劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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彼も子犬のような感じに……


航の願い

 潮の用件も終了したので、達也は雫とほのかを新居に送り届けて巳焼島に戻るつもりだったのだが、二人から懇願され、少しの間お茶を楽しむことになった。潮と紅音はさすがに同席しなかったが、雫の弟である航がこの場に同席している。

 

「司波さん、お久しぶりです」

 

「久しぶりだね」

 

「司波さんの事故のニュースは僕も見ました。本当に大丈夫なのでしょうか?」

 

「航。達也さんはこうして退院してお父さんに事情を説明しに来てるんだから、それで分かるでしょう?」

 

「そうだけど……」

 

 

 雫の弟のはずなのだが、航はどことなくほのかと似た雰囲気を纏っている。つまり、子犬のような雰囲気だ。

 

「君にも心配させてしまったようで申し訳ない。だがこの通り普通に生活するのに支障があるわけでもないし、どこか痛むわけでもないから、これ以上気にする必要は無いよ」

 

「そうですか、良かった」

 

「航くん、何だか達也さんに懐いてるね」

 

「だって姉さんの婚約者なのですから、僕にとっても義兄になるわけですし……それに、魔法工学を勉強するなら、司波さんにいろいろと聞きたいことがありますし」

 

「確かに達也さんなら航の聞きたいことの殆どを答えてくれるかもしれないけど、達也さんにはそんなことをしてる時間は無い。今日だって無理言って家に来てもらったんだから」

 

 

 雫も達也が忙しいのは理解している。だがどうしても一緒にいたかったので無理を言ってお茶に付き合ってもらいる。その上弟の家庭教師までお願いするなどできるはずもなかった。

 

「確かに今すぐ答えるのは難しいが、メールでも何でもいいなら答えてあげよう。これが俺の連絡先だから、分からないことがあったら連絡して」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

 

 雫に窘められてしょんぼりしていた航の表情が一気に明るさを取り戻す。それだけ達也の気遣いが嬉しかったのだろう。

 

「それじゃあ姉さん、僕はこれで」

 

 

 航がこの場に同席したのは、達也に質問したいことが山ほどあったからで、その機会をもらえたので無理にここに留まる必要は無くなった。なので姉と姉のような存在であるほのかの邪魔をするべきではないと考えて席を外したのだが、その気遣いはしっかりと二人には届いているようで、困ったような嬉しいような表情で弟の背を見送る。

 

「航くん、本当に魔法工学を学ぶつもりなんだね」

 

「企業連合の跡取りとしては大問題だけど、そっちもそっちでしっかりやるという条件でならだけど」

 

「それだけ雫の役に立ちたいのだろう。姉想いの良い弟じゃないか」

 

「うん……」

 

 

 達也に褒められて、雫は自分が褒められたかのように照れる。深雪やエリカ程では無いが、雫もブラコンなのかもしれないなと、達也はお茶を啜りながらそんなことを考えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 達也に新居まで送ってもらい、雫とほのかは一旦それぞれの部屋に戻り、すぐにほのかの部屋に雫がやってきた。

 

「達也さんとお父さんの話し合いも無事に終わって、今まで通り出資も続けるらしいし、これで当面の問題は時間だけだね」

 

「達也さんなら多少の遅れならすぐに取り戻せそうだけども、やっぱり今回の横槍は凄く迷惑だったんだろうね」

 

「それは当然。ただでさえ邪魔が入ってるのに、それ以上の邪魔が入ったんだから」

 

「でも、ディオーネー計画だって表面上は有益なプロジェクトなんでしょ? 私たちは最初から真の目的を知ってるからそういう風にしか見れないけど、世間一般では達也さんの恒星炉プロジェクトと並び評されてるんだから」

 

「でも、向こうは達也さんがいなくても成り立つ。でも恒星炉は達也さん無しでは成り立たない。それが分からない連中が未だに達也さんをディオーネー計画に参加させようとしている」

 

「達也さんはしっかりと手順を踏んで断ってるのに、未だに諦めないなんて……それだけ達也さんの力が恐ろしいってことなんだよね」

 

「達也さんの魔法がもたらす結果は、ほのかだって知ってるはず」

 

 

 『灼熱のハロウィン』は魔法師でなくても知っていることであり、その原因が達也の戦略級魔法『マテリアル・バースト』であるということを、ここで生活している人間は知っている。そしてその魔法がどのような結果をもたらしたのかも。

 

「達也さんの魔法の威力を知ってなお、達也さんと敵対しようとする人間がいるなんて思わなかった」

 

「それだけ自分たちが優れていると思っていたんじゃないの? それか、達也さんを無力化することができれば、それだけで安心できるとか考えたのかもしれないし」

 

「確かに達也さんを無力化できれば、それだけで安心できるのかもしれないけど、達也さんに危害を加えようとすれば、それだけで深雪の逆鱗に触れることだってことを分かっていない」

 

「確かに。深雪はあくまでも普通の魔法師というくくりだけど、魔法の威力だけ見れば戦略級魔法師だって言われてもおかしくないもんね」

 

「それに、その後ろには四葉真夜さんがいる。あの人の魔法も普通の魔法師なら対抗できないって聞いた」

 

「海外の人は、そのことを知らないわけじゃないのにね」

 

 

 達也しか見ていないということなのだが、それだけ達也という存在が他国の脅威になっているのだと改めて実感し、雫とほのかは同時に笑みを浮かべたのだった。




イヌ系が多いな……ほのか、文弥、ケントに続き航もか……

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