劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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この面子では仕方が無い


監視役

 深雪の素早い反応に、今更驚いている者はいなかった。他人から見れば不可思議、理不尽、ミステリーでも、達也と深雪の友人であるならば、この程度は驚くに値しない。ガンマ線遮蔽合金と中性子遮蔽構成樹脂の複合板を組み込んだ三重の扉越しに互いの存在を感知する程度の非常識には、エリカもレオも幹比古もすっかり慣れていた。

 

「深雪、勝成さんが呼んでいる。一緒に来てくれ」

 

 

 達也は友人たちに目もくれず用件だけを口にしたが、三人とも不満は覚えなかった。達也はそれを当然と思わせる空気を纏っていたからだ。着ている物は黒と見紛う群青色の飛行装甲服。四葉家が開発した『フリードスーツ』の別バージョンだ。ヘルメットを被り、顔のシールドだけを上げた完全武装状態だった。

 達也が先日まで使用していたフリードスーツは街中で着ていても「少し変わったライディングスーツ」くらいにしか思わないデザインの、日常的に着用しても怪しまれないことを重要視した謂わば「市民バージョン」。それに対して今彼が身にまとっているのは、要所を守る装甲や白兵戦用ナイフの柄がむき出しもの、一目見てそれと分かる戦闘用スーツだ。「市民バージョン」に対して「兵士バージョン」とでもいうべきデザインだった。明らかに民間人に許される限度を踏み越えており、官憲に見付かれば現行犯扱いは免れないと思われる――実際に警察が逮捕できるかどうかは別にして。

 その姿は戦いが迫っていることを分かり易く示している。達也が深雪を呼びに来たのも敵の迎撃に関わる用件だと、エリカたち三人は自然に考えた。

 

「エリカ、レオ、幹比古」

 

 

 もっとも、達也は三人のことを忘れていたのでも無視していたのでもなかった。

 

「お前たちはここにいてくれ。欲しいものがあれば水波が対応する。くれぐれも敵の前に飛び出していったりするなよ」

 

 

 達也に釘を刺されてエリカとレオが首を竦める。その反応は「大人しくしているつもりは無かった」と白状しているようなものだった。

 

「幹比古。二人が無茶をしないよう、見張っておいてくれ」

 

「う、うん。分かった」

 

 

 達也は幹比古にプレッシャーを掛けた後、深雪を連れて部屋を出ていった。この状況で幹比古が責任を押し付けられたのは、三人のキャラクター的に仕方がないのかもしれなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 達也が指令室に入った時、勝成は夏用のジャケットを脱いでアーマージャケット(防弾・防刃・耐薬品・耐爆機能を備えた戦闘用ジャケット)に着替えている最中だった。ズボンは元々、同じ素材の物を勝成は穿いていた。達也が着ているツナギタイプに対して、ツーピーススーツタイプの飛行装甲服である。上着の上から伸縮性のベルトで裾を押さえることにより一応の機密性を確保しているが、フリードスーツや国防軍のムーバルスーツ程の性能は望めない。

 それでも近距離高速移動の手段として、必要な機能は備えている。達也と違って魔法だけで身を守ることができる勝成には、これで十分なのだった。

 

「お待たせしました」

 

「いや、急に呼びつけたような格好になってすまない」

 

 

 襟元を閉じ、ベルトを着け終えた勝成が振り向いて応えを返す。前置きはそれだけだった。

 

「実は、強襲揚陸艦グアムが領海に侵入する直前で停船したんだ」

 

 

 二人とも謝罪合戦のような非生産的なことはせず、すぐ本題に入る。

 

「敵の狙いについて、君たちの意見を聞きたい」

 

「駆逐艦の動向を教えてください」

 

 

 勝成の問いかけに、達也は答えではなく質問を返した。

 

「駆逐艦ハルは島の東三十キロの地点に停泊している。一方ロスは五十ノット前後の速度で、島の南側領海外線を迂回して西に向かっている」

 

「グアムは、ロスが配置につくのを待っているのではないでしょうか」

 

 

 勝成の回答を聞いて達也は、その内容があらかじめ分かっていたかのように、すぐに己の推理を開陳する。

 

「駆逐艦二隻で東西から挟撃するつもりだと? だがロスもハルも対空対潜兵装主体の護衛駆逐艦だ。対地攻撃に転用可能なミサイルも多少は保有しているかもしれないが、搭載量はたかが知れている。核でも使わない限り……。まさか、彼らは核攻撃を目論んでいると?」

 

「核ミサイルは、使わないでしょう。USNA政府が、そこまで黙認するとは思えません」

 

 

 達也の答えには含みがあった。勝成はそれを聞き逃さなかった。

 

「……敵には、核攻撃に匹敵するような大規模魔法の用意があると考えているのか?」

 

「単なる可能性ですが」

 

「だからといって、先制攻撃で撃沈するわけにはいかない」

 

「駆逐艦からの長距離魔法攻撃には俺と深雪で備えます」

 

 

 達也が横目で深雪に振り返る。深雪はしっかりと頷き返した。

 

「分かった。そちらは達也くんたちに任せる。私は予定通り、上陸部隊を水際で撃退する」

 

 

 勝成は達也にそう言った後、深雪へ顔を向けた。

 

「深雪さん、こちらの席へ」

 

 

 そう言って勝成は、深雪に指揮官シートへ座るよう促す。

 

「その席は勝成さんが叔母様より委ねられた物では?」

 

「御当主様には、昨日許可を得ています」

 

「しかし……」

 

 

 いくら許可が出ているからと言って、自分がその席に座ることに抵抗があった深雪は、達也に視線を向けた。




幹比古は胃の痛い思いをせずに済むのか……

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