自分には達也とデートする権利がないと思い込んでいた為、響子は婚約者たちが行ったデートの順番決めに参加していなかった。そもそも自分の身内がしでかしたことを考えれば、婚約者の地位を返上するべきではないかと考えている響子が、達也とデートできるなどと考えているはずもない。
だがデートを決めた真由美が、響子の考えなど知る由もなく、彼女は響子を順番の最後に組み込んでいたのだ。
「あっ響子さん。今日の夜、達也くんとのデートですから」
「えっ? 真由美さん、それはどういう……」
「ですから、響子さんで最後です。達也くんも今後本格的に忙しくなりそうですし、今度の機会は何時になるか分からないんですし、響子さんも思う存分デートを楽しんできてくださいね」
「いや、私は真由美さんたちが計画していたデートの順番決めに参加してなかったのだけど」
「忙しかったんですよね? ですから、響子さんはお一人で夜デートにしておきましたから」
気が利くでしょう? と言いたげな表情を浮かべる真由美に対して、響子は複雑な表情を浮かべる。デート出来ること自体は嬉しいのだが、気持ちが追いつかないのだろう。
「兎に角達也くんにはもう連絡してありますので、響子さんも準備した方が良いですよ? あまりお化粧が必要な感じではないですけど、せっかくのデートなんですから」
「あの、だから……」
「なんなら、朝帰りでも大丈夫なように誤魔化しておきますから。でも、抜け駆けは駄目ですからね? 私じゃなくて、深雪さんがどうなるか分からないので」
「そう言うことじゃなくて……」
「何か問題でも?」
ここに来てようやく、真由美は響子が慌てていることに気づく。いきなりデートだと言われて戸惑っているのかとも思ったが、どうやら違うようだと勘付いたのだ。
「私の身内がしたことを考えれば、達也くんと仲良くしてるのが許されることなのかどうか……」
「響子さん個人が裏切ったわけでもないんですから、気にし過ぎなだけではありませんか? 私や香澄ちゃんだって、あの狸親父が四葉家にしてきたことを考えたら大変なことになるかもしれませんが、達也くんはそんなこと気にしてませんし」
「でも――」
「あぁもう! 響子さんは気にし過ぎなんですよ! とにかく、達也くんも響子さんとのデートを受け容れてくれているんですから、細かいことは考えずに楽しんできてください!」
無理矢理響子を部屋に押し込み、自分も響子の部屋に入る。そしてクローゼットから適当なデート服を選びだし響子に差し出す。さすがにここまでされては拒みようがないと、響子は複雑な思いに無理矢理蓋をして、デートの準備に取り掛かったのだった。
達也と二人きりで気まずさを感じるかもしれないと考えていた響子だったが、待ち合わせ場所には達也の愛人である小野遥と安宿怜美の二人が立っているではないか。
「ミズ・ファントム……どこかで盗み聞きをしていたわね」
「何のことかしら? そもそも私たちはあの家に入れないのだから、盗み聞きなんてできないでしょう?」
「ではなぜデートの話を家の中でしていたと知っているのかしら?」
「そ、それは……」
思いっきり襤褸を出した遥に、響子はジト目、怜美は笑いを堪えた目を向ける。
「だから言ったんですよ。藤林さん相手に心理戦は不利だって」
「別に心理戦を挑んだわけじゃないです」
「だいたいエレクトロン・ソーサリスさん? って小野先生がライバル意識を抱くのさえ馬鹿らしいくらいレベルが違うって言ってませんでした?」
「言って無いです!」
怜美が遥と楽しそうに話しているところに、達也がやってきて首を傾げる。
「何故小野先生と安宿先生が?」
「どうやら盗み聞きをしていたようよ」
「桜井さんが昇格した詳細は分からなかったけど、彼女が婚約者としてデートしたのなら、私たちだって愛人としてデートしても良いでしょう? それとも、エレクトロン・ソーサリスとは二人きりでデートしたいとでも言うのかしら?」
「別にそうは言いませんが」
「なら良いわよね? 私たちが『大人のデート』を教えてあげるわ」
「そんなこといって、小野先生って達也さんが初めての彼氏だって言ってませんでしたっけ?」
「シーっ!」
大人の余裕を見せようとして、あっさりと怜美にバラされて遥は慌てて彼女の口を塞ぐが、時すでに遅し。達也と響子から呆れているのを隠そうともしない視線を向けられ、遥は不貞腐れたように視線を逸らした。
「兎に角! 私たちだって達也さんとデートしたいの! 問題ないわよね!?」
「響子さんがかまわないのなら、俺は問題ありませんが」
「私も、達也くんがかまわないのなら良いわよ。そもそも私だけ二人きりだなんて深雪さんに知られたら大変だもの」
「だそうです」
「じゃあ行きましょう。今日は呑まなきゃやってられないわよ!」
「俺は一応未成年なのですが」
「大丈夫よ。達也さんは高校生には見られないでしょうし」
「何気に一番酷いことを言ってますよ」
「そうかしら~?」
おっとりとした口調で酷いことを言った怜美に、響子はツッコミを入れたが、あまり効果は無かった。
達也は高校生には見えないよな