劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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口調が安定しないな……


IFルート 沓子の説教

 三高組以外で仲が良いほのかから達也の事情を説明してもらっていた沓子は、とりあえず達也が無事だと分かり安堵していた。本音を言えば今すぐにでも巳焼島に行って自分の目で達也の無事を確かめたかったのだが、手段も無ければ行ったところで達也がいないということを教えてもらったので、何とか気持ちに蓋をして新居で達也の無事を祈ることにした。

 

「ワシが祈らなくても、達也殿なら無事じゃろうが、せめて水波嬢が無事に助け出せるよう祈らせてもらおうかの」

 

 

 達也の無事といよりも、水波が手遅れにならないように祈っている感じになっているが、沓子はそれで十分だと感じている。先に言ったように、達也なら無事を祈る必要は無く、また達也なら任務に失敗するようなことは滅多にないと知っているからだ。

 日本での光宣追跡は、様々な邪魔が入った結果失敗したようだが、それは達也の力量不足でなど無いので、達也の失敗だと沓子は思っていない。むしろあれだけの邪魔が入ったにもかかわらず、その全ての敵に勝利したという結果に驚きを感じたくらいだ。

 

「藤林家の御当主に、九重八雲、それ以外にも警察や工作員などの妨害が入ったにも拘わらず、達也殿はすぐに次のミッションに取り掛かったからの」

 

 

 あの衝突事故も四葉家が軍を欺くための作戦だということを聞かされ、沓子は漸く腑に落ちたのだ。達也なら衝突する前に船ごと消し去ることも、衝突した後で怪我を負うことなくあの場から抜け出すことも可能なはずなのに、何故怪我を負った状態で引き上げられたのか、それがずっと引っ掛かっていたのだ。もしかしたら達也の魔法を知られたくないという事情からなのかとも考えていたが、真実は沓子が思いもよらない方向だった。

 

「やはりワシ程度では、四葉家の――達也殿の考えに理解が及ぶなど到底無理じゃな。愛梨や栞も同じようじゃし、香蓮がその可能性を考えていたくらいじゃし、達也殿と近しくない人間なら、完璧に騙せるじゃろう」

 

 

 達也が国防軍の特務士官ということは知っているが、所属先の人間には四葉家との間に守秘義務があるはずなので、公に達也は無事だと言い出せない。そして達也のことに詳しくない人間は、そもそも達也が病院にいないなどと考えもしないだろう。

 

「まったく、相変わらずの策士ぶりじゃ。じゃが、ワシらが心配する可能性を考えておらんではないか」

 

 

 今頃はUSNAの基地で暴れているであろう達也に、沓子は帰ってきたら不満の一つでもぶつけてやろうと心に決めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 達也が偽装入院を終えてすぐ、沓子は新居にやって来た達也に詰め寄る。用件は偽装入院に至るまでの経緯を説明しなかったことに対する抗議だ。

 

「達也殿、大勢に知らせれば敵に知られる可能性があることは理解できたが、ここに生活している者くらいには説明しておいてもらわんと、生きた気がしなかったんじゃぞ! 愛梨やほのか嬢など、顔面蒼白で何時倒れるか心配だったくらいなのじゃからな!」

 

「それは悪かったな。だが、ゆっくりと説明している暇もなければ、こちらに顔を出す余裕も無かったからな。青木ヶ原樹海での光宣捕縛に失敗してすぐ、USNAの上院議員との話がついて、そのままUSNAに向かったから」

 

 

 細かく言えば、東道青波に許可をもらう為に一度こちらに戻ってきていたのだが、新居に顔を出す余裕などなかった。沓子にはそんな裏事情を知りようがないので、達也が時間に追われていたのだろうと納得せざるを得なかった。

 

「達也殿の事情はおおむねほのか嬢から聞いて負ったから責めるのはお門違いじゃと分かっておるのじゃが、それでも心配したことには変わりはないからの! この落とし前は、しっかりと付けてもらわんと」

 

「それは構わないが、具体的には何を希望しているんだ?」

 

「そうじゃのぅ……」

 

 

 まさかあっさりと達也が自分の非を認めるとは思っていなかったので、沓子は肩透かしを喰らった気になっていたが、それを覚らせないように思考を巡らせる。その様なごまかしが達也に通用するわけもないのだが、達也はそのことを指摘するような趣味は無い。

 

「達也殿は何時までこちらに滞在できるのじゃ?」

 

「校長に事情を説明する為に、明日一高に顔を出す予定だから、少なくても明日まではこちらにいる」

 

「では、今日はゆっくりとワシらとの会話に付き合ってもらおうかの。達也殿がどれだけの人間に心配をかけたのか、じっくりと教え込んでやろう」

 

「そんなに心配を掛けたつもりは無かったんだがな……ここで生活している人には、俺の魔法は説明してあったはずだが」

 

「その魔法だって万能じゃないかもしれんじゃろ? 発動が間に合わなかったかもしれないじゃろ? そう考えたらきりがないくらい、ワシらは達也殿のことを想っておるんじゃ! そんな乙女に心配を掛けた罪は、相当なものじゃから覚悟せい!」

 

「……悪かった」

 

 

 自分の考えが浅かったと認めざるを得ないくらいの剣幕に、達也は素直に頭を下げる。だがそれで沓子の留飲が下がることはなく、自室に他の婚約者たちを呼び、懇々と達也に想いをぶつけ続けたのだった。




普通の説教よりは効果ありそう

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