劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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軍人でも戦くよな……


IFルート 響子の戦慄

 雫たちや真由美のように巳焼島を訪れなくても、達也に何があったのかを理解している人間はいる。達也の魔法は婚約者たちなら知っているので、動揺する方がおかしいのかもしれないが、それでも響子は冷静に状況を分析し、病院に入院しているという情報はデマであると突き止めていた。

 

「(恐らく光宣くんを追い掛けてUSNAに向かったんでしょうけども、あそこまでする必要があるのかしら? 佐伯少将や風間中佐は達也くんの魔法を知っているのだから、あの二人を欺こうとしたわけではないのでしょうけども……)」

 

 

 達也の魔法を公に発表することができないということは、彼自身が一番知っているだろうと考え、響子は別の理由を考える。

 

「(水波さんを連れ戻す以外に、USNAで何かをするのかしら……でも、いったい何を……)」

 

 

 考えられる理由は、ディオーネー計画を根本から潰すことか、スターズ内に蔓延っているパラサイトの殲滅だが、どちらも達也らしくない理由である。

 確かにディオーネー計画は達也にとって邪魔でしかないが、根本から潰す必要は無い。そもそも既に参加しないと公言している以上、達也から仕掛ける必要は無いのだ。

 もう一つの理由も、響子はしっくり来ていなかった。パラサイトの脅威は達也も十分に理解してるが、基本的に達也は自分や深雪にとって害を為さない相手は無視する傾向がある。USNAで起こっていることに首を突っ込むなど考え難い。

 もしかしたらリーナから依頼を受けたのかもしれないとも考えたが、既にスターズを退役しているリーナが、スターズの後始末を達也に任せるとも考え難かった。

 

「(USNAで何か起こったとしたら、それは十中八九達也くんが絡んでいると考えるべき……光宣くんには、USNA軍と事を構える理由が無いわけだし……)」

 

 

 響子は光宣がパラサイトと同化していることも知っているので、パラサイトに支配されかけているUSNA軍と光宣が争う可能性は無いと考えている。だが調べていくうちに、光宣がUSNA軍と戦闘を行った痕跡を見つけ、いったい何が起こっているのかと混乱に陥った。

 

「(パラサイト同士でも争うことがある? でも、パラサイトは確か意識を共有し、共同の目的の為に動くと聞いていたのだけど、光宣くんは普通のパラサイトとは違うということ?)」

 

 

 そもそも自我を保っているように見えている時点で、他のパラサイトとは違うのだが、響子はそこまでパラサイトの生体に詳しいわけではない。なので何故光宣と他のパラサイトが争ったのか、響子にはその事を理解することができなかった。

 

「(パールアンドハーミーズ基地やミッドウェー監獄の陥落は、間違いなく達也くんの仕業なのでしょうけども、これもいったい何が目的で……?)」

 

 

 いずれ達也は日本に帰ってくるだろうと考えているので、響子はその時に達也に確認すればいいと気持ちを整理して、軍業務を始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 達也が帰って来たという情報をキャッチした響子は、基地へ向かう前に達也の許を訪れた。

 

「お久しぶりね、達也くん」

 

「わざわざ出向くとは、余程急ぎの用件なのですか?」

 

 

 達也は一高に向かう為に四葉ビルで一泊していた。まさかそこに出向いてくるとは思っていなかったので、達也は余程急ぎの用件なのだろうと考えたのだ。

 

「達也くんがUSNAに出向いたのは、水波ちゃんを取り戻す為なのよね?」

 

「えぇ」

 

「じゃあ何故、パールアンドハーミーズ基地やミッドウェー監獄を襲撃したの?」

 

「USNAへ向かう為の足を提供してもらう代わりに、依頼を受けたからです」

 

「依頼?」

 

 

 さすがにワイアット・カーティス上院議員からの依頼内容は知らなかったのかと、達也は苦笑いを浮かべて説明をした。

 

「――というわけです」

 

「つまり、水波ちゃんを光宣くんから取り戻す前に、ベンジャミン・カノープス少佐をミッドウェー監獄から脱獄させろという訳だったのね?」

 

「えぇ」

 

 

 達也としては大したことをした覚えはないのだが、周りから見れば十分すぎるくらい大事だ。響子が驚いた表情を見せるのも無理はない。

 

「達也くん……貴方、相変わらず規格外ね」

 

「そうでしょうか? やり過ぎるのはマズいと言われたので、十分加減したつもりなのですが」

 

「達也くんの加減は、普通の人間の全力以上だからね。そもそも武器庫を丸々消し去るなんて、普通の魔法師にはできないし」

 

「あそこを残しておくのは後々面倒に繋がると思ったので。普通の軍人には死者を出さなかったのですから、十分大人しい戦果だと思いますが」

 

「それは、そうかもしれないけど……」

 

 

 父の長正を相手にしていた時も加減していたと分かっていたが、ここまで規格外の戦果を残しておきながら全く自覚していない達也に、響子は改めて戦慄する。

 

「これだけのことをしておいて大丈夫なの?」

 

「俺がやったという証拠は何処にもありませんので。俺は、巳焼島の病院に入院していたのですから」

 

 

 平然と言ってのける達也に、響子もつられるように苦笑いを浮かべた。深雪以上に達也の魔法による戦果を知っていたつもりだったが、まさかここまでやれるとは思っていなかったのだろう。




加減してると言い切れるのが凄い

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