劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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妥当な人選かと


移動手段

 四葉ビルに向かう為、克人との待ち合わせ場所へ向かおうとした真由美の前に、津久葉夕歌がその行く手を遮る。

 

「津久葉先輩、私急いでいるのですが」

 

「知っているわ。昨日の夜、葉山さんから電話をもらったのよ。真由美さんと克人さんを案内して欲しいとね」

 

「津久葉先輩が?」

 

「一応四葉縁者だし、真由美さんと克人さんとも面識があるからね」

 

 

 真由美とはそれなりに親交があるが、克人とは顔を合わせたことがある程度だが、それくらいで夕歌が動じるはずがないと、真由美は葉山の気遣いを素直に受け取ることにした。

 

「それじゃあ、乗ってちょうだい」

 

「ありがとうございます」

 

 

 夕歌が運転する車に乗り込み、克人との待ち合わせ場所に向かう。途中会話は無かったが、不思議と居心地の悪さをは覚えなかった。

 

「十文字くん、お待たせ」

 

「俺も五分前に来たばかりだ」

 

 

 ここで正直に言うのが克人らしいと、真由美は思わず笑みを浮かべ、すぐに表情を改めて車へと案内する。

 

「顔は知っているわよね? 四葉分家で一高の先輩でもある津久葉夕歌さん。今日は運転手を買って出てくれたのよ」

 

「十文字家当主、十文字克人です」

 

「ご丁寧にどうも。四葉分家の一つ津久葉家の娘で、達也さんの婚約者の一人でもある津久葉夕歌です。まぁ、言わなくても知ってるだろうけど一応ね」

 

 

 重苦しい雰囲気の克人に対して、夕歌はあくまでも何時も通りのノリで挨拶を交わし、二人を乗せて車を発進させる。

 

「それにしても、御当主様に直接確認したいだなんて、十文字家の御当主様は豪胆と言うか命知らずというか」

 

「夕歌さん、それはどういう意味ですか?」

 

「別に、深い意味はないのよ。ただ、十文字さんは調べ上げたことを確認して、どうするのかなって思っただけよ」

 

 

 口調はあくまでも軽いノリだが、夕歌の雰囲気からは韜晦は許さないと伝わってくる。真由美ですら気づくのだから、克人が気づかないわけがない。

 

「もしかして、周りに言いふらすつもりなのかしら? 四葉家の足を引っ張りたい家は、七草家以外にもあるでしょうし」

 

「どうしてウチが真っ先に出てくるんですか?」

 

「だって、七草殿と真夜様の仲の悪さは有名だもの。以前四葉家の力を削ごうと七草殿が動いていたこと、知らないとでも言うつもりかしら?」

 

 

 夕歌の言葉に、真由美は押し黙り克人に視線を向ける。二人の遣り取りを気にした様子も無く、克人は淡々と夕歌の問いに答えた。

 

「司波が国益を損ねる結果につながるようなことをしでかすつもりなら、十師族の一員として、高校の先輩として止める、それだけです」

 

「貴方以前、達也さんとの真っ向勝負に負けたのではなくて? しかも、貴方有利のフィールドで」

 

「勝てるなどと思っているわけではない。ただ、アイツはどういうつもりでUSNAの基地を陥落させたのか、それを確かめたいだけです」

 

「なるほどね……まぁ、御当主様が会うと言ってる以上、私が連れていかないなんてことはできないのだし、十文字殿の真意なんて、私にはどうでも良いのだけど」

 

 

 緊迫していた空気が一変し、何時も通りの雰囲気に戻った夕歌に、真由美は上手く対応できずにいたが、克人は相変わらず表情一つ動かさない。真由美が知る限り、克人と同年代でここまで動じない人間など、達也しかいなかった。

 

「夕歌さん、どうでも良いと言うのなら、何故確認したんですか?」

 

「ちょっとした興味よ。これが七草殿なら嘘だと言い切れるのだけども、十文字殿にそんな嘘を吐くメリットはないでしょうから本心なのでしょう。もちろん、十文字殿が達也さんほど嘘を吐くのに慣れていた場合、私では見抜けないだろうけど。それに、十文字殿は既に、達也さんが巳焼島で入院などしていないと確信してるようだしね」

 

 

 夕歌の言葉に、真由美は言葉を失い黙り込む。克人は達也のような腹芸は得意ではないので、嘘を吐くことないと断言できるのだが、十師族の当主として様々な修羅場をくぐって来たであろう今の克人がそうなのか分からないからだ。

 

「着いたわ。それじゃあここからは真由美さんが案内してあげて。といっても、エントランスに葉山さんが待っているでしょうから、真由美さんはエントランスまで十文字殿を連れていってあげればそれでいいから」

 

「分かりました。津久葉先輩はどうするんですか?」

 

「私はここにも部屋があるから、話が終わるまでそこで待たせてもらうわ」

 

「分かりました。じゃあ話が終わったら――」

 

「連絡は不要よ。どうせ別口から連絡が入るでしょうし」

 

 

 この場所は四葉家の拠点だ。自分が気を回さなくてもそれくらいは問題ないかと納得し、真由美は車から降りて克人を連れてエントランスへと向かう。

 

「十文字様、七草様、お待ちしておりました」

 

 

 エントランスに入るや否や老執事が恭しく出迎えてくれたのを受けて、真由美は思わずたじろぐ。だがすぐにこの老執事が四葉家筆頭執事である葉山だと理解し、克人を前に押し出す。

 

「十文字家当主、十文字克人です。本日はお時間を作っていただきありがとうございます」

 

「その言葉は我が主に。こちらでございます」

 

 

 克人の体躯を見ても動じることない葉山を見て、真由美は「さすが達也くんの家の人ね」と納得して、克人の後に続いたのだった。




葉山さんが克人程度で驚くはずもないだろうに

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