を防ぐ為の防御魔法――の効果と、それ以上に米軍特殊部隊専用の前腕部プロテクターの耐熱性能のお陰だった。

 それでも肘までの広範囲にⅢ度のやけどを負う重症だ。普通なら激痛で、身動きも取れなくなっているところだ。

 だがパラサイトには本体である精神体に余計なダメージが行かないよう、肉体的な感覚を遮断する能力が備わっている。遮断が間に合わず行動不能になってしまうことはあっても、断続的な痛みで戦えなくなるということはない。

 ミマスはまず敵の第二射を阻むべく、拳銃形態のCADを彼に向けている奏太の右腕に照準を定めて『生体発火』を放った。




声を出してしまうのが達也との違い

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