劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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達也だから出てくる意見


具体的な提案

 達也からの提案にそれしかないと考えていたほのかは、既に軍に協力を打診していたことを告げる。

 

『軍に在籍している卒業生の方々には一通りお願いしてみたらしいんですけど、やっぱり時間が足りないって断られたそうです』

 

「卒業生は戦闘魔法師として出動に備えている状況のはずだ。在校生に力を貸したくても自由になる時間がないのだろう」

 

 

 新ソ連の侵攻をいったん退けたとはいえ、あの国が失ったのは海上戦力の、ほんの一部でしかない。二〇九五年一〇月末に一撃で総艦艇の三割を失った大亜連合のダメージとは、比べものにならない程の軽微だ。USNAとの同盟関係が揺らいでいる今、国境を睨む国防軍の実働部隊は新ソ連の再侵攻に臨戦態勢で備えているはずだった。

 

「そうだな……亡くなられた九島閣下は、毎年九校戦を楽しみにしておられた。閣下の追悼競技会を開催したいと軍の広報部に申し入れれば、会場の設営くらいは協力してもらえるんじゃないか?」

 

『なるほど! ナイスアイデアだと思います!』

 

 

 モニターの中から、ほのかがずいっと身を乗り出してくる。――いや、実際にはカメラに顔を近づけただけだが。彼女のキラキラした光を湛える瞳に腰が引けてしまう達也だったが、表面上はポーカーフェイスを保ったまま続きを口にする。

 

「宿泊費と交通費は寄付を募るしかないだろう。俺もFLTに援助を頼んでみる」

 

『分かりました。五十嵐君にはそう伝えます』

 

 

 元気よく頷いた後、ほのかはいきなりもじもじとし始めた。

 

『あの、達也さん。実は明後日から、みんなで雫の別荘に行くことになっているんです。それで、お邪魔でなければ途中、そちらに寄らせていただいても良いですか……?』

 

「別に、邪魔では無いが」

 

 

 頷いた達也の隣から深雪が会話に割り込む。

 

「受験勉強は大丈夫なの? 皆ということは、エリカや西城君も一緒なのでしょう?」

 

『あっ、それは大丈夫。遊びに行くだけじゃなくて、半分は受験対策の合宿みたいなものだから』

 

「そう……? それならいいけど」

 

 

 深雪はとりあえず納得したのか、それ以上の追及はしなかった。深雪が半歩下がったことで、カメラが自動的に達也へ向く。ほのかが前にしているモニターの中では、彼女が視線を深雪から達也へ移動させたように見えているはずだ。ほのかのセリフが、自然と達也へ向けられるものへ変わった。

 

『じゃあ、すみません。明後日は雫のお家の飛行機でお邪魔させていただきます。お昼過ぎくらいになると思いますので』

 

「ではこちらで昼食を用意させよう」

 

『えっ、良いですよ! 機内食にお弁当を出すって雫が言っていましたから』

 

 

 達也の申し出に、ほのかが慌てて首と両手を横に振る。

 

「ほのか、水臭いわ。人数は六人分? そのくらい、全く手間じゃないから」

 

『……うん、そう、何時もの六人。ありがとう、雫にそう伝えておく』

 

 

 だが再びフレームインした深雪の言葉に、ほのかも遠慮を引っ込めた。

 

「じゃあ、明後日のお昼に会いましょう」

 

『うん、明後日。じゃあね、深雪。達也さん、失礼します』

 

 

 ぺこりと頭を下げるほのか。その言葉と仕草がジェスチャー登録されていたのか、彼女がお辞儀をした状態で通話は切れた。

 ヴィジホン画面が真っ暗になったのを確認して、深雪は視線を画面から達也へ向け、先ほどの話を確認する。

 

「いくら九島閣下の追悼競技会と銘打ったからといって、国防軍が力を貸してくださるでしょうか?」

 

「会場の提供と設営くらいなら力を貸してくれるだろう。国防軍内にはいまだに、九島閣下のシンパが大勢いるらしいからな」

 

「渡辺先輩たちが参加したと言っていた『抜刀隊』などですね」

 

 

 深雪も光宣捜索に摩利が参加したことも、そのチームが正式な命を受けて捜索していたわけではないことも知っていた。そのことを達也に言われて、深雪もその程度なら協力してくれるだろうという考えに変わった。

 

「達也さま、深雪様。お茶のご用意ができました」

 

「ありがとう。水波ちゃんも作戦参謀としてなら参加できるかもね」

 

「……なんのお話でしょう?」

 

 

 急に話題を振られ、水波は首を傾げて深雪に問いかける。深雪は先程ほのかから聞かされ、達也の提案で具体性を帯びてきた九校戦の代替試合について水波に説明し、水波も納得したように頷いた。

 

「確かに実現しそうですが、私はこのままでは魔法科高校に在籍し続けることは難しいでしょうから、参加しない方向で考えています」

 

「そう……まぁ、水波ちゃんの意思を尊重するわ」

 

 

 ここで無理に命令すれば水波は参加してくれるだろうが、深雪は水波のことを従者ではなく家族として見ているので、それはしなかった。達也も水波の意思を尊重する考えなので、水波は一礼して部屋を辞していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして八月三日、土曜日。雫、ほのか、エリカ、レオ、美月、幹比古の六人とパイロット、お世話係のメイドの合計八人を乗せたティルトローター機は予定より少し早く、お昼前に巳焼島の空港に着陸した。その時点ではまだ、民間機に警報は出されていなかった。




またまた国防軍の失態が……

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