劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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ここの関係は結構好きです


友人との通話

 外部との通信許可をもらい、水波は新居に電話を掛ける。新居にといっても、あくまでも香澄個人に割り当てられた番号にかけているので、香澄以外の人間が出ることなど考えていなかった。

 

『はい?』

 

 

 なので、香澄ではない声に一瞬戸惑ってしまったが、声の主に心当たりがあったのでそれ以上困惑することはなかった。

 

「泉美さんでしょうか」

 

『はい、そうです。水波さんですよね』

 

「はい、ご心配、ご迷惑をお掛けしました」

 

『いえ、友人を心配するのは――』

 

『泉美! 何でボクの部屋の電話に勝手に出るのさ!』

 

 

 泉美が何か言い掛けていたが、横から部屋の主の声が聞こえてきた。水波はその光景を用意に想像し、懐かしさから笑みを零す。

 

「香澄さんも、お久しぶりです」

 

『あっ、水波からだったのか。というか泉美、電話に勝手に出るなって言ったじゃん』

 

『この部屋の番号を知っている人間は限られていますし、昨日お姉さまから「水波さんから電話がある」と伺っておりましたので、恐らく水波さんだろうと思いましたので』

 

『だからってボクがトイレだからって勝手に出ないでよ。水波じゃなかったらどうするつもりだったのさ』

 

『その時は、香澄ちゃんはトイレですので、少々お待ちくださいとお伝えするつもりでした』

 

『いや、余計なこと言わないでよ』

 

「お二人は相変わらず仲が良さそうですね」

 

 

 電話越しでも双子がどのようにやり取りをしているか理解できるくらい、自分は二人と親交が深かったのかと、水波は入学してから攫われるまでの期間のことを思い出していた。

 

『それで、無事に帰って来たってことは、二学期から出席できるんだよな?』

 

「それはまだ……魔法演算領域に負った傷は、完全に治ったという訳ではありませんので。むしろ、魔法を行使する感覚が思い出せないので、下手をすれば退学になるかもしれません」

 

『『退学っ!?』』

 

 

 双子が声を揃えて驚いたのを受けて、水波も驚いてしまう。自分が負った傷がそれ程重症化するとは思っていなかったのかと、達也と普通の人間の考え方の違いに驚いたのであって、双子が声を揃えたことには何の驚きもない。

 

「達也さまが色々と方法を探してくださっているので、まだ決まったわけではありませんし、私としてもできることなら復帰したいと思っていますので」

 

『当然だろ! 水波はボクたちの学年でもトップクラスの実技成績だし、理論分野だって十分な結果を残してるんだ。ちょっとやそっとのことで退学にはならないよ!』

 

『ですが香澄ちゃん。あくまでも魔法学校ですから、魔法が行使できなくなれば通い続けることは不可能なのではないでしょうか? 水波さんは魔法検知能力に長けていましたが、それも今は……』

 

「濁さなくても結構ですよ。今の私では、魔法を使われたことすら気づけませんでしょうし……」

 

 

 魔法を行使した結果を見て漸く理解できるくらいだろうと、水波は現状を冷静に受け入れている。そうなってしまったのは、自分がUSNAで無茶をしたからなのか、それとも光宣が何か施術した結果なのかは、水波本人にも分かっていないが。

 

『たとえ退学になったとしても、ボクたちは水波の友達だし、水波も達也先輩の婚約者として認められたんだろう?』

 

「随分と耳が早いのですね。私が真夜様に特例を認めていただいたのは、昨日の遅くだというのに」

 

『ここに住んでれば、そのくらいの情報は入ってくるって。四葉関係者だっているんだし、水波のことは皆心配してたし』

 

『そんなこと言っていますが、一番心配していたのは香澄ちゃんなんですよ? 光宣さんに攫われたのは自分が不甲斐ないからだって、必死になって特訓してたくらいですし』

 

『それは泉美だってそうだろ!? わざわざこの家に泊まってまで再戦のチャンスを待ってたのに』

 

「お二人に心配していただけて、本当に嬉しく思います。ですが、光宣さまは逃亡してしまいましたので、お二人が再び戦うチャンスは無いと思います」

 

『あれ? 光宣を斃したから水波が戻ってこれたわけじゃないの?』

 

「何があったのかは私は分かりませんが、光宣さまとそのご友人のパラサイト――人間名レイモンド・クラークは何処かに行方を晦ましてしまったそうです」

 

『レイモンド・クラークって、ディオーネー計画の責任者でもあるエドワード・クラークの息子の?』

 

『もし水波さんの話が本当だった場合、ディオーネー計画の理念が問題視されるかもしれませんね。パラサイトの意向を汲んでいるんじゃないかという疑いが』

 

 

 実際ディオーネー計画の真の目的は、自分たちに都合の悪い魔法師を宇宙空間に追いやることなので、泉美が言う通りになれば達也にとっても都合が良いだろうが、今更そんなことが明るみになろうがなるまいが、達也にはあまり関係なさそうだと水波はそう思った。

 

「今度直接そちらにお伺いできればいいのですが、検査結果が出るまでは巳焼島から出られそうにありませんので……」

 

『それは仕方ないって。それじゃあ、また会える日を楽しみにしてる』

 

『今更ですが、体調に気を付けてお過ごしください』

 

「ありがとうございます。お二人も、ご自愛してくださいませ」

 

 

 別れの挨拶をして、水波は電話を切る。それ程長い時間ではなかったが、友人と話せて水波は少し心に余裕が持てるようになったのだった。




仲がいい相手との会話は心の余裕をもたらす

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